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爆発寸前な男  作者: ZUNEZUNE
最終章:最凶最悪な男
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182話

3月初め、英姿学園にて発彦はボーとして廊下を眺めていた。そこに何かあるわけではないがただ見ていた。

すると多くの生徒たちが列をなしてそこを渡っている。その中には先輩である刀真の顔もあり、目があったので手を振って挨拶する。彼らが来た方向にあるのは体育館までの道のり、それで何故こんなところにいるかは分かっていた。


(卒業式か……俺も来月で3年生かぁ)


3年生である刀真は今月に卒業、この時期になるとどの学校も卒業式の練習に駆り立てられるだろう。先輩たちが大移動している様子を見ると季節の変わり目のように見えた。

最近冬の寒さは通り過ぎていき、若干暖かくなってきた。そろそろ春風が訪れる時期であった。そしてそれは、在学生にとって進学の季節。とくにこれから3年生となる発彦たちにとって進路について悩まされる日々の始まりだ。

それはパネル使いとして活躍する発彦も同じ、流石に進路希望の紙に「パネル使い」とそのまま書くわけにもいかない。かといって怪字との戦いを止めるつもりは無い。


(やっぱ()()()()()よな……)


発彦に考えが無いわけでもない。一応自分の将来は考えており悩みに悩んだ。

しかし彼にとって、進路なんて小さく見えるほど他に優先すべき問題が存在していた。今はそのことで頭が一杯であった。


(あれからもう数日か……無間は今、どこにいるんだ?)


その問題とは勿論無間とエイム残党のことである。

不知火から「不老不死」を奪い不死身の体となった最悪の男、その詳細はあの突入作戦からしばらく時が流れた今でも分かっておらず、同じく小笠原大樹も姿を消していた。

確かに奴らは宿敵であったが、その姿が見つからない以上発彦たちも動けない。只今は今のように日常を過ごすしかなかった。

束の間の休息、嵐の前の静けさなど何とも言えるがそう数日間警戒心を張り巡らせることはできず、今となってはのんびりしかけている。


「ふぅ……何かしてくるなら早めにしてくれ」


「何の事?」


「のわ駆稲!?いや、何でもない……」


すると隣の席の駆稲に急に話しかけられたので、慌てて口ごもってしまう発彦。事情を知っている彼女には放しても良かったが、流石に教室の中で話す内容ではない。


「あっそうだ、今日学校早く終わるから駅前に疾東たちと遊びに行こうと思ってるんだけど……発彦君も行く?」


「御免、俺今日無理なんだ」


「……もしかして、()()()()()()用事とかあるの?」


「いやそうじゃなくて……」


「こいつ補習なんだよ!」


何かと察しの良い駆稲の誤解に何と答えれば良いのか迷っていると、後ろから友達の中島飛鳥がその答えを代わりに言ってくれた。その顔は発彦を揶揄う気満々といった笑みであった。


「今まで散々学校休んだりしてたからな、そのツケが回ってきたんだ」


「……というわけ」


「全部病欠とか事情があったとか聞かされたけど、ここだけの話ズル休みも含まれてるだろ?いやお前と初めて会った時、学校すっぽかす奴だとは思いもよらなかったぜ」


その休みというのが殆どが怪字戦による入院、傷を癒すためなどのもので病欠じゃないくらいなのは天空が死んでからの数日だけだ。

事情が事情だから仕方ないがこれをそのまま先生に話すわけにもいかず、今まで病欠と装ってきたが流石に出席数が危なくなってきたので、あえなくの補習というわけだ。


「そういうわけで、特に怪字関連は無いから大丈夫」


「……そっか、なら良かった」


すると駆稲は安心した様子を見せたが、その安堵が()()()()()()ことに発彦を気づかれる。

今まで何度もエイムの刺客と見てきた発彦と違って、彼女は奴らのような明確な悪意には慣れていない。なので呪いのパネルを悪用する輩がいるというだけでも怯えてもおかしくはない。

発彦と付き合っている手前、その程度では怖がったり動揺したりするなどの弱さを見せないようにしているのだろう、それを察した発彦は周りに聞こえないよう彼女の耳に口を近づけた。


「安心して、何かあったらすぐに助けに行く」


「……分かった」


そして学校が終わり、他の生徒たちが帰る中発彦は教室に残って補習の準備をする。一方駆稲と疾東、そしてその付き合いである雷門と迅美は女子だけのお買い物へと駅前に向かう。


「それにしても疾東から遊びに誘ってくれるなんて珍しいね」


「そう?アンタとは良い付き合いだと思うんだけど」


駅前の人通り、そこを4人で歩いている駆稲と疾東は何気ない会話を始める。多くの人がそこの道を渡り賑わいを見せている。

一行に買いたい物があるわけではないが取り敢えず駅前に遊びに行くことになった。この英姿町内に冬で楽しめる娯楽施設は少ない。暇を潰すには駅前と定番であった。


「……まぁ、触渡がいたからこうして遊べてるんだけどね」


「ああ、そうだったね」


1学期初めころまで疾東たちは駆稲のことを虐めており、それを止めさせ和解させるきっかけを作ったのは発彦である。

もし彼がいなかったら今頃虐めも続いていただろうし、クラスの雰囲気も変わらなかっただろう。そう言った意味でも発彦の存在は大きくなっていた。


「一応私、あいつに感謝してるの。もしアンタとあいつが付き合ってなかったら今頃好きになってたかも」


「えぇ!?」


先を進んでいた駆稲であったが、疾東の発言に勢いよく振り返り大声を出してしまう。その声で周りの人は何事かと自分たちの方を見て、対する疾東たちはケラケラ笑っていた。


「冗談よ冗談、私ああいうひ弱そうな人好みじゃないわ」


しかしその揶揄いの笑みは虐めの時のものと比べて爽やかな感じがしていた。雷門も迅美も同じように笑っている。

今大声に反応してきた通行人に、駆稲と疾東がいじめの加害者と被害者の関係であったと言っても信じないだろう。それほどまでに4人の仲は良くなっていた。


「てゆうかアンタたち付き合ってるなら何か惚気話とかないの?」


「むぅ……そういう疾東は好きな男子とかいないの?」


「そうねぇ……あのクラスで決めるならまだ中島の方がマシね。顔だけど」


女子高生というのは集まればどこでも恋愛話をする生き物だ、駅前通りを歩きながらワイワイと話す駆稲たち。

そうして適当な店に入ろうとした瞬間、近くの路地裏から何人かの人々が飛び出してきた。その様子はかなり恐怖に染まったものであり、自分たちが出てきた路地裏の奥を見ている。


「ど、どうしたんですか!?」


「に、逃げろ!()()()がいるぞ!」


そうやってその人は駆稲たちの横を慌てて素通りしていく。その反応に駆稲も含め周りも通行人たちも首を傾げる。

やがて、その元凶とも呼べる存在が路地裏から現れた。


「キャッーーーーー!!!」


1人の女性の叫びが合図となり、その近くにいた通行人が一斉に逃げ出す。

山吹色の服を身に纏い長い薙刀を振りかざす仮面の怪物、それが数匹の群れを成して太陽の下に姿を現した。


(もしかして……怪字!?)


突如現れた怪物――怪字兵に対し、その存在を唯一知っている駆稲。無間が襲撃した際に同じ姿を大量に見ており、またその時の記憶は衝撃的であったため中々忘れることもできない。

そうしてその路地裏だけじゃなく、他の場所からも続々と湧いてくる怪字兵。皆が獣のような目つきで通行人を捉え、薙刀を構えて襲い掛かってきた。


「逃げるよ疾東!」


「ちょっと!あの怪物何!?」


突然の出来事に戸惑う疾東たちの手を引っ張り怪字兵から逃げ出す駆稲、4人共陸上部のためか逃げ足は速く、また駆稲の方は事情を知っているため対応が完璧であった。

逃げ惑う人々を後ろから追ってくる怪字兵、ただ周りの通行人全員が元陸上部ということは当然ない。中には追いつかれて襲われそうになる人もいる。

駆稲の目には、逃げ遅れた女の子が映った。


「――ッ先行ってて!」


「ちょっと風成!?」


そして駆稲の体は、いつの間にか逆の道を走っていた。

疾東たちには先に逃げてもらい、少女に襲い掛かろうとしている怪字兵に向かって自分のバックを投げつける。


「大丈夫!?立てる?」


「うぅ……」


それで怪字兵が少しよろめいている間に駆稲は子供を抱きかかえ、急いで群れから逃げ出す。もう怪字兵の群れは完全に駆稲と少女をロックオンしており、全員でその2人を追い始めた。

しかし怪字兵は特異怪字のように中に人が入っているわけでもない、知性は人以下。なので戦う術を持たない駆稲でも十分怪字兵を振り切ることは可能で、地理の強さを生かして何とかまいた。


「ハァ……ハァ……怪我はない?」


「うん……」


「お母さんやお父さんは?」


「……分からない」


何とか助け出した女の子を安心させようとするも泣き止んでくれない。両親ともはぐれてしまったようでこのまま放置することはできなかった。

物陰に潜めて怪字兵から逃げている駆稲であったが、このままだと女の子の泣き声で見つかるのも時間の問題、何とか泣き止んで欲しいわけだ。

だがこんな小さな子供が怪物に襲われて泣くなというのが無理な話であった。親は子供にとっての全て、不安になるのも仕方ない。

そこで駆稲は、とある言葉を思い出す。


『駆稲は……暖かいなぁ』


「……大丈夫」


「……え?」


そう言って少女をギュッと抱き締める。決して力は込めない、自分の体温でソッと包み込むように優しくした。

するとさっきまで泣いていた女の子も静かになり、駆稲の方を抱き返してきた。とても怖かったのだろう、泣かなくなったがその手は震えている。


(この子は、誰かに頼りたいんだ。誰かの体温を感じたいんだ)


とどのつまり、駆稲は今だけ自分がこの子を親代わりになろうと思っているのだ。発彦にもそうしたように、温かみのある抱擁でその不安を拭い去った。

それが、唯一自分ができることだと信じて――


「お姉ちゃんが絶対お母さんとお父さんのところまで連れていってあげる」


「……うん」


そうしてその少女を抱っこし、周囲に怪字兵がいないことを確認してその場から走り出す。

正直駆稲にこの子の両親がどこにいるのかは分からない。だけどこういう場合広くて頼れる大人が沢山いる場所――つまり()()に向かえばいいと考えていた。

怪字兵のいる道は避け、その道のりに従って進んでいくといつの間にか橋の上に辿り着いていた。今までずっと走っていたため息を切らし、呼吸を整えるついでに何が起きてるのか高所から確かめる。


「……嘘」


そしてその光景を見て思わず絶句してしまった。

自分が知っている英姿町は煙が立ち上り、見える範囲で大量の怪字兵がのさばっている。辺りからは爆発音、人の悲鳴が絶え間なく響いていた。

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