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爆発寸前な男  作者: ZUNEZUNE
最終章:最凶最悪な男
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186話

3人揃ったところで、今英姿町を襲っている怪字兵の大群をどうにかすべく無間を探す俺たち。駆稲の話によると怪字兵は駅前から出現したという、つまり奴はそこにいる可能性が高かった。

一刻も早く見つけ無間を倒さなければ更に犠牲者が増えるばかりだ。しかしいくら郊外とはいえ英姿町は広い、しかも大量に敵が蔓延るところを探すのは困難を極める。


「リョウちゃんたちに乗りたいけど……無理ですよね!」


「まだ逃げ遅れている人はいる、流石に式神を人前に出すのは駄目だな!」


空を飛んで上空から探せばすぐに見つかると思うが、何分まだまだ一般人は残っているのでリョウちゃんやトラテンといった非現実的存在の象徴みたいなの呼び出すわけにはいかない。

だからあくまで捜索は徒歩によるもの、そして地上の方が市民の皆さんを助けやすい。今は自分たちの力だけでどうにかしないといけなかった。


「……流石に多すぎだろ!」


そこでようやく駅前に到着、しかしその惨状に思わず引き下がってしまう。

至る所に怪字兵がのさばり、最早怪字の町となっていた。まるで蜘蛛のように建物の上に立ち、人がいないかとキョロキョロしていた。視界一杯に怪字兵の大群が映り凄まじい光景であった。

やがて、全ての怪字兵の目が一斉にこちらを捉えたと思うと全員で跳びかかってきた。あまりの数に囲まれたせいで視界に怪字兵が入らないことはなくなる程だ。


「やるしかないようだな!」


流石にこの数を放っては置けない、そう言って3人で背中を合わせて死角を埋め、目の前に怪字兵に立ち向かった。

最初に出てきた1匹を蹴り倒したと思うと後ろからもう1匹が不意打ち、すぐに裏拳で対処する。すると今度は上から3匹が一斉に薙刀を突き刺してきたので後ろに跳んで回避しその3匹を殴り飛ばした。

吹っ飛ばされた怪字兵が群れの中に突っ込みまるでボーリングのように威力が伝播していく。しかしそれでもその数が無くなる様子は見られない。寧ろ吹っ飛ばす度にその仲間が雄たけびを上げて襲い掛かってきた。


「あぁもう次から次へと――ゲイルインパクト!来やがって!」


そこで一斉に跳びかかってくる怪字兵を「疾風怒濤」のラッシュで吹っ飛ばすが、それでもその勢いは収まらない。いい加減に鬱陶しく感じ精神的な疲労がドッと押し寄せてきた。

恐らくこちらの存在に気づいた無間が怪字兵をここに集め真っ先に潰しに来たのだろう、あまりの数に押し潰されそうだ。

それは刀真先輩たちも同じ、2人もこの多さに手こずっていた。


「――仕方ない、()()を使うぞ発彦!」


「え!?良いんですか怪字兵相手に、無間との戦いにまで体力温存しておいた方が……」


「俺からも頼む!一瞬だけ使ってくれ!」


2人はそう言うがあまり気乗りしない。しかし確かにこの数の相手ならここで使うのが得策だろう。体力温存よりここはこいつらを一掃した方を優先した方が良さそうだ。

ここは、派手にブチかますことにしよう。


「もういや、怒髪衝天ッ!!」


「承前啓後ッ!!」


ヤケになって「怒髪衝天」を使用、赤いオーラを纏った怒髪衝天態になり刀真先輩も承前啓後態になる。先輩の「承前啓後」と違って俺の「怒髪衝天」は後から代償が来るからなるべく使いたくなかったが、そんなこと言ってる暇も無いらしい。

俺たちの変わりようにも怯まず怪字兵が一斉に跳びかかってくる。それに対し俺は両手を振りかぶり、先輩は両手で刀を握りしめて受け止めた。


「疾風怒濤!ゲイルインパクトォ!!!」


「紫電一閃!十七刃旋風ッ!!!」


そうしてパワーアップしたそれぞれの技を大群に向かって放つ。俺の怒髪衝天態のパワーによるラッシュが怪字兵を殴り飛ばし、先輩の斬撃による突風がどんどん吹き飛ばしていた。

俺たちの周囲に群がっていた怪字兵はそれで殆どが上空に打ち上げられ、ボロボロの状態で落ちていく。いつしか怪字の亡骸で地面が埋め尽くされた。


「ハァ……ハァ……ようやく片付いたな」


一旦怒髪衝天態と承前啓後態を解く俺たち。一気に広がった視界、そして圧倒的な数の怪字兵を吹っ飛ばしたことにより、爽快感でスカッとした。これでようやく前に進めるわけだ。今のでかなりの怪字兵を減らせたはずだ。


「助かったぜ……俺はお前らみたいなパワーアップはできないからな」


「ハハッ、それは勇義さんがパネルを使わない主義だからで……しょう……が」


まるで嫉妬のようにも聞こえる勇義さんの一言、少しでも場を和ませるために揶揄ってやろうと振り向くと、その背後に見覚えのある巨大な影が迫っていることに気づく。

瞬間――俺の体は動いていた。


「勇義さん危ないッ!」


「のわッ!?」


勇義さんの体を突き飛ばし、振り下ろされる「それ」を代わりに受け止める。それは大きくそして太い金棒であり、グローブ付きの手で受けてなかったら傷だらけとなっていただろう。

そしてその金棒を振り払い急いでそいつから距離を取る。するとその牛の怪物の後ろからもう1匹馬の怪物が姿を現した。


「こいつは!?」


「『牛頭馬頭』……!無間の式神で『比翼連理』みたいに1つの四字熟語で2匹の式神です!」


それはエイムの本拠地突入時に俺が取り逃がした式神である牛頭と馬頭であった。その巨体と強烈なパワーの記憶はまだ鮮明だ。

あの時どこへ逃げたのかと思っていたが、こいつらも英姿町に来ていたのか。どうやら無間は総力を挙げてここを襲っているらしい。だがまさか牛頭と馬頭までいるとは思ってはいなかった。


「まさかこんな伏兵がいたとは……今からこの式神を相手にするのか……!」


そう言って先輩は苦言を漏らしながら刀を構える。予想だにしてなかった強敵、それも2匹の式神を相手にする暇も体力の余裕も無いからだ。今までのような怪字兵と比べてこいつはそう簡単に蹴散らせるような相手ではない。凄まじいスタミナで何度も立ち上がってくるのだ。


「げッ!怪字兵がまだこんなにいたのか……!!」


そしてまだ倒しきれていない、もしくは他の群れから参上してきた怪字兵もこの戦場に加わってきた。怪字兵だけならともかく、それで「牛頭馬頭」との戦いに横槍を入れられたら流石に厄介だ。

かといって式神を素通りして野放しになんてできない、このまま放っておいたら学校の方に行くかもしれない。そうなると沢山の人が犠牲となってしまう。

――やはり、無間を倒すだけという単純な事では終わらないらしい。

すると牛頭と馬頭、そして周りの怪字兵たちがこちらに迫ってきた。覚悟を決めて相手をしようと思ったその時……



「ジャンピング――()()ォ!!!」



突如として空から巨大な何かがこの場に墜落、凄い風圧と力を周囲に伝播させ怪字兵と式神を後退させていく。まるで隕石が降ってきたかのような衝撃だった。

一体何が落ちてきたのか、目に入ったのは銀色に輝く大きな背中。その持ち主が起き上がるとより巨体さが際立った。銀色の皮膚、そしてこの大きい体を持つ人なんて1人しか思い当たる節が無い。


「……虎鉄さんッ!」


「よッ!久しぶりだな!」


夏休みの修行合宿にて俺たちを鍛えてくれたパネル使い、銅虎鉄さんが現れた。その巨体に似合わず気さくな笑顔を見せサムズアップで返してくれる。この人は相変わらず変わっていなかった。


「何で虎鉄さんがここに……?」


「英姿町が襲われていると聞いてな、居ても立っても居られなくなって来た!お前らたちが取り返してくれた『銅頭鉄額』のおかげで無事パネル使いとして復帰できたわけさ!」


そう、虎鉄さんは使っていた四字熟語である「銅頭鉄額」をエイムに奪われパネル使いとして戦えなくなっていた。しかしその四字熟語を俺たちが取り戻しこの人に返したのだ。

まさかこの人が来てくれるとは思っていなかったが、こんなに頼もしい味方はいない。百人力とはこのことだろう。


「当然、俺だけじゃないぜ?」


「え?――って危ない虎鉄さん!!」


すると真後ろから馬頭が棍棒で殴ろうとしてきたので警告して危険を知らせる。しかし虎鉄さんが避ける前にどこからか1()()()()が飛んできて、馬頭の肩に突き刺さり妨害してくれた。

矢が飛んできた方向を見れば、弓を構えているもう1人の修行の時の教師がそこにいる。


「鷹目さん!」


「もう、虎鉄くんが先に行くから追いつくのに苦労したわ。久しぶりね2人とも、それに勇義君も」


鷹目さん、長壁が使っていた「飛耳長目」の本来の使い手であり彼女がどうやってそれで戦うかは知らなかったが、どうやら長壁の銃ように四字熟語矢の能力を使い矢で狙撃するスタイルのようだ。

合宿の時にお世話になった2人が助っ人に来てくれた。やっぱりこの人たちは頼りになる、窮地を救ってくれたのだから。

そして助っ人は、この2人だけじゃなかった。


「諸刃之剣ッ!!」


「せいやぁあ!!」


向こうにいた怪字兵が次々と斬られ、もしくは突かれて倒されていく。そこには剣を持った老人、警杖を巧みに操るスーツ姿の男がいた。気づけば怪字兵がどんどん彼らにやられている。


「父上!」


「網波課長!」


「遅くなった、若者だけには任せていられない!」


「ここからは、我々の仕事だ!」


刀真先輩の父親である宝塚刀頼さん、そして前代未聞対策課の網波恢男課長。この人たちも怪字退治のプロであった。

すると肩を射抜かれた馬頭が怒りはじめ、牛頭と共に暴れ始める。増援に喜んでいる場合じゃない、まずはこいつを何とかしないと!

同時に振り落とされる2匹の棍棒を受け止めようとしたその時、何かがその間に割り込んで代わりに「牛頭馬頭」と向かい合ってくれた。それは大きな翼を持った2匹で1匹の鳥――「比翼連理」の式神。


「ウヨクとサヨク!ということは……比野さん!」


「私……いや私たちも戦います!いつまでも触渡様たちに任せてはいられません!」


鶴歳研究所の比野翼さん、そして彼女に仕える式神であるウヨクとサヨク、敵味方の式神がぶつかり合った。

気づけば3人だけであったこの場に続々と味方が集まっている。どれも一度は行動を共にしたことがあり信頼感もある者ばかり、彼らが来てくれたおかげで背中を押されるように希望が見えてきた。


「今怪浄隊が市民の避難誘導や怪字兵の対処をしている!もう襲われている人は殆どいないらしい、これで思う存分やれるぞ!」


「怪浄隊の皆さんまで……」


絶望しかなかったこの状況に、光明が差してきた。ここまで頼れる仲間が沢山いれば何も心配することはない。最早、負ける気がしなかった。

助けに来てくれた仲間に感動し涙を流しそうになったが、泣くのはまだ早い。無間を倒し、全てが終わった後で思い切り嬉し涙を流そうじゃないか。


「皆さん……ありがとうございます!俺たちは無間のところに行きます!後ろは任せました!」


「「「おう!!!」」」


「来てくれ!リョウちゃん!!」


「力を貸せ!トラテン!」


そうお礼を言った後、俺と刀真先輩は「画竜点睛」と「為虎添翼」の式神を召喚。俺はリョウちゃんに乗り先輩と勇義さんはトラテンの上に乗り一気に飛翔、無間を倒すため英姿町の上空を飛んで行く。


「あいつら……合宿の時とは比べ物にならないほど成長してるな」


「ええ、可愛らしいペットまで連れて」


「当たり前だ、儂の息子だぞ」


そして駆けつけてくれた皆は、残った怪字兵や式神と対峙していく。

パネル使いVSエイム、抗争と化したこの戦いは更に激しさを極めていくのであった。

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