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爆発寸前な男  作者: ZUNEZUNE
第四章:義勇任侠の男
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47話

――この町に足を踏み入れた瞬間、他の町と違う「何か」を直感的に感じ取った。()()としての感なのか、それとも人間としての感なのか、どちらにしろ聞いてた話通りの町らしい。

英姿町――人も街並みも普通に見えるが、その裏ではとんでもないことが起こっているらしい。何でも、ガキ2人が怪字を退治していると聞く。


「……馬鹿馬鹿しぃ」


所詮パネルのことを「凄い玩具」としか思っていない連中に決まっている。パネルに対する取締法はこの国、いや世界中に存在しない。そもそもこれが世間に知られてはいけない事件だからだ。パネルは使いようによって銃以上に危険な武器となる。

だから、俺が取り締まってやる。「大人」を知らないガキどもを――

それが、「勇義(ゆうぎ) 任三郎(にんざぶろう)」がこの町でする最初の仕事だ。

早速駅を出て、彼らに会いに行こう。そう思って改札前で切符を取り……ポケットに入れていた切符を……入れたはずの切符を……


(入れたはずの切符が――――無い!?)


馬鹿な、一体どこで落としたというのか、反対のポケットや内側、上着の方も確かめ、それでも見つからなかったので靴をいったん脱いで靴の中まで探した。だがどこにも切符が無く、このままだと駅から出られない。


(そうだ!腹が痛かったから途中下車して、用を足した後ハンカチを取り出した時に一緒に出して、置きっぱなしだった!)


自分でもうっかりしていた。急いでその駅へと戻り、切符を回収しなければと、今降りた駅のホームと反対側の方へ走ろうとしたが、さっき靴の中まで探したため、靴が完全に履けておらず、そのまま前に転倒してしまった。


「ふげごっ!!」


顔から倒れてしまい、鼻をぶつけて赤くしてしまう。周りの人たちは靴が脱げたまま倒れている俺を何事かと遠くから見ていた。何てことだ、市民の平和を守る刑事ともあろうものが、なんて無様な姿であろうか。


「……ぐぐぐ」


しかし例えどんなに恥ずかしい目に遭おうが、俺のような立派な刑事は決して挫けない。あのトイレへと向かい、切符を回収せねば……そう思って俺は反対側のホームへと向かう。するとそのホームに電車が止まった。


「やべっ!走らねぇと!」


反対側へ行くには一回階段を上がり橋で線路の上を通らないといけない。つまり急がないとあの電車には乗れないということだ。トイレに切符を無くした身としてなるべく早く回収したい。ならばあの電車に乗らないと。

二段飛びで階段を駆け上がり、橋を渡って下り階段まで来た。そのまま早く下りようとすると……


「ほぎゃっ!?」


右足を左足に引っ掛けてしまい、階段から転げ落ちてしまう。元々この橋は線路の上にあるため当然電車より高い位置にある。そんな高さの階段から転がるということは本当に辛く、そして転げ終わった時には既に電車は発車していた。


「つ、ついてないな……」


こうして俺の英姿町の第一歩は、少し後に延長されてしまう。

しかし、俺の志は決して揺るがない。例えどんな困難が待ち受けようとも必ずや目的を果たす!


「って鍵がどこか行った!」









夏休みも終わり、9月になったことで学校は再会、約1か月半ぶりに学校に来た。それぐらい時間も進めば、まったく変わっていない人や別人と見間違えるぐらい変化している人もいた。

例えばクラスの端にいる有象(ゆうぞう)君は夏休みのハッチャケからなのか髪型を大きく変えてイメチェンしている。その2つ前の席にいるクラス1上品といっても過言ではない高雅(こうが)ちゃんは1学期と同じように綺麗なままだった。

そういう私は夏休みに陸上部の合宿に行っていた為、その肌はこんがりと焼けてしまった。ついうっかり日焼け止めクリームを家に忘れてしまい、まぁいいかと友達からも借りずにいた結果だ。

ちなみに同じ部の疾東はその辺はちゃんとしていて、白くて綺麗な肌を保っている。


「おわっ!風成さん焼けたね!」


すると触渡君が登校してきた。彼もあんまり変わっていない、まぁイメチェンするような人柄ではないことは分かっていた。対する触渡君は私の日焼けっぷりを心底驚いていた。


「久しぶり発彦くん!まぁ合宿中にね……」


「そういえば合宿行くって言ってたね、どうだった?」


「それはもう……きつかったよ」


今回が人生初めての合宿だったので、まさかあそこまで厳しいとは思ってもいなかった。1日中太陽の下で走って基礎を鍛えてと、おかげですっかり成果が身に付いた。


「そういう触渡君は夏休みにどっか行ったの?」


「うん……まぁね」


すると彼はバツが悪そうな顔でそう答える。頭を掻くその左手には、何やら手術痕のようなものが見られた。

怪字と日夜戦っている彼のことだ、きっとこの夏休み中にも何かあったに違いない。触渡君としても苦い思い出なのだろう、なのであまり詮索するのはやめた。

だがそれで沈黙が続き少し気まずい雰囲気になってしまった。何か話題を変えないと……


「そ、そういえば夏休みの宿題やった!?」


「あ!やったよ!夏休みに入ってすぐに……」


彼もそれを察知して大げさに答えてくれた。どうやら触渡君はちゃんと夏休みの宿題をやるタイプのようだ。

世の中の学生には2つのタイプがいる。1つは彼のように出された宿題はすぐに終わらせる真面目タイプ、もう1つは目先の楽しみに時間を奪われ8月32日という存在しない日を望むタイプだ。

そういう私は中間、最初は早めに終わらせようとしたけど合宿前に遊べるだけ遊んでおこうという考えに至り、ちょっとやってほったらかしにしていて、そのせいで昨晩は軽い地獄であった。


「ちょっと触渡に風成、宿題終わらせてるって本当?」


「あ、疾東さん久しぶり。疾東さんは全然焼けてないね」


「私は日焼け止め忘れたどっかの馬鹿とは違うのよ」


すると疾東が私に悪態をつきながら話しかけてきた。その後ろには迅美と雷門といつもの2人がいるが、その表情は青くなっていた。


「この2人宿題まだ終わらせてないのよ、多分明日の授業までなら間に合うと思うから手伝ってくれない?」


今日は授業をやらず、朝礼とHRだけの筈だ。なので本来の宿題の提出日は今日ではなく明日の初回授業。


「別にいいけど……どこでやるの?放課後の学校?」


「いや、私の家でどう?教室のクーラーってわざわざ許可貰わないといけないから」


「えっ……それ俺いいの?」


すると触渡君が冷や汗を流しながらそう言ってきた。1人の男子として同い年の女子の家に上がるのはどうなのかという意味もあるし、女子だけの空間に男子1匹を入れても良いのかという意味でもあるだろう。


「あんた夏休み入る前、朝に風成の家まで迎えにきたそうじゃない。今更何言ってんのよ」


「そ、それは訳ありで……!」


彼は顔を赤く染めながら言い訳をする。今思えば同い年の男の子が自分の家まで迎えに来たということを今になって意識出して、私も少し赤面した。夏休みに入る前のダンス大会で彼を異性として意識出したから尚更だ。現にこの休みの間彼が出てきた夢を5回ぐらい見ている。


「だけどまぁ、男がアンタだけってのも何だか嫌ね。他に誰か誘う?」


「う~ん、そうだなぁ……」


そうして彼はしばらく考えた後、ハッとした表情をした後この場を離れ、少し離れた席の男子に声をかける。数分話し合っていると、その人と共にこちらへ戻ってきた。


「じゃあさ、飛鳥も誘っていい?」


「僕も実は宿題終わってなくて……」


そう言って恥ずかしそうに来たのは同じクラスの「中島 飛鳥」君。あまり率先して目立とうとしないので影の薄い人だ。そういえば1学期の頃よく触渡君と話してたとこを見たことある。


「中島かぁ……別にいいわよ、じゃあ3時に私の家に集合ね」


「俺、疾東さんの家知らないけど……」


「私が教えてあげる、前にお呼ばれしたことあるから。私の家に2時30で待ち合わせしよ」


「ありがとう風成さん」


話の流れでまず最初に私と触渡君と待ち合わせすることになる。以前彼女の家には来たことあるけど中々の豪邸だった。なので一目見れば周りの家との違いで分かりそうなのだが、場所だけ伝えても転校してきたばかりの触渡君は土地勘が薄いだろう。


「……結局風成の家に来てんじゃん」


疾東の呆れた声で、私も発彦くんもハッとし、顔を徐々に赤らめていった。


「えっ、風成さんと発彦って付き合ってんの?」


「ええ、付き合ってるわよ」


「「付き合ってません!!」」


疾東のせいで中島君が誤解してしまったので、2人揃ってそれを解く。

まったく……こんなことが続いたらますます彼のことを異性としか見れなくなってしまう。

確かに彼には数回命を救われているが、それだけで好意を寄せているというのは些か簡単すぎる、一種の気の迷いかもしれない。

なので、この心の高まりが「それ」と決めつけるのは、まだ早い。


「おい風成、3年の人がお前のこと呼んでるぞ」


「え?うん……」


するとドア付近に立っているクラスメイトから3年に呼ばれていることを伝えられている。一体誰だろうと教室から廊下に出ると……


「神崎先輩!」


「久しぶり!風成ちゃん!」


私を呼んだのは、夏休み前に怪字被害に遭った学園のマドンナである神崎先輩であった。彼女とは学年も所属部活も違うし、何より彼女は受験生であったため、この夏休みに一回も遊んでいない。彼女も今が一番大変な時期だ。


「どうしたんですか一体……」


「これ、夏休み入る前の時のお礼、渡そうと思ってたの」


そう言って先輩が渡してきたのは、可愛らしい袋に包まれていたクッキーであった。ハート、音符など様々な形がある。今朝焼いたのか、僅かに香ばしい匂いもした。


「わーっ!良いんですか?」


「私も勉強の息抜きがしたかったらね、夏休みに練習したの!あと、彼氏さんの分もね」


「彼氏さん……?」


先輩は更にもう1つのクッキーも私に渡してきた。最初こそ「彼氏」が誰の事かと分からなかったが、それが触渡君(かれ)のことであることに気づくのは早かった。


「先輩まで何言ってるんですか!」


「あれ?あの子と付き合ってるんじゃないの?てっきり私は……」


「違いますって!もう……」


……最近やたらと触渡君との仲を材料にからかわれているような気がしてならない。確かにクラスの男子の中では、彼と一番仲が良い。だからといって交際をしていると決めつけるのは早すぎる。


(まるで急かされてるような……)


このままやられっぱなしというのは何だか悔しい。なので私も仕返しとして先輩のことを弄ることにした。


「そういう先輩は鬼塚君の仲はどうですか?」


「あ、あの子とはまだ友達だし……メールでしかやり取りしてないもん!」


鬼塚君というのは、神崎先輩にストーカー行為を繰り返した人のことだ。しかしそれはパネルに操られたのが原因で、元々は気弱な青年であるという。まぁそれでもストーカー行為はイケないことだけど。

今となっては神崎先輩と友達になり、話を聞く限りじゃ一応連絡先は交換しているらしい。

それだ、それを集中的に攻めよう。


「『まだ』ってことはいずれ付き合うってことですよね!」


「むぅ……風成ちゃんの意地悪」


一応の仕返しを果たせたところで、何だかお互いに弄り合っていたことが馬鹿馬鹿しくなり2人して笑ってしまう。

そんなことをしているうちにチャイムが鳴ってしまった。


「じゃあそういうことだから、またね!」


「はい!こちらこそ!」


そう言って神崎先輩は自分の教室へと戻っていく。

夏休みの間では感じられなかった、チャイムで次の予定に移るシステムを再び体に染み込ませ、いつも通りの日常を過ごす。

そうだ、日常というのはこんな感じのものだ。怪字なんかも現れない、平和なひと時。

しかしそんな日常が、またもや狂わされる。

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