表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
爆発寸前な男  作者: ZUNEZUNE
第十五章:エイムの本拠地
174/194

173話

「この浄化弾を――食らえッ!!」


「そんな遅い弾、避けるのなんて訳ない!」


鎧と刀真が戦っている間、その隣の資料室では未だに任三郎と長壁の激しい銃撃戦が続いており、そこら中発砲された弾丸で転がっていた。

刀真たちは自分たちの戦いの轟音で聞こえていないが、先ほどからこれでもかというくらいの銃声が鳴り響き、聞きなれない者からしたら騒がしくて仕方ないだろう。


「ならこっちだって、何度でも十手で弾いてやる!!」


自分の浄化弾を躱されている中、任三郎は放たれる弾幕を全て十手で防ぎ続け、敵の弾丸の命中を阻止していた。

両者非凡な射撃力を持っており、その間で嵐のように弾が飛び交っていても躊躇なくその中で争いあっていた。

しかしどちらが優勢かと聞かれたら、間違いなく長壁の方だろう。何故なら、「飛耳長目」の力で浄化弾を躱しているからだ。


(やっぱり「飛耳長目」の回避力は凄まじい、これじゃあ銃も十手も当たらん!)


強化された視覚と聴覚の前では、飛んでくる浄化弾や打ち込まれる十手なんて止まっているように見えるだろう。目と音で攻撃を捉えるその避け方は、最早無敵と言っても過言じゃない。


(ただ本当に無敵ってわけじゃない!じゃなきゃ今頃負けてる、あの目と耳をどうにかする方法はある!!)


しかしその回避力にも穴はある。まぐれみたいなものだが現にさっき任三郎の攻撃が当たっていた。そして一番の回避能力がある四字熟語は何かと聞かれたら、間違いなく発彦の「八方美人」と答えるだろう。

その「八方美人」にすら弱点はある。なので「飛耳長目」にも必ずそれはあると確信していた。


(どうすればいい?両方ともいかなくとも視覚と聴覚、そのどちらかを対処できれば大分楽になるはずだ)


「私の目と耳をどうにかしようと考えてるんでしょ?そんなのは無理よ、どんなに悪条件であろうと貴方を撃ち殺す自信はある!!」


すると長壁は2丁の銃を巧みに使い連続的に銃弾を打ち続けていく。その弾幕は任三郎に立ち止まらせることを一切許さず、狙いをずっと彼に定めていた。

何も「飛耳長目」を駆使して高められるのは回避力じゃない、その目で相手の僅かな動作も見逃さず、耳で足音を捉えることで任三郎の次の動きをほぼ完全に読み取ることができる。

なのでただ動き回っているだけじゃ避け切れないのだ。対する任三郎もそれ程までとはいかないが長壁の銃口の向きを見て、弾の軌道を予測して躱している。

このように撃っては避け撃っては避けと両者同じことの繰り返しでこの戦いは長引いていたが、回避力も射撃力も断然長壁の方が上手である。


(だがそれはあくまでの「飛耳長目」に頼り切ってのもの!あいつ自身の力じゃない!)


しかしその四字熟語はかつて任三郎にも修行をつけてくれた鷹目という女性の物、つまり人から奪った能力なのだ。

そこで任三郎は、何とかそこを使って挑発し、その射撃に隙を与えることはできないかという考えに至る。


「おい!人から奪ったもので勝つ勝利は嬉しいか!?」


「……」


「それとも何だ!?自分で怪字を倒せないから仕方なく小笠原の奴に頼み込んだのか!?そんな臆病者に俺が負けるとでも――とのわッ!!」


そうして走りながら必死に挑発の言葉を放つも、その鋭い射撃に狂いは一切できず的確に任三郎を狙い続けている。


「生憎だけど私にそんな安っぽい手は通用しないわ。御託を述べたいのなら好きなだけ言うと良い、もっともそれが遺言になるけどね」


ただの挑発では駄目だった、何かないかと必死に自分の語彙力を活かし相手を冷静でいられないようにする一言を考えていく。

しかし任三郎は長壁という女性を良く知っていない。なので何をコンプレックスにしているのか、何を言われると嫌なのかが分からなかった。精々知っているのは……


「――大体お前たちの先生も先生だ!何が王になるだよ安っぽい夢だな、そんなつまらない考えしかできないあの男も、所詮はお里が知れるな!」


「ッ!!碌な挑発もできない癖に、私の無間先生を侮辱するなぁ!!!」


そう、長壁は不知火無間に狂信的な忠誠を誓っている。一緒にいた鎧と比べてその精神は幼い、なので任三郎はその無間を貶されたら怒ると睨んだ。

案の定向こうはその挑発に激高し、怒りに身を任せて拳銃を放ってきた。今まで任三郎の動きを予想して撃たれていた弾丸と比べ、その弾は感情的で正確ではない。


「――しめたッ!!」


「しまッ――がッ!?」


その粗っぽい狙撃を掻い潜り、任三郎は十手の振りかぶって一気に長壁の元まで接近しその首元を力強く突く。刺さるまでとはいかなかったが、その先端が深く食い込み、彼女は吹っ飛ばされる。

ようやくまともな一撃を与えられた、そんな達成感を身に宿すも決して油断はしない。任三郎は倒れている彼女に向かって追撃の浄化弾を放った。


「キャ!?こ、この――!!」


いくら目と耳が優れていようが、攻撃を受けた直前――それも首を突かれた時にまともな避け方はできず、全弾とはいかないが数弾その体に銃弾が撃ち込まれていく。

しかしそれでもすぐに態勢を立て直し、銃弾を躱していく。もっと攻めようと思っていた任三郎であったがそこで一旦攻撃の手を止める。


「どうだ?その挑発に見す見す乗ってしまい、そしてそのせいで攻撃を受けてしまった気分は?」


「ハァ……ハァ……このぉ……!!」


思った以上には攻められず致命傷とはいかなかったものの、その体に大きな傷を与えられたことは事実。数か所の銃痕に突かれた首元のヒビ、元々「飛耳長目」の怪字態は鎧のように硬いわけでもなかった。


「私にならともかく、無間先生も侮辱するなんて――許さないッ!!」


「それはこっちの台詞だ!お前らの下らない野望のせいで、どれだけの犠牲が出たと思う!?」


長壁の怒りに同調するように、任三郎も今まで抱いていた怒気を叫びとして露わにし、そのまま長壁に向かって走り出した。

それは向こうも同じ、やや冷静は取り戻したものの拳銃を持つ手にまだ怒りが残っている長壁は、真正面から向かってくる任三郎に発砲していく。

すると任三郎は接近しながらも迫ってくる弾丸を全て十手で弾き、そのまま彼女の足元に滑り込む。そしてそのまま浄化弾を数弾放った。


「ぐッ!このぉ!!」


すぐ真下からの銃弾に対し長壁は視覚と聴覚で躱そうとするも、先ほど受けた傷によって思うように動けず1発分だけ脇腹に命中する。

長壁は急いで足元にいる任三郎を撃ち殺そうとするも既に移動されており、背後を取られて背中に十手を打ち込まれてしまう。

任三郎はそこから追い打ちをかけようとするも、これ以上攻められてたまるかと言わんばかりに長壁が勢いよく振り向き、すぐに自分の拳銃を打ち込んだ。


「がッ――!!」


敵の弾丸が右肩に当たり、激痛と共に血が飛び散る。撃たれた衝撃で任三郎が後ろへ押され尻餅をついたところで、さっきの仕返しにと長壁の弾幕が襲い掛かった。


「ッとォ!!」


流石にこの状態で十手による弾きは不可能と判断した任三郎は、急いで立ち上がり右に走り出す。再び彼女からの弾丸から逃げるという姿勢に入った。

今の攻防により挑発が有効であることを確信した任三郎、だがそれ以上煽ることは無い。


(これ以上無間のことを言えば何してくるか分かったもんじゃないからな)


理由はそのまま続けていれば長壁はさらに激高し、こちらが予想もできないことをしてくる可能性があるからだ。

その判断は任三郎の刑事としての経験上から導き出した答えであり、追い詰められたり感情的になっている犯人は時折やけを起こして無茶苦茶なことをしてくることがあった。

それは今の長壁にも同じことが言えるわけで、冷静じゃなくさせるどころかこれ以上怒らせて攻撃が苛烈なものにする必要は無い。


(寧ろ、あの程度で怒るとは予想外だったな)


「ちょこまかと逃げて……ならこれならどう!?」


すると長壁は銃口を任三郎――ではなく天井にある()()()狙いを定め、躊躇なくそれを撃ち抜いた。

瞬間資料室は真っ暗になり、両者()()()()敵を捉えることができなくなってしまう。


「しまった!視界を――ッあ!!」


長壁の考えをすぐに理解した任三郎は急いでその場から離れようとするも、脇、足にかけてその銃弾を撃ち込まれてしまう。


「聞こえるわ、貴方の荒い息遣い、鼓動の音、足音が」


(じ、自分から目を塞ぎにいくとは……!)


確かに照明を落とせばどちらとも目が見えなくなるが、「飛耳長目」の視覚が使えなくとも聴覚で十分辺りの探知は補える。耳で任三郎の居場所を感じそこを銃で狙っていた。

対する任三郎は暗闇の中自由に行動できる程耳が優れているわけでもない、そしてさっきのように十手で弾いたり躱すなんてことはできなかった。進行方向も見えないため、この()()()()()()()()()()()()()で自由に動くことはできなかった。できたとしても足音で勘付かれてしまう。


(落ち着け私……こうなった以上あの男はすぐにでも殺せるはずよ。音で大体の場所は分かるから1発1発着実に当てていく!)


挑発による激高は既に収まっており、落ち着きを取り戻した長壁は聴覚による探知をより正確なものにするために()()()()()、耳に全神経を集中させていく。

そうしてどんどん銃弾を撃ち込んでいき、暗闇で任三郎を確実に攻めていった。流石に音だけで体の部位は判定できないため、脳天や心臓など1発でお陀仏になるところには当たらなかったが、それでも体中に銃弾が撃ち込まれる。


「これで終わりよ、無間先生を侮辱したことを地獄の底で後悔するといいわ」


やがて数弾撃ち続けた後、そのトドメを刺すために更に拳銃を握りしめる。この漆黒の空間の中で唯一相手が分かるのは長壁だけであり、彼女だけが自由にできる場といっても過言ではなかった。

そうして放たれる銃弾、しかし次に聞こえたのは任三郎の悲鳴ではなく、()()()()()であった。


(十手で弾を弾く音!?馬鹿な、こんな暗い中で弾が見えるわけがない!)


そこから続けて発砲、しかし全ての弾が金属音と共にどこか別の場所へ被弾する音しか聞こえない。銃弾が撃ち込まれて漏らす情けない声や、肉が千切れる音もしなかった。


(まさか……勇義任三郎は四字熟語を使わない主義だと聞いていたけど、パネルを――!?)


「おっと、何か誤解していると思うから言っておくぜ。俺は四字熟語も呪いのパネルも使わないようにしている」


しかし任三郎に思考を読み取られ、思わず焦りと僅かながらの恐怖心が長壁に宿る。四字熟語の能力なしで暗闇の中どこから飛んでくるかも分からない銃弾を弾くのは不可能の筈だ。


「俺はちゃんと目で見て弾いているぜ?――()()()()()()()()?」


「――ッ!!これは……!?」


そう言われて長壁は咄嗟に目を開き後ろを振り向くと、真っ先に目に映ったのはメラメラと滾る赤と朱色。そしてそこからは黒い煙が出ていた。


「ほ、()!?本と棚が燃えている、どうして!?」


そこには猛火に包まれその火の燃料と化している本棚や資料の姿があった。任三郎が言っていた「何か聞こえる」というのはこの炎が燃え盛る音であり、その近くにいたものの自分の銃声でまったく気づけなかった。

そしてこんなに燃えていれば、勿論()()()()()()()()()。それは長壁の体も当然含まれている。


「!!、しまッ――!!」


「遅い!」


それを見た長壁は瞬時に任三郎の意図を理解、急いで振り向いて抵抗しようとするもその通り時すでに遅し。気づいた時にはどんな素早いものでも捉えることができる目で、目先まで迫っていた弾丸を確認していた。

その浄化弾は1㎜の狂いもなく長壁の脳天を貫き、細い穴を作る。やがて頭を撃ち抜かれたことにより、怪字態の体はどんどん崩れ長壁は人間の姿でその場に倒れた。


「ど、どうして……」


「お前の明かりを消す作戦、実は()()()()()()()()()()()。だけどこの状況で暗くしても自分の首を絞めるだけ」


すると任三郎は燃え盛る炎を指さし視線を誘導してくる。そこで長壁の頭の中にできた疑問は、「どうして燃えたのだろう?」というものであった。

ここは資料室、火気厳禁なのは当然だし周りに火を出すものなどあるわけない。しかしこうして資料室の一部は炎で包まれている。


()()()()だよ。喫煙者なんでね、いつも持ち歩いているんだ。それを崩れた本棚の下に点火したまま滑り込ませたわけ」


「いつのまに……そんなことを……」


「さっき逃げ回っていた時さ、苦労したぜお前の目を盗んでライターを点けてそれを落とすなんて……まぁ挑発のせいで俺ばっかりに注目してたんだろ」


「飛耳長目」と言えど目が良くなっただけでその視界が広くなったわけではない、当然1つのものに注目し続ければ視界は狭まり、見える物も見えなくなってしまう。歩きスマホによる事故と同じことだ。

そう説明しながら任三郎は彼女が落とした「飛耳長目」を拾い上げる。ようやく鷹目の四字熟語を奪い返せた。


「俺も照明を撃つつもりだったんだが、まさか先にやられるとは思ってなかった。でも結果的にお前の姿を炎の光に照らして倒すことができたな」


逆にこの作戦は資料室だからこそできたもの、もしこの場が廊下だったり隣の修練場だったりしたら今頃長壁が勝っていたかもしれない。


「そんなことって……無間先生……申し訳……ございません……」


「流石に毒薬で自害はしないか。まぁさせるつもりもない、お前らは生きたまま罪を償ってもらう」


最後まで無間の役に立とうと震える手で拳銃を握ろうとした長壁であったが、その前に力尽きて気絶してしまう。

こうして任三郎と長壁の銃撃戦は、刑事の勝利に終わる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ