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爆発寸前な男  作者: ZUNEZUNE
第五章:刺客
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61話

10月に入り厳しい残暑も通り過ぎたこの頃、俺、発彦触渡はお見舞い用のフルーツを持って病院近くの蕎麦屋でお昼を取っていた。

何故病院近くにいるかというと、先月に現れた「暗中飛躍」「離合集散」の怪字戦の際腹部に大きな傷を受けた刀真先輩が入院したのだ。一応気絶する程でもなかったがこれ以上悪化させないための入院だ。

そんな先輩のお見舞いに行く前にお昼を済ましておこうというわけで今蕎麦をすすっている。

一方俺の右腕左手は完治、普段通り使えるようになり痛みも無くなり、遠慮なく相手をぶん殴れるようになった。

この前は2日連続して怪字が現れたくせにあれ以来怪字は出ていない。まぁそれが普通だがそのおかげでこうして傷も癒せた。


(こんなこと考えてると怪字が現れるんだよな~)


しかし奴らはいつ現れるか分からない。不安に思いながらも蕎麦を全部平らげ、会計を済まそうと財布を探したが……


(やべっ!財布家に忘れた!)


その財布を神社に置き忘れてしまったことに今気づいた。そんな勇義さんじゃあるまいし……

しかし財布が無いとこの店から出られない。初めて来た店なのでつけてくれるとも思えなかった。


(仕方ない、天空さんに連絡しよう)


そう思いポケットから携帯電話を取り出そうとしたその時、自分が座っていた机に勢いよくお金が置かれた。


「のわっ!?」


置かれた金額は自分が食べた分の金額ぴったり、置かれたというよりは叩きつけられたと言った方が近いかもしれない。

その太い腕を伝うように目線を運び、その腕の持ち主の姿を見た。

一言で言うと恰幅のいい男性であった。しかし太ってはいるが何故だか男らしさというかダンディーな感じがする人だ。しかしその服は結構ラフで、明るさも思わせる雰囲気だった。

俺と目が合うとその人はニッカリと笑い、机に置いたお金を差し出してくる。


「ほら、これで足りるだろ?」


「えっ!?」


その言葉で、この人は俺が財布を忘れたことを勘づき、その分の金額を代わりに払おうとしていることに気づいた。


「そんな!悪いですよ!見知らぬ人に……」


しかしこの人とは今目が合ったばっかりの初対面、そんな人にお金を払ってもらおうなどと良心がそれを許さない。せっかくだけどお断りしようとする。


「大丈夫だ!大した金額じゃないさ」


「で、ですけど……」


「ここの蕎麦、旨いよな。この町に来たばっかりだけど気に入っちまったよ」


そう言って男は半強制的に俺の分の会計も済ましてくれた。何だか申し訳ない気持ちだ。始めた会った人にここまでしてもらうなんて……

俺とその男性は店を出た後、改めて向き合う。


「今日の分のお金は絶対返しますから……その連絡先の方を」


「言っただろ?大した金額じゃないって。返さなくてもいいよ」


「で、でも」


「おっと、この後用事があるんだった。あばよ!これからも沢山食えよー!」


男性はそう言い残してすたこらさっさと走り去っていってしまった。仕方ない、あの人はああ言っていたが返さないのも俺の良心が許さない。もし次会った時用に蕎麦代分のお金を用意しておかなければ。


「と、とりあえずお見舞いに行くか」


俺は本来の目的地である病院へと入る。この病院は「疾風迅雷」怪字の時と同じ場所で、風成さんが初めて怪字という存在を見た場所でもあった。

思えばこの病院にはお世話になっている。そろそろ顔を覚えられるのでは?


「刀真先輩ーお見舞いに来ました」


ノックし先輩の病室へと入ると、そこには携帯ゲーム機を必死な表情で操作している先輩がベッドの上にいた。先輩以外の入院患者はいない。


「お、来たか発彦」


「これフルーツです。そのゲーム機持ってましたっけ?」


「父上が怪字退治の褒美として買ってくれたんだ。この1か月間お世話になっている」


ちなみに当然俺も同じ種類のゲーム機を前から持っている。先輩が退院したら一緒に遊ぼう。


「そろそろ退院でしたっけ?お腹の傷はどうですか?」


「もう治りかけてるよ、休みすぎて体が訛りそうだ」


「そういえば聞いてくださいよ、さっき――」


それから数十分間雑談した後、病院を後にする。

さて、これからどうしようか。せっかくの土曜日なのにこれといって予定が無い。なので適当に駅前辺りをぶらついていると……


「あれ?触渡君」


「あ、風成さん!」


駅前近くの商店街でクラスメートの風成さんとばったり会う。その手には買い物袋、買い物に来たのだろう。


「奇遇だね、どっか行ってたの?」


「ちょっと刀真先輩のお見舞いにね」


「……もしかしてこの間の怪字で?」


「まぁ……そんな感じ」


正確にはその次の日に現れた「離合集散」の怪字でお腹の傷が悪化したのが原因だが、一般人の風成さんに「2日連続で怪字が現れた」なんて不安を煽り立てるようなことはあまり言いたくない。なのでその事はあまり触れずにおいた。


「風成さんこそ買い物?」


「うん、ちょっとそこの文房具店で」


「そっか、じゃあまた学校で……」


「あ……ちょっと待って触渡君!」


そしてそのまま家に帰ろうとしたその時、突如として風成さんに呼び止められた。その表情はほんのり赤くなっている気がする。


「どうしたの?」


「あの……この後ちょっと暇?」


「まぁ予定は無いけど……」


「だったらさ……今から私の家に来ない?」


「――えっ?」


気が付けば俺は風成さんと共に彼女の家の前まで来てた。思えば「神出鬼没」怪字の時や先月待ち合わせ場所にしたぐらいで、家の前は何度か来たことがあったが中に入ったことは無い。

対する俺の心は、それはもうバクンバクン波立っている。


(おお……女子の家に入るなんて初めてだ。なんか緊張してきた)


何しろ今まで親しい同い年の女性は何人かいたが、こうして家にお呼ばれすることは人生初である。

ここは異性として、何か失礼の無いようにしなければ――


(でも風成さんは何で俺を家に?)


前回のような待ち合わせの約束があるならともかく、今日は何の予定も約束も無く急なお呼ばれだ。一体何故俺を誘ったのだろう?

――もしかして、俺に気があるのでは……!?


(……馬鹿!変なこと考えるな!)


それはいささか妄想が過ぎている。人から好かれるのは良いことだがあまり変な期待はしないでおこう。

俺だって緊急事態とはいえ彼女を何度か家の神社に入れたことがある。あの時俺は風成さんにそのような想いを抱いていない。今の彼女もその時の俺と同じ気持ちの筈だ。


(そうだそうだ、友達を家に呼ぶくらい普通のことじゃないか!緊張しすぎだ俺!)


「ただいまーさっき連絡したけど友達連れてきた」


そう言っていざ彼女の家へと足を踏み入れる。普段あの神社にいるためこういう西洋風な家には慣れていない。

リビングに入ると、彼女の両親と思われる人が座っていた。

すると眼鏡をかけている母親が、俺のことを見た瞬間目を輝かせて近づいてきた。


「あらあら!友達連れてくるってさっき聞いたけど男の子だったのね!いつも娘がお世話になっています」


「あ、こちらこそ。風成さんには普段から……」


とにかく明るい人で、風成さんと似てるような似てないような気がする。しばらく話していると風成さんに無理やり離され、2階にある彼女の部屋へと案内された。

まぁ自分の両親が友達にお節介焼くと誰でも恥ずかしいか。

風成さんの部屋は、一言で表すと「普通の女の子」のような部屋だった。しかし俺にとってそれは慣れない空間、如何せん落ち着けずにいた。


「ところで何で呼んだの?」


「……私、自分の家に友達連れてきたことあまりないから。いい機会だなぁと思って。それに……」


「それに?」


彼女はそう言うと俺と面を向かい合って座る。彼女の部屋にいるせいかもしれないがこう見つめられるとドキドキしてならない。


「普段のお礼を言おうと思ったの。触渡君やあの宝塚さんっていう先輩、いつも怪字から私たちを守ってくれているのに、誰からもお礼を言われないのは……何だか可哀想だと思って……」


「……そっか」


……言葉に出してないだけで、俺は今猛烈に感動している。

確かに存在自体を公にしていないため、皆からお礼を言われることは無く、俺もそれに対してはどうでもいいと思ってた。

感謝やお礼をされるために俺は戦っているのではない、ただ皆を守りたいから戦っているだけだ。

だけど目の前の彼女――風成さんは、俺にそんなことを言ってくれた。

初めていわれたそのお礼に、俺はとても嬉しかった。


「ありがとう風成さん、そう言ってもらえると本当にうれしい!」


「そう!いつもありがとね」


俺はいつの間にか、彼女のそういう謙虚というか優しいところに惹かれてしまっている。

他人のために感謝し涙を流す、俺と同い年だというのに人間ができあがっている気がした。彼女に救われたことだって何度かある。

そう、まるでこの感情は――


(分かった、多分俺は風成さんのことが好きになっているんだ……!)


生まれてこの方十数年、恋という感情は幼稚園の時の先生に向けた以来だった。あの時は叶わない恋だと自分から気づいた。

しかし今は、同い年の同じクラスの子を好きになっている。つまり、()()()()()()()()()なのだ。


(やばい!そう思うと更にドキドキしてきた!)


それから俺と風成さんは日が暮れるまで話をした。だけど俺は、話の半分にも集中しきれていなかった。

ほぼ初めてに近いこの恋、俺の心は落ち着けない――










太陽が沈み外が暗くなった頃、人気のない道にてある人物が携帯電話で誰かと話している。

それは発彦の蕎麦代を代わりに払ったあの恰幅のいい男だった。


「ああ、分かってるよ。今からやる」


その相手とは親しそうに通話しながら歩いていると、何かに気づいたように急に立ち止まった。


「あ、そうだ!この前言ってた()()()()()()()()()って子供たちはどんな顔してんだ?……後で写真送る?」


そう言って通話を切り携帯電話をポケットにしまった。そしてそのままポケットを漁り、とあるものを取り出す。

それは「光彩陸離」という四字熟語が書かれた4()()()()()()、しかもただのパネルではない。4枚とも()()()()()()()が付けられている。


「さてと……じゃあお仕事をしますか」


男は町を全貌できる高台で立ち止まると、パネルについていた装飾品を全部取り外し、外した瞬間パネルを4枚とも下に投げ捨てた。

その瞬間、放り投げられたパネルは紫色の閃光を放つ――

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