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爆発寸前な男  作者: ZUNEZUNE
第十五章:エイムの本拠地
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180話

「不老不死」となってしまった無間との戦い、例え死ななくなった相手でも何とか勝機のあると思っていた俺たちは臆することなく立ち向かっていったが、その再生能力と強さは凄まじいものであの時と同じようにボロ負けになってしまう。

そのまま殺されるのかと覚悟を決めたところで不知火さんが身を挺して奴の体を抑えこむも、その後火球攻撃を受けてしまった。

爆発と共に吹っ飛ぶ不知火さんの体、彼女が宙に跳び下に落ちるまでの僅かな時間が、まるでスローモーションのように遅く見える。俺たちはそれを見てるだけしかできず、やがて不知火が下に落ちたところで体が動き、急いでその元まで駆け寄った。


「不知火さん!しっかりしてください!」


その体を支え体温が低くなっているのを感じたが、まだ息はあることを確認する。しかしその表情は青くなったままでとても無事とは言えない。はたしてそれが今の攻撃によるものなのか、それとも体内の「無間地獄」のせいなのかは分からなかった。

――今蒼頡の力を使ったってことは、「無間地獄」の抑制が一瞬解除されたということだ。つまり、この人はその僅かな時間に死のエネルギーに襲われることなど恐れず、俺たちを助けてくれたわけだ。

俺たちは彼女を助けるためにここに来たのに、その彼女も守れなかった挙句「不老不死」まで奪われるとは、何とも情けない話だろうか。


(俺が弱いばっかりに不知火さんが……)


自分の弱さが憎くなる。もしあの時無間を完全に仕留めていれば、今頃奴は不死身の体を得なかっただろう。無間をあんな強さにしたのは、俺のせいだ。

「奴が不死身でなければ」というのは、言い訳に聞こえるかもしれない。だがそれは紛れもない事実だ。バラバラに粉砕しても元通りになる敵に、どうやって勝てば良いのか?それも限界など無く文字通り永遠に活動し続けるだろう。不知火さんが「不老不死」の怪字を危惧していたのが良く分かった。確かにあんな相手に勝てる奴はそういない。


「ようやく静かになったか……最後まで僕の神経を逆撫でする人でしたね」


「……ッ!!」


その言葉を聞いて一瞬頭に血が上りかけたが、今ここで冷静さを失えばこいつから逃げる確率は確実なものとなってしまう。ここはいつものように怒りを心の中で抑えた。

しかし例え落ち着いていても確立が少なくなるわけではない、手負いの不知火さんを抱えどうやって奴から逃げればいいのだろうか?俺も先輩方もことごとく奴に負け、最早足止めする体力すら無い。


「無間先生、そろそろこのアジトが崩れます。お早めに……」


「ん……さっきの爆発が崩壊を早めてしまったか」


すると今まで後ろで無間の無双を傍観していた小笠原さんが動き、もうすぐここが崩壊することを報告する。彼の言う通り、最下層までの穴まで開いたこのアジトは、いつ崩れてもおかしくはない。

普通の人間なら生き埋めになって死亡、だが不死身の無間は違う。奴は時間に余裕を持って俺たちを自分の手で殺せるのだ。俺も当然それを警戒している。

しかし……


「興覚めだ、ここを出るぞ大樹」


「……よろしいのですか?」


「折角永遠の命を手に入れたんだ。例え目障りな蠅だろうが楽しみとして取っておかないとすぐに退屈になってしまう」


無間は俺たちにトドメを刺そうとせず、なんと見逃してくれた。これも一種の余裕と挑発なのだろうが、こんなに有難い話はない。奴に生かしてもらうのは癪だが、命あってのものだ。ここは堪えるしかない。


「さらばだ虫けら諸君、精々私の暇つぶしにはなってくれよ?」


「――上等だ!お前が言う蠅や虫けらは、すぐにでもお前の寝首を掻きにいくからな……!」


「覚えておこう、触渡発彦」


そう言って無間と大樹は炎に包まれ、そのまま天高く飛び上がり姿を消していった。確かにもう奴に喧嘩を売る資格は無かったが、負け犬の遠吠えぐらいなら許してくれるだろう。

――そうだ、俺たちは負け犬だ。結果的に一度も奴に勝てていない。だが次こそは、奴を倒してやる!

そんな奮起はともかく、今は不知火さんであった。彼女の容態はどんどん弱まっていき息を引き取る寸前であった。


「不知火さん!大丈夫ですか不知火さん!!」


「触渡さん……宝塚さん……勇義さん……」


「……すいません、貴方を助けに来たのに何もできず……」


「良いんです……結果的に『不老不死』はあの男に奪われてしまいましたが……こんな厄介者を助けようとしてくれただけで……」


崩れかけているアジトの中、俺たちは逃げる素振りも見せず彼女の側にいた。もう分かっているのだ、不知火さんはもう助からないことを。そして、()()()()()()()()ことを。


「……数百年間、ずっと死ぬ方法を探してきたのに……不思議だなぁ、その時になって死にたくないって思えてきました……結局どっちが良いのやら……」


不知火さんは、自身の「不老不死」をどうにか封じ込めた状態で死ぬ方法を探し続けた。それは「不老不死」という最悪の怪字を出現させないためのものであり、決してそれを残したまま死ぬことは望んでいなかった。

しかし俺たちが不甲斐ないばっかりにその希望を叶えられず、挙句の果てにその最悪の四字熟語を最悪な男に奪われてしまった。一体俺たちはここへ何しに来たのだろうか?


「……私は、数百年この国が育っていくのを間近で見ていました。人間が喜ぶ姿……悲しむ姿……数えきれない程の感情を感じて……それでも、『不老不死』を解き放ってでも死のうと何度も考えてきました」


「……はい」


「でも駄目でした。だって私は()()()()()()()……好きなものが壊されるのは絶対に嫌なんです……」


すると不知火さんは震える体を無理やり起こし、俺の手を握ってくる。呼吸も荒くなっていき、顔も真っ青になっていた。握ってきたその手からはもう殆ど体温が感じられず、氷のように冷えている。

しかしそんな瀕死の状態でも、()()()()()()()()()()()()()。真っ直ぐな視線をこちらに向け、もうそんなに力もでないのに強く俺の手を握る。


「だから……決して無間の好きにはさせないでください。私が見守ってきたこの国を、人間たちを、どうか守ってくれませんか……?」


「――はい!絶対に、守ります!!」


そしてその手を、俺は強く握り返した。すると刀真先輩や勇義さんもそれに手を乗せ、強く力を込めてくれる。

この手を握る強さは、彼女が数百年間の想いによるものだろう。俺の怪力なんか比べ物にならない程力強く握り、俺たちにそれを託してくれていた。

永遠に死ねないということに苦しめられた彼女にとって、今この瞬間がどれだけ待ち望んだことかは想像もつかない。ずっと死ぬ方法を探し続けた結果のゴールだろう。

しかし彼女には唯一の心残りがあった。それは不死身となった無間のこと、あいつが悪事を働く限り不知火さん、そして天空さんも安心して天国でこちらを見守れない。

天空さんからは人の愛を、不知火さんからは数百年分の想いを、俺は沢山の人から託されてばっかりだ。せめて彼らの想いを無駄にしないためにも、俺たち立ち止まるわけにはいかない。


「最後に……これを……」


「これは……『無間地獄』!?」


そう言って不知火さんは、掠れる声を唸らせながら体から4枚の四字熟語を取り出す。それは彼女をここまで瀕死に追い詰めた元凶である「無間地獄」、そして震える手でその四字熟語にリクターを取りつけ無力化させた。


「何で貴方がリクターを……?」


「くすねたんです……あいつに勝つには、この四字熟語が必要な筈です……!後は……お願いします」


そう言って不知火さんが俺に「無間地獄」を渡すと、震える手がだらりと落ち力を無くす。その綺麗な顔は静かに息を引き取った。

やがて彼女を看取った後、俺はその遺体を抱えて2人と顔を合わせる。とにかく今は脱出することを考えなければ。彼女の死や作戦失敗にいつまでも落胆している暇は無い。

俺たちは、不知火さんとの約束を守るために生きて帰る必要があった。


「……ここから出るぞ!」


「はい!リョウちゃん頼む!」


「トラテン!お前もだ!」


勇義さんの先導で式神を召喚し、俺は不知火さんと共にリョウちゃんに乗り刀真先輩と勇義さんはトラテンの背中に乗った。

空飛ぶ式神が俺たちを乗せて飛翔し、大きく開けた穴から上へと昇りあっという間に階を飛び越えて避難していく。こうしている間にも本拠地の崩壊は激しくなり、時々こちらに落ちてくる瓦礫は式神の攻撃と吹っ飛ばしていった。

途中先輩たちが倒してくれた鎧と長壁を回収し、そのままアジトから脱出して日の下に戻ってくる。俺たちが抜け出した瞬間に崩壊し、さっきまで俺たちがいた場所は瓦礫に埋もれていた。


「……冷たい」


ついそんなことを呟いたのは、外に出て冬の風に頬を撫でられたせいじゃない。抱えている不知火さんの遺体を触っての感想だった。

――冷たい人に触れるのは、これで何度目だろうか。少なくとも一番忘れられない感触は、天空さんの時だろう。

完全崩壊したエイム本拠地を背に、俺は目の前に広がる広大な湖を見渡した。狭い地下で繰り広げられた激闘の数々は、こうして水平線を見ることで終結する。

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