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爆発寸前な男  作者: ZUNEZUNE
第五章:刺客
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73話

宝塚刀頼は「諸刃之剣」で四字熟語で形成された剣を持ち、ジリジリと目の前の特異怪字に臆することなく近づく。明石鏡一郎はそれを見て「やれやれ」といった感じで溜息を吐く。


「あいつらの助っ人かぁ?……身の程わきまえろよジジィ!!」


そして先ほどまで移動に使っていた複数枚の鏡を一斉に呼び寄せ、そのまま刀頼に向けて放つ。すると何と全ての鏡を1本の剣だけでまとめて受け止めた。


(なっ!?あんなジジィが俺の攻撃を……!?)


「ふん」


やがて刀頼が剣を一振りすると鏡は全て粉砕され、あっけなく明石鏡一郎の攻撃が無効化される。


「次はこっちの番だ」


そう言って刀頼は剣をもう一振りする。傍から見れば普通の振りだったが、明石鏡一郎はその瞬間死期を感じ取り、本能がままに跳んでしまう。

それが正解だっただろう、その剣から放たれた斬撃はあっという間に走り去り、自分の後ろにあった木々を一瞬で斬り落としたのだから。


(どんな威力だ!?化け物かよこのジジィ!!)


その切れ味、威力、そしてそれを簡単に放ってきた刀頼にゾクッとする。ここで初めて明石鏡一郎は目の前にいる老人が、ただの老人じゃないことを察した。

そしてそれは、さっきまでボロボロになって傷つけられたプライドに、火を油にそそぐ如くだった。

明石鏡一郎という男は、一言で言うと傲慢の塊だった。自分より弱い人間なんかは昔からゴミ扱い、そのおかげで人間関係は最悪のものだった。

そんな彼が初めて人を殺した経験は、女のくせに(・・・・・)自分との交際を断った女性、気付けば自分はその場にあった鉄パイプを握り、彼女を撲殺していた。

そこから明石鏡一郎の考えは狂い、それから長くない間に2人の女性も殺した。つまりこいつにとって女性や老人は、自分より弱くて自分の思う通りじゃないと駄目な存在となったのだ。

そして今、その明石鏡一郎という男は目の前の老人に殺されかけた。これがこいつにとってどれ程の侮辱かは想像もつかないだろう。


「てめぇ何しやが――!?」


しかしそんな怒りも虚しく、いつの間にか自分の右腕が斬り落とされているのにも気が付かなかった。

こいつが怒りのあまり気づかなかっただけなのか、それとも刀頼の剣捌きが速すぎるだけなのか、または両方か、どちらでもいいだろう。


「ギャアアアアアアアガアアアアアアアアアアアアア!!??」


腕を斬られるという今までに感じたことも無い激痛、苦痛が明石鏡一郎を襲う。斬られた箇所を抑えながら悶え苦しみ、地面の上でもがき始める。


「ほう、痛覚はあるのか。中に人が入っているというより、肉体が延長した姿といったところか……?」


「てっ……めぇ……!!ジジィのくせによぉ……この俺にぃ……!!」


しかしそんな痛みも、自慢のプライドで何とか堪える。

プロンプトスマッシュを3発も耐えた装甲を、刀頼はたった一振りで切断してみせる。それだけで今の斬撃がどれ程の切れ味か証明しているだろう。


「次は足を斬ってやろう、鏡の特異怪字」


「ハァ……ハァ……やれるもんならやってみろやぁあ!!」


明石鏡一郎は恐れることなく刀頼に襲い掛かり、何度も攻撃するもまるで流れるように全て躱されていく。まるで次の一手を読んでいるかのような余裕の動き、それはお前の動きなんか手に取るように分かるぞという証明にもなっていた。

何故こんなにも動きが読めるのか?一言で表すなら()()だろう。

宝塚刀頼は宝塚家の16代目になった若き頃から、幾度も怪字と戦ってきた。その多くの経験、時には死にそうにもなった修羅場、それらを掻い潜るうちに敵の動きが分かるようになってきたのだ。

この男、自分の息子に当主の座を渡してもいまだ健在、十分に戦えるどころか素晴らしい程の戦力なのだ。

体の衰えをものともしないその動きは余裕で明石鏡一郎の攻撃を避けていく。


「だりゃああああああああああああ!!!」


ムキになった明石鏡一郎は思い切り右腕を払うが、一瞬にして刀頼が姿を消す。一体どこに消えたのかと辺りを見渡すと、いつの間にか自分の腕の上に立っていた。


「はっ!」


そしてそこから飛び降りると同時にその肩を更に斬り裂く。その動きもパネルを使っているわけでもないのに速く、無駄のない動きだった。


「うぎゃあああああああ!!??」


「で?お前はどうしたら人間に戻るんだ?普通に倒せばいいのか?それとも中の人間を無理やり取り出せばいいのか?それとも……怪字の部分だけ斬り落とせばいいのか?」


さっきの戦いもあったからだろう、しかし今の明石鏡一郎はたった1人に一方的と言ってもいい程追い詰められている。

すると森の中からもう1人現れる。神職の衣装を身にまとい、落ち着いた様子でこの空間に入ってきた。

その男「海代 天空」は刀頼と頷きあい、視線の先に存在している明石鏡一郎を見た。


「明石鏡一郎、もうそこまでにしたらどうだ?お前に勝ち目は無い」


「今度は見るからにヒョロガリな男じゃねぇか……!」


しかしここまでやられて天空も弱いと思う程こいつも馬鹿じゃない。突如現れた天空に明石鏡一郎は警戒した。

2対1、数の勝負でボコボコになるのはもう御免だと思った明石鏡一郎はようやく逃げる気になる。またおめおめと逃げ恥を晒すのは彼のプライドが許さないが、そんなもので()()()()()()()()()人がバックにいることに気づく。


(か、鏡に入って……無理やりにでも逃げてやる……!)


そう言って2人に攻め入る隙も与えまいとすぐに背中から鏡を出し、そこから鏡の世界に避難しようとしたが……


「……は?」


目の前の鏡が、突然砕け散る。まだ触ってすらいないというのに、ヒビが一瞬で広がり、粉々になってしまった。

一体何が起きたのか、後ろを振り向けばこちらの方に手をかざしている天空の姿だけだ。


(あの位置から攻撃したのか……!?どうやって……)


「刀頼さん、その剣もう()()()()使()()()()でしょう、後は私に任せてください」


「ああ、流石に老体にはきつくなってきたな……昔は伝家宝刀とで()()()だったが……年は取りたくないな」


すると刀頼は「諸刃之剣」を消し後退してその場を天空に任せた。天空もやる気になり上の服を脱ぎ上半身を露わにした。その肉体を見て明石鏡一郎は大きく目を開く。

さっきまで細い肉体のイメージが強かったはずなのに、いざ体を見れば筋肉の付いた、言わば細マッチョ、鍛え抜かれた体だと気づく。

ここで明石鏡一郎、天空と刀頼の顔を見てあることを思い出す。


(思い出した……こいつら写真で顔を見せられたぞ!宝塚刀頼に海代天空、()()()()()が手を出すなって言ってた奴らじゃねーか!)


そう、こいつにもこの2人の強さは一応伝えられていたが、明石鏡一郎はそれを鼻で笑い気にせず、恐れるに足らないと勝手に思っていたのだ。

しかし今は違う、先ほど刀頼が見せた剣術、天空がしてみせた謎の攻撃、全てにおいて理解が追い付かないことだった。


(……鏡で逃げられないなら!もうどうにでもなれだ!!)


ここで明石鏡一郎もようやく覚悟を決め、逃げられないのならダメもとで勝負してみようと天空に向かって突っ走る。真っ直ぐ走ってその顔をぶん殴ろうとしたがそれも叶わずに終わった。


「ぶげがぁ!?」


まだ全然近づいてもいないというのに明石鏡一郎は殴られる。天空との距離はおよそ5m、普通なら両者のどちらかでも攻撃は届かない筈だ。

肩、足、腹、首、次々と打撃の威力が体中を襲ってくる中、天空はまるで相撲の張り手のように手を開いて虚空を突いている。その度に明石鏡一郎は体を打たれていく。

まるで1発1発が巨大なハンマーで叩かれるような衝撃と痛み、それらが連続的に続く最中明石鏡一郎は疑問を隠しきれなかった。


(何故だ!?何故攻撃が届く!?どんなパネルを使ってやがる!?)


離れているはずなのに向こうは自分の攻撃をこちらに当て続けている。その理解不能な現象が自身を困惑させ、尚且つ現状への行動を規制しているにも等しい。


(か、鏡を……!)


もう一度背中から鏡を出してそこから逃げることを考えるが、先ほどと同じように出した瞬間鏡は粉砕され、逃げ道も作らせてくれなかった。

こうしている間にも天空の攻撃は水晶の体を打ち、削っていく。その綺麗な体は今となっては見る影も無くなっていた。


「――今の私は()()()()()()()()()


突如連打を続けながら天空がそのようなフレーズを口にする。


「『空』とは澄み渡る晴天のこと、『海』とは水平線の先まで続く広大な海のこと」


そして一旦連打攻撃を止め、明石鏡一郎に4枚のパネルを見せつける。それらでできあがる四字熟語は「海闊天空(かいかつてんくう)」。


海闊天空……大らかで度量が多い性格のこと、「海闊」は大海がどこまでも広く続いていること。「天空」は空が晴れていてどこまでも広いという意味。


「これを使うことで私は空と海になる。つまり私の視界が広がる範囲は()()()()()であり、()()()()()()()()。つまり、視界に入っている物体なら()()()()()()()()()()()()()()()()()()という意味だ」


再び「海闊天空」を使い、何度も連打されたことによって後ろに下がっている明石鏡一郎にトドメの重い一撃を食らわせた。


「ぐげぼがぁあ!?」


「私に見られている時点で、お前は既に()()()()()()()()()()()()()()()()()のだ」


遂にその体にも限界が訪れたのか、明石鏡一郎が纏っていた怪字の体が音を立ててどんどん崩れ去っていく。

いつしか中にいた明石鏡一郎本体と、黄緑色の装飾品によって飾られている「明鏡止水」の4枚のパネルだけが残った。明石鏡一郎の容態は傷だらけでボロボロだ。どうやら怪字の状態で受けたダメージは中の本体にまで影響をもたらすらしい。


「や、やめてくれ……!!殺さないでくれ!!お願いだ、何でも話すから……!!」


そしてさっきまでのプライドは何処に行ったのやら、明石鏡一郎はその傲慢な様子から一変して涙と鼻水をだらだらと流しながら命乞いを始める。

今まで3人の人間を殺してきたくせに何を言うか、そういう面で天空と刀頼は呆れてしまい怒る気にもならなかった。


「まったく……大人しくしろ、そうすれば危害は加えない」


そう言って尻餅を付いている明石鏡一郎に天空は歩いて近づくが……


「……なっ!?」


突如として、明石鏡一郎の()()()()()()()。穴というよりは銃痕、つまり何処からか狙撃されたのだ。しかも一瞬見えたその弾道は()()、真上から放たれたものだ。


「……くっ!」


天空は急いで上を見るも、狙撃したであろう人物の影はまったく見えない。見えたら「海闊天空」で撃ち落とそうと思っていた。


(真上からの狙撃……しかも数㎜の狂いも無く脳天をぶち抜いている……!!)


それによって明石鏡一郎は即死、さっきまであんなに騒いでいたのに今となっては目を開けたまま絶命している。

口封じのつもりだろう、恐らくこいつと牛倉一馬の仲間が自分たちの情報の漏洩を恐れて始末したに違いない。

ようやく手に入れた特異怪字の最大の手掛かりは、今目の前で殺され、唯一残ったのは()()使()()()()()()()()のみ。


「……一旦遺体を運んで、発彦たちと合流しましょう」


「そうだな、そいつは儂が運ぼう」


こうしてこの戦いはあっけなく終わり、あまり何も残さずに集結した。

天空は地面に落ちてあるパネルを拾って、どこか悔しそうな表情をし刀頼の後ろをついていった。

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