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爆発寸前な男  作者: ZUNEZUNE
第三章:修行合宿
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34話

目が覚めるといつの間にか辺りは暗くなっていた。さっきまで小屋の中のベッドで寝ていて、隣の刀真先輩も今気づいたようだ。この部屋は合宿中の俺たちの部屋であり、先輩と共有している。

起き上がろうとすると、激痛が走った。ふと自分の体を見てみるとそこら中傷だらけで、沢山の絆創膏が貼られている。その体中の傷を見て混乱していた記憶が定まり、何故寝ていたか思い出した。2人そろって虎鉄さんにコテンパンにされたんだった。

動くのを嫌がる体を無理やり操り部屋を出て居間へと足を運ぶと、そこには4人分のカレーが用意されている。


「起きたようね、たった今夕飯ができたところよ」


そう告げられると同時に2人の腹が大きく鳴った。あんなに動き回っていたらそりゃ腹も減るだろう。


「「いただきますっ!!」」


気づくと俺たちはカレーにがっついていた。先程まで痛くて動かしたくなかった腕を存分に働かせてカレーを口に運んでいく。

鷹目さんの腕が良いのか、それとも「空腹は最高のスパイス」という言葉通りなのか、そのカレーは今までの人生の中で一番美味しく感じた。


「おかわりもあるわよ、どんどん食べなさい」


結局その後4杯もおかわりをした。これぐらい食べないとやっていけないからだ。

膨らんだ腹を撫でながらソファーの上で寛ぐ。そこへお風呂からあがった虎鉄さんがやってきた。


「どうだ2人とも、初日の感想は!」


「……死ぬかと思いました」


「殺されるかと思いました」


「そうかそうか!まぁ生きているから良いじゃないか!」


「……天空さんや父上は、こんなに過酷な修行を受けていたんですね」


「いや、俺たちが受けた修行や俺が天空にした修行に比べれば可愛いもんだよ」


「マジか……」


あれが可愛いと言われるなら、この人たちが受けてきた修行はどれほどの地獄か想像できない。その内容を聞いても俺たちには無理だと思うのでこんなことを聞いてみた。


「じゃあ何でそんなに強いんですか?」


「ん?」


ただ単純な疑問だった。プロとはいえ俺たち2人を圧倒するほどの実力に惹かれたのかもしれない。天空さんや宝塚さんが戦っている姿はあまり見たことがない。子供の頃「一触即発」の怪字を撃退した天空さんは今も覚えているが幼かったのでどんな風に戦っていたかは忘れてしまった。だから、自分より強いパネル使いを見るのは初めてに等しい。


「それはな、()()()()()()()()()()()からだ」


「自分の……戦い方?」


「ああ」


そう言って虎鉄さんは懐から「銅頭鉄額」の4枚のパネルを取り出す。軽くトラウマなので俺も刀真先輩も一瞬だけ身構えてしまう。それを見た虎鉄さんはケラケラ笑いながらも説明を続ける。


「俺はな、両親を怪字に殺された。だからパネル使いになって皆の平和を守るて誓った。だけどその時の俺は覚悟だけはいっちょ前で弱かった」


両親を怪字に殺された、思い出話のようにその言葉を出すが、似た経験がある2人はそれに何も言えず、ただ言葉を失う。


「この『銅頭鉄額』のうち、『銅』『鉄』は俺から出たパネル、他の2枚は両親から。だから形見でもあるこのパネルを使って怪字を倒すと決意したんだ」


「……!」


大切な人を怪字に殺された、そしてその大切な人のパネルが形見というところでは俺とまったく同じ。しかし俺はその形見を自責の念で使わなかったことに対し彼は()()()()()使()()()()()。ここが大きく異なっていた。


「でも最初は全然使いこなせなかった。この四字熟語の能力は硬化だけじゃなくて同時に重量を増やす。最初の頃は自分自身の体が重くて動くこともできなかったさ」


これについては驚いた。動くこともできなかったと言ったが、先ほど見た虎鉄さんの動きはとても素早いもので、確かに蹴ったときの感触で重くなっていることは気づいていたが見ただけではそれに気づけない程の身のこなしだ。


「今から言う言葉は師匠の言葉の受け売りだ。『自分が使えるパネルを使うんじゃなくて、そのパネルが使えるように自分が変われ』、師匠に銅頭鉄額の使いにくさを愚痴ったらそう言われた」


「自分が……変わる?」


「だからその日からとにかく体を鍛えたさ。重くなっても動けるようなスタミナ、素早さを身に付けるために。1日休憩なしで15キロ走ったり、3時間は筋トレしたりとか」


聞くだけでそれほど辛いものかが分かる。しかし当の虎鉄さんは自慢話のようにそれを話していた。


「そのお陰で、今日君たちに見せたような強さを手に入れることができた。そしてさっき言った『自分の戦い方』もな!俺の戦い方は『銅頭鉄額で一直線にぶん殴る』!」


「一直線でぶん殴る……確かにあの戦い方は何というか、一直線ていうか、言いづらいですけど……」


「単純だったろ?それが強みだからな。俺の場合考える前に突進した方が早いから」


自分の戦い方を見つける、そんなことは考えてもいなかった。攻撃または回避の手段としてパネルを使っていたが、そのパネルに自分を合わせることなんかしたことない。


「君たちも早く見つけた方が良いぞ。まぁ沢山パネルを持ってる場合は、『これだ!』って思う四字熟語を決めるといい」


そう言い残して虎鉄さんは自室へ戻っていく。その後入浴して体の疲れを抜けるだけ抜き、早めにベットの中へと入る。

消灯しても虎鉄さんに言われたことが頭の中に残り中々寝付けない。


「先輩……どう思います?自分の戦い方のこと……」


「……あの人の言うことは最もだ。だけど今の私たちにそんな余裕は無い」


「……そうですね」


気分を変えるために先輩に話しかけてみたが、もう眠たくなったのかその声は弱々しいものになっていた。

俺もそろそろ寝ようと目を瞑り、ゆっくりと意識を失っていく。





翌朝、7時に設定されたアラームに起こされ合宿2日目が始まった。朝食を済まし1時間の休憩を挟んだ後、座学の時間になる。昨日の疲れがまだ残っていたので寝ないようにするのが精一杯だったが何とか乗り越えた。

そして午後からの修行に移り、また昨日のような過酷なものを覚悟したが、その内容が少し違っていた。


「今日は()()()()をしてもらう!」


「「鬼ごっこ……?」」


まったく予想していなかったことを言われる。鬼ごっこと言われて先ほどまで覚悟していた心構えが少し緩くなった。

それに昨日と違うところは他にもある。それは鷹目さんが参加しているということだ。


「逃げられる範囲はこの島全域で、鬼は鷹目がする。今回俺はお休みだ」


「そしてパネルのことなんだけど、この鬼ごっこでは使える四字熟語を1つのみにするわ、じゃあ3秒以内に自分が使う四字熟語を決めなさい!」


「えっ!?」


急にそんなことを言われて焦りだす。まず四字熟語を1だけ使えるというルールの意味自体を理解しきれていないので更に頭がこんがらがった。


「えっとぉ……俺は疾風迅雷!」


「わ、私は神出鬼没!」


咄嗟に自分たちが持っている四字熟語の中からそれを選ぶ。俺は超スピードが可能になる「疾風迅雷」、鬼ごっこなら無類の強さだろう。

先輩は「神出鬼没」を選んだが、そもそも持っている四字熟語の中にあまり回避系の能力のやつが少ないのだ。


「じゃあそれ以外のパネルは虎鉄くんが預かるわ。じゃあ今から逃げ始めてちょうだい、私は10分後に探し始めるから」


かくして始まった鬼ごっこ、俺と刀真先輩は一緒に行動していた。


「ねぇ先輩、この鬼ごっこどう見ます?」


「パネルの使用が1組だけ可能ということは、四字熟語の能力を活かすための修行かと思うんだが、それにしても島全域が範囲内というのは広すぎないか?それに鬼は鷹目さん1人だけ。少々楽に感じる」


確かにこの島は少し広いがそこまででもないし、それに1人の女性が2人の男子を探すというなら話は別だ。島全域というのは鬼ごっこにとって広すぎるステージである。

森もあるし隠れられる場所はいくらでもある。つまり逃げる側が圧倒的に有利なのだ。しかし……


「もしかしたら、鷹目さんの四字熟語がこういう場面で効果的なんじゃないですか?索敵に適したというか……」


「とにかく今は動き回るか。あの人がどういう能力を使うか分からない以上、同じ場所にとどまっているのは危険だな」


そう言って森の中に入る。ここなら探しにくいだろうし、鷹目さんの動向も伺える。そろそろ10分経つが、一体どうなるだろう。





スタート地点で鷹目さんが準備運動している時、虎鉄さんが持っている時計が鳴り始める。10分経った合図だ。


「体動かすの久しぶりだから、ちゃんと捕まえられるか不安だわ」


「お前の()()()なら楽勝だろ」


「だといいんだけど」


そう言って彼女は4枚のパネルを取り出す。そこから作れる四字熟語は「()()()()」。


飛耳長目……物事に対する観察に敏感で、見聞が広く精通していること。「飛耳」は遠くの音を聞ける耳、「長目」は遠くまで見通せる目という意味。


鷹目さんは早速その四字熟語を使用、そして一回深呼吸して目を閉じ、聴覚に全神経を集中させた。


「……見つけた!」


そう言って彼女は森の中へと入っていく。虎鉄さんはそれをただ見ていた。


「10分逃げられたら良い方かな……?」


一方俺たちはさっきから森の中を駆け巡っている。さっき10分経った。鬼である鷹目さんがもう動いているはずだ。

そうは言っても正直言って捕まらない自信がある。だってさっき言った通りこの島は逃げる範囲としては広すぎる。大海の一滴を探すようなものだ。

そう油断していると、俺や先輩のものではない足音が後ろから迫ってくる。


「嘘だろ……まさか!」


後ろを振り向けば、さっきまで誰もいなかったのに、鬼である鷹目さんが自分たちを狙って走ってきてた。

いや、走るというより枝から枝へと乗り移っている。まるで猿のように素早い。


「5分で捕まえるわ、貴方たち」

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