17話
私はとある日、父に呼ばれる。
畳が広がる和室にて、距離を置いて父と対峙していた。
袴を身に纏い、胡座を掻き両手を袖に入れて袖手している。荘厳な顔付きで白い髭が更に威圧感を高めていた。両目を瞑り、何も言わない。それは私も何も言わず、ただ正座している。
沈黙が数分続くと父はようやく口を開いた。すぐには喋らず、しばらく溜めて声を発する。
「厳しい鍛錬を……よくぞ耐え抜いた。我が息子よ」
「はい、父上」
父の落ち着いた声がゆっくりと耳に入っていく。
そして目が開かれた。父の視線が俺に向かった。
「お前なら宝塚家の代々伝わるこれを授けられる」
そう言って父は懐から何かを取りだし、それを床に置いて私に差し出してきた。
それは4枚のパネル。「伝」「家」「宝」「刀」と書かれた物だった。
「それは我が宝塚家の歴代当主だけが使うのを許される家宝、本来ならばお前が学生を卒業した時に渡そうと思っていたが、今のお前なら使いこなせるだろう」
「ありがとうございます。我が家の家宝、しかと受け取りました」
私はそれを一礼して受け取り、自分の懐へと入れる。
父が私に期待してくれた物だ。この身に代えても後世に継がせないといけない。宝塚家の家宝、幼い頃からそれを受け取るのが義務であった。18年間この為に生きてきたと言っても過言ではない。
「17代目当主は、『宝塚 刀真』とする!」
「はい、お任せ下さい!」
ある日の学校生活にて、私風成は廊下で歩いていた。
夏休みまであと数日。なのでとても上機嫌。どれぐらい上機嫌かと言うと廊下を軽いスキップで渡る始末である。
そのせいで、角を曲がった瞬間誰かとぶつかってしまった。
「きゃっ!?」
私はその勢いで尻餅をついてしまう。相手も同じように転んでしまった。
「ごめんなさい!大丈夫ですか!?」
慌てて立ち上がりぶつかってしまった人へと駆け寄る。つい調子に乗ってしまった。
「だ、大丈夫……」
「って……神崎先輩!」
顔を見てみると、顔を知っている人だ。3年生の「神崎 美出」先輩。1年の時、私が学校で迷っている所を助けられ、それ以来仲良くやっている人だ。
「あ、風成ちゃん」
その濃い青色の長髪に付いた埃を払い、ゆっくりと立ち上がる。しかし白い美肌には一切の汚れは付いていない。学校内でも5本の指に入る美人である神崎先輩、彼女のファンも少なくないと言われている。
「すいません先輩、前見てませんでした」
「どうしたの風成ちゃん、そんなに上機嫌で」
「はい!もうすぐ夏休みなのでテンション上がりまくりで……あ、先輩は受験勉強ですよね、頑張って下さい!」
「うん、頑張るわ。所で風成ちゃん、ダンスの相手決まった?」
ダンスというのは、夏休みの二日前に開かれる全学年参加のダンス大会だ、あと三日後にやる。大会と言っても2人で一組作り、各自自由に踊るだけのものだが。一緒に踊る相手は予め決めておくのがいい。そうしないと当日余った人同士か先生と踊るハメになるからだ。
「まだ決めていませんけど……?」
「だったら私と踊ろ!」
「えぇ!?でも先輩には……」
予想外のお願いに驚く私。神崎先輩なら多くのファンから踊る相手に申し込まれたと思っていたからだ。別に私じゃなくても良いはずだ。
「やっぱ最後のダンス大会は仲が良い後輩と踊りたいの……駄目?」
「……勿論です先輩!」
私は嬉しくなり、神崎先輩に抱きつく。神崎先輩も私を抱いてきた。
まさかそんな風に思われていたなんて……うれしい!
だけどそれが、あんな事件のきっかけになるなんて、思いも寄らなかった。
何だよあの女!僕の美出にラブラブしやがって!あいつはレズなんかじゃねーよ!
しかも、美出と最後に踊るのがお前だとっ〜〜!?
ふざけるな!美出と踊るのは僕だ!モブのブス女がしゃしゃり出てんじゃねぇ!
美出は僕のだ!僕の女だ!
ぶっ潰してやる!僕と美出の仲を引き裂く女なんて!