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爆発寸前な男  作者: ZUNEZUNE
第三章:修行合宿
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46話

目が覚めると、最初に見えたのは病院の天井だった。前にもこんなことがあったが、あの時の病院とは違う天井だ。最早目覚めた直後に病院にいることに驚かなくなっている、それは良いのか悪いのか、とにもかくにもまだ生きていたことを喜ぼう。

体を少し起こすと、ギプスを身に付けた右腕と包帯で包まれた左手が目に入る。後から聞いたがどうやら左手は手術をしてもらったらしい。しばらくは動かせないが時間が経てば普段通りに動かせるようになるとも言われた。


「お、ようやく起きたか発彦」


名前を呼ばれたので振り返ってみると、隣のベッドで上半身を起こし本を読んでいる刀真先輩がいた。俺とは違って両手は無事だが、右足に包帯が巻かれて、何よりベッドの近くに車椅子が置いてあった。まだ自分の力じゃ歩けないのだろう。


「……あれから何日経ちました?」


「記憶は大丈夫だったか、3日間寝てたぞお前」


「3日もかぁ……って……」


その数字を聞くと自分がどれ程食事をしていないかが理解できたので、遅れてお腹が大きくなる。それに伴い空腹感も押し寄せてきた。


「とりあえず起きたって伝えて飯貰うか」


「はい……お願いします」


今の俺じゃナースコールも十分に押せないので代わりに刀真先輩に押してもらい、来たナースと医師に今の気分を伝える。腹こそ減っているがそこまで気分は悪くない。しっかりと休めたのだろう。

そして用意された病院食、ちょっと恥ずかしかったがナースさんに食べさせてもらった。


「そう言えば……虎鉄さんたちはどうなったんですか?」


「あの人たちも大丈夫らしい。強く殴った痕が頭にあったが入院するほどのものじゃなく、お前が寝ていた時に一回来た。また来るそうだ」


「……そうですか」


正直、あの2人に合わせる顔は無いだろう。俺たちがあの正体不明の怪字を倒せなかったから2人にとって最も大切であろうパネル、しかも虎鉄さんのは両親の形見でもあるパネルを見す見す奪われてしまった。恨まれても仕方ない。

すると刀真先輩は俺の考えていることが分かったのか、慰めるように虎鉄さんたちの言葉を代弁した。


「『気にすんな!元はと言えば俺たちのヘマだ!』だそうだ……自分も擁護することになるが、あの状況下なら仕方がない。こっちだってボロボロの上、正体が分からなかったんだ、引くしかなかったさ」


「……でも!」


それでも、あの時もし自分たちが奪えたりしていればという考えに至ってしまう。自分で例えるなら俺はいっちゃんとつーちゃんの形見である「一」と「即」が奪われたようなものだった。もし俺がその立場だったら俺を許せるか……許せたとしても悲しい気持ちなるだろう。


「私がお前と同じことを言ったら鷹目さんはこう言っていた。『敵の動きを予測するならif(もし)の考えは必要、だけど後悔して考えるif(もし)は自分を苦しめるだけ、一度過ぎたことにいつまでもたられば論で考えちゃ駄目』だそうだ」


「……鷹目さんがそんなことを」


「俺もその言葉で気づいたさ。傷口を抉るようで悪いが、お前もいつも言われているだろう?自分が殺してしまった親友のことを考えすぎるなって……それと似たようなものだ」


「……」


「つまり、今回の失敗を忘れるなってことさ。私もお前も、まだ歩き始めたばかりなんだから……」


「……はい!」


鷹目さんと刀真先輩の言う通りだ。いつまでもクヨクヨ考えてはだめだ。奪われたのなら取り返せばいい、これからも怪字退治を続けるなら、いつかあの正体不明の怪字と出くわす機会が絶対にある。


「起きたか発彦!!」


「天空さん……」


するとフルーツの詰め合わせを持って天空さんと刀真先輩の父親である宝塚さんが見舞いに来てくれた。天空さんはフルーツを机の上に置いて俺に抱き着いてきた。


「すまなかった、俺が合宿に行ったらどうかなんて言ったばっかりに、こんな無茶をさせてしまって……」


「いいえ、とってもいい経験になりました。誘ってくれてありがとうございます。だからあの痛いんで抱き着かないでください……」


それでも抱きしめる力を弱めずに俺を守るように抱擁し続けた。一応こちらも怪我人なので少し痛かった。だけどその内諦めて、俺も天空さんを左手で抱き返す。俺にとって天空さんは父親のような存在だ。彼も俺のことを息子のように想ってくれていた。なのでこう優しくされるのはとても嬉しかった。

一方隣では、宝塚さんと刀真さんが見つめ合っていた。実の親子関係である彼らは、こちらのように抱き合っていない。

しかし、かといって愛情が無いというわけでもなかった。


「どうやら修羅場だったようだな刀真」


「父上……」


すると宝塚さんはゆっくりと右手を伸ばし、彼の頭をポンポンと撫でた。


「良くやった。お前も成長したな」


「……はい!」


向こうはあまり愛情を表に出さないらしい。言葉も少ないが宝塚さんの気持ちはちゃんと刀真先輩に届いただろう。

しばらく親子愛の確かめが続いた後、次の話へと移り変わる。今回の事件についてだ。


「現れるはずのなかった『表裏一体の怪字』……そしてそのパネルと虎鉄さんたちのパネルを奪ってどこかへ行った『知能が感じられる怪字』か……一体どこから話せばいいのやら」


「まずは『表裏一体』の方へ良いだろう、知っての通りあの孤島には私有地、虎鉄たち以外の人間はいない筈。それなのに怪字が現れた」


「人が住んでいる島から飛んで来たんじゃないですか?そうとしか考えられません」


「いや、あの孤島に最も近い土地は日本本島だ。周りにそんな島は無い。それに普通の怪字なら海を越える必要なんて無い」


怪字は人の心から現れる。つまり怪字が出現した場所には必ず人がいるのだ。怪字の目についた人を襲うという習性上、周りに人間がいたら真っ先に襲い掛かる。人がいなかったとしても、まるで渡り鳥のようにあの翼で海を越えるなんてことはしないはず。


「そしてお前たちが遭遇したという『知能がある怪字』、あの後孤島にいって捜索してみたんだが見つからなかったらしい」


「え!?何で!?」


見る限りじゃあの怪字に翼などの飛行能力は無かった。だからあの島にまだいるのかと思っていた。もしかしたら泳いでどこかに行ったのか、それとも……


「もしかして……帰りの船に俺たちと一緒に乗ったんじゃ……?」


「どういうことだ!?船に怪字を乗せるなんて真似はしないぞ!」


「あいつの能力……()()()()()()()()()()()()感じのやつだと思うんですよ、実際小人のように小っちゃくなったり持っていた針を大きくしたりしました。だから小さくなって誰にも気づかないように船に乗り込んだと……」


「成る程……確かにそれなら島から出れるな。もしそれが合っていたら、行きの船にも乗っていたことになる……」


「……本当に知能性が感じられますね、人を必要以上に襲わない、パネルを奪う、非常に頭が良い。だけどあり得るんでしょうか……?」


天空さんの言う通り、知能がある怪字なんて今まで見たことなかった。確かに怒ったり痛がったりである程度の仕草をしていた怪字は見たことあるが、あそこまで人間に近いやつは見たことない。


「信じ難いが……新種の怪字と思った方が良いだろう……『()()()()』と呼称するとして、問題はそいつが今日本のどこかにいるということだ」


「急いで対策しないとって言いたいところですが、何しろ船に隠れて乗るぐらいですから……簡単には見つからないかと……」


「全国にいるパネル使いに情報共有しよう。そうすればいつかは見つかるはずだ」


全国にパネル使いは約数百人いる。ある者は特定の地域に所属し、またある者は全国をまわりその時に居合わせた場合対処するといった感じで怪字の魔の手から日本を守っている。俺たちの場合英姿町がそれだ。


「特異怪字のことについて、他の地域に情報は無いんですか?例えば宝塚家の歴戦で似たような話があるとか……」


「残念だが過去や他の地域にもそのような話は無い、特異怪字という存在がいつからいるかは分からんが、記録上では今回が初めてだ」


そうなると俺たちがその第一人者ということになる。何とも凄いことに巻き込まれてしまったようだ。

特異怪字、確かにいつから存在しているかは分からないが、今までに一度も確認されたことが無いわけだから、結構最近に生まれたものだと俺は思っている。


「とにかくお前たちは傷を治せ。特異怪字や怪字退治は儂たちに任せてな」


「ほら発彦、多分お前のことだから欲しがるだろうと思ってゲーム機持ってきた。あまりやりすぎるなよ」


そう言って天空さんたちは果物とゲーム機を俺に渡して病室を後にする。正直入院生活が退屈との戦いになるのは目に見えていたのでこのゲーム機はありがたい、百人力だ。


「発彦、後で私にも貸せ。ところでそれはどんなゲームだ?」


「これはですね……」


こうして厳しい合宿と事件を生き抜いたご褒美として少しばかりの休みを貰った。特異怪字や怪字退治のことは天空さんたちに任せて、今はゆっくりと傷を治そう。

今回の合宿で、俺たちは「自分の戦い方」を見つけた。俺は自分で決めたそれを、傷ついた左手を眺めながら心の中で復唱する。


『自分のことなど気にせず一触即発でぶん殴る』


例えそれでどんなに俺が傷ついても構わない、ただこれ以上怪字のせいで苦しむ人が増えなければそれで――










一方天空たちは、病院の廊下を並んで歩いていた。そこで宝塚は天空の表情が曇っていることに気づいた。


「どうした天空、妙に元気が無いな」


「……このままで良いのかなぁと思っていまして」


「というと?」


そこで天空は更に表情を曇らせ、一時停止し宝塚の方を見ず俯いたまま続ける。


発彦(あいつ)は今回も無茶をして左手をあんなに大怪我をしました。医師によれば運が悪かったらもう二度と使えなくなっていたかもしれないらしいです。今回の合宿であいつは確かに成長しました。だけどそれ以上に()()()()の気持ちが悪い方向へ向かっているような……」


「……なるほどな」


「鷹目さんは昔私に『自分が選択したことに後悔をするな』と言いました。だけど今でも思います。あの時、あいつが一触即発の怪字に襲われたあの日に、あいつを未来のパネル使いとして引き取っていなければ……もっとマシな人生を送れていたはずです……」


簡単に言えば発彦が心配でならないということだ。パネル使いにならない発彦を想像すればするほど、天空は自分の行動に疑問を持つ。


「儂も最初はそう思った。本当に自分の子供に『伝家宝刀』を受け継がせていいのか。刀真は何とも思っていないが、代々受け継がれてきたということで自分の子孫の人生を狂わしていってるのではないかと……」


「……」


「だが、刀真や発彦くんもパネル使いとしての人生を選んだことを後悔なんてしていないと思うぞ。きっと2人はパネルのことを『人を救える道具』と思っているだろう。つまり()()()()()()()、ただそれだけなんだ」


「……そうですね、思えば私もそうでした」


「だけど、彼の自己犠牲は、少々度を過ぎているかもしれんな。まぁそこを自分で気づけるようになって大人になるってものだ」


「……はい!」


「そういえば、()()()()()()()網波(あみなみ) 恢男(かいお)課長から連絡が来た。近々若いのを向かわせるそうだ」


「……ついに前代未聞の人たちが……」


「……刀真たちと仲良くできればいいのだが」

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