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爆発寸前な男  作者: ZUNEZUNE
第三章:修行合宿
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45話

「俺たちを怒らせた……お前らが悪い」


息を整えながらいつもの台詞を言った後、天使の怪字の亡骸へと歩く。草の中に隠れていたがそこには2枚のパネルが落ちていた。もう2枚は先輩の方にあるだろう。拾おうと左手の指を動かそうとした瞬間、あまりの痛さに脳がそれを拒絶した。


「火傷に加えて骨折……治るといいんだけど」


ただでさえ火傷状態であった左手でプロンプトスマッシュを連発したので骨が折れ、左手全体が黒くなっており重傷であった。

正直見ていて痛々しい(というより本当に痛い)ので目を逸らし、右手で拾おうとしても腕が折れていたに気づく。 


(先輩に拾ってもらおう……)


自分で拾うことは無理だと判断し、漢字が書かれている面が裏になっているので足で蹴ってひっくり返す。

そして2枚のうち、片方に書かれていた漢字に大きく目を開くことになる。


一方刀真先輩は伝家宝刀を消し、悪魔の怪字が落とした方のパネルを拾い上げる。


「『裏』と『体』……」


正直言ってこの2枚だけじゃ何の四字熟語かはすぐに分からなかった。天使の方のパネルを拾いに行った俺にもう2枚が何の漢字が聞こうと思ったが、それが今できないことに気づく。代わりに拾ってやろうと振り返ると……


「先輩先輩!!来てください!」


その俺がやたらと急かし始める。ぴょんぴょん跳んで速く来いと訴えかけていた。


「分かった分かった、すぐ拾ってやるから……何でそんなに急かすんだ?」


「天使の怪字が落としたパネルなんですけど……」


俺が視線で示した場所を先輩も見ると、彼も大きく目を開きそのパネルを見ていた。

その2枚のパネルは、「表」と「()」であった。勿論俺が持っている「一」とは別の「一」である。

それがどうしたという話だが、「一」が無いから「一刀両断」と「紫電一閃」が使えないため、先輩はずっとこの漢字のパネルを探していた。


「やりましたね先輩!!これで一々俺から借りなくても使えますよ!」


「ああ……!!何て幸運なんだ……!」


2枚目の「一」を手に入れたことにより、今まで行われていた「一」の貸し借りはしなくて済むようになり、これでお互いスムーズに自分の技が使えるようになる。

そんな喜びは後にして、今は天使と悪魔の怪字が何の四字熟語なのか、それを確かめる必要があった。先輩に「表」と「一」を拾ってもらい、さっき拾われた「裏」と「体」を組み合わせる。


「『表裏一体』……」


表裏一体……対になっている2つのものが元は1つのものであること、密室な関係で切り離せないこと。「表」と「裏」が「一体」という意味から。


「確かに今思えば……天使と悪魔は『裏表』だな」


「じゃあ片方が怪我すればもう片方も怪我するところが『一体』なんですね」


今回の四字熟語も一般的に広く知られているものだったので、何故「表裏一体」からあんな怪字が生まれたかはすぐ理解できた。


「ところで……これ人間(わたしたち)が使うとどうなるんだ……?」


「……分裂するとか?」


だが意味は分かっても能力が予想できなかった。試そうにもまだ浄化していないので使えない。


「そう言えば天空さんそろそろ来ますかね?」


「さぁな、なるべく早く来てほしい」


そう言って2人で小屋へと向かう。もしも迎えが来るなら小屋付近の筈だし、虎鉄さんと鷹目さんの容態も気になっていた。

帰る途中で太い枝でも斬ってもらって右腕骨折の副木に使おうと思っていたその時……


「うごっ!?」


「先輩!?」


突如として先輩がまるでお腹に何かが当たったかのように体をくの字に曲げた。いや、ようにではなく()()()()()()()のだ。その証拠にさっきまで無かった打撃痕が付いてある。

続いてまた何かに顔を叩かれ、先輩は大きく態勢を崩す。その際右手に持っていたパネルを手から放してしまうが、何とその4枚のパネルが一人で動き始めた。


「一体何が――!?」


4枚のパネルはまるでウサギのように地面を跳ねて俺たちから距離を取る。そこで目を凝らしてみると、パネルに小さい何かが付いていた。まさかとは思うが、あの白いやつがパネルを持っているのか!?

するとその白い物体が、一瞬で人の大きさまで大きくなった。そしてそれが、()()であることがようやく分かる。


「か、怪字……!?」


白い仮面で顔を隠し、体は皮膚の上の骨によって覆われている。仮面からはみ出ている口には細い牙が生えており、その体格も今までの怪字よりやせ細っている。腰回りには裁縫の針山のような腰巻があり、何本もの針が刺さっていた。


「3匹目……いや2匹目の怪字だと……!!」


起き上がった刀真先輩も突如現れた怪字を確認して警戒の態勢に入る。その表情は怪字に対しての敵意というより現状への疑問が見られる。


「表裏一体の時といい……どこから湧いているんだ……?」


それもそのはず、ただでさえ人が少ないこの孤島で怪字が出現する事自体おかしいのに、2匹目まで現れるなんて予想にもしなかったからだ。

先輩は怪字から目を離さずに伝家宝刀を出し、俺も姿勢を低くして戦闘態勢に移る。といっても2人とも怪我だらけの状態なのでこっちの方が圧倒的に不利だった。何とかして天空さんたちが来るまでに持ちこたえないと……

すると怪字に動きがある。奴は腰の針山から針を1本抜いて右手で持つと……


「のわぁっ!?」


普通の細さであった針が、一瞬にして剣のサイズまで巨大化した。怪字もそれを剣のように振り回し、横に生えていた木を切断し、自分の足元に倒した。

そしてその木に左足を乗せて針を普通サイズに戻し針山に刺す。さっき俺たちから奪った4枚のパネルをボールのように投げてはキャッチする。

その仕草に違和感を感じる俺たち、この怪字、他の奴らと()()()()()。そしてそれが何なのかは、怪字が腰に当てていた左手の人差し指で挑発した時に理解した。


(何だこいつ……やたらと人間臭いな……)


木に足を乗せるのも、パネルをボールのように投げるのも、人差し指の挑発も、全てが人間味がある仕草であった。


(まるで……()()()()()ような……)


すると怪字は、奪われた4枚とは別に、8枚のパネルを俺たちに見せびらかしてきた。その仕草も人のようだった。

しかし注目すべきはそれではなく、奴が見せてきたパネルであった。


「『銅頭鉄額』と『飛耳長目』!?」


それは本来虎鉄さんと鷹目さんが持っているはずの2つの四字熟語セット。そう言えば倒れていた2人は何故か自分のパネルを持っていなかった。まさかこいつがあの人たちから奪ったというのか……?


「取り返すぞ!!」


「はい!」


今はあの怪字から2人のパネルを奪い返すことが最優先だ。そう思って怪字に跳びかかるが、怪字は最初の時の小人サイズに戻り、俺の拳や先輩の刀を避けた。そして小さいまま体に当たってきた。


「いっつ……!!」


その見た目から想像もできないほどのパワー、まるでハンマーで殴られたような感触だ。怪字に何度も体を打ち付けられていると、突如として頬や腕の皮が斬られ、少ない量だが出血する。あの針で斬っているのだろう。

ある程度俺たちを痛めつけたあと、怪字はまた大きくなり俺たちの後ろに来た。


「パネルを奪われたか!?」


あのサイズなら気づかれずにパネルを奪うこともできるだろうと思い、急いで自分たちのパネルを確認する。しかし予想に反しちゃんと枚数分ポケットに入っていた。

怪字は右手を挙げ、俺たちに向かって振りながら森の中へと消えていく。最後まで知性が感じられる様子だった。


「何だ今の怪字……明らかにおかしいぞ……」


「なんていうか……人間みたいな感じでしたね……怪字の凶暴性も感じられなかったし……」


その通りで、普通の怪字なら人間を見た瞬間襲いかかる習性みたいなものがある。しかし今の怪字にはそのような感じは見られず、俺たちをからかっているようにも見えた。

それで確信した。あの怪字には()()()()()()。でなきゃあんな仕草はできるわけない。

今までに怪字は嫌という程見てきた。しかし知性があるように見えた奴はいなかった。つまり初めての経験であった。

怪字のことは倒すべき存在としてある程度理解していたつもりだが、そのせいで怪字という存在が本来不確定なものだということを忘れていたのかもしれない。俺たち人間は、まだパネルや怪字のことを全然理解していなかった。


「と、とりあえず小屋に戻るぞ……」


「そうですね……」


その事について立ち往生していても仕方が無いので、再び小屋に戻ろうと歩き始める。すると今ここが高い場所なので、海の様子が一望できた。

その時、海の上に1つの光があることに気づく。


「先輩あれ……!」


「ようやく来たか……」


それが船であることは言わずとも理解する。急いで小屋に戻ろうとするが先輩がもう走れないためゆっくりと向かった。

辿り着いた頃には、虎鉄さんと鷹目さんが担架で乗せられて船に運ばれていた。俺たちが完全に姿を見せると、天空さんが飛びつくようにこっちに来る。


「無事か2人とも!!遅くなってすまない……」


「何とか……」


「発彦……お前その左手!」


俺たちの重症ぶりに驚いていたが、天空さんが一番注目していたのは俺の左手であった。ちなみにもう感覚が無い。


「急いで船に乗れ!虎鉄さんたちと一緒に病院に直行するぞ!というよりお前たちの方が重傷じゃないか!」


「その前に……天空さん、実は……」


そしてさっき会った怪字のことをいち早く伝えようとしたが、限界が訪れたのか、体に力が入らなくなりゆっくりと意識が薄れてきた。

最後に見たのは、同じく気絶して倒れる刀真先輩と、俺たちを受け止めようとする天空さんであった。

気を失った俺たちは、そのまま船に運び込まれ、合宿の思い出が詰まった孤島に別れも言えず後にする。そして着いた係留施設から一番近い病院へと運び込まれ、先輩は普通に入院したが、俺はなんと左手の手術を受けたらしい。気絶していたため麻酔を打たれたことも覚えていない。だが左手だけだったのでそこまで時間は掛からなかったらしい。

こうして俺たちの修行合宿は、あまり良くない結末で終わりを告げる。しかしいくら重症になろうが、あの島で学んだことは無駄ではない。必ずやこれから先も役に立つだろう。

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