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爆発寸前な男  作者: ZUNEZUNE
最終章:最凶最悪な男
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187話

「ぬぅうおらぁあああああああッ!!!」


男らしい野太い雄たけびと共に虎鉄の剛腕が振るわれ、周りにいた怪字兵が一掃される。まるで爆発したように薙ぎ払われていく。

発彦たち3人を先に行かせ、そこに群がった怪字兵を対処していく虎鉄達ベテランのパネル使い。その活躍によってどんどんその数は減っていた。


「これが人造怪字か!初めて見たが聞いてた話より随分脆いぜ!」


虎鉄の使う「銅頭鉄額」は体を硬質化させ最強の矛や盾にもなり得る四字熟語。その鋼鉄のパンチは怪字兵の体を貫通するどころか木っ端微塵に粉砕していき、奴らが薙刀を振るっても鎧と化したその皮膚には傷1つ付かない。

こうも簡単に怪字兵が倒されるのは個体ごとの強度がそこまでじゃないこともあるのだろう、しかしそのパワーが凄まじいことには変わりない。


「サンドイッチにしてやるぜッ!」


すると虎鉄は襲い掛かってきた数匹の怪字兵を掴んで合わせた後、そのまま左右から両拳を走らせその頭をプレスした。怪字兵たちの頭が一瞬で粉々になった。

虎鉄の一挙一動が怪字兵を倒していき、逆に敵は一向にダメージを与えることができていない。誰がどう見てもどちらが優勢が一目瞭然であった。

一方他の群れでは次々とその頭部に鋭い矢が撃ち込まれている。その狙撃には1㎜のズレも無く正確であった。それも当然、その矢を放つ鷹目が使っているのは「飛耳長目」だからである。


「所詮数で押し込む為の雑兵ね」


視力と聴力を強化するその四字熟語を駆使すればその狙撃も完璧なものとなり、敵の動きを音や目で予想することも可能だった。しかし「飛耳長目」で活かせるのは狙撃だけじゃない。


「――そこッ!」


動きを予測できるということは当然()()()()()()()()。その耳を持ってすれば例え後ろから忍び足で接近されようが未然に気づくことができる。その証拠に後ろから斬りかかろうとした3匹の怪字兵を見事撃ち抜いてみせた。

現在鷹目の周りには大量の怪字兵が群がっているわけだが、彼女から一定距離離れており、近づこうにもすぐに射抜かれている。いつのまにか鷹目を中心に円を形成していた。

しかし銃弾も効かない怪字に何故弓矢が通用するのか?任三郎の浄化弾同様彼女が使っている矢には浄化の際の文字が彫られており、その為深く怪字の体に突き刺さるのだ。

しかし敵は怪字兵だけじゃない、無間の式神である牛頭と馬頭もいた。


『ウガァアアアアアアアアッ!!!!』


遠吠えを上げながら棍棒を振り回す2匹の式神、鼻息を荒し目を真っ赤にして暴れまわっていた。

そんな牛頭と馬頭の動きを止めたのは、同じく2匹で1匹の式神であるウヨクとサヨク。そしてその鳥の式神「比翼連理」を操るのは鶴歳研究所の翼であった。


「ウヨクちゃんとサヨクちゃん!そのまま抑えてて!」


「比翼連理」の式神は2匹の鳥の式神がまるで1匹のように重なり合っており、普段は1匹に合体しているわけだが今は分裂している。そして向こうと同じ数になってぶつかり合っていた。

それぞれ2匹同士の押し合い、ほぼ同じ体格から繰り広げられるその押し相撲は迫力があった。しかしパワーは「牛頭馬頭」の方が上で鳥たちを後退させていった。

このままだとウヨクとサヨクが押し切られるのも時間の問題、しかし2匹が牛頭と馬頭を真正面から受け止めている目的は力勝負ではない。


「――今ですッ!」


「はッ!!」


そうして翼の掛け声と共にウヨクとサヨクの後ろから跳び出したのは、刀真の父親である刀頼、そして任三郎の上司である網波であった。

そのまま「比翼連理」たちの肩を足場にし牛頭と馬頭に突撃、刀頼は「諸刃之剣」で牛頭を切り裂き、網波は馬頭を警杖で力強く突く。その衝撃で2匹は大きく吹っ飛んだ。

刀頼の「諸刃之剣」は後から代償として苦痛が来るデメリットがある分その切れ味は強力、網波の警杖にも文字が彫られており怪字に有効であった。


「刀真たちが無間を倒す時まで、何とか持ちこたえるんだ!」


「勇義の奴、こんな時にもドジ踏んでなけりゃいいけど!」


牛頭を斬った刀頼はそのまま足を地面に付けブレーキにし、ジャンプの勢いを押し殺す。すると偶然にも虎鉄と鷹目の側まで移動していた。殴られた怪字兵が刀頼の頭上を通過する。


「よぉ刀頼、お前と一緒に戦うなんていつぶりだ?」


「その節は息子が世話になったな、どうだったあいつは?」


「お前よりかは十分『伝家宝刀(あれ)』を使いこなせていたさ!」


「ほぉ……言ってくれるじゃないか!」


そう悪態を付きながらも久しぶりの共闘に破顔し、共に怪字兵の群れを倒していく刀頼と虎鉄。普段は冷静で無駄口はたたかない男である刀頼であったが、友との久しぶりの再会によって少しだけ若い頃を思い出していたのだ。

まだまだ怪字兵が向かってくる最中、2人の間を矢が通過し次々と雑兵の頭を貫いている。気づけば鷹目が刀頼たちの後ろに立っていた。


「刀頼君も虎鉄くんも、喋っていないで戦って頂戴」


「へへ……昔からよく言い合って鷹目に叱られてたな。思い出せばお前も随分老けたもんだぜ」


「お前と鷹目が歳を取らなさすぎなんだ。怪字よりよっぽど化け物に見える」


「言ってるそばからもう……」


そして3人で連携し次々と怪字兵の群れを蹴散らしていく。数では圧倒的に負けていたパネル使い側であったが、次第に優劣が変わりつつある。

当然の話だろう、ここにいる者たちはどれも死線を潜り抜けてきた猛者たち。たかが怪字兵と2匹の式神で倒せる相手ではなかった。


一方そんな彼らが想いを託した発彦たちは、今現在式神に乗って英姿町の上を滑空していた。発彦はリョウちゃん、刀真と任三郎はトラテンに乗り立ち上る煙の中を突き進んでいく。

下を見れば逃げ遅れた人々を誘導し、対怪字用の武器で迎撃している怪浄隊の隊員の姿が見えた。


「これならもう大丈夫……じゃないですよね」


「ああ、無間の奴を倒さない限りこの惨劇は終わらない!」


怪浄隊の活躍により市民の命は救われているが、肝心の無間を倒さないと怪字兵の勢いは治まらない。いくら虎鉄たちベテランが強いとはいえ流石にこの数相手にずっと戦い続けるのは苦労するだろう。

一刻も早く無間を倒し、怪字兵の操作を止める必要があった。隊員たちの誘導も完璧ではない、いずれ限界が訪れるのは明白。なので上空から必死にその姿を探していた。

しかし、そう敵も簡単に動かせてはくれない。


「――針ッ!!」


下から巨大な針が何本も発射され、発彦たちに襲い掛かる。その針のサイズ、攻撃方法から誰の仕業かは分かっていた。

そこでリョウちゃんは火球、トラテンは青い炎を噴き出し針攻撃を薙ぎ払うも全ては無理であり針が刺さり致命傷になるのは時間の問題であった。

――こうなれば、誰かが地上に降り()()()()を潰すしかない。


「発彦!お前は先に行ってろ、私と刑事はあいつの相手をする!」


「先輩ッ!?」


すると刀真と任三郎を乗せていたトラテンが一気に下降、針が飛んでくる中を突き進み地上へと下りていった。突然の行動に発彦が困惑する中、2人は遠慮なく下へと向かっていく。


「奴も無視できん存在だ!ここで俺たちが倒した方が良い!」


「だからって――じゃあ俺1人で無間の相手を!?」


ここで2人が離脱するということは無間の相手は発彦単独でするという意味、エイム本拠地で惨敗した経験がある者にとってそれはあまりにも無謀としか思えないことであった。

無論発彦に単独で向かう気はない、あくまで3人同時に挑み()()()()を実行するつもりであった。それが急にできなくなると言われれば不安になるのも無理はない。


「お前なら勝てる!自分の腕を信じろ!」


「こっちは私たちに任せて先に行け!」


そう言って刀真たちは発彦の静止も効かず地上へ降り立った。発彦にはただリョウちゃんの頭上で下を眺めることしかできない。

そこでその脳内に駆け巡ったのは、駆稲が病院で言ってくれた「()()()()()()」という言葉。確かに無間との戦闘中に邪魔が入ったら厄介だろう、ここは二手に分かれた方が得策かもしれない。


(ここは、2人を信じて前に進もう!俺だけで無間を倒してやる!)


そう決意した発彦は後ろを振り返らず無間捜索を再開する。自分だけでも無間を倒すという強い覚悟を抱き、必死に敵の姿を探した。


一方刀真と任三郎はトラテンから降り地上に足を付ける。燃え盛る地上に降り立つとそこには見覚えのある特異怪字の姿があった。白い仮面を付け巨大化された針を巧みに操っている。

「針小棒大」の使い手であり無間に絶対的な忠誠を誓っている部下、そして元鶴歳研究所の一員だった裏切り者である小笠原大樹であった。


「小笠原大樹……一応聞くが、無間は何処にいる?この英姿町にいるんだろう?」


「会って早々本題か、もう少し思い出話にふけようとは思わないのか?」


挑発混じりの戯言、白い仮面の上からでも分かるようにヘラヘラと笑っている大樹に対し刀真は「伝家宝刀」を取り出し任三郎も拳銃を構え、「貴様の戯言になんか付き合わない」という意を示した。


「別に構わないよ?教えたところでお前たちに先生が倒せるはずがないからね」


「……発彦は絶対に無間を倒す!お前たちの野望は、私たちが食い止めてやる!」


「――プッ、アッハッハッハッハ!!!分からない奴だなお前たちもぉ!今の無間先生は不老不死!あの本拠地でそれを十分に痛感しなかったのかぁ!?」


発彦同様、刀真と任三郎も「不老不死」を取り込んだ無間に挑み惨敗していた。なので言われなくともあの男の不死身っぷりは十分に理解している。何度も斬っても再生し、弾痕も塞がっていく。何をしても生き続ける怪物の強さを、その身に畏怖として刻み込まれていた。

しかし、それで2人の武器を握る力は弱まらない。


「……例え絶対に倒せなくとも、俺たちが戦わない理由にはならない!」


「何が不老不死だ!死なない体だろうが何だろうが、発彦の奴はそれをぶっ壊す!」


決して諦めたりなどしない、逃げたりもしない。相手が絶対に死なない体だろうがこの身尽きるまで戦い続ける。それが今自分たちがやるべきこと、パネル使いとしての義務だと信じて。


「……先生は馬鹿が特に嫌いだ。お前たちのような力量も分からないゴミクズは、あの人の統べる世界に必要無い!」


「「……そんなの、こっちから御免だ!」」





刀真先輩と勇義さんが小笠原さんと戦っている間に、俺はリョウちゃんの上から奴の姿を探していた。

1人では確かに心細い、しかしあの人を放っておけば必ず無間との戦いに乱入してくるだろう。刀真先輩たちの判断はある意味正しい。しかし俺にはあまり優しくない。確かにあいつを倒す準備はできている。だからといって俺1人では些か無謀だ。

だけど、あの2人が俺に託してくれた想いを無駄にはできない。小笠原さんは無視していたら後々に邪魔になる存在、ここはあの人たちに甘えて任せることにしよう。


「――ッ!!」


だからこそ、俺1人でも何とかしなければならない。

上空から見渡していると、ビルの上に人影を発見する。リョウちゃんに降下してもらい同じ場所に降ろしてもらった。

その男――無間の後ろに立ち、何も言わずその背中を眺める。長い白髪が爆炎によって煽られヒラヒラと舞っていた。髪の色が変わろうが、不死身の体になろうが、ここまで印象的に感じている背中の持ち主はこの先の人生で現れないだろう。

人の人生に運命の分岐点、もしくは一番難関な部分があるとするならば間違いなくこの時、この場所だろう。まだ高校生の俺だが、それだけは確信できていた。


「……子供の時からずっと死ぬのが怖かった。人は死んだら何処に行きつくのか?真っ暗な場所で永遠に過ごしどうしようもない孤独感に泣き叫ぶか、善人悪人関係無しに地獄送りにされるのか?それとも今まで生きていた人生は誰かの夢なのかもしれない、そんな杞憂に襲われ続けていた」


「……」


「何故死ぬのが怖いのか?……()()()()()()()()()()だ。人と言うのは正体不明なものに恐怖感を抱く、死後の世界という曖昧な存在にいつか必ず身を任すことになるのが恐ろしくて堪らなかった」


無間の話は続く。こちらを一切見ず火に包まれた英姿町を眺めてまるで詩のようにこちらに語り掛けてくる。

しかし折角演説してもらってはいるが、俺にとってはどうでもいい話だ。こいつの生死概念など知った事ではない。


「だがもうそんな不安に駆り立てられることはない。永遠の安寧、もう死というものを恐れる心配は無い――素晴らしいこととは思わないかい?」


そこでようやくこちらを向き、その真っ赤な目は狂気に満ちており純白の髪は一種の恐れすら感じてしまう。

そのくっきりと開いた瞳孔に吸い込まれそうになり、思わず後ずさってしまう。唾を呑み、冷や汗を流しながらも何とか耐え抜いた。


「……まぁ死後の世界なんて俺も知らない。だけどお前の行き着く先を当ててやるよ――()()()()だ!!」


「……残念だが、その地獄にすら行かないんだよぉ!!」


瞬間、無間の体がどんどん変形していき一度見たことのある姿へと変貌する。

不死鳥を象徴するかのような炎の翼、英姿町を惨劇にしている火事が可愛く見えるほどの猛火が辺りに散っていく。

「不老不死」――決して死ぬことのない敵。そいつが今俺の前にいた。

気づいた時には走り出しており、真正面から無間の奴に殴りかかっていた。正真正銘、これがエイムとの最終決戦である。

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