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爆発寸前な男  作者: ZUNEZUNE
第四章:義勇任侠の男
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49話

「ふぅ……ようやく着いたか」


災難なことが何度もあったが、やっとのことで英姿町に足を踏み入れる俺。今度は切符をちゃんと持ち、無事駅から出れた。この町の新鮮な空気が喉を伝って肺の中へと入り、その美味しさを実感する。


(……最初からやりなおすか)


――しかし、この町に足を踏み入れた瞬間、他の町と違う「何か」を直感的に感じ取った。刑事としての感なのか、それとも人間としての感なのか、どちらにしろ聞いてた話通りの町らしい。

英姿町――人も街並みも普通に見えるが、その裏ではとんでもないことが起こっているらしい。何でも、ガキ2人が怪字を退治していると聞く。


「……馬鹿馬鹿しぃ」


「あのぉ……すいません」


パネルのことを「凄い玩具」としか思っていない連中に決まっている。パネルに対する取締法はこの国、いや世界中に存在しない。そもそもこれが世間に知られてはいけない事件だからだ。パネルは使いようによって銃以上に危険な武器となる。


「……あのぉ」


だから、俺が取り締まってやる。「大人」を知らないガキどもを――

それが、勇義任三郎がこの町でする最初の仕事だ。

早速、天空さんの所に行って彼らに会いに行こう――


「すいません……改札の前で立ち止まると他の人に迷惑ですので……」


「あ、すいませんすぐどきます!」


カッコイイ刑事を演じていたので、駅員さんに注意されるまで自分が改札の近くで立ち止まっていたことに気づけなかった。周りを見れば俺のことを迷惑そうに見ている人がチラホラいる。

いかんいかん……刑事ともあろうものが、市民の迷惑になるなんて……もっと周りを見なければ。

急いで改札の近くから離れ、この町全体の地図を見て次行く場所を探す。ここに来るのは初めてだったので中々読みづらかったが、腐っても俺は刑事……すぐにマスターできるようになった。


(とりあえず、この小さな山辺りに行けばいいんだな……)


ここまで来ればもう何もないだろう。待ってろよガキ共、大人の厳しさってやつを見せてやる。











今日はただ、まだ夏休みの宿題を終わらせていない友達の手伝いをするだけのはずだった。しかし、風成さんと一緒に疾東さんの家に向かっている途中、同じクラスの飛鳥がパネルが暴走した男に襲われ、結果怪字が出現してしまった。

俺が英姿学校に転校する前に天空さんが言ってた通り、この町の怪字出現率は本当に異常だ。まさか夏休み明けにいきなり現れるとは思ってもいなかった。実は町がおかしいのではなく、ただ単に自分の運が途轍もなく悪いだけではないかと思ってきてしまう。

一緒にいた風成さんには気絶した飛鳥を担いで避難してもらい、他人に被害が出ないように心がける。そして白昼堂々怪字が現れたので誰かに目撃されていないか一瞬焦るが、生憎この広場は人気が少なく一般人に目撃されることはないだろう。

今回出現した怪字は魚人の姿をしていて、この暑い雰囲気の中最も浮いている。まぁ普通の人が見れば恐怖で背筋が凍るだろう。

思えばこういう生き物の姿の怪字と戦うのは「疾風迅雷(怒涛)」の鳥怪字以来だ。そのフォルムを見れば何となく泳ぎが得意そうなのは一目で分かる。


(とにかく、刀真先輩に連絡だ!)


怪字から目を離さず、手探りでポケットから携帯を取り出し、刀真先輩に向けてメッセージを送る。敵がどんな風な戦い方をするか分からない以上、援軍を呼ぶ必要がる。

すると魚の怪字が、右手を後ろに引いて跳びかかってきた。


「おっと!」


そのパンチを後ずさりして避け、急いで携帯をしまう。パンチが当たったコンクリートの地面にはヒビが広がっていく。


(中々のパワーだな!)


そして次に来た左拳を屈んでよけ、そのまま両手で左腕を掴み、重い体を持ち上げて背負い投げを繰り出した。俺のパワーなら怪字を投げるなんてこともできる。

地面に激突させられた怪字は起き上がると同時に口を大きく開けて俺の顔に噛みついてくる。それに対し首を後ろに曲げてあと少しの所で回避した。そのまま流れるように後ろ側へ体を倒してバク転、その勢いに任せ奴の顎を思い切り蹴り上げる。

顎を蹴られたことにより怪字は上を向く形になり、胴体ががら空きになったのでその隙に懐へと潜り込んだ。


「拡散型ゲイルインパクトォ!!」


そして疾風怒濤を使用し、ゲイルインパクトで奴の体を全体的に叩きまくる。硬い鱗で守られていたかと思ったが、前部分は鱗が生えていなかったので相手にダメージを与えることができた。

威力で後ろに吹っ飛んだ怪字は、手で地面を引きずりブレーキにして着地、そしてすぐに俺へと突進してくる。そこから始まる奴の猛攻、俺はそれを躱しつつ後退していった。

すると怪字は両手を広げこちらの体を掴もうとしてくる。それに対し俺も両手を差し出し、お互いの手を握り合う形となった。

握力では向こうの方が上、このまま握り合っていてはジリ貧だ。そう思い右足を上げて奴の顎に膝をぶつけてやろうと思ったが、先に怪字の膝が俺の顎に命中する。足のリーチでは体格が大きい奴が有利だ。


「があっ!?」


今度は俺の懐が隙だらけとなり、怪字はその腹を殴り抜け、宙に浮いた俺を蹴り飛ばす。

飛ばされた後無事地面に着地するが、丁度そこは先ほどまで暴走していて気絶した男が倒れている地点であった。


「大丈夫ですかっ!?」


この人を無視して戦いに巻き込むわけにもいかないので、男の方を向いて何とか避難させようとする。しかしその結果、怪字に背中を見せてしまう形となった。

今だ!と言わんばかりに怪字は大ジャンプ、両腕をパンチの構えにしてこちらに跳びかかってくる。


「……なんてね!!」


しかしこの隙を見せる行為も作戦の内だ。4枚のパネルを持つ手を自分の体で隠し、そのまま「一触即発」を使用する。


「一触即発、プロンプトスマッーーーーシュッ!!!」


奴の両手が触れた瞬間、それがスイッチとなり振り向きざまに思い切りスマッシュをぶち込む。

協力な一撃を腹に当てられた怪字はそのまま後ろを吹っ飛び、俺との距離が大きく出た。今の内にこの人を避難させないと……


「よいしょっと……」


気絶している男をおんぶして、そのまま広場から離れた位置の壁に腰掛けさせて再び広場へと戻った。

殴り飛ばされて壁に激突した怪字は、激怒しているのか上下の牙を嚙み合わせてうなり声をあげている。


(怒っているけど特異怪字(この間の奴)と比べて知性は感じられない……普通の怪字か)


もしこの魚の怪字が、夏休みの合宿の際に遭遇したあの特異怪字と同じように知性を持っていたら、少しは特異怪字の手掛かりになるだろうと思ったが、どうやら暴れるだけの普通の怪字のようだ。

だからといってこのまま見過ごすなんてことは絶対にない。寧ろ知性が無い方が凶暴性があって厄介だ。

対する怪字はこちらを睨みつけているだけで一向に襲い掛かってこない。多分さっきプロンプトスマッシュを食らったのでそれを警戒しているのだろう。こういう警戒心だけじゃ特異怪字とは決めつけられない。


(簡単には終わらせてくれないか……)


するとようやく怪字が仕掛けてきた。両足で思い切り地面を蹴ってこっちに跳びかかり、殴ろうとしてきた。それを左に避け、お返しにと右足での回し蹴りをしたが奴の腕によって防がれる。

すると今度は頭から齧り付こうとしてきたので両手で相手の上顎と下顎を両手で抑えてそれを阻止。


「隙あらば噛みついてきやがって……」


すると俺が両顎を抑えている隙にと、両手でこちらを挟もうとしてきた。自分の両手を放すと同時にそれをバックして回避する。

それに対し怪字は瞬時に姿勢を低くしてこちらに跳びついてきた。


「のわっ!?」


俺はその噛みつき攻撃を屈んでよけ、怪字は俺の頭上を通過する。あともう少し遅ければ顔を噛み千切られていたと思うと冷や汗が出た。

そして俺の後ろに着地したはずの怪字の方を向くが……


「……消えた!?」


そこにいるはずの怪字が、何故かいなくなっていた。辺りを見渡してもその姿は見えない。怪字の性質上、何処かに逃げるという行動はよっぽどのことがある限り無いはずである。

スピードも少しあったがあの短時間で姿が見えなくなるほど遠くに移動できる程でもない。ならば何故消えたのか……


(これが怪字の能力か……一体どんな能力だ!?)


これが魚の怪字の四字熟語能力、それを使って俺の目から逃れたに違いない。しかしこれだけの情報じゃ一体どんな能力なのかは見当もつかなかった。

思いつくあたり「透明になれる」ぐらいしかない。だからといってそれだけに決めつけていると痛い目を見るだろう、問題は、「次に奴が何をしてくるか」であった。

姿が見えないので敵の動きが予想できない。警戒心が一気に深まる。


(なら!八方美人で様子を見て……)


ここはあらゆる方向からの攻撃に対応できるようになる八方美人が正解だ。これなら例え奴がどんな攻撃をしてきても回避ができるはず。

早速使おうと俺がポケットに腕を入れた瞬間、その怪字は急に姿を現した。


「ぐぁがぁあっ!?」


怪字はパネルを取り出そうとした俺の右腕に跳びついて、そして噛みつく。鋭い牙が腕に深く食い込み始める。

このままだと右腕が噛み千切られる!そうなる前になんとかせねば!

右腕の激痛が辛いが、左手で何度も怪字の頭部を殴って妨害する。しかし奴の噛む力はまったく弱まらず、寧ろ強くなっていく。それに伴い痛みも傷も深くなっていった。


(やばい!このままだと本当に右腕が無くなる!!早く何とかしないと!!)


折角夏休み合宿で鍛えたというのにこんな所で右腕を失うなんて駄目だ。激痛のせいであふれ出るアドレナリンの中、どんどん焦りが生まれていく。ここは多少強引だが引き離すしかない。


「疾風迅雷!!どりゃああああああああああああああああああああ!!!」


ここで左手で疾風迅雷の4枚を取り出し、その高速移動で中心にある木を周回し始める。超スピードで怪字を振り解こうという作戦だ。

しかし奴はまるで虫のように俺の右腕にくっついたままだった。寧ろ傷口が抉られていくのでそれが仇となる。


「疾風怒濤、拡散型ゲイルインパクト足バージョン!!」


今度は両足によるゲイルインパクトで怪字を吹っ飛ばそうとしたが、それでも奴は離れない。顎の力はますます強くなっていく。

ならばプロンプトスマッシュで吹っ飛ばしてやろうという考えに至ったが……


(もう牙も深い所まで刺さっているから今スマッシュを打てば奴と一緒に俺の腕まで吹っ飛んでしまう!!)


仕方が無いので左手で奴の顎を掴み、無理やり開けようとするが無駄に終わる。血もドバドバ流れていく中、もうヤバイと思ったその時――


「猪突居合切りぃい!!」


怪字の背中を、刀による突進+居合切りが襲う。鱗で防がれたため斬れはしなかったがそのおかげで怪字は顎を緩めてしまう。

今だ!と急いで俺は怪字から離れ、奴を斬った人物の隣まで移動する。


「遅れてすまない、大丈夫か発彦」


「はい!助かりました刀真先輩!」


それはさっきメッセージでこちらの場所を伝えられた刀真先輩であった。またこの人に助けられてしまった。やっぱり先輩は頼りになる人だ。


「随分と早かったですね、いや助かりましたけど……」


「家の用事でここの近くに来てたんだ。何はともあれ間に合ってよかった。右腕は大丈夫か?」


「まだ動かせます!合宿の時みたいに骨折したわけでもないので……」


これで2対1、こちらの方が有利な場面に変わった。対する怪字は新たな敵が増えたと更に警戒していた。


「気をつけてください、どんな能力かはまだ分かりませんが急に姿を消すことができます」


「了解、じゃあ奴から目を離さないようにしないとな……」


すると先輩は伝家宝刀を持ち直し、怪字に向かって突き向ける。俺も血だらけになった右腕を引いて左腕を前に出して戦いの構えとなった。

こうして、合宿の成果を早速見せる展開がやってきた。

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