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爆発寸前な男  作者: ZUNEZUNE
第三章:修行合宿
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43話

発彦から聞かされた「怪字の正体」、それは悪魔と天使は元々1匹の怪字ではないかという考えであった。最初こそありえないと思ったが、その確たる証拠があったので、それにかけることにした。もしそれが正しければ片方を倒せば万事解決である。


(少しだけ希望が見えてきた……頼むから当たってくれよ!)


活路が見出されたことにより、勝てるかどうかと考えていた頭が引き締まり、伝家宝刀を握る手が一層強くなる。正直私はあの天使の怪字に押されて頭と足を負傷したが、傷を受けて動きが鈍くなっているのは奴らも同じ。俺が付けた2本の切り傷と発彦が付けた2つの打撲痕、特に天使の方は悪魔の方と違って速いわけじゃない。まだチャンスはある!


「はぁああああああああああああああああああ!!!!」


刀を持つ両手を引き、体を前にして怪字に突撃した。天使の怪字はそれに対し黒い手を数十本伸ばしてきたので走りながらそれを避け、その懐に潜り込む。そして滑らかな動きで刀を下から振り上げたが、近くにいた黒い手によって阻止された。そのまま他の手で一網打尽にしようとしてきたので神出鬼没で怪字に後ろに回り込む。

その背中は大きな穴が開いており、そこから無数の手を形成する黒い物質が出ていた。つまり中身があるのだ。


「はっ!!」


迷わずそこを刀で突いたが、その感触は脂肪のように柔らかったが何故か刃先が刺さらない。寧ろどんどん内側に引き込まれていった。

急いで伝家宝刀を抜き、後ろに跳んで奴から離れる。いくら距離を取ろうがあの黒い手の制限範囲は無いに等しい、どこまでも伸びていくのかもしれない。しかし遠距離からの攻撃なら余裕で躱せた。

なら遠くにいて警戒するものは……


「光線っ!!」


振り向きざまに放たれた光線をギリギリのところで屈んで避け、その時に怪字は私に迫ってきた。そして黒い手が私を囲むように広く伸びてきた。


「剣山刀樹ぅう!!」


刀を下に突き刺し、地面から生やした沢山の刀で黒い手を弾くが、全てが弾けたわけではなく、残った数本が襲いかかってきた。

それを動いて避けた後、地面に刺さった黒い手の上を辿るように走り、その本体へと向かう。怪字は私が乗っている黒い手を波立たせて振り落とそうとしたがその前に手を足場にし高く跳んだ。そのまま怪字を真下に刀を構える。

一刀両断は使えなくてもこれぐらいの高さから落ちて斬れば真っ二つにできるはずだ。


「斬り裂いてやるっ!!」


すると怪字は伸ばしていた黒い手を自分の元に集結させて、それを大きく巻き付けて自分を覆うドーム状にした。伝家宝刀はその黒いドームによって防がれた。


(硬いっ!)


着地した後離れた場所で紫電一閃の斬撃を放ちまくるが、そのドームを破ることはできない。

奴はドームから出てこようとしない、このまま閉じこもっているつもりか?それともトーチカのように僅かな隙間を開けてそこから光線を放つつもりか、一体何を企んでいるかが不明なので下手に動けなかった。

すると足元が盛り上がっていることに気づく。


「なっ――!?」


なんと地面から数本の黒い手が跳び出てきて縛るように締め付けてきた。そして真下から出てきたのはドームの中にいるはずの天使の怪字。地面から完全に姿を現すとドームは崩壊、怪字が今目の前にいるのだから当然中には誰もいない。しかしそこにはさっきまで無かったはずの大きな穴があった。


(こいつ……穴を掘って……!!)


小屋に戻った時発彦から聞いたのだが、このやり方は発彦がこいつにやったこととまったくの同じらしい。では発彦の真似をしたということか?怪字に学習能力があるとは驚きだ。

しかし今はそんなことを考えている場合じゃない。こうしている間にも黒い手の締め付ける力はどんどん強まっていった。刀で斬りかかって脱出しようとも今動かせるのは指だけだ。それに下手に動かすと刀を落とす可能性がある。

何とか「神出鬼没」さえ使えれば抜け出せるが腕自体が動かせないから無理だった。


「ぐぅううううう!!!!」


力づくで黒い手を緩めることもできない、打つ手なしだった。

すると怪字が右目を光らせて近づいてきた。自分の手ごと私を撃ち抜くつもりだ。


(!!、左手がポケットに届きそうだ!)


すると左手の指先がポケットの中に入ることに気づいた。今左側のポケットには剣山刀樹が入っているはずだ。あれさえあれば何とかできるはず。

必死に指を伸ばして取り出そうとしている間にも、怪字の目は発光を進める。光線が撃たれるのも時間の問題だろう。


(届け!あっともうちょっとだ!)


そして光線が撃たれる直前で剣山刀樹の4枚を人差し指と中指で挟むことに成功し、そのままゆっくりと持ち上げた。


「……ッア!!剣山刀樹ッ!!!」


さっそく剣山刀樹を使い、持っていた伝家宝刀を地面に突き刺さる角度で落とした。予想通り刀が刺さった瞬間、地面から生えてくる無数の刀が下から怪字を襲った。


「しゃっ!」


穴だらけになった怪字はつい私を縛る手を緩めてしまい、その隙に抜け出すことに成功した。もう少しでお陀仏になるところだったと、冷や汗を流す。

刺さった刀を回収し、奴の間合いから外れて息を整えた。さっき絞められた際、怪我をした足も容赦なくやられたのでこうやって立っていることも辛かった。

すると天使の怪字が震え始める。また何かする気かと警戒していると、剣山刀樹で開けた沢山の穴から1本ずつ黒い手が飛び出てきた。


「……おいおい」


穴は全体的にできたため、黒い手を出しているところも全体的にあった。今までは背中から出していたが四方八方全てから伸ばせるようになったのだ。

その見た目に冷や汗を流しながら息を飲み、心の底に封じ込めていた「恐怖心」が一気に煽られる。元は天使の像のような見た目だったのに今となってはどんどん醜い姿へと変貌し、まるで天使の皮を被った悪魔のようだった。

天使の怪字は新たなに出した黒い手を一斉に私へ向かわせてくる。弾丸のように鋭く落ちてくる手を後退しながら避け続けるが、後ろからも迫ってきていた。


「神出鬼没!!」


もう囲まれて縛られるのは御免だ、なので神出鬼没で怪字の後ろ側に瞬間移動をして包囲網から脱出する。


「はっ!!」


そのまま伝家宝刀で斬りつけたがそれも黒い手によって防がれた。あらゆる面からあの手が伸びているので隙が無いに等しいのだ。

怪字はそのまま数本の手を1本に紡いで剛腕にし、私を殴り飛ばした。


「ぐぁっ!?」


地面を転がりながら必死に奴に勝つ方法を考える。動きを抑制するために紫電一閃無しで斬撃を放つが、これも簡単に弾かれた。


(どうする!?どうすれば奴を倒せる!!)


今自分が使える四字熟語は「伝家宝刀」「剣山刀樹」「神出鬼没」「猪突猛進」。何もしないままで奴に近づくのは危険だ、なら神出鬼没を使って……ってそれは今さっきやって失敗に終わったんだった。あんなに手を生やしているのだから剣山刀樹も効かないだろう……打つ手なしに思えたその時、ふと虎鉄さんに言われた言葉を思い出す。


『今から言う言葉は師匠の言葉の受け売りだ。「自分が使えるパネルを使うんじゃなくて、そのパネルが使えるように自分が変われ」』


(自分が変われ……?)


何故かその言葉がふと脳内を漂う。これは虎鉄さんに強さの秘密を聞いてみたところ、「自分の戦い方」を見つけることが大事、と言われた時だ。

自分の戦い方、自分が変わる。その2つの言葉が頭の中で連結した。


(私はどのパネルで勝とうかとしか考えていなかった……だけど、私の一番の武器は神出鬼没でも剣山刀樹でもない!()()()()だ!)


今すぐ自分を変えることなどできないかもしれない。だが、自分を変えようとする努力ならすぐにできる!

そういう考え方に至った私は宝刀を向け、怪字に突撃をする。途中大量の黒い手が伸びてきても全て刀で弾いた。


(信じろ!歴代当主と共に数多の怪字を倒してきたこの刀を!!)


今自分が使っているのは最強の刀だ、と自信を持ち、その刀捌きに迷いや恐怖は一切無くなる。自分が振る刀の軌道を信じ、己の心を前に押せ!

そう思って走っていたら、いつの間にか私は迫る黒い手を全て捌き、怪字の目前まで来ていた。


(今だ!!ここで猪突猛進を使う!!)


伝家宝刀以外の四字熟語は、言ってしまえば強さを補うだけのもの。私の真の武器は、この伝家宝刀ただ1つだけだ。

刀を収めた後猪突猛進を使い、曲がり切れない程の勢いで奴の懐に潜り込もうとする。しかし天使の怪字は体中に黒い手を巻き付けることで防御力をアップ。そんなことをしても無駄だ。


「猪突ッ!!!居合切りぃいいいいいいいいいいいいい!!!!!」


勢いと共に刀を抜き、黒い手ごと奴の体を切り裂く。斜めの切り傷2本の次は横に伸びる傷がその体にはできていた。


「見つけたぞ……私の戦い方!」


虎鉄さんに言われた「自分の戦い方」、その言葉を聞いたその日の夜はそれが良く分からず眠れなかった。

自分の戦い方といっても、私は歴代から引き受け継がれた宝刀で相手を切り裂くだけだったので、私の戦い方は歴代のものとそう変わらないと思っていた。しかし、今斬り方を見て気づいた。自分の戦い方が何なのかと……


「私の戦い方は…………『()()()()()()()()()()()』だ!」


そして再び約束する。自分の伝家宝刀で、必ずや怪字を撲滅して見せると――

その最初の生贄として、私たちはこいつらを倒す!

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