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爆発寸前な男  作者: ZUNEZUNE
第五章:刺客
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68話

特異怪字の正体の判明、そしてそれで暗躍する謎の組織の存在など、色々なことがあったあの日から1週間、俺触渡発彦は、授業中の教室で外の景色を傍観していた。外は大雨になっており天気予報では下校時間ぐらいで止むらしいが一応傘は持ってきている。


「……」


俺は曇ってる窓に映っている自分を見つめながら考え事をしていた。

今思うとこの間の出来事は夢だったんじゃないかと思ってしまう程俺の心は緩んでいた。次の日にもすぐ襲い掛かってくると思われたが、それどころか牛倉一馬はこの町から痕跡も一切残さず姿を消し、俺と刀真先輩は奴の顔を見たという形で警察と話したりもした。

そしてその次の日のニュースで牛倉一馬のことをやっていた。脱獄したのは数年前で月日も経っているため世間体には既に忘れられた顔らしい、まぁそうでないと昼間から変装もせず堂々蕎麦は食えないか。

それに加え全国各地でパネル使いが襲われパネルを奪われているという事件、そこからまた俺たちが狙われる可能性は高いと考えている。


(これからは1人でいたほうがいいかもな……)


もし俺と一緒にいたせいで何かしらの事件に巻き込まれたら堪ったもんじゃない。特に風成さんだ。彼女とはよく一緒に下校している仲なのでその可能性は高い。

いつ奴と同じような特異怪字が来るかもしれない。十分注意しなければならなかった。


「おい触渡!聞いてるのか!?」


「あ、すいません!」


するとボッーとしすぎて先生に怒られてしまった。いかんいかん、怪字のことを考えすぎて私生活にまで支障が出るのは駄目だ。今は授業に集中しなければ……


「何かあったの?珍しくボッーとしてて……」


「いや、何でもないよ」


すると隣の席の風成さんが不審に思ったのか俺に話しかけてくれた。思えばあの日は特異怪字以外にもあることに気づいた日だ。

それは風成さんへの好意、自分が彼女を好きなっていることである。風成さんの家に招かれてそこで初めてそれに気づいた。

彼女の優しい性格に惹かれ、俺はそれに甘えているかもしれない。


(……風成さんも巻き込むわけにはいかないな)


勿論好きな人であろうがあるまいが全員守るに決まっている。しかし彼女だけは絶対に巻き込ませないと心に誓っている。

もし特異怪字のことを話せば、風成さんはその性格からもっと俺の心配をしてくるだろう。だから話していない。

――俺はこれ以上、彼女をパネルや怪字のことで振り回されることは許せない。


(思えば前の高校も中学の時もそれで独りだったなぁ……)


小学生の時はまだ友達がいた。自分で言うのも何だがあまり目立とうとしない性格だったので嫌われなかったのだろう。しかしパネルに操られ幼馴染を2人を殺めてしまい、親に捨てられて天空さんに拾われた後は皆無だった。

中学に入っても友達は必要以上に作らず部活も入らない、帰ったら体を鍛え怪字が現れたらそこへ向かうだけ、最初の高校も近いという理由で入学を決めた。多分幼馴染を失ったトラウマから、無意識に誰かと慣れ合うことを拒んでいたのかもしれない。

だけど、そんな隔離的になっていた俺を戻し、尚且つ恋心を教えてくれたのは間違いなく風成さんだ。

彼女以外にも疾東さんたちや飛鳥といった友達、刀真先輩と勇義さんといった一緒に戦う仲間もできた。

正直言ってこんなに交友関係に恵まれていることが嬉しくてたまらない、しかしだからこそ距離を置く必要がある。

ある……はずだった。


今日の授業が終わり、いざ下校時間になってもまだ雨は続いている。もっともさっきより弱まっているが傘はまだ必要だ。持ってきて良かった。

しかし学校から出ようとした直前で、後ろから呼び止められてしまう。


「あ、触渡君……」


「風成さん」


それは脳内の話題の人物であった風成さんであった。彼女も帰ろうとしているのだろう、しかしその様子は何か落ち着いていなかった。

そして俺は、彼女の次の言葉に度肝を抜かれることになる。


「あの……傘忘れちゃったから途中まで入れてほしいなぁ……って」


「えぇ!?」


いや、度肝を抜かれるだけじゃなく心臓が爆発しそうになった。傘を忘れたから一緒に入れてほしい、それはつまり「相合傘」というやつではないか。


「ご、ごめんね変な事頼んじゃって……気持ち悪かったよね急に」


「いやいや気持ち悪いとかそういうんじゃなくて……かか、風成さんが良かったら別にどうぞ!」


結果俺は冷や汗をダラダラと流しながら慌てふためいてしまう。まさか彼女に相合傘をお願いされるとは思っておらず、こういった時どういう行動をしたら良いか単純に分からないのだ。

……落ち着け、たかが相合傘だ。同じ傘の中で他人と肩を並べて入ることのどこにこんなドキドキしてるんだ俺は、子供じゃないんだぞ。

そもそもさっき距離を置くとか何とか決めて置いておきながら何でOKしてしまったのか。

……やっぱり風成さんのことが好きだからだろうか?どんなに固い決意も恋心には勝てないということでもあるのか?


(うおおおお!本当に落ち着け!!ただでさえ彼女と目を合わせて話すのだけでちょっと取り乱しているってのに……これ以上は不審に思われたくない!)


かといって彼女も困っている様子、いくら距離を置くといっても困っているなら助けないといけない。もし今断ったらそれこそ失礼だ。

外に出た俺たちは、お互いに周囲の人目につかないか挙動不審でキョロキョロし、風成さんは俺の持つ傘の中に入りそのまま足を進めた。

傘に当たる雨音も、濡れた地面を踏む足音も、それどころか全ての音がドクンドクンという鼓動でかき消されている。耳に集中していないと彼女の声まで聞き逃してしまいそうだ。

顔は真っ赤になっていないだろうか?もしかしてこっちから喋った方が良いのかな?

それから幾度の時間が進んだのかは分からない、しかし今いる場所を見ればどれぐらいの時間が経ったのかだいだいは分かった。

すると風成さんの方から話しかけてくれた。


「触渡君もしかして……また何かあったの?」


「……何かって?」


「だって最近の触渡君様子が変だったから……もしかして怪字のことで何かあったのかな……って」


何かあった、確かにあったことはあった。しかしそれを風成さんに話すことはないだろう。

そんな義理があるとか無いとかいう話ではなく、ただ単に彼女をこれ以上心配させたくないからだ。

彼女はパネルに操られた経験もあり、怪字という存在も知っているという、友人の中で唯一の存在だ。そんな彼女に「怪字になれる人間たちがいる」なんて伝えたらどうなるであろうか?


(軽い人間不信になるだろうなぁ……普通の怪字でも彼女にとっては恐ろしいものだから)


もしかしたら自分の周りに「そんな人間」がいるかもしれないという不安、疑心暗鬼が生じ日常生活に支障をきたすだろう。

少し前の俺もそうだったが、怪物になる人間がいるなんて誰が想像していただろうか?俺たちパネル使いにとっても特異怪字という存在はまだ謎が多いものなのに、彼女がそれを受け止めきれるかどうかも怪しい。

――そもそも怪字という存在を教えたのが間違いだったのかもしれない。

確かに彼女は被害者、そして目撃者でもある。教えないと余計な不安を与えるだけだと思い俺はその存在を明らかにした。

だけどそれは本当に風成さんのためになっただろうか?心配性で他人を想える彼女の性格上、彼女という人間が下手に怪字のことで関わってくると予想できていたのでは?


「……別に、今まで通り普通だよ?」


だから俺は、微笑みながらそう答えた。嘘をつくことになっても、それで彼女から嫌われようが構わない。


「……そっか」


それに対し彼女は嘘を見抜いたのか上手く騙されてくれたのか、どちらとも言える表情で返してくる。

いつのまにか鼓動も収まり、先ほどとは感じ違う気まずさがロマンチックとも呼べる今の雰囲気を埋め尽くしていく。

それと同時に雨雲も消え去り、雨も止んだ。それを確認すると俺は傘を閉じる。道には雲から漏れている光を反射している水溜りが幾つもあった。


「雨止んだね……こんなに速く止むんだったら傘いらなかったかな?」


多分彼女にとってこの相合傘は恥ずかしいものだっただろう。一緒にいる間俺と同じように赤面していた。俺の「照れ」とは違う「羞恥心」から来るものだろう。

俺も最初は「彼女も照れている」と思ったが、そんなことはありえない。この恋は俺の一方的な片想いの筈だ。


「そうかな……私はもうちょっと降っててほしかったかも」


「――え?」


しかしその彼女の言葉によって、その考えは揺らぐものとなる。もうちょっと降っててほしかった――?これは一体どういう意味だろうか?そこから俺は淡い期待感を抱いた。

もしかして……俺ともっと相合傘をしてたかったという意味だろうか!?

……いや、そんな根拠もない期待をするな、と思いたかったがそれを促すかのように彼女の赤面が脳内に浮かび上がってきた。じゃああの赤い顔は本当に「照れ」のもので――


(……いやいや!!それこそ根拠のない期待というものだ!もしそれが間違っていたら俺はどんだけ恥ずかしい男になる!)


そうは考えていても立派な思春期、例えどんな恥ずかしい期待だろうが抱かずにはいられない。

もしこれが本当だったとしたら……俺と風成さんは……()()()ということになるのでは!?


(駄目だ!!もう頭がパンクしそうだ!)


俺は度重なるイベントに脳が情報を整理できず、実際頭の中は軽いパニックになっていた。

脳内で必死に「そんなはずはない」と否定し続けても、「嬉しい」という感情が抑えられない。無意識に笑っていないか何度も自分の表情を確かめたりもした。

それに加えその言葉を言った彼女自身もより一層顔を赤らめている。それが火に油を注ぐ形になり、俺の妄想に近い期待は深いところまで行く。

風成さんは何も言わないまま俯き、俺はどう返したらいいか分からず、結局はお互いに無言という形に納まる。

傍から見ればどんな様子だろうか?他に人がいないことがせめてもの救い……そう思っていた。


「たく……こんな真昼間の道で見せてくれるじゃないの」


「「ひゃああっ!?」」


突如として前方にいた一人の男性にからかわれてしまう。それに驚いた俺と風成さんは変な声を漏らし、更に恥ずかしい思いをする。


「彼氏君もさぁ……もうちょっと攻めた方が良いと思うぜ俺は」


「彼氏だなんてそんな――」


その人はやたらとフレンドリーで、初対面のはずなのにやたらとズイズイ話しかけてきた。もしかしたら彼女の方の知り合いかと思ったが、反応から違うらしい。


「付き合ってないの?だったら俺とどうよ?そこのヘタレ彼氏君よりかは楽しめるぜ?」


するとその男性は俺のことを無視し、彼女に所謂「ナンパ」というやつをしてきた。見たところ成人していると思うが女子高生にそんなことしてもいいのか?

俺はそれに対し「ムッ」となり、初対面で失礼だがこの人に少しばかりの嫌悪感を抱いてしまう。別にヘタレ呼ばれしたことは気にしてないはずなのに、何故か男性のことが気に食わない。


「行こっ!風成さん!」


「う、うん……」


彼女の手を取り、無理にでもこの場を離れさせた。こういう質の悪いナンパは無理やり逃げた方が楽でいい。俺も恋に対してはもっと男らしくなったほうが良いとは思っているがああいうのは御免だ。

追ってくる気もしない、このまま逃げ去ろうとしたが……


「あらら?そうやって逃げるってことは自分がヘタレだとを自覚してるってことだよな?まぁ仕方ねぇよな、()()相手にボロ負けらしいからな……」


「――今何て言った?」


そいつが出してきたその名を聞いた途端、さっきまでオロオロしてた頭は一変して覚醒、改めて顔を確認しようと振り向くと……


「……っち!!」


「触渡君!!」


男がナイフを握ってこちらに振り下ろしてきてたので、急いで持っていた傘で応戦、奴の腕にぶつけた。


「成る程……そこまでヘタレじゃないってことか」


「風成さん離れてて!」


「う、うん」


俺がそう叫ぶと風成さんは言う通り急いで俺たちから距離を置き、遠くから不安そうにこちらを見ている。

男は腕で俺の傘を払いのけ、そのまま後退、ナイフでこちらを牽制しながらヘラヘラと笑っていた。

改めて奴の姿を確認すると、それはもう見事と言っても過言じゃない悪人面だった。痩せぼそった体の高身長、目は蛇のように鋭く、髪もボサボサだ。


「ただの通り魔じゃないよな?……牛倉一馬のことを知っているのか!?」


「ああ、あいつは()()()()だよ。だからこうしてあいつの失敗を俺が補ってるんだ」


以上の言葉からあの牛倉一馬の仲間ということが分かる。その瞬間俺は奴を睨みつけ、いつでも戦えるようファイティングポーズになった。奴の仲間という理由だけで嫌な予感がするからだ。


「目的はやっぱり俺のパネルか?だとしても襲う時間を間違えてると思うぞ。真昼間云云かんぬんはそっちの方だ」


「ご生憎様、俺らはお前らパネル使いと違って無駄に人目は気にしてないんだ。目撃者は全員殺すって意味でね……!」


「……ッ!」


牛倉一馬もそうだったが、こいつも相当やばいな。その危険な性格を警戒しながら、風成さんの盾となるように横にずれた。奴もそれに気づいたのかクックックと苦笑しだす。


「安心しろよ、愛しの彼女諸共、地獄に送ってやるぜぇえ!!!」


そう言って男は持っていたナイフをこっちに投げてきたので、それを手でキャッチしてナイフを回収する。

その隙に奴は懐か|4()()()()()()を取り出し、俺に見せつけるかのように指を絡めた。できる四字熟語は「()()()()」。


(まさかとは思ったがこいつも……!!)


「やっぱこれじゃねぇとなぁあ!!」


そして男は俺の予想通り、そのパネルを自分の体に植え付け、そしてどんどんその姿を変貌していく。

まさかこんなに速く特異怪字と出くわすなんて思ってもいなかったが、いつかは来ることだと覚悟でできていた。

俺は特異怪字の前で堂々と足を開いて立ち、臆することなく立ち向かった。

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