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爆発寸前な男  作者: ZUNEZUNE
最終章:最凶最悪な男
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183話

(何か曇ってきたなぁ……降らなきゃいいんだけど)


英姿学園の教室にて、先生の教鞭を受けると同時に外の天気を気に掛ける発彦。勿論補習の内容を聞いていないわけじゃないが、ちょっとだけ上の空になっている。

窓から見える暗雲を見て連想するものは、それに似た物ではない。とある男のニヤケ面であった。その男と言うのは当然無間のことであった。

今となってはエイムへの警戒心はこのような曖昧なものへとなってしまっている。所謂平和ボケという奴だが、決してそのことを忘れているわけではない。しかしこの1年戦いに明け暮れた発彦にとって、こうも平和の日常が続くことに慣れていなかった。

そんなこんなで補習を受けていると、外の景色が何かおかしいことに気づく。


(……火事か?それにしても煙が多いな)


街の方の空が赤くなっており、何本もそこから煙が立ち上っている。火事にしては規模が広く、まるで災害のような状況に見えた。

今までのんびりしていた発彦も流石に異常に気付き、目を見開いてその景色を凝視する。対する教師は黒板に夢中で気づかない。


「……ん?」


そこでタイミングよくポケットに入れていたスマホのバイブレーションに気づき、先生に気づかれないよう机の下でそれを確認した。

それは駆稲からのメッセージ、ロック画面にたった3文字の内容が表示される。


風成駆稲:助けて


「……ッ!」


瞬間、駆稲のメッセージと外の景色というまったく関係の無い物同士が発彦の頭の中で結びついた。それで今何が起きているのかを察し、勢いよく椅子から立ち上がる。黒板ばかり見ていた教師が驚いて振り向いた。


「ど、どうしたんだ触渡?」


「先生――すいませんが抜けさせてもらいます!」


「は?お前何言って――」


先生の返答も待たず発彦は走り出し廊下の窓をすぐに開け、躊躇なくそこから飛び込む。駆稲の危機を感じ取った瞬間頭より体が先に動いていた。


「ちょ触渡!?」


そのまま綺麗に地面に着地しそのまま校門の方へ駆け出す。発彦の目は、とっくに街の方を捉えていた。





燃える町に人々の悲鳴が響き渡る。しかしそんな声もドタバタという足音で掻き消されてしまうが、叫び声が途絶えることはなかった。

そんな人々が恐れを抱いている対象は大量の怪字兵、数えきれない程の群れが炎の中から現れていく。曇りで薄暗くなっている辺りが、火の光で灯される。


「この……化け物めッ!」


そこで市民の皆様を守ろうと警官たちが前へ出て、怪字兵に向かって拳銃を発砲。この警官は前代未聞対策課の者ではない。なので使う銃弾もごく一般的なもので怪字兵には傷1つ付かなかった。

いくら人造とはいえ腐っても怪字、そこらのお巡りが倒せる相手ではない。しかし撃たれたことに対し怒りを立てた数匹の怪字兵がその警官へと襲い掛かっていく。


「おらおらぁ!どけどけどけぇ!!」


すると1人の若い男が車に乗り、前方に逃げ惑う人々がいるにも関わらず全速力でその中を走って行く。当然数人が轢かれそうになるも徐行する様子は見られない。


「何だ!?」


自分だけ逃げようと車を走らせる男、周りのことなど意に介さないその行動に天罰が下ったのか数匹の怪字兵が近くのビルの屋上から飛び降り、その車に蜘蛛のように張り付いた。

そして薙刀で穴だらけとなってしまい、減速して後ろの群れに追いつかれてしまう。蜘蛛の次は蟻のようにその車に怪字兵が群がっていく。


「うわああああああああああああああ!!??」


数十匹の怪字兵が車に集中しようとその勢いと数が減る様子は見られず、他の兵は逃げる人々を追い続けた。

まさに阿鼻叫喚、ここだけじゃなく他の地域にも怪字兵は出現し至る所で叫び声が響いている。言わば英姿町の駅前周辺が怪字兵に襲われているのだ。

その様子を歩道橋から見渡す駆稲、その光景は信じられないもので世界の終りのようにも見えた。


「英姿町が……どうすればいいの?」


最初は学校まで逃げようと思っていた駆稲であったが、この惨状を見てその希望は一気に崩れ去った。見たこともない数の怪字兵が町の中心部を襲っているのだ、絶望するなと言うのが無理な話だ。

そうしていると階段を上がってくる音が聞こえたのでその方を見ると、追ってきた怪字兵がこちらに迫ってきていた。


「……とにかく逃げないと!」


至近距離から怪字兵を見た駆稲は冷静さを取り戻し、急いで反対側の階段を駆け下りて逃げる。怪字兵はそれに対し階段を使わずそのまま飛び降りて追い始めた。

一先ず自分がすべくことは、この子を安全な所まで避難させること。駆稲はその強い意志で絶望に屈しないように少女を守り続ける。やがて学校までのルート上にある商店街で立ち止まった。


「こんなところまで……」


そこにも怪字兵が現れており、かつて人通りが多く賑やかだったその商店街も今や別の意味で賑やかであった。逃げ惑う人々の悲鳴、怪字兵の唸り、中には火事になっている店もある。

するとゲートの向こう側から人が一斉に逃げ出してきたので、駆稲もその流れに乗って走り出す。もしかしたらこの中に親御さんがいるかもしれないと踏んでの行動だ。


「あのッ!この子の親知りません!?」


「今それどころじゃない邪魔だッ!!」


しかし知っている人は皆無で逆に突き飛ばされそうになってしまう。見知らぬ人に邪険に扱われたためちょっとしたショックになりかけたが、後ろから迫ってくる怪字兵の群れを見て立ち直り、再び足を進めた。

逃げ続けながら自分の知っている町がどんどん変わっていく様を眺め、どうしようもない恐怖に襲われ何度も泣きかけた。しかし決して涙を流さない。


(発彦くんだって同じような想いを何度もしてきた!なのに一度も泣かなかった、今私が泣いたらこの子を安心させられない!)


そうしている間にようやく一息できそうな隠れ場所を見つけそこで足を止めた。他にもかなりの人が集まっており、怪字兵の姿にびくびくしながら潜めていた。

すると町中に取り付けられたスピーカーから、駆稲が聞いたことのある男の声が流れ始める。


『あー……聞こえてますか英姿町の皆さん』


(この声……あの時の!)


忘れもしない、自分の目の前で天空を殺した無間のものであった。もう二度と聞くことも無いだろうと思っていた人物が、スピーカー越しで英姿町の住民に声を聞かせる。


『僕の名前は無間、今あなた方を襲っている怪物を操っている者です』


その言葉を聞いて、辺りにいた人は一斉にざわつき始めた。ここだけじゃなく他の場所でもこの放送を聞いて自分の耳を疑っているだろう。いきなり怪物に襲われ、それを操っていますと言われて驚かない人間はいない。

しかし駆稲たちがどう驚こうがスピーカー越しなのでその様子は向こうに伝えられず、こちらの事情関係なしに話しを進めてきた。


『どうしてそんなことをしているのか、それは僕の力を()()()()()()()()()()です。もう分かってるとは思いますが、その怪物に武器は一切通じません。これを通じて僕の偉大さと戦力を世界に示し、驚異的な存在だと分からせます』


「……世界に?」


『そしてゆくゆくは、世界の王となる!そして祝福しよう、あなた方の死が、我が覇道の礎となることを!』


そこで放送は終わる。全体の反応としては半信半疑、もしくは理解が追い付かないといったものばかりであった。

ある程度パネルや怪字の事を知っている駆稲も困惑していた。突然の王宣言、そして今の無間の放送は、英姿町の全ての人間に「死ね」と言っているようなものだ。


「き、来たぞ怪物だぁ!!」


考える余地も与えず、その隠れ場所が怪字兵に見つかってしまい一同は散るように逃げ出す。最早安心できる場所など無いに等しく、駆稲も少女も逃亡を強いられていた。

しかし今は逃げることしかできない、駆稲は女の子を抱えなおしてまた走る。陸上部は速さだけでなく持久力にも優れている、なので学校までは何とか逃げ切れる――と思っていた。


「か、囲まれた……!」


いつの間にか駆稲たちは怪字兵に囲まれており、薙刀を光らせジリジリと歩み寄られていた。逃げ場はもう無い、すぐそこにまで怪字兵の壁が迫っている。


(どうしよう……もう逃げられない!)


彼女に戦う術はない、なのでこう囲まれてしまったら何もできなかった。その横を無理やり突っ走ることもできない、一緒にいる少女まで傷つけてしまう可能性があるからだ。

必死に打開策を考えた。しかし何も思い浮かばずただ焦りと恐れが脳内をぐるぐる回るだけ。緊迫した状況は彼女の心まで追い詰めていた。


(せめて――この子は助けないと!)


すると駆稲は一旦少女を地面に降ろし、そのまま抱きかかえてその姿を自分で殻のように守る。

あくまでこの子を守ろうとしているのだ。何故なら、()()()()()()()()()()と思ったからだ。

やがて周りの怪字兵が一斉に跳びかかり、薙刀を振りかざす。彼女は来るであろう激痛に目を瞑って覚悟を決めた。


(助けて――発彦君!)





「疾風迅雷!!!!」


瞬間、跳びかかっていた怪字兵の群れが一斉に薙ぎ払われる。横から一直線に走ってきた1人の男に突き飛ばされたのだ。

やがてその男は「疾風怒濤」を使い、目にも止まらぬパンチのラッシュで宙に舞った怪字兵を打ち砕いていく。気づいた時には周りの怪字兵は全て倒されていた。


「……発彦君!」


「すまん遅くなった!だけどもう大丈夫だ!」


その男――発彦は彼女の手を取り手助けする。学校からここまで「疾風迅雷」で走ってきたのだ。

この地獄に、1人の救世主が降り立った。

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