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爆発寸前な男  作者: ZUNEZUNE
第十五章:エイムの本拠地
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172話

「はぁあッ!!」


一方発彦が任せ素通りにした戦いの場では、刀真と鎧が文字通り火花を散らして己の武器を打ち合っていた。

迫りくる鎧の鋼の拳を屈んで避け、刀真の力強い一太刀がその甲冑の体に切り裂く。致命傷ではないが確実に深い傷であることは確かであった。


(この男――刀を振る度に一太刀の威力を上げている!)


すると刀真は刀を一度鞘に納め、力強く抜き「紫電一閃」の斬撃を斬り放つ。真っ直ぐ向かってきたその17枚の斬撃に対し、鎧は両手を前に出して真正面から受け止める。

その勢いに押されながらも全ての斬撃を手で受け止め、そのままあらぬ方向へ放り投げた。今ので手が斬られかけた鎧であったが、その体には1つも斬撃が当たらなかった。


(承前啓後態の「紫電一閃」を手で受け止めきるとは……!!)


また刀真も鎧の成長ぶりをその硬い体を見て実感する。どちらもお互いの成長を認め合い、それに驚きながら戦っていた。

この鎧という男、無間に忠誠を誓いエイムに身を置いてはいるが、その性格は武士のように主に対しての一途さと敵とは思えない程の爽やかさを持っている。

そしてそれは刀真も同じ、「伝家宝刀」に己の全てを込め真の自分を隠すことなくさらけ出していると鎧は感じていた。

とどのつまり、2人ともお互いのことを認め合っているのだ。自分の表情が緩み少しだけ微笑んでいることも気づかずに。


「……最初は触渡発彦だけに注目していたが、まさかお前がここまで俺と渡り合えるとは思っていなかったぞ。その刀で全て突き刺すように自分の決めた道を突き進んでいる」


「――それは貴様も同じだ。人の四字熟語で悪さをする奴だと思って最初は良く思っていなかったが……今では友のような親近感が湧いてくる。無間の為にとどんな困難も突き破って進むその姿は、敵ながらあっぱれだ」


やがて一時休戦し、抱いていた相手の感情を思わず口にしてしまったのか攻撃の代わりに称賛の声を掛け合った。さっきまで殺し合っていたとは思えない程和やかな空気になり、お互いを褒めちぎり合う。

しかし喜々と話し合っていても、刀真の刀を握る手は放すことはなく、鎧の拳も一向に緩まなかった。


「……一応言っておくが、投降するつもりはないか?」


「フッ、さっきお前自身も言ってたではないか。俺に無間先生を裏切るつもりがないのは分かっているだろう?」


しかしお互いを認め合い、理解し合っても決して譲れはしない。寧ろ分かり合っているからこそ平和的にこの問題が解決できないことを察しているのだ。

すると鎧は再び構え、それに合わせて刀真も刃を向けた。


「俺はこの硬さで、先生の覇道を塞ぐ壁を粉砕していく。お前は、その壁だ宝塚刀真!」


「私もだ。この『伝家宝刀』で、全ての怪字と悪を切り裂く。お前もそのうちの1人だ!鎧!!」


そう叫ぶと2人はお互いに向かって走り出す。そして横から入る刀真の一太刀と、鎧の籠手が衝突し合った。

その際の火花と金属音は今まで以上のもので、その志が強い事を示している。自分の正直な気持ちを叫び合ったことでスッキリしたのか、2人の攻撃は更に強力なものへとなっていた。


「十七刃ッ!!猪突猛進突きィ!!!」


「うおらぁああああああああああ!!!!」


刀真の17本分の突きと鎧の連続パンチがぶつかり合い、辺りに凄まじい衝撃波が走る。「伝家宝刀」の刃先、鎧の拳が1つ1つずつ衝突していく。

すると刀真は斬り上げて牽制した後、一旦後退していき再び斬撃を放ち続けた。まるで嵐のように多くの斬撃が鎧に向かって飛んで行く。


「おらぁああ!!!!」


それに対し鎧は斬撃が迫ってくる前方ではなく自分の足元を力強くパンチ、それで床を砕きその破片で壁を作り斬撃を防いでみせた。

しかし瓦礫の壁だけで全ての斬撃を揉み消せるわけもなく、数発は壁を斬り裂いて鎧へと命中し、その甲冑の体に幾つもの亀裂を走らせる。


「づぁ――!!」


態勢を僅かながら崩す鎧、すると刀真は何と()()()()走り鎧へと迫ってきた。そして床には一切足を置かず、壁に立ったまま横から刀を食らわせる。

破片を壁にしたせいか刀真が壁に飛び移る様子を確認できなかった鎧はそれに対応しきれず、その脇腹を斬られてしまう。


「ぬぅうおおおおおおおッ!!!」


しかしそれだけで倒れる鎧ではなく、そのまま右足で回すようにキックを繰り出し、刀真を壁に叩きつけた。


「ガハッ――!!」


「おらァア!ぜやァ!!」


そうして刀真を壁にめり込ませた後、追撃として何度も殴り続ける鎧。刀真の体はどんどん壁の中へと埋め込まれていく。その壁は鎧がさっき突き破った壁の向こう側、その隣に部屋も無いので突き破ることは無い。


「ガハッ!ゲホガッ!?アァ!!」


「おおおおおおおおおおおおおッ!!!!」


叩きこまれる鋼の拳、刀真の体は傷と痕だらけとなりいつまでも殴られていた。あまりのパンチの勢いに成す術もなくただやられるしかなかった。


(このまま殴り潰してやる!全力で応えてやるのがこの男に対しての礼儀だ!!)


やがて鎧はしばらく連続パンチを繰り出した後、トドメの一撃にと右拳を強く振りかぶる。

鎧は刀真という男に惚れ、その男気にこちらも全力で応えようと敢えて全力で殺しに来ているのだ。あくまでも無間にとっての「害」であったが、一応その性格は認めていた。

そうして重い一撃をボロボロの刀真に食らわせようと、力強く殴りかかるも――


「なッ――がぁあ!?」


瞬間、鎧の右腕が穴だらけとなりそのまま()()()()()()()()()()()()()()()()()

隻腕となった鎧に刃の先を向けているのは他ならぬ刀真、その手には「猪突猛進」が握られていた。


「ハァ……ハァ……ようやく一矢報いてやったぞ……!」


「こ、この腕を切断するとは……!」


ボロボロの姿で何とか立ち上がり、それでも刀を握る手は決して緩めない。対する鎧も例え右腕も失っても戦う意思までも失ったわけじゃない。

すると2人は互いに深呼吸をし、そのまま歩み寄って至近距離で睨み合った。両者満身創痍の姿でいながらも決して無くならない戦意をその視線に乗せて訴えかけていた。


「もう小競り合いは止めにしよう――次の一撃でお互いの全てを出し切ろうじゃないか」


「良いだろう、私も暇じゃないんだ」


そう言ってお互いに最高の攻撃の準備をし出す。

鎧は額に磨きをかけて頭を後ろに引き、刀真は「一刀両断」を使い「伝家宝刀」に青い光を集中させていく。

この決着の付け方は、ある程度の()()()()()()でもあった。何故なら、これ以上戦い合えば敵味方の考えを逸脱し友情すら湧いてきそうだからだ。


(……この男がパネル使いであったら、良い友になれただろうな)


(宝塚刀真が、エイムの一員であったら良き仲間になっていただろう……)


一瞬そんな考えが過った。敵がもしこちら側だったらという儚くも希望に近いその思想は、2人にとって今まで感じたことも無いものであった。

しかしそれ以上に頭の中を映ったのは、()()()()()()()()()()()であった。


(発彦や刑事――父上の為に!)


(無間先生の為に!)


((この男を倒す!!))


やがて最大限まで力を溜め、ようやくその一撃を放つ準備が終了する。また一息つき、両者姿勢を低くした。

遠慮や手加減をする必要は無い。何故なら()()()()()()()()だ――!



「超刃ッ!!一刀両断ッ!!!!」


「――鉄額ッ!!!!」



17人分の力が合わさった一太刀、一番の硬さを誇る額での頭突き、それらが勢い良く衝突し凄まじい風圧と衝撃波を放つ。

今まで以上の金属音と火花を散らし、そして一番の力がぶつかり合った。まるで相撲のように前へ前へと押し、相手を倒そうと足腰に力を入れる。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!!!」


「おらぁああああああああああああああッ!!!!」


やがて2人が立っている床がどんどん陥没していき、周りの壁も次々と剥がれていく。刀真と鎧の勝負は周囲も巻き込んでいき、最早頑丈そうな修練場は見る影もなかった。


「俺は負けないッ!!無間先生の王政の為にも!!!!」


「ぐッ――!!」


すると鎧の鉄額が次第に刀真を押していき、刀身を押し込みその顔に迫ってくる。鎧の無間への忠誠心が更に頭突きの威力を上げていた。

やがてその足も後ずさんできて踏み込んでいようが押されてしまっている。こちらの超刃で押し切ろうとするも向こうの方が凄まじかった。

やがて刀真の脳内に、とある人物たちの顔が過っていく。老若揃って次々と鮮明に浮かび上がってきて、そして最後の方には()()()()()()()()()()。合計1()6()()である。


(ち、父上――今のは、歴代当主の顔か?)


今まで「承前啓後」を使った際に魂と幻影の存在として顔は出てきたが、あそこまでハッキリとしたビジョンで見えたのは初めてであった。

何故今刀真の頭にそれが浮かんで来たのか?その歴代当主たちの顔は、全員()()()()()()で視線を向けていた。


(そうだ――私は宝塚家17代目当主刀真!今ここで負けたら、歴代当主たちが紡いできた想いを無駄にしてしまう!)


宝塚家は怪字退治の家、自分が去った後の世も守るため「伝家宝刀」と共に自身の想いと強さを継承させ、後世に全てを託した。

その力を使って刀真が思い描く未来は、「怪字が存在しない世界」――!その為にも……


「負けて――堪るかぁああああああああああああ!!!!!」


「な、何!?」


瞬間、鎧同様刀真の力も強化されていく。刀に集中した青い光も更に強くなっていき、やがて鎧の額を押し始めた。


「鎧!!お前がどんなに硬い甲冑で無間の壁となろうとも、私――いや()()()が!お前たちの主もろとも断ち切ってやる!!!」


そして刀真は「伝家宝刀」を振り切り、頭から下にかけて見事に切り裂く。最初は一番硬かった額に刃が食い込み、そこから刀が振り落とされる形となったのだ。

「銅頭鉄額」、無敵の強固を誇るはずの四字熟語の甲冑が、今()()()()()()()()


「こ、これが……宝塚刀真の……志か……!」


すると真っ二つに裂かれた怪字の体から、鎧本体が姿を現しそのまま崩れるように倒れてしまう。それと同時にリクター付きの「銅頭鉄額」も床に落ちた。


「なんという……()()()だろうか……」


「……鎧、貴様の志も……()()()()()硬かったぞ」


そうして鎧が気絶している最中、刀真は「銅頭鉄額」の4枚を回収し懐に入れる。

これで恩人である虎鉄の四字熟語を取り返せた。そんな喜びは後にし、今はただ全力を尽くして戦った鎧を、口には出さず心の中で称賛するのを優先した。


宝塚刀真VS鎧、これにて決着である。

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