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爆発寸前な男  作者: ZUNEZUNE
第五章:刺客
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74話

戦いを終えた後、俺たちは傷だらけの体を動かして天空さんたちと合流すると、度肝を抜かれることとなった。

最初は明石鏡一郎が刀頼さんに抱えられているのを見て、倒して気絶させたんだろうなぁと最初は思ったが、その頭に1つの銃痕が空いているの見て死んでいることに気づいた。

2人がやったのか?だけどベテランのこの人たちが誤って殺すなんてことはしないだろうし、まず天空さんの「海闊天空」じゃあんな傷はつけられない。刀真先輩も「父上の剣でできる傷じゃない」と確信していた。

一体何かあったのか、とりあえずいつも通り神社で話し合いをすることになり全員で帰っていく。

道中俺だけ離脱し、夜遅くて迷惑になるかもしれないが風成さんの家に寄り、彼女に顔を合わせることにした。


「あ、触渡君……」


「こんばんわ風成さん、一応様子見に来たけど迷惑だったかな?」


「大丈夫、今日親遅いから……」


どうやら攫われていて帰るのが遅くなった理由を誤魔化すのは必要無かったらしい、運よく彼女の両親が仕事で遅くなっているとのことだ。

見たところ隊長も良さそうだし怪我も無さそうだ。もしかしたらトラウマになっているかもしれないが、今は大丈夫だろう。


「それより今日は……本当にごめん!!」


「え!?」


すると突然彼女が頭を下げて謝ってきたので困惑してしまい、思わずオドオドとしてしまう。


「私のせいで迷惑かけて……触渡君のパネルも奪われそうになって……私があの時すぐ逃げておけば……」


「ああそういう……」


俺は改めて彼女の優しさを垣間見る。普通の人ならああいう状況に巻き込まれたら間違いなく俺を攻めるだろう、現に俺が油断していたのが悪いし、彼女のみを守り切れなかったのも事実だ。

しかし風成さんという女性は、自分を守れなかった俺に対し何にも言わず、それどころか謝ってくれた。

そして俺は、彼女が自責の念で涙すら流してくれていることに気づき、自身の情けなさに腹が立ってくる。

あの時あの場で俺が明石鏡一郎を倒していれば彼女も巻き込まれることも無くこうして夜遅くまで事が続かなかったし、全てが丸く収まっていただろう。それなのに俺は第2の特異怪字ということで慌てて物事に対処しきれずこの様だ。

だから俺は彼女の両肩を掴み、慰めながら謝った。


「俺もごめん、もう――風成さんを危険な目には合わせない」


「触渡君……?」


「俺が絶対に守って見せる!だから、安心してこれからも友達でいてくれ!」


もう二度と彼女を危ないことに巻き込ませない、そう強い決心をし彼女に強くそう見せた。

しかし彼女は安堵するどころか、何故か顔を赤くしてこちらをマジマジと見ているだけだ。一体どうしたというのか、もしかしたらどこか悪いところがあったのかもしれない、顔を近づけて様子を近くで見ようとするとますます赤くなってくる。


「……あっ」


そこで俺はようやく自分と風成さんとの距離の近さに気づく。お互いの視界をお互いの顔で埋め尽くすほど近づき、それに加え俺は決意した調子に乗って彼女の肩まで掴んで少しだけこちらに寄せている始末だ。

こ、これではままままるでキ、キスをする直前のようじゃないか!


「ごごご!ごめん風成さん!ち、近すぎたね……」


「い、いや大丈夫だよ別に……」


彼女に対して恋心を抱いている俺にとっては寧ろご褒美と言えることかもしれないが、彼女にとっては気持ち悪いに違いない。現に沸騰するのかというレベルで顔を赤くしている。

思えば今回の事件だって、しばらく独りでいると決めていたのに風成さんと一緒に帰ることに心躍らせて招いたといっても過言ではない。片思いの癖にあまり妄想と暴走を繰り返さない方が良い。


(馬鹿馬鹿!俺という奴は懲りないな!自制心を鍛えないと……!)


いっそ告白でもした方が良いかと思ったが、そんな度胸今の俺には無いし、特異怪字やら謎の組織やらで立て続けに色んなことが起きている事態にそんなことをしたら面倒くさくなるだけだ。

勿論彼女との交際自体が面倒くさいわけじゃない、いや交際できるかどうかまだその告白をしていないが、恥ずかしい話だが()()()()()()()()()今回の明石鏡一郎のように彼女が人質にされることが多くなるだろう。

それだけは駄目だ。今さっき巻き込まないと決意したばっかりだ。だから……もし本当に告白するなら、全てが終わってからにしよう。


(まるで死亡フラグだな……)


すると風成さんが横の方を見て羞恥心で包まれて口をパクパクしている。一体どうしたのだろうと俺も同じ方向を見るとそこには、以前お会いした彼女の両親が気まずそうに立ってこちらを見ていた。


「あ、あのぉ……どこから見てました?」


「『俺もごめん……』辺りから……」


と彼女の母親が言った。良し、そこからならパネルの事や怪字の事は聞かれていないな、安心だ…………ではなく!その場面は丁度俺が肩を掴んで顔を近づけたところではないか!


「……触渡君、娘はちょっとお転婆なところがあるけど、そこも含めて可愛い娘なのでどうかこれからも――」


「違います!決してそういう仲ではないので!!」


「駆稲、貴方(わたしたち)が遅いからと知って男の子を家に招くなんて大胆なことできたのね……!ちょっと感動したわ」


「違うよお母さん!!」


こうして俺と風成さんはご両親の誤解を必死になって解いた後、色んな意味で疲れた様子で別れた。

まさかあんな風に間違えられるなんて……これじゃあ風成さんに嫌われちゃうぞ……

様子を見るだけだったが結構時間がかかってしまった。刀真先輩や天空さんたちが首を長くして待っているに違いない。そう思って神社へ走って帰っていった。

神社に着くと大広間で天空さんや刀真先輩、他4人も既に話し合っているようで俺だけ遅れていた。


「すいません遅くなりました!どうなっています?」


「いや、今から重要な部分を話そうとしてたところだ。彼女は大丈夫そうだったか?」


「はい!怪我も様子も無く元気そうでした」


そう言って俺も話の輪の中に入り、これからの事について話し合いを始める。まずは今回の事件の元凶である明石鏡一郎についてだ。


「奴の死体は警察の方に引き取ってもらっている。言った通り……何者かの狙撃で脳天を貫かれ即死、情報を聞き出す前に殺されてしまった」


「殺されたって……やっぱり口封じのためですかね?」


牛倉一馬、明石鏡一郎、この2人は同じ組織に所属していた。つまり他にも仲間がいるということだ。話によれば明石鏡一郎は殺される直前天空さんたちに命乞いをしていたという、保身のために自分たちの情報を口にすることだってあり得た、だからかもしれない。


「それもただの狙撃じゃない、私たちから真上……つまり()()()()()()()()ものだった。飛行機やそういった乗り物の類は見えなかった、いやそれに乗っていたとしてもそんな遥か上空から1㎜のずれも無く狙撃なんてできるか?」


「もしかして……その狙撃も特異怪字の仕業……?」


話を聞くだけで人間業じゃないことが分かる、人間じゃないとすれば特異怪字に違いないだろう。

兎にも角にも人の命を軽んじていた奴だ、同情なんてする必要無い。それよりも今重要なのは他にもあった。


「後、驚くべきことがあったんです!」


「人造パネルのことだろ?2人から聞いてある」


一番驚愕するであろう話題は既に2人に話されていた。奴が兵力として使ってきた人造パネル、そしてそれから出現した「怪字兵」のことだ。


「人造……か、思ってもいなかった。まさか人の手でパネルを作るなんて……」


「いや、元はといえば全てのパネルは中国の賢者によって作られたものだ。今だ信じられんが……その気になれば作ることも可能かもしれない……」


流石のベテランの天空さんたちもこれには驚きを隠せないらしい。それもその筈、俺たちだって最初見た時は驚愕した。

人造パネルなんてものは想像だにしなかった。まず作れるかどうかという雲を掴むような現実性の無い話でもあるのだから。


「そして次に……これだ」


そう言って宝塚さんが皆の前で出したのは明石鏡一郎が使っていた「明鏡止水」の4枚のパネル、そしてそれに装着させられていた装飾品であった。


「簡潔に言うとだな、この装置は()()()()()()()()()()だ」


「……呪いの力を?」


唐突にそんなことを言われても想像がつかない。呪いの力を抑えると何がどうなるのかもあんまり分からなかった。いまいちピンとこない。

しかし天空さんと宝塚さんの顔を見るにとんでもない発明なのだろう、深刻さがそこに出ていた。


「この明鏡止水……実は()()()()()()()()()()とこなんだ。それまでいつ怪字になってもおかしくない状態だったのに……」


「馬鹿な!?四字熟語が揃っているのに!?」


刀真先輩が驚いた様子を見て、ようやく俺もその異常さに気づく。呪いのパネルは本来近くに四字熟語として合体できそうな漢字のパネルが磁石のように引き寄せられてその結果怪字になる。その現象が人体の中にある状態でも起きるから俺や風成さんのようになることもあるのだ。

しかしもし今さっきこの「明鏡止水」が浄化されたばかりだとしたら、明石鏡一郎の手の中にあった状態の時に怪字にならなかったのはおかしい。

そこで「呪いの力を抑える」装飾品だ。


「もしかして……」


俺はその装置に手を伸ばそうとするが、伸ばして右手に痛みが走り思わず引っ込めてしまう。


「どうした発彦?」


「いや……プロンプトスマッシュの打ちすぎでちょっと……」


先の戦いでスマッシュを打ちすぎたためその反動が右手に全部来て、その結果少し痛んでいるのだ。まぁ慣れっこなので普段は気にも留めないことだが。

天空さんが俺の右手を凝視している最中、その装飾品を持ち上げて話を続ける。


「これって……浄化しないでパネルを無害化できるんですか……?」


「ああ、個人差がある浄化よりその装置のほうがよっぽど効果的で便利だ。作った奴を見てみたい程にな……!」


パネル使いと浄化、それは切っても切れない関係性である。浄化をしないと人間はパネルも使えないし再び怪字に戻ってしまう。だから昔から浄化という作業は重要視されていた。しかしこの装置はそんな関係性を一変させるほどの開発だった。

それ自体は別に問題じゃない、寧ろ新たな怪字とパネルへの対抗策ができて素晴らしい進歩だろう。


「問題はこの装置が奴らによって作られ、尚且つ悪用して特異怪字になっているということだ」


そう、この装置は正義感を持つ1人の天才が作ったものではない、それどころかパネルを悪用するために作られたのだと仮定できる。

これが特異怪字という存在において鍵になっているのは間違いないだろう、これでパネルの呪いの力を抑制し、理屈は分からないがそれで特異怪字に変身している。

どんなに素晴らしい発明でも、作った本人や使う人物によってその価値は変わるというものだ。


「……発彦に刀真君、確か次の月曜日は学校が休みだったね?」


「はい、そうですけど……」


天空さんの言う通り、英姿学校は次の月曜日を休日にして、土日と並んでいるため実質の3連休である。特に予定も無くやることも無い状態だった。


「なら任三郎君も含めた3人に頼みがある。この装置を、この町から随分離れた山奥にある()()()()()()()に渡してくれないか?」


「研究所……ですか、良いですけど3人もいりますかそれ?」


「……道中いつ奴らにまた狙われるか分からないからな」


そこで俺たちは、その任務に3人も必要な訳を理解する。奴らは自分たちの情報がバレるぐらいなら仲間を殺せる程情報管理には徹底した連中だ、つまりこの装置から何かが知られる前に向こうから仕掛けてくるかもしれないということだ。

もしそうなった場合対処できる人間は多いに越したことはないだろう。だから俺たちが選ばれたのだ。


「この町は私と刀頼さんに任せておけ、移動は……任三郎君確か免許持ってたっけ?」


「はい!俺が運転します」


こうして俺たちは次の土曜日、この装置の正体を判明させるべくその研究所へと向かうことになる。

しかし天空さんのその警戒は見事当たることとなり、そこにまで奴らの手が伸びてくるのを、その時の俺たちは知る由も無かった。

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