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爆発寸前な男  作者: ZUNEZUNE
第四章:義勇任侠の男
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51話

突如として現れたその男は慣れた手つきで拳銃を扱い、俺を怪字の魔の手から救ってくれた。そしてこちらには目もくれず、黙ったまま銃口を奴に向けている。

撃たれた怪字は肩を撃たれたことに怒ったのか、牙を噛みしめ視線の先を俺からその男性に移す。しばらく睨み合っていると、怪字が地面を蹴って跳びかかった。


「……ッ!!」


しかし怪字が目の前に迫ってきても男は慌てずに落ち着いた様子を見せ、また拳銃で今度は奴の右足を撃ち抜く。足を撃たれた怪字は大きくバランスを崩し、男の横を素通りして転倒してしまう。


「刀真先輩……あの人知ってる人ですか?」


「いや、知らないな。しかしそれよりも……」


その男の正体も疑問だったが一番不思議に思っていることは、()()()()()()()()()()()ことだった。パネルの力で生まれた怪字は同じくパネルでしか倒せない、それが普通だった。しかし急に現れたその男の人は、一見ただの拳銃で怪字にダメージを入れている。それが本当に信じられないのだ。

転んだ怪字はすぐに起き上がり、後ろにいるその男性目掛けて振り向きざまに拳で殴ってきた。それに対し男は拳銃を下げ、懐からある物を取り出し、それで奴のパンチを受け止める。


「……あれって確か()()?」


それはよく時代劇で見かける武器、十手だった。現代においてその武器は異様な雰囲気を出していたが、どう見てもただの鉄の棒。それだけで男性は怪字の攻撃を防いでいる。

男は十手を右手で握りしめ、そのまま怪字の拳を押し返す。そのままがら空きになった奴の脇腹を打つ。そしてその後は先で突いた。

それが想像以上に効いている怪字は後ずさりし、逃げるように男から離れていく。すると男はそれを邪魔するように再び拳銃を構え、奴に向かって発砲する。今度の銃弾はさっき打たれた脇腹とは逆の部位に命中した。

そんな戦いを俺たちは片隅から傍観しているだけだった。参戦しようにも突然現れた男に驚愕させられて足が動かない。


「あの十手や拳銃もパネルの力なんでしょうか?先輩の伝家宝刀みたいに……」


「そうとしか考えられないな、じゃなかったらありえないことだ」


四字熟語のパネルには大きく分けて2つ種類がある。先輩の「伝家の宝刀」や俺の「金城鉄壁」のように外側に影響するタイプと、「疾風迅雷」「疾風怒涛」、そして「一触即発」のような使用者本人に力が宿るタイプだ。

見る限りじゃあの人は十手の四字熟語と拳銃の四字熟語を使っている。一体何の四字熟語かは見当もつかないが怪字に効いてるあたりそれは確実だろう。


「とにかく……味方でいいんですかね?」


「今はな」


すると怪字と男の戦いに動きがある。怪字は自分の攻撃を十手に弾かれながらも中央の木の木陰に再び潜り込んだ。


「影に潜った……?」


流石の彼もそれには驚きを隠せないらしい、少しだけ動揺しているように見えた。影に潜った怪字はさっき俺たちにしたように尻尾を出して黒い水滴の弾丸をあの人に放った。

男はそれを右に移動して避け、そのまま木を周回するように走り始める。怪字もそれを泳いで追いながら続けて水滴を向けていく。

しばらくそれが続いたが、怪字も男性も一向に止まらない。あのまま続ければいずれ体力が尽きるだろう。


助けに行かないと……!!


そう思った時には既に足が動いており、奴が出している尻尾をまた掴む。今回は怪字の注意があの男の人だけに向かっていた為簡単に接近で来た。

そのまま勢いよく影の中からこいつを引っこ抜き、地上に全身を出させた。それを見た男は十手を構えた怪字の胸を突いた。


「下がってろと言っただろうが!」


そして邪魔そうに俺を右手で押し、この場から無理やり突き放した。助けたつもりだったのだが逆に邪魔をしてしまったのか?

男はそのまま十手で奴を追い詰めていく。気づけば彼の方が優勢になっている。


「はっ!!」


高く跳んだ後、怪字の顔を右手で持った十手で突き、着地と同時に左手で拳銃を持ってゼロ距離から発砲した。あんなに硬い鱗で守られているのに怪字はどんどんダメージを受けていく。

すると怪字は再び影に潜ろうとし、頭から影の中に入ろうとしてきた。男はその瞬間を逃さず、怪字の左手に向かってある物を投げつけた。


「手錠!?」


投げられた手錠はそのまま怪字の左手首に装着される。その手錠は2つの輪を繋げている鎖が長く、男はもう片方の輪を自分に付けた。

するとどうだろう、怪字は一瞬で潜ろうとしたが左手に付いた手錠が地面に引っかかり体半分しか潜れていない。


自分以外の物は潜行できないのか……!


男は自分の手首に付けた輪を鍵も使わず解き、そのまま鎖の部分を両手で握りしめ半分潜っている怪字をまるで漁網のように引き上げた。地上に上げられ地面に激突する怪字、そんなところを男は更に拳銃で狙う。

今度は一点集中、奴の胸に次々と銃弾が撃ち込まれていった。いつしか首が穴だらけになっている。


「トドメだっ!!」


そう男は告げると、十手を構えて怪字に向かって走っていく。最後の一撃は十手で決めるつもりなのだろう。

それに対し怪字も両手を伸ばして男性を捕まえようとするが、ものともせずに掻い潜られ、そのまま跳ぶと同時に首を打たれた。

いくつもの銃痕のせいで首の耐久度はボロボロになっており、そこに強烈な十手の一打ちが当てられたため、怪字の首はボキッと折れる。それに伴い、その体も崩れるようにボロボロになって跡形もなくなってしまった。

勝負は、あっさりとついてしまう。

怪字の亡骸から4枚のパネルが出てきて、男はそれを拾うと地面に座り込む。

そして魔法陣のようなものが書かれた正方形の白い布を地面に敷き、そこに今さっき手に入れたパネルを置く。

俺はその順番通りに行われる所作を、見たことがあった。

すると男は両手を合わせ目を瞑り、静かに呪文らしきものを唱え始める。それと同時に、黄緑色の光がパネルを包み始めた。


「なぁ発彦……あれってもしかして……」


「はい、()()()()()()です。昔天空さんがやっているのを見たことがあります」


「やっぱりか……生で見るのは初めてだな。宝塚家では専属の浄化師がいるが……」


怪字退治というものは怪字を倒しただけでは終わらない。倒された直後のパネルは「浄化」をしていないと再び怪字に戻ってしまうのだ。それを行うのがパネル使いと切っても切れない関係である浄化師である。

俺の場合天空さんがパネル使い兼浄化師であるため、俺が倒した怪字はあの人が浄化してくれている。このように両方の立場を持つ人も珍しくなかった。

どれぐらいその技術が難しいのかは分からないが、相当な練習と鍛錬が必要だと聞かされている。

やがて数分が経ち、パネルを覆っていた優しい光が弱まるように消えていった。浄化が完了したのだろう。男は魔法陣の布を回収し、溜息を吐く。そして俺たちの方を見て近づいてきた。


「あ、あの……」


とりあえず味方であることは確かだ。しかし初対面の、それに圧倒的な年上なので緊張してしまう。いかにも真面目そうな人だったので尚更だった。

そしてその人は俺の目の前まで来ると――


「……いっつ!?」


俺の頬に右手でビンタをし、さっきの銃声にも負けないくらいの高い音を鳴らした。


「なっ!?何して――」


そして急に俺が殴られたことにより動揺を怒りを見せた刀真先輩も同じように叩かれる。

急に何をするんだ、と彼の顔を覗くと、その表情は怒りで満ちている。今にも噴火しそうだった。


「――()()()()()()()()!!」


そして言われたのがこの言葉、一瞬俺の頭の中はフリーズした。

何故逃げなかった、何故と言われても今あの場で奴を放っておいたら周りの人間にも危害が及ぶからだ。そしてあの時奴と戦えるのは俺だけだったからである。それなのに逃げなかったからといって怒られる筋合いはない。

いや、もしかしたら俺たちがパネル使いだということを知らなかったのかもしれない。

この人は途中で参戦してきた。なので高校生の俺たちを一般人とみても無理はないだろう。なのでまずは自己紹介からしないと……


「あの……俺たちはですね……」


「触渡発彦、宝塚刀真だろう?」


「何故名前を知っているんですか!?」


「お前らのことは天空さんから聞いてある」


「……天空さんから?」


宝塚さんや刀真先輩の時といい、天空さんの顔の広さには驚かされる。基本あの神社から動かないイメージがあるのだが、一体どこでその顔を広めているのやら。

待てよ、聞いてあるということは俺たちがただの高校生じゃないことも知っているはずだ。なのに何故殴った?


「あの……貴方は一体……」


「俺か、そういえばまだ名乗っていなかったな……」


そう言って彼はスーツの内ポケットから何かを取り出す。これも生では初めて見る物だったが良く知られているもの、()()()()。そしてそれを開き、名乗り始める。


「警視庁刑事部 ()()()()()()()の『勇義 任三郎』だ」


「前代未聞対策……?」


聞いたことも無い課の名前だ。そう思って見せてきた手帳を凝視すると、ちゃんと彼の写真も名前も職員番号も書いてある。どうやら本当の刑事らしい。最も警察手帳なんてジロジロ見るなんて初めてなので本物かどうか見極めたわけじゃないが。


「今では英姿警察署刑事部だけどな、ついさっき異動したばかりだ」


「いやそれよりも、前代未聞対策課なんて聞いたことないんですけど……」


「天空さんから聞かされていないのか?警察には対怪字用の秘匿部隊が存在してるって……」


「……そういえば」


俺がまだ中2の頃に確かそんな話を天空さんの口から聞いたことがある。一般市民に怪字やパネルの存在を知られないよう隠蔽するために、国が作った秘匿部隊が存在すると。

パネル使いを続けていればいつか会えるだろうと思っていたが、まさかこんなに早く会えるとは思ってもいなかった。


「だから俺も表向きでは捜査一課所属になっている。前代未聞対策課なんてものは存在しない扱いだからな」


「それで……英姿町に異動してきた理由ってもしかして……」


「詳しい話は天空さんの神社で話そう、早速だが案内してくれ。こっから近いし」


「……えっ?」


そうすると勇義さんは俺に神社まで案内するよう言ってきた。あの神社がここから近い?何を言っているんだこの人は。


「どうした?お前は天空さんと一緒に神社で住んでるんだろ?だから案内を頼みたいんだが……」


「あの……神社は()()()()()()()ですよ」


「……はぁ!?」


慌てた様子で勇義さんは地図を取り出し、広げて俺に見せてくる。駅とかで置いてある無料の地図だった。


「だって今はここにいるんだろ!?だったら神社が近いはず――」


「いえ、ここです」


「嘘だろっ!?」


どうやら道というより場所を間違えたらしく、勇義さんが指した場所はまったく違う所で、神社がある方向とは逆である。

まぁ英姿町は山に囲まれているのでたまに地図がややこしくなる時はあるが、いくら何でも普通こんな読み間違えは無いだろう。刀真先輩も「何でそんな風に間違えるんだ……?」と呆れている。


「……すまんが神社まで案内してくれ、また迷いそうだ」


「は、はぁ……」


刑事と名乗ったので最初は緊張したが、失礼だが間抜けというかドジというか、抜けている感じがとてもしている。怪字と戦っていた時の顔つきは何処に行ったのやら、今はとても冷静には見えない。

途中夏休みの宿題を手伝う約束があったの思い出したが、右腕は噛まれたせいで穴だらけ、左脇腹は噛み千切られて抉れているといったボロボロの状態なので、このまま行けばえらいことになるのは確実。


(仕方ない……後で電話して伝えるか)


約束を守ることを諦め、後で謝ることを決意する。まぁ今優先するのはこっちの方だ。

警察の秘匿部隊がわざわざ来たってことは、パネル関連のことで何かあったのかもしれない。もしかしたら、例の特異怪字が見つかったとか――

何はともあれ、今は彼を神社まで案内しよう。


(そう言えば結局……何で殴られたんだ俺たち……)

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