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爆発寸前な男  作者: ZUNEZUNE
第十五章:エイムの本拠地
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179話

「そんな……まさか特異怪字になるなんて……」


鳳凰のようなその怪字態を見て、一番驚いているのは不知火であった。発彦に抱えられながらも目を見開いて無間の新たな姿を凝視する。


「いくらリクターが蒼頡の力と同じような理屈だとしても……私でも『不老不死』の特異怪字にはなれなかった……それなのにどうして?」


「忘れたのですか?僕は貴方の子孫、つまり僕にも蒼頡の力がある」


そう、無間には不知火同様蒼頡の力を身に宿している。その力を駆使し呪力を抑え怪字化を防ぐリクター、人造怪字など呪いのパネル関連において様々な革命を起こしたと言っても過言ではない。


「リクターの性能+蒼頡の力、それによって通常時より更に強く呪力を抑えられる。つまり、『不老不死』の力を自由に操られるわけですよ」


すると無間は炎でできた翼を羽ばたかせ、瓦礫の山から離陸するとゆっくりその下まで移動し、発彦たちと同じ目線の高さにした。

最早完全に「不老不死」を我が物と操っている無間は、さっきまでのような取り乱した様子は一切見せない、圧倒的な余裕を見せつけていた。無理もない、絶対に死なない体になったのだから優越感に浸るなと言う方が無理な話だろう。


「さて……今の僕は気分が良い、不死身の体がどれぐらい素晴らしい物かを見せてあげよう」


そう無間が言うと炎の翼が更に強く燃え、体の赤色も更に濃くなっていく。瞬間四方八方に凄まじい熱風が向かい発彦たちを吹き飛ばさんと荒れ始める。それは「無間地獄」の極熱地獄に引けを取らない熱量で、一瞬でサウナにいるような温度になってしまった。


「俺と不知火さんの氷が溶けていたのは、この熱が原因だったか……!」


無間が不知火さんと自分を捕えるために凍らせたあの氷塊、一体何故無くなっていたのか?床が崩壊する時に一緒に壊れたのかと発彦が疑問に感じていた。

しかし本当の理由は、あの光と共に今のような熱風が起き地獄の氷を一気に溶かしたのだ。


「行くぞ!承前啓後ッ!!」


「はい!怒髪衝天ッ!!」


「不死身が何だオラァ!!」


そうして発彦は不知火を安全な所まで移動させ、刀真の「承前啓後」と同時に「怒髪衝天」を使用、そのまま怒髪衝天態へなり片方は承前啓後態になった。そして、特に変化があるわけでもないが任三郎もその隣に並んだ。

不死身の相手に戦いを挑むなんて無駄な行為だろう、しかし今戦わなければ無駄死にするようなものだ。そう判断した発彦たちは一気に走り出す。


「これでも……食らいやがれッ!!」


まず先行したのは任三郎は、拳銃を握り数弾の浄化弾を放った。それに対し無間は躱せるはずなのにその素振りも見せず、甘んじて全ての弾を受けた。

赤い体に幾つもの弾痕ができる。普通なら怪字ならこれだけでも結構なダメージになるだろう、しかし……


「弾痕が……治っていく!?」


例え怪字に効く浄化弾だろうが「不老不死」の前では無意味、そう言わんばかりに弾が食い込んだ部分が見る見るうちに治っていき、やがて何事も無かったかのように修復された。


「次は私だ!紫電一閃――十七刃旋風!!」


次に刀真が「紫電一閃」を使い17つの斬撃を斬り放ち、無間の体を反の嵐で削り取っていく。数秒もあれば奴の体は切り傷だらけのボロボロ状態であった。

しかしその傷も、溝が埋まるように治っていく。僅かな時間で全ての傷が無くなった。


「くッ――これも駄目かッ!」


「じゃあこれならどうだ――疾風怒濤!ゲイルインパクトォ!!!」


そして最後に発彦が飛び出し、無間の目前まで接近して「疾風怒濤」を使用、怒髪衝天態のパワーで何度もその体を殴り続けた。

拳が当たる度に食い込み拳の痕ができていく。やがて沢山のヒビが入りいつしか全身に亀裂が走った――だが。


「糞ッ!俺のゲイルインパクトもか!」


「フハハッ!素晴らしい、不死身の体と言うのはなんて甘美なものだろうか!」


「のわッ!?」


その怪我も回復し、そこでようやく無間は反撃として腕を大きく払った。その際に生じる熱風で全員が吹き飛ばされてしまい、辺りの瓦礫も台風が通ったように散らばった。


「攻撃を避ける必要が無くなったせいか……心に随分と余裕が生まれたよ。死をも超越した身だ、もう恐れることは何もないのだろうね」


「このッ――さっきまで取り乱していたくせに!!」


さっきまでの無間とはもう違う、ただの挑発でも心を動かすことはできず、他人の言葉など気にしなくなった。広い心の持ち主とも言えるが、物は言いようかもしれない。


「そう、この体になる前が未熟であったことは認めよう。しかしそんなことはもう克服した!何を言われても決して意に介さない寛大な心、そのも持ち主こそ王に相応しい!」


その寛大な心とやらが果たして本当に広い心と言えるのか、それともただ周囲を見下しているだけなのか、そのどちらかというのは分からない。

ただしこれだけは言える、無間という男は生まれ変わった。体も性格も――


「誇りに思え!君たちは僕が真の王となるための肥しとなったのだ!」


やがて無間は発彦の方へ滑空しその燃えるかぎ爪を振り下ろす。それをグローブで受け止めた発彦はその手を掴んで離さず、そのままもう片方の拳で無間の腕を叩き割った。

千切れかかった腕だが当然のように再生していく。こちらの抵抗は無駄だと嘲笑うかのように肉体の修復は素早く行われ、無間自身も大した表情はしていない。


「『我田引水』と似たような能力だな……」


「『我田引水』……?あぁ水鳥我為のことか、あんな四字熟語と一緒にしないでくれ、あの四字熟語は他人からエネルギーを奪ってそれで回復しているだけ」


水鳥我為とはかつて刀真に差し向けられたエイムの刺客、「我田引水」という四字熟語を使い人からエネルギーを奪い、それで自身を強化したり傷を治したりする相手だ。

つまり自分の傷を癒すという点では「不老不死」も「我田引水」も同じと刀真は言いたかった。しかしいち早く無間がそれを否定する。


「『不老不死』のエネルギーには()()()()!何百年経っても消えることの無い生命エネルギーが僕の中にある!そんな雑魚四字熟語とは格が違うんだ」


「くッ……ならこれならどうだ!行くぞ刑事!!」


「分かってる!」


すると何か考えがあるのか刀真と任三郎が前へ出て無間へと向かっていく。その際刀真は「一刀両断」の準備をし、体中の青いオーラを全て刀に集中させた。

そして2人同時に跳びかかった後、最初は任三郎の十手を腹に打ち込み、刀真の「一刀両断」が炸裂した。


「超刃ッ!!一刀両断ッ!!!」


着地と同時に振り落とされたその一太刀は、無間の頭から刃が入り股まで綺麗な真っ二つに斬り裂いた。文字通り一刀両断だろう。

本来なら断たれた体が左右に分かれるところだが、その肉体が分裂することはなく断片が合わさり何事も無かったかのように元通りとなる。今の一撃の痛みが届いたかどうか分からないが、無間の反応はただを鳴らすだけであった。


「真っ二つにしても駄目なの――ガッ!?」


「宝塚!――がはッ!?」


自慢の一撃も効かなかったことに驚きを隠せない2人は、そのせいで回避行動に後れを取り無間の熱風攻撃に吹き飛ばされてしまう。至近距離であの熱波を浴びたため致命傷にはならなかったが酷い火傷を負った。

刀真と任三郎をほぼ一撃で吹き飛ばした無間、その目が次に捉えたのは発彦であった。急いで「疾風迅雷」で一旦後退し、隙を突いて攻撃しようと考えていると、無間がとある提案をしてくる。


「『()()()()』を使うといい、何なら僕から触れてあげよう」


「はぁ!?」


つまり、自分からプロンプトブレイクに当たりに行くということだ。相手が触れてこないと打てないのが「一触即発」の弱点であったが、それを知っていて尚触れてくれるというのは普通なら有難い話だろう。

しかしこの提案は一種の挑発、「一刀両断」も任三郎の十手を受け止めた後で「次はお前の一撃も受けてやる」と言っているようなものだった。ここまで戦っておいて「一触即発」の能力を理解してないということもないだろう。


「上等――約束は守れよな!」


それに対し怒りを感じながらも、発彦はその言う通りに「一触即発」を使用し待機状態に入る。もしかしたらそう誘導しておいての罠かもとは思ったが、無間は特に何かをしようとするわけでもなく、ゆっくりと動けなくなった発彦に歩み寄ってくる。


(いくら体が再生するからとはいえ、先輩と勇義さんの一撃をすぐに治せるとは思えない。つまり、表面上の傷は治せてもその体の中にはまだ亀裂がある可能性がある!そこにブレイクをぶち込めば再生できない程バラバラにだってできる筈!)


発彦の狙いは強烈な一撃を無間に当て、その力でその体を再生しきれない程木っ端微塵にすることであった。怒髪衝天態のパワーと「一触即発」ならそれが可能であり、一瞬で奴の体を粉砕することができると考えている。

しかし本当にできるのか?さっき見た「不老不死」の瞬時の回復力をみたせいか発彦は自慢の怪力に疑心暗鬼となっていた。

果たして怒髪衝天態の力は通用するのか?これ程の怒りで足りるのだろうか?しかしそんな心配は、目先まで接近してきた無間の次の行動で解消される。


「おー……よしよし」


「ッ!!!!」


確かに無間は「自分から触る」と宣言した。こうして発彦に触れていることでその約束を果たしているだろう。しかしその()()()()()()()()()()

何の敵意も込められていない右手をゆっくりと伸ばし、その手で()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。まるで親が子にするように、手でその髪を触れてきた。


(――ぶっ殺す!!)


挑発とか舐められているとかそういう問題じゃない。無間に父親代わりだった天空を殺された発彦にとって、この動作は怒りを買う以外の意味が無い。

瞬間、発彦の頭で何かが切れ、「一触即発」の性質上とかそういうもの関係無く体が動いていた。


「――プロンプトッブレイクゥ!!!」


強く拳を握り、力強く敵の腹部にめり込ませる。発彦のブレイクは身体の奥にまで撃ち込まれそこから中心にヒビが全身に走り、いつしか亀裂だらけとなった無間。やがて音を立ててボロボロに崩れ去った。

ざまぁ見ろ、と言わんばかりに勝利の笑みを見せる。粉々になった怪字態の中に人間の姿が無いとなると、中身の無間までバラバラになったのかとゾッとしたが、勝ちには変わりない。

今更人を殺めただけで罪悪感に襲われるようじゃ今までどうしてきたんだと、そんな自問自答は後ですることにして発彦は後ろを振り返った。


「やった!やりましたよ先輩方!!」


全ての元凶、そして絶対に倒せないと思われていた敵を倒せた達成感を仲間と共感しようと刀真たちの顔を見たわけだが、その表情に喜びと喝采は見られず、それどころか怯えている表情で発彦を見ていた。

いや、正確には()()()()()を見て――


「さっきのより随分パワーアップしてるじゃないか……発彦君?」


「……え?」


発彦の両肩に、ポンと後ろから手を置かれる。まさか――触られた瞬間発彦の心臓は飛び跳ねるように鼓動し、冷や汗を流しながら後ろを見る。

そこには、バラバラとなった破片がパズルのように修復され、いつしか完全復活した無間がそこに現れた。肩に置いてある手のヒビも消えるように治っていき、全身に広がった傷が消えている。

数えきれない程散らばった肉片が元に戻っていく様は、目を見開き息を呑む光景で流石の発彦も動けなくなってしまう。そこを突かれ、無間の膝蹴りが命中する。


「うがッ!?」


「触わた――リィ!?」


「速ッ――!」


刀真たちのところまで蹴り飛ばされた発彦、任三郎がそこへ駆けつけるも素早く移動してきた無間の攻撃に襲われる。同じく刀真も凄まじい熱風に襲われ、3人共ほぼ同時に倒されていく。

炎の翼で上がったその速さにボロボロの状態の発彦たちが追い切れるわけもなく、その全身に攻撃を打ち込まれていった。


「バ、バラバラにしても駄目なのか……!」


「当然、体を木っ端微塵にするなどそこの女も試していただろう。決して死なないから『不老不死』なのだ!」


最早打てる手が無い、どんな状態になっても再生して完治する相手にどうやって勝てば良いのか。絶対に倒せないという絶望、心身と共に追い込まれていた。

やがて無間は両手を合わせ一気に開くと、とんでもなく巨大な火球ができあがる。あまりのデカさに周りの瓦礫が吹き飛び、空気も熱せられて突風を起こしていた。


「そろそろ終いにしよう。君たちとはこの間顔を合わせたばかりの短い付き合いだが、こう別れとなると寂しく思うところもあるな。君たちとの抗争も、僕が王となるための試練だったかもしれない」


「ぐッ……ここまでか……!?」


「さらばだパネル使い諸君!!あの世で僕が支配する世界を眺めてるといい!!」


そう言って無間はトドメを刺そうと、巨大火球を放とうとする。思わず目を閉じてそれを受けようとした発彦たちであったが、一向に痛みも熱さも感じないのを不思議に思い、視界を開いてみる。

そこには「不老不死」の怪字態になって初めての苦痛の顔を浮かび上げている無間の姿、その火球を撃つことなく体を震わせていた。


「こ、これは……蒼頡の力……!不知火永恵ぇ……!!」


「し、不知火さん!」


何故無間が動けなくなっているのか、倒れている不知火が手を光らせて無間に向かってかざしているからであった。

持ち前の蒼頡の力で無間を抑えつけ、何とか発彦たちを助けようと必死に力を使っている。しかしそれは、体内の「無間地獄」に力を使っていないということ、こうしている間にも死のエネルギーに体を蝕まれ血反吐を吐いた。


「不知火さん……俺たちの為に……!」


「ええい!どこまでも抵抗するか我が先祖ぉ……!だがなぁ、貴様のちっぽけな蒼頡の力で僕が抑えられるかぁ!」


しかし不知火も瀕死の為完璧にその動きを抑えられるわけでもなく、それより無間の力の方が上であった。

やがて自分を縛る女に鬱陶しくなったのか、無間は火球を放つ方向を彼女の方に変え、震える両手で力強く撃ち込んだ。


「不知火さーーーーーんッ!!!!」


急いで助けようとする発彦であったが、傷だらけの体が思うように動かず火に包まれる不知火を眺めるしかできなかった。

そして次に見たのは、全てを覚悟してこちらの微笑みを向ける不知火。しかしその笑顔も、爆発に呑み込まれていくのであった。

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