189話
一方その頃、刀真たちは無間の右腕である大樹との戦いを続けていた。
「伝家宝刀」と十手の同時攻撃を巨大化針で巧みに受け流していく大樹、すると後ろに跳んで2人と距離を取った。
二人掛かりによる猛攻に音を上げた訳じゃないだろう、腰の針山から数十本の針を抜き一度それを小さくした上で放り投げてきた。
「ぐッ!」
それらが大樹の手から離れた瞬間一気に棒サイズまで巨大化、鋭い針が大量に刀真たちへと飛んでいく。
それに対し2人は自分の武器で迎え撃ち、巨大針を次々と弾いていった。しかし針の遠距離攻撃は対処できたものの、そのせいで大樹の接近に気づけなかった。
(この針攻撃は囮か――!)
「宝塚ッ!!」
自分の懐に入り込まれる刀真、そこから大樹が持っていた巨大針で突き刺されそうになるも咄嗟に任三郎が十手で守ってくれる。任三郎はそのまま2本の棒で針を挟み込み、振りほどいて大樹を蹴り飛ばした。
もう少し任三郎が遅ければ今頃その心臓を一突きされていただろう、刀真冷や汗を掻いて刀を持ち直す。
「チッ、流石に2対1じゃ限界があるか……ならこれならどうだ!?」
そう言って大樹が指を鳴らすと近くにいた怪字兵が集まり、一斉に跳びかかってきた。まだ残っていた伏兵に驚く2人、しかし今更怪字兵の群れなど大したことはない。
「今更こいつらが何だってんだ!」
次々と倒されていく怪字兵、刀真の「疾風迅雷」がどんどん切り裂いていき任三郎の銃弾で十手が頭を打ち砕いていく。一見迫りくる怪字兵の大群など簡単に蹴散らしているようであったが……
「がぁ!?」
「刑事!?」
刹那、任三郎から漏れた悲鳴でその優勢は一変する。巨大な針が右肩に突き刺さっているのだ。
一体どこから飛んで来たのか?勿論大樹の仕業なのは分かるが接近は許してない。しかし見てみれば任三郎の前にいた一列の怪字兵に、何かが貫通したような穴ができている。
「肩か……突き抜けだと思うように狙えないな」
「怪字兵ごと狙ったのか……!」
投擲された針が怪字兵の体を貫きそのまま任三郎に突き刺さったわけだ。本来なら弾いて軌道を逸らせていただろうが周囲に群がった怪字兵に夢中で気づけなかった。
すると大樹はさっきと同じように針を巨大化させて飛ばしてきた。群れが視界を遮り思うように武器も振れない、鋭い刃の猛攻が2人を襲う。
「ぐぅおおおッ!?」
「ぐッ――このぉ!!」
いつしか立ちはだかった怪字兵は全て粉々に削られ、投擲された巨大針が刀真と任三郎の体を切り裂いていく。さっきのとはサイズが若干小さく、致命傷を与えられない代わりに弾き辛くなっているのだ。
いつしか2人は血だらけになり、それに耐えかねた刀真が「疾風迅雷」を使用。斬撃が地面を巻き込みながら大樹に向かう。
「はぁああ――がぁあ!?」
対し大樹は2本の針を交差させ斬撃を受け止めようとするも巨大化しているとはいえただの針、そんなのに「疾風迅雷」を防ぎきれるわけも無く真っ二つになり、大樹の体に大きな切り傷ができた。
お互いに深手を負った状況、しかし痛みや傷に負けることはなく敵を目で捉える。今ので現れた怪字兵も全て斬り落とされた。
「おい、まだいけるか刑事?」
「たりめぇだ……肩に穴が開いたくらい大したことない」
今のところ一番大きな傷を負っているのは任三郎であり、その右肩には先ほど巨大針で貫かれた大きな穴があった。血もドバドバと流れておりどう見ても大したことなくはない。
「まったく諦めの悪い……仮に俺を倒せたところで不死身となった無間先生にどうやって勝つつもりだ?今頃触渡を片付けているに違いない」
「触渡は負けん!すぐにでもお前を倒して追いついてやる!」
さっきから続く自分の主への絶対的信頼、死なないという体を持った無間に負けるはずがないという自信を抱くのは仕方ないだろう、しかしそれはある意味刀真たちも同じ。発彦が勝つのを信じていた。
そんないつまで経っても諦めない刀真と任三郎に苛ついているのか、次第に言葉遣いも荒くなっている大樹。次の瞬間、大胆の行動に移った。
「ワラワラと動き回る虫けらがぁ……これ以上先生のお目汚しにならないよう、踏みつぶしてやるッ!!」
「ッ――巨大化!!」
「針小棒大」の能力で自分の体を小さくするのではなく巨大化、膨れ上がるようにその体が大きくなっていく。以前発彦との戦闘において巨人になったと聞いていた刀真たち、その行動は予想の内であったが……
「――聞いてた話より随分大きいなッ!」
発彦の時は5m弱、しかし今の大樹の大きさはどう見てもその倍はあり高い位置から2人を見下していた。まるで怪獣のような巨大な体でその目前に立ちはだかる。
すると大樹は近くに乗り捨てられていた車を大きな手で持ち上げ、そのまま投げつけてくた。それを左右に分かれて避ける刀真たち、その巨体は任三郎に襲い掛かる。大きくなったためそのスピードは鈍いものになっているが何分パワーもサイズも桁違いなため、その巨大パンチを回避できても大きく吹っ飛ばされてしまう。
「ぐわぁあ!?」
「いくらお前らでも、この大きさには太刀打ちできまい!」
そこから次々と繰り出される高所からの攻撃、大きな手足が上から落ちてくるその圧力は凄まじくただ避けることしかできない。
大樹はもぐら叩きのように刀真と任三郎を執拗に狙い、いつしかコンクリートの地面は陥没だらけとなる。すると迫りくる巨大な拳を跳びながら避ける刀真は斬撃を放ち、任三郎は発砲した。しかしその遠距離攻撃は大樹の体に小さな傷を与えるだけに終わる。
「効くか効くかそんな甘っちょろい攻撃ィ!そんなんじゃ無間先生どころか俺すら倒せんぞッ!!」
「――じゃあ、これならどうだ?」
「は?――のわぁ!?」
すると大樹は後ろから突如押され顔から地面に倒れ込む。その背後にはいつの間にか現れたトラテンがおり、大樹の腹を噛み付きそのまま地面に押さえつけていた。
「ナイスだトラテン――一気に畳みかけるぞ!承前啓後ッ!!」
「お前に言われなくとも!!」
そして2人は高く跳び倒れている大樹の後頭部へと落ちる。刀真は承前啓後態となり「一刀両断」を使用、任三郎は十手を大きく振りかぶり刀真の後に続こうとした。特大の必殺技を同時に当てるつもりなのだ。
「超刃ッ!一刀両だ――!?」
「なッ!?小さくなって抜け出したか!」
しかしその攻撃が当たる前に大樹は小さくなりトラテンの両顎から抜け出す。そして小人サイズにまで成り果て2人の攻撃から逃れた。
そのまま地面に着地する刀真と任三郎、一体どこにいるのかと目を凝らして大樹を探すが辺りは瓦礫の山、小さい者が隠れるには絶好の場所であるため影すら見つからない。
「――隙ありッ!」
「しまっ――げはッ!?」
すると大樹は小さい状態のまま刀真に接近、すると迫った直後に元のサイズに戻りその体を切り裂く。小人サイズで襲われたためその動きを予測することができずにみすみす切られてしまったのだ。
その後大樹は再び小さくなり物陰に隠れると、今度は任三郎の方へ跳びかかり同じように攻撃した。
「このッ!攻撃する直前で元のサイズに戻りやがって……!」
「小人サイズではパワー不足、しかし攻撃の瞬間に巨大化すればそれも関係ない。そして、お天気注意報だ!」
お天気、という単語に釣られ空を見上げてみるが何もない――かに思われたが、まるで瞬間移動でもしてきたかのように無数の巨大針が出現。先を地面に向けて一気に降り注いできた。
「クリスマスの時のあれか!吹き飛ばせトラテン!!」
『ガルルッ!!』
そこで刀真はトラテンに青い炎を吐かせ落ちてくる針を全て爆風で蹴散らしてもらう。何とか針の雨による攻撃は防げたが、刹那刀真の腹部に衝撃が走る。見れば元のサイズの大樹が腹を蹴り上げていたのだ。
「がはッ……!!」
「今度こそ……トドメだ!!」
そのまま片腕で胸元を掴み引き寄せ、喉元に針を突き刺そうとする大樹であったが横から飛んで来た任三郎の弾丸を察知し回避、手を放し刀真を解放する。
そして殴りかかってきた任三郎の十手を受け止め、そこから何度も十手と針をぶつけ合った。
始まる任三郎と大樹による交戦、金属音が何度も鳴り響き火花が散る。傍からだと互角に見えるこの打ち合いだが、その素早い針使いに若干任三郎が押されていた。
「くぅ!だぁあ!!」
「遅い遅い遅い!そんな幼稚な十手の使い方で俺の針に追いつけるかぁ!!」
任三郎の動きを完全に見極めている大樹はその十手を蹴り上げて軌道を逸らし、がら空きとなったその胸元を狙って2本の針を突き立てる。1本は体を曲げて回避できた任三郎であったがもう1本で脇腹を刺されてしまった。
鋭い痛みが走り穴から血が飛び出る。更に大樹は刺さった針を両手で握り奥へと押し込んだ。
「ガハッ……!!」
「このまま内臓ズタボロの穴だらけにしてやるッ!!」
針は任三郎の体の奥に押し込まれ、大量の吐血を及ぼす。大樹はそのまま針を抜き大量出血を促した後でもう一度体に突き刺そうとするが、任三郎の震える手にその針を掴まれ抜けない。致命傷を負ったはずなのにその握力はまったく衰えてなかった。
「お前……何を!?」
「今だ宝塚ァ!!」
「十七刃ッ!猪突――居合切りィ!!!」
瞬間、後ろから「猪突猛進」を使ってダッシュした刀真が居合切りを繰り出し背中を大きく斬りかかる。任三郎に気を取られていた大樹にそれを避けることはせず、結構な痛手を負った。
斬られて態勢を崩した大樹に今度は刺されたままの任三郎が拳銃を構え至近距離から発砲。しかし体を小さくされて避けられてしまう。
「おい大丈夫か刑事!?穴だらけだぞお前!!」
「ハァ……ガハッ!ま、まだ行ける……!!」
刀真が任三郎の怪我を気にかけていると離れた場所で大樹が元のサイズに戻る。向こうも満身創痍でボロボロの状態であり、息を荒げていた。互いに傷だらけの姿で睨み合い牽制をする。
「この糞どもが……ちょこまかと抗いやがって、大人しく殺されてろ!!」
「ハハッ……奴さん大分余裕が無いみたいだぜ」
「言っとくが、今のお前だぞ」
普段はお互いにいがみ合って喧嘩を始める刀真と任三郎、しかし今は苦笑を漏らしながら突っつき合っている。こんな状態だからだろう、少しでも気を楽にしようと普段の行動をする。
「……刑事、初めて会った時はムカついていたが……お前が英姿町に来てくれて助かった。お前がいなければどうにもならなかった窮地は沢山あっただろう」
「何だよ急に気持ち悪い……でも、それは俺のセリフだ。お前や発彦、英姿町の人々と触れたおかげで少しだけ変われたような気がする。ここは良い町だ……こんなに暖かいところは他にない」
「そうだな……なら、猶更守らないといけないな!」
「ああ!」
もしかしたら戦闘中の時だけかもしれない心からの結束、共に英姿町や人々を守るという大義の為に奮起し、決して死ぬことのない目で大樹を捉える。そんな希望に溢れた視線がその神経を逆撫でしたのか、大樹の表情が徐々に強張っていく。
「もういい!!これ以上お前らの相手をするほど俺も優しくはない、今すぐ串刺しにしてやるぅ!!!」
すると最初の時と同じように針を飛ばしてくる大樹、2人はそれを掻い潜りながら走り出し真正面から標的へと近づく。刺さりそうになった針は刀と十手で弾き、飛んでくる針を見抜き決して足を止めない。
しかし今の状態で思うように動くことなどできず、傷の痛みに襲われ数本の針が体に突き刺さった。血飛沫が上がり、2人の特攻を邪魔する。
「がぁあ……!?」
「真正面から向かってくるなんて単純馬鹿にも程があるぜ!望み通り刺しまくってやる!」
そしてここぞとばかりに大樹が追撃、投擲する針の数を増やし今ので立ち止まってしまった2人を狙う。必死の抵抗で抗い続けるもさっきの分の針が刺さった状態では満足に武器を使えず更なる傷を負う羽目になる。
しかし刀真はここで刀を振るのを止め、「神出鬼没」の4枚を握りしめる。
「神出鬼没ッ!!」
「ッ――テレポート能力か!」
そのまま使用、刀を振りかざした状態で大樹の背後に瞬間移動し力強く斬りかかる。しかし刃が到達する間に体が小さくなり、姿を消した。
周囲は瓦礫の山、きっとどこかに身を潜めているのだろう。そう判断した刀真は次に「剣山刀樹」を取り出した。
(薙ぎ払って炙り出してやる!!)
周囲から刀を生やしまくり瓦礫を退かし、隠れている大樹を見つけ出そうという作戦だ。その四字熟語を使った後勢いよく地面に「伝家宝刀」を突き刺そうとした瞬間、刀真の体が打ち上げられた。
「なッ――んだぁ!?」
針による攻撃じゃない、近くにあった瓦礫が突然巨大化しその反動で刀真を空中へ吹き飛ばしたのだ。瓦礫の山は1つ1つが数倍の大きさに膨れ上がり、互いにぶつかり合って四方八方へ散っていく。
その中心には、してやったりという顔をしている無間が立っていた。
「瓦礫で押し潰すつもりだったが位置が悪かったか……だが結果オーライだ!今のお前に空中で身動き取れる体力はあるまい!」
つまり小人サイズで周囲の瓦礫に触りまくり、それらを一気に巨大化させたわけだ。スピードが特化された小さい状態だからこそできる早業だ。
そのまま大樹は宙に投げ出された刀真を、まるでやり投げのようなフォームで狙いを定める。打ち上げられた衝撃を受けた刀真にそれを避ける余裕は無い。
「宣言通り、串刺しにしてや――らぁ!?」
しかしその動作は突如として襲ってきた後頭部への衝撃で阻止される。後ろを振り返れば拳銃で狙撃した後の任三郎、刀真を助けるために背後から頭を狙って浄化弾を撃ち込んだのだ。しかし……
「危なかった……やってくれたな勇義任三郎ぉ!!」
「チッ、頭に弾丸が触れた瞬間に小さくし威力と影響力を殺したか……どんな反射神経してやがる!」
本来なら頭を撃たれた時点で勝負は決まっているが、大樹は弾丸が肉に食い込む前にそのサイズをできるだけ小さくし、例え頭の中に頭が残っても然程浄化弾の能力が影響しないようにした。
「来いトラテン!一緒に行くぞ!」
『ガルァアアアアアア!!!』
そして大樹が任三郎に気を使っている間に刀真をトラテンを呼び出しその頭に乗る。そのままトラテンと共に大樹がいる真下へ突っ込んでいった。
「ぐあああああッ!!おのれ鬱陶しい虎が!!!」
巨大な虎によるタックルで地面の破片と共に投げ出される大樹、しかし宙で器用に体の向けを変えトラテンに向かって投擲。2本の巨大針が左右の前足を貫通し地面に固定した。
『グオオオオオオオオッ!!??』
「お前も限界かトラテン……しばらく休んでいろ!」
そこで刀真はトラテンを後退させ休ませることに。頭から地面に飛び移り最早ヒビだらけの大樹へと走り出す。そしてもう一度「猪突猛進」を使い凄まじい速度で真っ直ぐ加速した。
「十七刃ッ!!猪突猛進――!!」
「同じ攻撃など二度も受けん!!小さくなって――ガハァ!?」
「――させるかよッ!!」
それに対しまた小人サイズになって躱そうとする大樹であったが、その前に任三郎が十手でその胸を貫き阻止。そして猪の如く突っ走っていた刀真がその目前にまで接近し、勢いよく刀を抜く。
「――居合切りィ!!」
「あがぁああああああああああああッ!!??」
左脇腹から斜めに入る大きな17つの切り傷、ボロボロの状態であった大樹の怪字態にまた亀裂を走らせ撃沈にまで追い込んでいく。しかし刀真は攻撃の手を休めず、受け継がれた「伝家宝刀」を天に翳し、自身に纏っていた青いオーラをそこへ集中させていく。
そしてゆっくりと息を吸い込み、全ての力を両手に注ぎ込んだ。深呼吸を終え視線を大樹に戻す。
「超刃……」
「む、無間先生ッーーーー!!!」
「一刀両断ッ!!!!」
そうして落とされる青き刃、それは大樹の頭と股の間を一瞬の内に走り見事その体を真っ二つに切り裂く。中からは人間の姿である大樹が白目を剥きながら現れ、力を無くしてそのまま倒れ込んだ。
次に使っていたリクター付きの「針小棒大」が転がったのでそれを任三郎が拾い上げる。この四字熟語を拾って初めて勝利の達成感がドッと押し寄せてきた。
「ハァ……ハァ……何とか倒せたな」
「ああ、だがこれじゃあ発彦の手助けなんて無理だな」
自分たちの現状を確認した後、今発彦の所へ行っても足手まといになるだけだと確信し援護を断念する。疲労よりも悔しさを感じる2人であったが取り敢えず大樹との戦いに勝利したことを喜んだ。
すると鳥の羽ばたく音が聞こえたと思うと、遠くから巨大な影がこっちに向かってくる。それを見た刀真と任三郎は新手かと警戒するが、それは「比翼連理」に乗った翼であった。
「おーーい!お2人とも無事ですかーー!?」
「比野さん……牛頭と馬頭や他の怪字兵は?」
「全員で協力して何とか倒しました。それより大丈夫ですか!?傷だらけですが……」
「そ、それより……」
ボロボロの2人に歩み寄る翼であったが刀真がここで倒れている大樹を指さす。彼女がその姿を見ると、その綺麗な目は丸くなり驚愕の表情でその姿を確認した。
「……大樹さん」
「ガハッ!つ、翼か……」
すると意外にも早く気を取り戻した大樹であったが最早四字熟語も無く立ち上がる力も残っていない。なので彼に近づこうとする翼を刀真たちは止めようとしない、寧ろ2人だけの空間にしようと荒い呼吸を無理やり静かにした。
仰向けで倒れている大樹の横に座り込む翼、彼女はその顔を見つめているのに対し大樹はただ黒い空を見上げるだけで何も言わない。
「お、俺は謝らんぞ……自分がした行動を、間違っているなんて思っていない」
「どうして……どうしてこんなことをしたんですか」
すると翼の目から大粒の涙が溢れ出し大樹の体に落ちていく。例え幼馴染が泣きだそうがその視線は決して動かない、達観した表情でただ見上げているだけだ。そしてニヤリと口角を曲げ、ようやくその目を彼女に合わせた。
「俺にとって……無間先生が全てなんだ。あの人の望み通りにさえなれば俺のことなんか関係ない……嗚呼無間先生……どうか俺のことなど気にせず、自分の覇道をお進みください……」
しかし幼馴染の必死の呼びかけにも志を変えることは無く、もう一度気絶するその時まで自分の先生のことを気にしていた。大樹に思いを寄せていた翼にとって、これ程悲しいことはないだろう。
それを見守っていた刀真と任三郎もやりきれない気持ちになり、思わず目を逸らしてしまう。すると彼方の方向から激しい轟音が鳴り響いたと思うと、その方角から一気に煙が噴き出している。何が起きているのかはもう分かっていた。
(すまん発彦……私たちはここで一度リタイアする。どうか死なないでくれ……!)
こうして刀真と任三郎VS大樹の戦いは、互いに血まみれになりながらも自身の想いが描く道を突っ走り、パネル使い側の勝利として雌雄を決した。後は町の奥で今も戦っている発彦と無間の勝敗が全てを決めるのみ。




