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爆発寸前な男  作者: ZUNEZUNE
第四章:義勇任侠の男
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48話

それからあっという間に学校が終わり、放課後宿題をする私たちは一度各々の家に戻り、昼食を済ましてから疾東の家に集まることに。

ただし触渡君だけは彼女の家の場所が分からないので一度私の家に来て、一緒に行く。

今は2時、私は着ていく服をクローゼットと鏡の前で選んでいた。人様の家に上がるので失礼の無いようにするのも当然だが、触渡君と中島君もいるので一人の女としてこういうセンスは舐められたくないのだ。といっても触渡君の顔が一番大きくイメージしていた。


(もう……疾東や先輩があんな事言うから……!)


結局のところまだ彼の事を考えている。今は必死に忘れようとしているけど彼の顔のイメージが頭の中から離れない。寧ろ考えないようにすればするほどその意識は強くなっていく。デートに行くわけじゃないから、そこまで彼を意識しなくてもいいのに。

とにかく、外に出て恥ずかしくなければいいのだ。なのであまり目立たず、かといって地味でもない普通のワンピースを選び、日光対策につば広帽子を被る。靴もなるべく派手じゃないのを履き、外に出て屋根の下で彼を待つ。9月に入ってもまだ夏真っ盛りで、その熱さも未だに衰えていない。だから一応として水筒も持っていくつもりだ。

思えば私服姿で待ち合わせるなんて彼が転入してきた時以来だ。あの時は私が傷つけてしまった迅美と雷門のお見舞いにいくためで、私も触渡君と出会った日が浅かったのでそこまで意識はしていなかったはず。というよりその日は初めて怪字を目にした日でもあるのでそっちの方のインパクトが強かった。


(もう4か月も経つんだなぁ……)


あっという間に時が過ぎ、そしてその4か月間色んなことが起きすぎた。触渡君との出会い、怪字とパネルという存在、私の知らなかった世界が、一気に視界の中に入っていく。

なのに不思議と怪字への恐怖は薄々と無くなっていっている。目の前に現れれば流石に怖いが、もし私の近くに出てきたらどうしよう、寝ている時に襲われたらどうしようと、夜も眠れない程ではない。何故なのか心の底に安心感があるのだ。

一体何故だろうと、しばらく考えていると何となく理由が分かってきた。怪字を始めて見たあの日あの時、見たのは怪字だけではない。それに立ち向かう触渡君の姿も印象になっているのだ。そのせいか、夏休みに見た彼の夢、その殆どが怪物と戦っている姿だった。

だから怪字への恐怖心をいくら募らせても、彼がきっと守ってくれると無意識の内に思っていたのだ。例えどんなピンチでも……触渡君が……


(――ってまた触渡君のこと考えてる!!)


最早癖なのか、気が付けば触渡君のことを想っていた。これじゃあ私の頭は四六時中に彼のことで一杯一杯みたいだ。

ただでさえ暑いのにこれ以上体を火照らせるわけにもいかない。何とか彼以外のことを考えないと……


(触渡君のこと以外……触渡君のこと以外……!)


必死に他のことを考えようとするも急にそんなものが見つかるはずもなく、益々彼の顔が頭の中に出てきた。なので復唱を続ける。


(触渡君以外触渡君以外触渡君以外…………!!)


「待たせちゃった?風成さん」


「ひゃいっ!?」


するといつ来たのか、触渡君がいきなり私に声をかけてきた。さっきまで考えてたことがことなのでその声が耳に入った瞬間変な声を上げてしまい、取り乱しながらも挨拶をする。


「い、いや待ってないよ!時間ピッタリ……」


「そう?なんか表情が何て言うか……変だったよ?」


「そ、そうかなぁ~?アハハ……」


どうやら顔に出ていたらしい。どんな表情をしていたか自分でも分からないので何だか恥ずかしくなり、とりあえず笑って誤魔化した。


「とにかく!疾東の家まで案内するね!」


「あ、はい」


そして無理やり話を終わらせ、疾東の家へと向かう。触渡君はそれに付いていった。











――良かった、切符は無事だったか。

俺はあの後電車に乗り、トイレへ寄った駅で降りてそこに置いてきた切符を回収して、再び英姿駅に寄る電車へと乗り込んだ。もし切符が無かったらどうしようかと怖かったが、無事に見つかって良かった。階段から転んだ時にどこかへ行った鍵も見つけたので結果オーライだ。


(まったく慌ただしい……)


それにしても窓から景色を見る限り、ここら一帯は自然が溢れていて何とも心地よい空気が流れている。怪字の出現率が上がっている町の近くとは思えない程だ。英姿町に着いたら()()()()のところに寄る前に適当な場所に行こうか――?


(駄目だ駄目だ!観光しに来たんじゃないんだぞ!)


俺というやつは何てことを考えている。俺があの町に行くのは怪字退治の為だ。折角ガキが戦っていることを聞いて自分から志願したのに、こんなことじゃ()()()()に「何やってんだぁクソガキィ!!」と叱られてしまう。

それに俺のような最高にカッコイイ刑事ともあろうものがトイレに切符を忘れてしまうなんて言語道断、注意しなければならない。


(ん、次が英姿駅か……ここはもう一度クールに行くか!)


こうなれば今一度カッコイイ刑事をやるしかあるまい。両目を瞑り、手を上着のポケットに入れる。そして電車が停車した事を音と感覚で確認し、そのままゆっくりと電車から降りた。

そして両目を開けると……


(そこは英姿町……じゃねぇ!?)


しかし最初に見えたのは「英姿駅」と書かれた看板ではなく、その隣駅の看板だった。なんてこった、カッコつけるあまり降りる駅を1駅間違えてしまったでは無いか。


「最悪だ……畜生が!!」


次の電車は10分後、またしても第一歩が延長されてしまう。










私と触渡君は疾東の家へと歩いている。距離も遠くない。しかし問題なのは疾東の家がある場所だ。あそこは中々高い場所なので道も急な坂道が多い。なので夏にそこを歩けば凄く疲れるのだ。

陸上部だからそんなの気にしない!と言いたいところだが、流石にこの暑さと急角度は疲れずにはいられない。疾東が部活であんなに速いのは日頃からこの道で鍛えられていることもあるのだろう。


「大丈夫風成さん?水買ってきたから飲んでも良いよ」


「ハァ……ハァ……水筒持ってきてるから大丈夫だよ」


対して後ろにいる触渡君は、流石とも言えるスタミナ力で疲れているようには見えない。どっちかというと暑さが辛そうだった。疾東がこの坂で鍛えられたというなら、彼は怪字との戦いで鍛えられ、これぐらい屁でもないのだろう。

やがて中間地点のような広場へとたどり着く。ここからもう少し登れば疾東の家だ。つまりラストスパートである。


「……ちょっとだけ休憩しようか」


中央に生えている木の下にあるベンチに座り、私は持ってきた水筒を飲む。歩いていたせいか体感温度はますます暑くなっていた。流れ出る汗のせいでワンピースが透けてないか一瞬焦ったがどうやら大丈夫のようだ。触渡君もこっちを見ていない。

ここで今日初めて彼を全体的かつ集中的に見る。触渡君の服装はTシャツに短パンといったザ・夏対策といった感じだ。失礼だがオシャレでもないしダサくもない。まぁ彼がオシャレに気を遣う姿はあまり想像できないが。

すると私は、暑さのせいなのか魔が差してあることを聞いてしまう。


「ねぇ触渡君……私の服、どうかな……」


「えっ……?」


真剣に考えたがそこまで自意識を持たずに今日の服を選んだはずなのに、何故か触渡君にどう思われているか気になってしまう。普段は他人からどう思われているかなんてそこまで考えていない筈なのに……

そして今度は、心臓がバクバクし始める。暑さのせいなのか、それとも緊張しているのか、それすらも分からない程動悸が強くなっていく。汗もさっきとは比べ物にならないぐらい流れていた。


「……似合ってると思うよ、風成さんのイメージに合ってて……」


そう言って彼は恥ずかしそうに目線を合わせないままそう答えた。恐らく彼も今の私と同じようになってるのだろう、顔が少しだけ赤くなっている。


「……そっか、ありがと」


そして始まる沈黙の時間、聞こえるのは自分の心臓の音のみ。そしてどんどん荒くなっていく呼吸、厳しくなっていく猛暑。

さっきまで触渡君のことを考えすぎないようにしようと決意していたのに、そんなことなど忘れて頭の中が彼のことでパンク寸前だった。

これじゃあまるで……サウナに入っているみたい…………


(この空気に耐えられない……誰でもいいから来てくれないかなぁ……)


そう願っていると、自分たちが来た別の道から本当に誰かが走ってくる。逆光のせいで最初は誰かは分からなかったが、次第に同じ約束をしていた中島君であることに気づく。その様子はとても焦っているようだった。


「どうしたんだ飛鳥そんなに焦って……約束の時間ならまだ余裕あるぞ」


「ゼェハァゼェハァ…………発彦に風成さんか……良かったぁ!」


「良かったって何が?」


「今、変な男に追われてんだ!」


「「変な男?」」


すると中島君の言う通り、彼の後を追いかけてきたかのように人が走ってくる。その速さはとてもじゃないが人間とは思えず、一心不乱に中島君を睨んでいた。問題はその男の目だった。まるで感情が無いようで、無性に恐怖を感じる眼光。

私は、その目を見たことがあった。あれは夏休み前暴走していた時の鬼塚君と似ている。触渡君もその目を見た瞬間顔を強張らせ、勢いよく椅子から立った。


「風成さん離れてて!!」


そう叫んで彼は中島君を守ろうと走るが、間に合わずその男の手が中島君の胸の中に入った。

やっぱり、あれは私も経験したことがある「パネルによっての暴走」だった。四字熟語になろうとするパネルの引力が、宿っている人間を凶暴にさせる現象、多分あの男の人は今正気じゃないのだろう。

体からパネルを抜き取られた中島君はそのまま気を失い、その場に伏せてしまう。触渡君は彼に駆け寄り、そのまま彼を抱えたままその男から目を離さない。


「くそっ!また怪字か!」


中島君から出てきたパネルは、抜き取った男のパネルと組み合わさる。そしてどんどん体を形成していき、普段見慣れていない化け物がこの場で現れた。

さっきまで暴走していた男も気絶し倒れてしまう。どちらもパネルを抜き取られた影響なのか。


「…………魚人?」


そして対する怪字の見た目は、触渡君がそう呟いた通り、まさに魚人という言葉がピッタリの見た目だった。

濃い青色の鱗が全身にびっしり生えており、背中には長い背びれがある。そして背中から伸びるように尾ひれのある長い尻尾が後ろにあった。5本指の両手両足は爪が尖っており河童のように水かきも広かった。

そしてその顔には、その見た目にあった丸くて大きい魚の目、口は鮫のように牙が生えている。


「飛鳥を連れて先に疾東さんの所に行ってくれ」


「うん……大丈夫?」


「ああ、疾東さんに少し遅れるって伝えておいて!」


これ以上ここにいるのは彼にとって邪魔になるだろう。なので触渡君から中島君を受け取り、そのまま急いで疾東の家まで走っていく。

戦いが始まったのか、後ろから激しい音が飛び交ってくる。だけど私じゃどうすることもせず、ただ彼の無事を祈るしかなかったのであった。

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