191話
「不死身の体を封じ込めた罪は重いぞ……今すぐぶち殺してやる!!」
「ようやく本性を現したな、それでこそ倒し甲斐がある!!」
無間の「不老不死」を何とか封じた後、互いにボロボロの状態で対峙する。ようやく奴を地面に落とすことができ、同じ目線の高さまで戦況を持ってきた。
もう奴の体は再生しない、殴られても斬られても当然傷がつく。勝利への光がようやく見えてきたというわけだ。
すると無間は蛍のように小さな火球を無数に作り、それらを一斉にこちらに飛ばしてきた。すぐに「八方美人」を使って自動回避状態になり、その弾幕を躱しながら間を潜り抜けていく。
「おらぁあ!!」
「ぐあぁあ!?」
そしてその懐に潜り込み、ヒビだらけの腹部に力強く拳を打ち込む。それによって奴が少し態勢を崩した後、すかさずその顔面に強烈な蹴りをブチ当てた。
キックで後ずさった無間をすぐに追いかけ更に追撃。俺もこれ以上怒髪衝天態でいるのは危険だ、このまま押し切らせてもらおう。
「このッ――調子に乗るなクソガキィ!!!」
「づぅ……あぁ!?」
しかし例え不死身じゃなくとも無間が強いことには変わりない、特大の火球を下からすくい投げるように放ち地面を抉り俺ごと吹っ飛ばしてくる。
何とか両腕を重ねて致命傷は避けられたが今ので酷い火傷を負ってしまった。向こうもそう簡単に勝たせてはくれないらしい。
「まとめてぇ……焼き尽くしてやるッ!!」
「ッ――疾風迅雷ッ!!!」
すると無間が両手で特大の火球を形成しこちらへ投げつけてきたので「疾風迅雷」の超加速状態で退避、さっきまで俺がいた場所が大爆発と共に炎の渦へと包まれた。
それを避けた後俺が加速したまま無間の背後へ回り込むと、その動きを読んでいたのか無間が咄嗟に振り返って攻撃してくる。何とかそれを反射神経で避け「疾風怒濤」を使った。
「疾風怒濤――ゲイルインパクト!うおりゃあああああああ!!!!」
「ぶげらぁ!?」
そして怒髪衝天態のパワーで何度もその体を殴り続けていく。1発1発の拳が深く突き刺さり、最後のパンチを受け殴り飛ばされた無間の全身はもうほぼ亀裂だらけであった。
すると奴はそのまま背中から炎の翼を形成し、地面に落ちる前に滑空して俺に体当たりしてくる。迫りくる無間のタックルを両手で真正面から受け止めるがその勢いを押し殺すことはできず、結構後ろに押されていき最後にその鳥足で蹴り飛ばされてしまった。
「がはぁあ!?」
そのままビルの側面に叩きつけられて地面に墜落。すると無間は大量の火球を俺ではなく今さっき激突したビルに放った。すると根元から大爆発を起こし折れたビルが俺の方へ落っこちてくる。
「なッ――金城鉄壁ッ!!!」
視界を埋め尽くす程巨大な物体が落ちてきたので咄嗟に結界を張り押し潰されることを阻止した。まさか建造物をこちらに落としてくるとは思ってもいなかったが、自分の判断を褒めてやりたい。
しかしこのままだと結界が壊され潰されるのも時間の問題、しかも無間の奴が空を飛び上からビルを押さえつけていた。
「オラオラァ!虫みたいに潰されろぉ!!」
「ぐッ……頼む、もってくれ!」
そんな俺の懇願も空しく「金城鉄壁」の結界にどんどん亀裂が走っていき、やがて無間が最後の力で折れたビルを押し結界を突破させた。それを見た無間は両翼で高く飛び地面に落ちた大建築の慣れの果てを見つめ勝利の高笑いを上げた。
「フハハハハハッ!!やっとくたばったか!ハァ……ハァ……手こずらせやがって!」
最早今の無間にさっきのような余裕は残ってない。優しそうに振舞っていた様子を完全に捨て下品な笑いを辺りに響かせていく。
しかし勝利の優越感に浸かる無間を嘲笑うかのように、落ちたビルの全体にヒビが入った。
「ハハハ……はぁ?」
「――プロンプト、ブレイクゥ!!!」
瞬間、ビルが真っ二つに粉砕しその破片が大量に空へと打ち上げられていく。そこには空に拳を放っていた俺が立っていた。「金城鉄壁」の結界が破られ圧し潰される前に「一触即発」を使ったのだ。
「うあああああッ!!!疾風迅雷ぃい!!!!」
そのまま雄たけびを上げながら「疾風迅雷」を使用、加速状態で空に飛び散った瓦礫が地面に落ちる前にその上を跳び、あっという間に空の無間へと到達。そして奴を真上から蹴り落とし地面に叩きつけた。俺は落ちた奴の上に落ちてクッションにし無事着地する。
「ガハッゴホッ!!このぉ……ビルを割るなんて化け物かお前はぁ!?」
「今の……お前に……言われたくない!」
怒髪衝天態とはいえ流石にビルをぶち壊すとはいえ流石にあのサイズの物体を破壊するのには相当の体力が必要であった。自分でも無茶をしたと自覚している。
さっさとケリを付けるつもりであったが想像以上に苦戦を強いられもう俺も無間も体力の限界がすぐそこまで近づいていた。どっちが先に潰れるかの勝負になっており、動けなくなるその瞬間まで戦い続けなければならないわけだ。
「何故だ……何故どいつもこいつも僕を認めん!!大人しく支配されていればいいのに、最後の最後まで抵抗しやがって……そんなに僕が王になるのが嫌か!?」
「当ッたり前だ!!お前のせいで一体何人が犠牲になってると思う?自分勝手な王に誰が就くか!!」
「黙れ……黙れ黙れ黙れ黙れぇえ!!!僕こそが王に相応しいんだ!王に逆らう不届き者は……ここで成敗してやる!!」
すると無間は更に激情しだし鬼のような形相で低空飛行を開始し真っ赤な炎を浴びながらこちらへまっすぐ飛んでくる。もう完全に頭に血が上っておりこちらが「一触即発」を持っていることも忘れ突撃してきた。
向こうから来てくれるなら好都合、俺も「一触即発」を使いそれを迎え撃つ。やがて奴の拳が辺り、そのまま重いカウンターを打ち込んだ。
「プロンプトブレイクゥ!!!!」
「どりゃああああああああああああああ!!!!」
俺と奴のパンチが衝突し合い、囲んでいた炎がその風圧で一気に消え瓦礫も散っていく。そして無間の右腕は粉々に炸裂し俺も今の一撃で後ろに大きく吹っ飛ばされてしまう。
「ガハッ……もう流石に駄目か!」
右腕を潰すことには成功したがこれ以上怒髪衝天態を続けていれば本当にヤバイ。そう判断した俺は渋々と「怒髪衝天」を解きゆっくりと立ち上がる。脳を目一杯シェイクされたような不快感と立ち眩みが一気に押し寄せ倒れそうになるも、前足を踏み出して何とか堪えた。
「ぐおおおおおおお……!!!僕の腕がぁ……!!」
一方無間は右腕を失った激痛で悶え怒りにも近い悲鳴を上げている。何度かバラバラになった痛みを経験しているくせに今頃何を痛がっているのだろうか?
途切れた右腕から新しい腕は生えない、こうなったらもう怒髪衝天態じゃなくともトドメを刺せるだろう。
「うおりゃああ!!!」
「こ、このぉお!!!」
そこから始まったのは炎の打ち合いや四字熟語を駆使した戦いではない、息を切らし血を流しながら行われる殴り合いであった。
まずは俺のパンチが奴の顎を殴り抜け顔を上に向かせる。すると仕返しにと無間に顔面を殴られよろけてしまう。
パンチを当てる度に敵に亀裂が走り、パンチを当てられる度に吐血し血が飛び散っていく。それはまるで子供の喧嘩のように単純な争いであったが、すぐそこに敗北と死が迫っており血眼でお互いを捉えていた。
「僕の覇道は、お前如きが邪魔していいものではない!!」
「うがッ!?だぁッ!?」
すると無間は俺の襟を掴んで捉え、何度もその顔面に頭突きをかました。鼻血が飛び散り頭蓋骨を割る勢いで奴の頭が迫り、その勢いにどうしようもなくただ両腕で頭を止めようとするしかない。
「呪いのパネルを兵器として活用し、全世界を震撼させ支配する!僕が何年もかけて作り上げた計画を!お前みたいな若造に邪魔されてたまるかよぉ!!」
「――ッ!!」
しかしその言葉を聞いた瞬間、沸騰するかのような勢いで頭に血が上りその頭突きを制止させる。俺の力で抑えられた無間の頭はピクリとも動かず、強い力がそこに込められた。
何年もかけて?本来なら鼻で笑ってしまう程馬鹿馬鹿しいその言葉に、今は怒りしか感じられない。
「な、何……!?」
「何年もだと?――おらぁあ!!」
やがて堪えられなくなった俺は奴の顔面を下から蹴り上げ、そのまま今度はこちらがその首元を掴み顔を近づけて訴える。そして手を離した後全身全霊を込めて無間を上空へ殴り飛ばした。
「あの人は……何百年もかけて『不老不死』を守り続けたんだぞ!!!お前の数年間とやらで台無しにしていいものじゃなかったんだぁ!!!」
「あがぁッ!?」
上に打ち上げられた無間を見届け、懐に入れていた「一触即発」を取り出す。これが最後の一撃になるだろう、正真正銘ラストのスマッシュ、これで倒せなければ俺の負けは確定だ。
4枚の四字熟語を握りしめ、一呼吸置いた後でそれを使用。強く握りしめた拳を振りかぶり姿勢を低くして落ちてくる無間を迎え撃つ準備をした。
今こそ、怒りを解放しよう。
天空さんを殺された怒りを!不知火さんを殺された怒りを!こいつのせいで犠牲になった沢山の人の怒りを!数多の刺客をけしかけてきた怒りを!
その怒りを、今解き放つ!!
「糞ッ!傷のせいで翼が作れん!だが、真下にいるお前を撃ち殺す力はまだ残ってるぞ!!」
しかし無間は最後の抵抗として俺に向かってありったけの火球を放ってくる。このままだと待機状態のまま殺されてしまう、だがそんな心配は俺の懐から飛び出した感覚で無くなった。
「なッ――画竜点睛!?うげがぁ!?」
『ガアアアアアッ!!!!』
休んでいたリョウちゃんが代わりにその火球を受けてくれ、更に無間を尻尾で叩き落とすことで落下のスピードを速めてくれた。
「サンキューリョウちゃん……何か何まで」
思えば無間との戦いが始まってからリョウちゃんに助けてもらってばかりだ。鶴歳研究所で出会ったこいつはもう立派な相棒となっており、恐らくこれからも一緒に戦っていくだろう。
そう、こいつを倒して俺たちはその先の未来へ歩み続ける。言わば無間とエイムと言う存在は障害として俺たちの人生に現れた存在かもしれない。
「さて無間……もう俺に触れない方が良い。今の俺は……爆発寸前だぞぉお!!!」
「こ、このクソガキがぁーーーーー!!!!!!」
「――プロンプトスマッシュゥ!!!!」
無間の叫びも無情にも通じず、そのまま叩き落とされた先の俺にぶつかってしまう。それがトリガーとなり俺は力を溜めるように振りかぶっていた拳をそいつの顔面に思い切り打ち込んだ。
その瞬間辺りに風圧が走り、殴られた無間はそのまま盛大に吹っ飛ばされていく。ビルとビルの間をボールのように何度も跳ねながら身を削り、いつしか遠く離れた場所で地面に激突する。
そしてその不死身の怪字態は崩壊し、辺りに飛び散った「不老不死」の4枚と共に人間の姿へと戻る。傷だらけの状態で白目を剥いて気絶していた。
やがて俺もその近くへ歩み寄り、地面に落ちた4枚のパネルを拾い上げこう言い放つ。
「俺を怒らせた……お前が悪い」