21話
風成さん、無事でいてくれ……!
彼女の安否を心配しながら急いで校舎裏へと走る。昇降口から出て校舎沿いを駆けた。
そして薄暗いそこに辿り着くと、そこには見知らぬ人とその人にお礼を言っている風成がいた。
「風成さん!」
近づいて彼女の全身を見る。服に少しの汚れが付いただけで外傷は見当たらない。
辺りを見渡すと真っ二つになったポリバケツが向こう側にある。中のゴミが溢れていた。何でこんな所にポリバケツがあるのだろう。あれは教室にある物だ。そして何故真っ二つになっているんだ?
(この人がやったのか?)
隣にいる人を見る。一言で表すと綺麗な男の人だった。長髪に長身、シャツの第一ボタンをしめ服装に一切の乱れが無い。スラッとした長い足に腕、大人びた雰囲気が体から出ている。
しかしその手には何も持たされていない。素手でポリバケツを切ったというのは無理があった。
「触渡君……実はね、この人に助けてもらったんだよ。上からあれが振ってきたところを……」
やっぱりこの人がやったのか。でもどうやってやったんだろう。
その人は俺を何故か凝視している。上から下までずっと眺めていた。しばらくそうしていると、今度は俺の顔を見つめる。
「……触渡 発彦だな?」
「どうして俺の名前を……?」
二ヶ月前ぐらいに転校生として朝礼の時に名は広まったが、クラスメートや教師以外には殆ど覚えてもらっていなかった。だけどこの人は俺の名前を知っている。上級生にまで名前が広がることはした覚え無いが……
「私は『宝塚 刀真』、3年生だ」
「は、はぁ……」
急に自己紹介をしてきたので少し戸惑ってしまう。その表情は一切崩れないので感情が読めない。まるで何も考えていないように見えてくる。出てくる言葉も中身が無いように聞こえた。
「いきなりですまないが、君に頼みがある」
「何ですか……?」
すると彼は改まり、俺と向かい合う。
宝塚先輩の頼みは、俺や風成さんを驚かせるものだった。
「君の「一」のパネルを……私に譲ってくれ」
「なっ——!?」
「一」のパネル……呪いのパネルのことか?何でこの人がそんなこと知っているだ?
まさか自分以外にパネルの存在を知っている学生がいるとは思わなかった。天空さんの知り合いであるパネルを知っている人と会ったことはあるが一つ上、しかも学校の先輩となんて初めてだ。
「宝塚先輩……貴方は一体……」
「今日の晩、父親と一緒に君の所へ受け取りに行く」
そう言い残すと彼はこちらの返答も聞かずにこの場を去る。……掴めない人だ。まるで仕事が恋人の社会人のように淡々としている。一つの物事にしか目線を向けていない感じだった。
いやそれよりも彼の要求についてだ。「一」のパネルを譲れだって?
……できない。できるわけない。これは、つーちゃんの形見だ。俺が持っていないと駄目なんだ。
(何だよ急に……)
こちらの言葉も聞かずに一方的に話をしてきた彼の態度と頼みに、俺は少し苛ついた。
確かに先輩の方が立場的に上だけどあんな高圧的な態度をされ、加えて人の形見をいきなり寄越せだなんて、怒るのが嫌いな俺でも流石にムカッとなった。
いや——それだけで怒るのは失礼か。
もしかしたら「一」のパネルが俺にとって大事な物だと知らないかったのか?今初めて会ったんだし……
(でも……今晩来るって言ってたな……)
住所を教えた覚えは無い。何せ知らない人だからだ。
もしかしたら、天空さんの知り合いなのか?だからパネルの事も知っているのかも。
何にしても、次会った時にちゃんと断っておかないと——
「触渡君……」
風成さんの一言で我に返る。そうだ、そんなことを考えている場合じゃない。
状況を聞くにまた風成さんは狙われたのだろう。完全に風成さん個人を標的にしている犯行だ。無差別犯行だと思っていたけど昨日の今日の出来事なので風成さん狙いなのは明白だ。
でもどうしてだ?何で風成さんを狙うんだ?
昨日のレンガや今さっきのポリバケツといい、流石に度が過ぎている。下手したら命に関わる問題だ。一体何の恨みがあって……
「風成さん、何か犯人に心当たり無いかな?」
「……駄目、さっぱり思い当たらない」
彼女は少し考えたが、それらしい情報は手に入らない。
そもそも彼女の性格上、他人に恨まれるような事はしないと思う。だけど狙われると言うことは、風成さんは彼女は犯人から恨みを買ってしまう事を無意識にしてしまったことになる。
「じゃあ、最近学校で何かした?」
「……普段通りだけど、あっ!でも昨日は違ったな」
「昨日?」
「あの神崎先輩にダンス大会の相手に誘われちゃったの!」
自慢するように知らない3年生の名前を出す。その顔は喜びを隠せていない。先程までの怯えた表情とは一変していた。
「あの」神崎先輩と言われても分からない。何せこの学校に来てまだ日が浅いから学園内の噂や流行に弱い。
「誰それ?」
「この学園で一番と言っても過言じゃないぐらい綺麗な人、1年の時知り合ってね、確かファンも多いって聞いたような……」
「ファンなんているんだ……」
まるでアイドルのようだ。探したら非公式のファンクラブとか設立してそうである。逆にどれ程綺麗かその顔が見てみたくなった。
その神崎先輩って人が風成さんと踊ることになった。ダンス大会というのは明後日行われるやつのことだろう。
ここで、一つの推測が頭を過ぎる。
「もしかしたら……犯人って神崎先輩のファンじゃないかな?」
「どういうこと!?」
「今度のダンス大会って3年にとっての一大イベント、だから今年度で卒業する神崎先輩と最後に踊りたい……って思うファンも少なくないと思う」
それにそのダンス大会はこの学園で一番の恋愛イベントと言われている。これを機に新たな出会いをすると張り切っていた生徒もうちのクラスにもいた。
「だけどその先輩が風成さんと踊ることになった。だから傷つけて踊れないようにするとか……」
「あ……」
ファンがどれ位いるかは知らない。だけど話を聞く限り大層多いらしい。その中に神崎先輩に対する歪んだ愛情や嫉妬心を持つ輩がいたのかもしれない。
「でもたかがダンス大会だよ?それだけであんな事やるかなぁ……?」
「でもそれしか無いし……」
人間の狂気とは時に怪字よりも恐ろしくなる時がある。今回はただの人間関係の問題だ。
だけど、俺も風成さんを守らないと……




