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爆発寸前な男  作者: ZUNEZUNE
第二章:切味抜群の男
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26話

先輩は刀で、怪字は爪で唾競り合いをすると辺りに金属音が鳴り響く。すると先輩の方が押し切り、怪字の態勢を崩す。奴は尻餅を付きそうになるが……


「先輩後ろ!」


先輩の後ろに瞬間移動し、不意打ちを仕掛けてくる。すると先輩はギリギリのところで受け止めた。


「触渡、こいつの能力は瞬間移動か?」


「はい!見える範囲の人間の周りに瞬間移動できます!」


「そうか……厄介だな」


逆に敵の能力を知らないでさっきの不意打ちに対応できたことに驚く。普通相手が急に自分の後ろへテレポートしてきたらどうすることもできない。しかしこの人はほぼ反射神経で奴の動きを見極めた。改めてそ先輩の凄さを実感する。


「はっ!」


その後も怪字は何度も瞬間移動して死角から攻撃をするが全て刀で弾かれてしまう。すると先輩が怪字の胴体を切り裂いた。


「昨日手に入れたやつを使うか」


すると先輩は四枚のパネルを取り出す。それは昨晩先輩が倒した怪字の「猪突猛進」だった。

早速「猪突猛進」を使うと、先輩が姿勢を低くして刀の先端を奴に向ける。あれは突きの構えだ。そして猪のように勢いよく前進し、怪字に刀を突き刺そうとした。

猪突猛進の能力は凄まじい力で突進をすること。しかし先輩は刀とそれを応用して最強の突き攻撃を編み出したのだ。疾風迅雷ほどではなかったが突進のスピードも速い。あれを避けるには困難を極めるだろう。

怪字はその突き攻撃をギリギリ爪で受け止められたが、そのパワーまでは受け止めきれず後ろに思いっきり吹っ飛び橋の柱に激突する。すると怪字が当たった柱に小さなひびが入ってしまう。それほど凄い力なのだろう。


「紫電一閃‼︎」


柱に寄りかかる怪字に先輩は間髪を容れずに「紫電一閃」の斬撃を放つ。奴はそれを瞬間移動で避ける。回避された斬撃は柱に当たる。柱が切れたらやばいと思ったが、小さな跡ができただけ。流石にコンクリートの柱は切断できないか。

肝心な怪字の行き先は先輩の前でも後でも横でもない。先輩の()()だ。奴は落ちながら先輩に爪を向ける。


「ちっ!」


先輩はそれを刀で防ぐが、流石に真上からの攻撃だと重量がかかるので刀一本では支えきれないらしい。膝を曲げてしまう。

その瞬間に怪字は刀から離れた後、体操選手のように空中で態勢を変え先輩を蹴り飛ばした。


「ぐおっ⁉︎」


飛ばされて地面を転がる宝塚先輩、今の蹴りは思い切り脇腹に当たった。かなりの激痛だろう。

それにしても、さっき見たばかりだがあの怪字の動きは予測が難しい。空中で態勢を変えられ、素早い身のこなしと瞬間移動で相手を翻弄、先輩も言った通り厄介だ。

蹴られた先輩はすぐに起き上がり、再び刀を構える。そして怪字に真正面から向かった。そこから怪字と先輩の斬り合いが始まった。両者一歩も引かず、ひたすら刀と爪をぶつけている。


「一刀両断‼︎」


ここで先輩がトドメの一太刀を放つが瞬間移動で避けられ、背後を取られてしまう。しかし後ろからの不意打ちも簡単に受け止める先輩。


「紫電一閃‼︎」


そして刀を爪で押し切り、そのまま斬撃を至近距離で放った。近い場所からの斬撃なので威力が凄まじく、怪字は爪で受け止めきれずに後ろに押された。


「まだ終わらんぞ!」


先輩は追い打ちをかけるように、紫電一閃の斬撃を連発する。そのせいで怪字の爪にかかる負担が増し、遂に転倒してしまった。

怪字はすぐに起き上がり、さっき俺にやっていた瞬間移動で先輩の周りを消えたり現れたりし始めた。


「やばい!瞬間移動で囲まれた!」


一度あれをやられると簡単には外に出られなくなり、終いには四方八方から切り裂かれてしまうのだ。


「くっ……猪口才な……!」


流石の先輩もあの包囲網は突破できないらしい。刀で奴を止めようとしているが全て避けられている。

先輩は焦っている、俺がその包囲網でやられているところを見たから余計に。なので必死に脱出しようと刀を振り回すが虚空を斬るだけ。


(翻弄しちゃ駄目だ!それが奴の狙いなんだ!)


焦りに焦りまくって敵の姿を捉えきれていないのだろう。しかしあの包囲網は内側から見るとかなりの圧力を感じるのだ。やがて全方位からのプレッシャーに煽られ、余計に焦ってしまう。例えるなら蛇のとぐろの中にいるような気分だ。

そして怪字が仕掛けてきて、先輩の体が次々切られていく。


「ぐぁああ……‼︎」


刀一本では対処しきれないほどの爪の猛攻、それこそ八方美人を使わないと駄目なやつだ。一度切られて一瞬の隙を作ってしまい、そこを突かれてまた隙ができるの鼬ごっこである。一度はまったら抜け出せない攻撃だった。

どうにかしないと俺の二の舞になる。しかし一瞬で移動する怪字に今のボロボロな状態で攻撃は当たられないだろう。


(それなら……!)


ここで先輩を助けられる案が出る。確かにこれなら確実に先輩を助けられるだろう。しかし確実に俺が危なくなるものだった。それこそ命懸けの。

命を懸ける。その言葉が出てきた瞬間、昨晩の先輩の様子が脳内で再生される。高圧的な態度で身勝手に自分の要求しか言ってこないといった悪人面で再生されていた。


(何馬鹿なこと考えてんだ俺!今必要なのは憎い先輩の苦しむ顔じゃねぇ!先輩や……皆の平和を守ることだ!)


そのために今先輩が死んでは駄目だ。この人はこれから沢山の怪字を討伐してくれるはずだ。

先輩は俺より強い、つまり今最も必要とされるのはあの人だ!


「……うぉおおおおおおおおお‼︎‼︎」


気づいた時には体が動いていた。疲れや限界も知ったことこかと「疾風迅雷」を発動、超高速で包囲網へと走り出す。

そしてそのまま蹴った。動き回る怪字ではなく、()()()


「ぐあっ⁉︎」


蹴られた先輩は吹っ飛び、怪字の包囲網から脱出。そして入れ替わるように俺が中へと入った。


「触渡……何を……⁉︎」


「逃げてください‼︎先輩!」


唖然としてこちらを見ている先輩、どうやら俺の意図が分かったらしい。しかしもう遅い。


「ぐあああああああああああああああああああ‼︎‼︎」


怪字の爪攻撃が俺に襲い掛かる。切り傷だらけの体を更に裂かれてしまう。だけどこれでいい。先輩を救えたから結果オーライだ。

そう思って安堵するも、爪の猛攻は一向に収まらない。襲いかかる激痛も、薄れていく意識の中で消えていった。


「うおおおお‼︎!紫電一閃‼︎‼︎」


すると横から先輩が斬撃を放ち、さっきと同じように怪字を弾いて俺を助けてくれた。

先輩は倒れこんだ俺に駆けつけ、頭をゆっくり自分の腕に乗せた。


「なんて無茶なことをするんだ……!」


「先……輩、あの怪字……お願い……します」


「分かった!もう喋るな!」


弾かれた怪字は、俺たちに襲いかかろうとするが、先輩が庇うように刀を向ける。怪字もダメージが酷いのか、それとも猶予を与えるつもりなのか、その場から素早く去っていった。


「宝塚先輩!触渡君⁉︎」


神崎先輩と鬼塚を安全なところに逃がせたのか、風成さんが慌てた様子でこっちに来ている。そして重症の俺を見た瞬間顔を青ざめ手で口を押さえる。


「丁度よかった!一緒に彼を運んでくれ!」


「は、はい!」


そう言って二人係で俺を持ち上げる。風成さんは神崎先輩を運んだ後なので疲れているだろう。宝塚先輩に至っては激戦の直後だ。何だか申し訳ない。

二人に対する罪悪感を胸に、俺はここで意識を失った。俺に同情するかのように、空が雨模様になる。





私は神崎先輩とストーカーを学校に運んだあと、急いで触渡君の所へ向かった。自分より大きい人を二人同時に運んだので物凄く疲れていたが、それより彼の安否の方が気になったからだ。

私は忘れられない、この前の怪字の時にボロボロとなった彼の姿を。

今度もそうなるのではないかととても不安だった。

そしてその予感は、悪い意味で的中する。


「宝塚先輩!触渡君⁉︎」


急いで向かったそこには、傷だらけの宝塚先輩と虫の息の状態である触渡君がいた。両者体中に切り傷があり、血もどんどん流れている。


「丁度よかった!一緒に彼を運んでくれ!」


二人で彼を持ち、彼の家である神社へと運ぶ。途中不運にも雨が降ってきたので、先輩がYシャツを脱いで触渡君に被せた。

時間がかかったが、何とか神社にたどり着く。戸を叩くと天空さんが出てきた。そして彼の容態を見て瞬時に状況を理解する。


「とりあえず中に入れ!安静にするんだ!」


天空さんの案内で大部屋まで行き、そこに

布団を敷き、包帯を巻いた触渡君を寝かした。


「刀真君、君も傷だらけじゃないか。部屋を貸すからそこで休むといい。刀頼さんには連絡しておく」


「……はい」


「風成さんはどうする?」


「心配ですけど……門限があるので帰ります」


「そうか、私が家まで送るよ」


「いえ、天空さんは触渡さんの側にいてください!」


そう言って私は神社を後にする。傘を借りて自分の家へと歩く。

そういえば、雨が降ったので学校のダンス大会は延期になるかな。

自分の心を落ち着かせるために、そんなことを考えていた。

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