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爆発寸前な男  作者: ZUNEZUNE
第二章:切味抜群の男
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18話

神崎先輩と別れた後自分の教室へと戻り、いつも通り授業を受ける。

今日の時間割は私の苦手なものばかりで気が滅入っていたが何とか乗り越えた。今日の部活は顧問の先生が風邪で休みだったので中止、私は真っ先に家へと向かう。帰りの途中で疾東と会ったので途中まで一緒に帰ることに。


「疾東この後どうするの?」


「折角部活が休みになったから駅前で遊ぼうかと思う、アンタも行く?」


「私は最近門限が厳しくて……」


「まだ16時前よ?小学生じゃあるまいし……」


「いや……この間の停学が原因でめっちゃ厳しくなって……」


「あ……」


ここで場の空気が一気に悪くなる。疾東は詳しい事情を知らないが、「疾風迅雷」事件から日も浅い。私達2人にとってあまり思い出したくない事なのだ。

気まずい感じになり、しばらくの沈黙が続く。黙りながら平行して歩いていた。


「そ、そう言えば今度のダンス大会神崎先輩と踊ることになってさ!」


「へ、へぇ〜!良かったじゃない!学園のマドンナと!?」


ここでわざとらしく大袈裟に声を出して雰囲気を正しい方向へと戻す。

これ以上あのことを引きずるのは御免だ。もうあんなことを起こさないという教訓として脳の片隅に入れておくだけだ。

2人で笑い合って、何とか元の空気に直せた。そしてまた雑談へと戻る。





「あ、風成さんに疾東さん」


触渡発彦は後ろからあの2人を見つける。あんなに笑い合っているなんて、もう喧嘩や虐めの問題は無さそうだな。

そうだ、後ろから急に現れて脅かしてやろう。そんな普段思いつきそうにない悪戯が脳裏を走る。

やっぱり風成さんと出会えて明るくなれているのかな?だとしたら嬉しい進歩だ。昔っから引っ込み思案な俺が今や同級生を後ろから話しかけるぐらいにまでなったのだから。あとで天空さんに自慢しよ。

すると彼女たちの後ろ姿を傍観していると、その真上に何か見えた。


「……ん?」


今彼女たちが歩いている道は坂の下にあり、坂の上に誰か立っていた。

その姿は影になっていてよく見えない。顔は見えないが大きさ的に俺と同じ高校生だろうか?その手には両手程の大きさな何かが持たされていた。


「……何やってるんだ?」


その人影は風成さんが丁度真下まで来ると、手に持っている物を彼女目掛けて振り落とした。


「なっ!?」


突然悪意ある攻撃が彼女に向かった事に驚く。坂はさほど高くない。声をかける前に当たってしまう。距離も遠い、今から普通に走っても間に合わないのは目に見えていた。

人は危険な時見る物全てがスローモーションに見えることがある。タキサイキア現象と呼ばれるそれは、ギリシャ語で「頭の中の速度」という意味だ。

しかし自分の危機でもないのにそれを今感じている。彼女に当たるまでの僅かな時がゆっくりと再生されていく。

反射行動なのか、それともスローになった分考えるのが速いのか、俺は懐にある4枚のパネルを取り出し、それを使用した。


「『疾風迅雷』!!」


その瞬間、触渡発彦の動きがとても素早い物となる。投げ付けられたそれが風成さんに当たる前に彼女を一瞬で抱えて「それ」から避難させた。常人には処理しきれない速さである。


「え……?」


落とされた物が地面に激突する。しかしそこに風成さんの姿は無くその少し前で俺に抱えられていた。

風成さんはいつのまにか自分が抱えられていることに絶句している。疾東さんは隣にいたクラスメートが一瞬で移動していることに驚いていた。


「触渡君……?」


風成さんは信じられない顔をして俺と目を合わせる。彼女の目は大きく開いており、そして何故か頬が赤く染まっていた。何故だろう?


(……あっ!)


ここで初めて自分が風成さんをお姫様だっこ(・・・・・・)していることに気付く。助けるのに夢中で抱え方を気にしていなかった。

俺は慌てて彼女をゆっくり地面へ降ろす。風成さんはモジモジしながらもしっかり2本足で立った。


「ごごごごめん風成さん、急に……」


「だだ大丈夫……何があったの?」


赤面しながらも聞いてきたので、俺はそれに対し、落ちてきた物を指して答えた。

至近距離で見て気付いたが、それはくすんだ茶色のレンガであった。衝突時の衝撃で砕けている。


「な、何よこれ……!?」


疾東さんは自分のすぐ横にレンガが落ちてきたことに驚いている。もしこんなのが風成さんの頭上に当たったらと思うとゾッとした。最悪死ぬかもしれない。

レンガを落としてきた奴を見ようとしたが、既にその姿は無い。逃げたのだろう。


「あ、ありがとう触渡君、また君に命を救われたね……」


「気にしなくて良いよ。クラスメートとして当然だ」


「そ、そう……」


その言葉に彼女は更に顔を赤らめた。


「ところで今のって……」


「『疾風迅雷』、君達のパネルを使わせてもらった」


疾風迅雷、風成さんを操った怪字を倒して手に入れたパネルでできる四字熟語。

その力は元々の怪字と同じ、圧倒的な超スピード。目にも留まらぬ速さで移動できるのだ。

練習で使った程度で実践したのは今が初めてだ。中々使える物だ。現に今1人の命を救った。


「うーん、私を操って挙げ句殺そうとしてきたパネルに命を救われるなんて……複雑」


「はははっ……」


その気持ちは大分分かる。自分と「一触即発」も同じような感じだからだ。

問題なのはレンガを落としてきた奴だ。明らかに風成さんを狙ってやった。悪質にも程がある。死ぬかも知れないのに。

どうやらまた、一騒動ありそうだ。

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