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爆発寸前な男  作者: ZUNEZUNE
第十五章:エイムの本拠地
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175話

正直言って「無間地獄」は、今まで戦ってきた怪字や刺客の四字熟語とは規格外であった。

「地獄の苦しみを現世に伝える」、傍から聞けばあやふやなその能力は炎や氷、音攻撃や刺突など様々なことができる。まるで四字熟語を複数使っているようなその多様性は、今までの経験上無かったものだ。

しかし問題なのはその能力の強さじゃない、()()()()()()()であった。


(あの時のように、全ての攻撃でどんどん攻めてくるだろうな……!)


無間という男は所謂地獄の力を自分の手足のように操れる。それは奴自身の戦闘経験の豊富さ、天賦の才能から来るものであり、「無間地獄」の強さに見合った人間と言うことでもあった。

天空さんと互角に戦い、3人で挑んだ俺たちを一瞬で蹴散らしたあの強さは中々忘れられないものだ。流石はエイムのボスと言いたいところだが、あの時は俺たちも鎧たちとの戦いで疲労していたのも原因の1つだろう。

今日も流次郎や先ほどの式神と戦闘済みという状況だが、流石にあの日程は疲れていない。というより既に吹っ切れていた。

そう言って自身を鼓舞するも、「たった1人で勝てるのか?」という不安は掻き消せない。刀真先輩や勇義さんが来るまで逃げていた方が良いのでは?そんな考えにも至った。


(――馬鹿ッ!こうしている間にも不知火さんが苦しんでいる!俺が怖気づいてどうすんだ!!)


しかし今の俺には時間が無い。不知火さんが殺され、「不老不死」を奪われるより前にこいつを倒して彼女を助ける必要があった。1人で勝てるかなんて関係ない、何とか隙を突いて不知火さんの救出に向かおう。

さっき俺は天空さんの仇を取ることより、不知火さんの救出を優先すると言った。確かにそう思っているのは事実だが、だからといって今目の前に立っているこいつに怒りの感情が湧かないという話にはならない。

この男さえいなければ、天空さんが死ぬことは無かった。小笠原さんが比野さんを裏切ることも無かった。犠牲になった怪浄隊の隊員の皆さんも、今頃は平和に暮らしていただろう。


「――うおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!!!」


今ばっかりは怒りに身を任せても良いだろう、獣のような雄たけびを上げながら走り出し、拳を振りかぶって突撃する。

それに対し無間は何か言ったり構えたりもしない、ただ見透かした表情でこちらを見てくるだけ。そんなすかした顔をぶち抜いてやる!

すると地面から黒い針が突起し、再び俺の進行方向に立ちはだかった。それを軽々跳び越えそのまま真上から拳を振り下ろした。


「どらぁあ!!!」


「……ッ!!」


その打撃に対し無間は腕を差し出してそれを防御、体に当てることはできなかったがその腕に亀裂を走らせることはできた。

「銅頭鉄額」でもないのにたかが腕の盾で俺の攻撃を受け止めるなんて舐められたものだ。何故避けないのか?


「相変わらずのパワーだね、弾丸すら傷1つ付けられない怪字の体を打ち砕くそのパンチを、もう一度受けてみたかった」


「んなッ!?ふざけるなぁ!!」


つまりわざと俺の攻撃を受けたのだ。舐められているなんて生易しいものじゃない、明らかに興味の対象としか確認されていないのだ。

一種の余裕だろうか?それでもこちらの力量を測るために自分の腕を出すとは思いついても実行などしないだろう。規格外、何をしてくるか分からないその不安さが俺の心を煽ってくる。


「だったら――もっと食らわせてやるッ!!」


しかしその程度で足踏みしている暇は無い。追い打ちとして無間に何度も殴りかかるも全て躱されていく。

虚空ばかりを突く俺の拳、「疾風怒濤」程ではないが素早い動きで連続打撃を繰り出しているが余裕の表情で避けられ、足で奴の顎を蹴り上げようとするもそれも躱され足を掴まれてしまう。そのまま遠くを放り投げられた。


「づぅ――!危なッ!!」


宙で態勢を立て直し地面に着地、すぐに前に視線を戻すと目前まで黒い火球が迫ってきていたのでグローブの手で弾き飛ばす。

「極熱地獄」――地獄の炎を呼び出しそれを丸めてこちらに放ってきていた。それに対し全ての火球を弾きながら無間の元へと一直線に走り出す。


「疾風怒濤ッ!!ゲイルインパクトォ!!!」


「極寒地獄」


そのまま接近した後「疾風怒濤」を使用し、足によるゲイルインパクトを繰り出すも、無間は地面を凍らせ氷の壁を形成してそれを防いだ。

当然その壁は粉々に砕けてが、既に無限の姿がそこになく気づけば背後に取られている。


「背中がガラ空きだよ――針山地獄!」


「ッ――八方美人ッ!!」


そうして後ろから黒い針で刺突してくるも、咄嗟に「八方美人」を使用し回避する。何とか空中で体を反らして迫る針を躱し、そのまま伸びてきた1本の針に掴む。

……この針が天空さんを刺し殺した。地面から生え、あの体に無数に突き刺さった。


「……ッどらァ!!」


沸き起こる怒りに耐えられなくなり、掴んだ針を軸にして体を回し、その回転力で勢いを上げた蹴りを無間の脇腹に命中させる。

踏み込みができなかったため大した威力ではないが、そこに亀裂を作るには十分なパワーだろう。奴は脇腹をソッと撫でで反応を示す。


「――くッ!」


「おっらぁあああああああああ!!!」


その後すぐに針を足場にし、無間に向かって真っすぐに跳び上がりその顔を膝で蹴り飛ばした。強烈なのを入れることができたが、奴は足をブレーキにして立ったまま耐え抜く。

それでも俺の突撃は止まらない。その懐に潜り込み再び「疾風怒濤」を使い、両手によるゲイルインパクトでその全身を殴り叩いた。

どんなに殴っても怒りが収まらない、どんどん心の底から怒気が噴出され爆発しそうな勢いだ。あの時を怒り、今の今まで溜めてきた。こんなので落ち着くわけがない。


「ぶっ倒してやるッ!!!」


「まぁ落ち着きたまえ」


更に怒りをぶつけようと拳を振りかぶるも、その手を奴に受け止められてしまい、そのまま腕ごと捻られそうになる。腕が折れそうになるも必死に抵抗し、掴まれた手を解放しようとする。

するとこちらごと自分の手を地獄の業火で燃やそうとしてきたので、その体を蹴り飛ばし急いで避難した。いくらグローブを付けているとはいえこの距離で燃やされたら一溜りも無い。


「海代天空のことで怒っているのだろう?僕も申し訳ないと思っているよ」


「どの口が……言うかッ!!」


その口から出てくる言葉が一々こちらの神経を逆なでしてくる。優しい言葉遣いでそれをしているため余計腹が立った。

何が申し訳ないだ、本当にそう思っているなら殺すなという話になる。少しでも自分の罪に自覚があるなら、どうかこのまま殴らせ欲しい。だがその考えは()()()であった。


「彼を僕の王への道の礎と認めよう、それがせめてもの弔いになるだろう」


「……貴様ぁ!!」


こいつは、天空さんを殺したことを微塵たりとも気にとどめていない。自分の行いを()()()()()()()()のだ。まるであの人の死を尊い犠牲のように扱うその言動は、俺の逆鱗に触れてくる。

なるべく余計なことは言わないよう考えていたが、もう我慢できない。パンチに乗せる怒りだけじゃなく、言葉としてこいつに憤怒をぶつけたかった。


「お前の!下らない野望で、どうして天空さんが犠牲にならなくちゃいけないんだ!!何故沢山の人々が死ななくちゃならないんだ!!!」


叫びながら何度も無間に殴りかかるも全て躱され無の中へと消え去るが、その言葉はちゃんと奴の耳に入っていく。

どうして天空さんが死ななくちゃならなかったのか?どうしてこんなことができるのか?色々なモヤモヤが全て怒りへと変わっていった。ストレスなんて生易しい言葉じゃ例えられない程のどうしようもなさ、まるで子供のように暴れるくらいでしか発散ができない。


「我が覇道の為ならば、少しぐらいの犠牲も必要なんだよ!何の代価も得ずに、王になれるなんて甘いことは思っていない!!」


「綺麗ごとだ!!ただ自分の悪事を正当化しているだけだろう!?」


「君が僕を悪と思うならそうなのだろう、だが僕にとって、()()()()()()()()()()()だ!!」


どうやら話は平行線らしい、元々こいつらとは分かり合えないとは思っていたが、ここまで話が通じない程狂っているとは思っていなかった。

しかしそれは、ある意味人の上に立つに相応しいかもしれない。他人がどう言おうが自分を曲げない芯の強さ、どんな手を使ってでも前に進む不動の精神。悔しいが鎧と長壁があそこまで惹かれるのも納得がいく。

だからこそ、それが一番ムカついていた。


「叫喚地獄ッ!!」


すると今の言い合いで無間の方も興奮してきたのか、さっきまで見られなかった強い叫び、勝利への欲望が強く前へ出る。

そうして奴の足元を中心に、赤い液体が広がっていった。


(まずい!あれが来る!!)


その様子には憶えがある、今にそこから大量の亡者の顔が現れ一斉に叫び出す。その音量は鼓膜が破れる程で、耳を抑えなければ耐えられないものであった。

急いで両手でそれをし、来たる大合唱を耐える準備をする。あの時は初めての攻撃で対応しきれなかったが、流石に二度目は食らわない。


「づぁッ――!!」


そうして予想通りそこから叫び声が発され、空気を振動させてこちらの聴覚を直接攻めてくる。耳を抑えていても結構効き、かつてない不快感が頭を支配してくる。

間に合って良かった、内心ホッとしていると赤黒い猛火がこちらに迫ってきていた。


「ッ!――だぁ!?」


急いでその炎を跳んで避けると、今度は無間本人が迫りこちらを蹴飛ばしてきた。空中尚且つ両手が塞がっている状態では思うように動けず、そのまま吹っ飛ばされて壁に激突した。

音攻撃によるこちらの動きの制限、合宿で戦った「表裏一体」を思い出す。あの時はワインのコルクを耳栓にして対策していたが、代用できるものなど周囲に無いだろう。


「がはッ……ここは?」


すると蹴られた勢いで壁にぶつかり、そのまま突き破ってその部屋へと入り込んでしまう。機械が混雑して置かれているその空間は、奥にあるカプセルなようなものが印象的であった。

しかし俺にとって、一番に目に入ったのはその中にいる人である。


「――不知火さんッ!」


「……ッ!」


救出対象の不知火さんだ、カプセルの中でプラズマに襲われ苦しんでいた。向こうもこちらの存在に気づき、必死に助けてもらおうとこちらを見てくる。

まだ生きているということは、同じく体内の「不老不死」も無事ということだ。時間がかかるとは言っていたがどうやら間に合ったらしい、たった今摘出している途中なのだろう。


「不知火さ――!!」


「させるかッ!!」


急いで助けようとするも無間にその首元を掴まれ、そのまま反対側の方へ投げられてしまう。一気に彼女から遠ざかってしまった。


「危ない危ない、僕としたことがうっかりしてた」


「不知火さん……良かった、まだ無事か……」


「いや、もう無事じゃなくなるさ。不知火永恵はすぐに『不老不死』を抜かれ死に絶える。彼女が望んでいたことさ、僕はその手伝いをしているだけ」


すると無間はいけしゃあしゃあと見下しながらそんなことを言ってくる。それに対し俺は、()()()()()()()()()()()()

急に笑われたことを不快に思ったのか、今まで余裕を見せていたその顔が僅かにしかめる。


「……何がおかしい?」


「不知火さんが死にたがっていた?確かにその通りだ。だけどそんなことはいつでもできた、何故しなかったのかと思う?その場合怪字になってしまう『不老不死』が解放されるからだ!」


そう、彼女は死にたいという望みを持っているが蒼頡の力による抑制を止めればいつでも自分を不死身の体から解放することができる。

しかしそうすれば、「不老不死」という誰にも倒せない怪字が解放され、大勢の犠牲が出る。それを危惧して今まで死ねない苦しみを耐えてきたのだ。


「それは……お前みたいな悪党に好き勝手させないためでもある!あの人の苦しみも分かっていない癖に、知ったような口をきくな!!」


もしこの突入作戦が成功し不知火さんを取り返せたら、俺たちは彼女が安心して死ねる手伝いをするつもりだ。確かにあの状況は彼女が一時期願ったものかもしれない、だがそのせいで人々が不幸になってしまうのは望んでいなかった。


「不知火さんの怒りを……俺が代弁する!怒髪衝天ッ!!!!」


そうして俺は「怒髪衝天」を使用し、全身に赤く燃える怒りのオーラを身に纏う。髪も逆立て、鋭い目で無間を睨みつけた。

怒髪衝天――最早こいつに勝つ手段は、これしかない。


「この怒りは……()()()()()()()()()()


全身を赤く燃やし、ゆっくりと無間に歩み寄る。その表情にはもうこちらを舐めている感じはしない、1人の敵として俺を認識している目だ。


「刀真先輩や勇義さんに不知火さん、そして天空さん……皆の怒りだ!!!」


赤い足で床を蹴り上げ、一直線へと無間に跳びかかる。それに対して、奴も両手を炎で包み込み走り出した。

地獄の炎と怒りの炎、その両方がぶつかり合う――!

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