2話
三時間目の現代国語、この学校の国語教師は授業をほぼ自分で朗読するので生徒はまったく動かない。なので生徒の中には寝てしまう場合があるのだ。
そういう私も睡魔の誘いを必死に耐えながら先生の話を聞いている。休み時間が来たら速攻寝るつもりだ。
典型的ないじめっ子である疾東もこの時間は黙って授業を受けている。まぁ成績の良さだけが長所みたいなものだから仕方ない。
一方触渡君は瞬きもせずに集中していた。先程花瓶の水をぶちまけられたことなど気にしてもいない。
濡れた身体はもう乾いており、朝起きたことが無かったように思えてしまう。
「ほら!寝てる奴起きろー」
先生は寝ている生徒に呆れてしまい、声を出して起こした。
「じゃあ…疾東!これ読めるか?」
そういって見せたのは「乾坤一擲」という四字熟語。
何だろう?私にはサッパリ分からなかった。
「えぇ〜と、けん…しん…いっ…?」
「流石の疾東も分からんか…他に読める生徒いるかー?」
そう聞くが、誰も手を上げないし返事もしない。
流石にもう寝ている人はいない。先程の大声で全員目が覚めているはずだ。
「まぁ疾東が分からないんじゃ無理だよな」
その通り、このクラスで頭が最も良いのは疾東である。なので疾東が分からないんじゃ他の生徒は分からないということである。まぁその頭良さが自身を有頂天外にしているのだが。
「はい」
そんな中、一人返事をして手を伸ばす人がいる。
この弱々しい声は——触渡君だ。
「『けんこんいってき』です。乾坤一擲」
「おぉ…」
どうやら合っているらしい。先生の少し驚いた顔を見て分かる。多分答えられるとは思っていなかったのだろう。
そういった私もクラスメイト達も驚いている。地味な彼が秀才な答えを言ったからだ。
「よく分かったじゃないか!」
先生は大袈裟にも拍手をする。それに釣られて他の生徒達も手を叩き始めた。
殆どが冷やかしだろう、しかし触渡君は慣れない感じで照れていた。
「ど、どうも…」
しかしそんな中それを良く思っていない生徒が3名。
自分に答えられなかった問題を正解させられたのでプライドが傷つけられたのか…疾東とそのお供が静かに触渡君を睨んでいたことに、私は気付けなかった。