171話
「うおッ!?」
突如として現れた式神、牛頭と馬頭は2人同時に襲い掛かり共に金棒で殴りかかってきた。あの部屋から出て廊下で戦っているわけだが、さっきからその打撃を躱してばっかりである。
さっき避けた一撃は床に当たり、そのまま酷く陥没させた。
「中々のパワー……まぁ俺ほどでも無いがな!」
そう言って馬頭の方の金棒を掻い潜った後、その鍛え抜かれた腹筋にパンチする。いくらその巨体でも俺に殴られたら後ずさるしかないだろう。
どうやら防御面では普通らしい、ここは一気に攻めさせてもらう。
「ッと危ない、もう1匹いるのを忘れてた!」
しかしそうは問屋が卸さないと、牛頭の方が殴りかかってきたので一時退避する。
見たところあの2匹は連携してかかってきている。片方ばかりに集中していると不意打ちを食らう可能性もあった。
(まるで『表裏一体』のようだが……もしかしてこいつらも1つの四字熟語で2匹になっているのか?)
その連携ぶりを見て真っ先に思い出したのは、鶴歳研究所の山で戦った同島兄弟、あいつらは「表裏一体」という1つの四字熟語で2人同時に特異怪字に変身し、同時に襲い掛かってきた。
多分この式神たちも1つの四字熟語から生まれた存在だとは思うが、どうやらまったく「表裏一体」と同じわけではないらしい。その証拠に、馬頭の腹を殴っても牛頭にはダメージが入ってない。「表裏一体」はその意味通りダメージや傷も共有していた。
「片方倒すだけで良い……ッてわけにもいかないか!」
そう呟いて俺は再び2匹に突撃していく。すると奴らは大いに金棒を振り回しそれに応えてくる。
どうやらパワー重視ということだけで素早いわけでもないらしい、ならば攻撃に集中すれば何とかなるはずだ。
「おらぁあ!!!」
俺は馬頭の横払いを跳んで避けた後、そのままその顔に向かって跳びかかり蹴りを入れる。すると今度は牛頭の方が殴りかかってきたので振り落とされた金棒を両手で受け止めた。
本来なら棘付きの金棒を手で受け止めれば一溜りじゃないだろうが、切れない仕組みのグローブに守られているため大丈夫だ。
しかし、受け止められても牛頭は金棒に力をかけていく。両手で支える俺を潰そうという魂胆だろう。
「このッ……俺に力で勝てると思うなよ!!」
だがそれに負けるほど俺も弱くはない、両手に全ての力を込め逆にその金棒を下から押し返してやった。そしてそのまま態勢を崩した牛頭に追撃しようとするも――
「がぁッ!?」
横からの打撃を防御することができず、そのまま殴り飛ばされて壁に激突してしまう。馬頭が金棒で後ろから殴ってきたのだ。牛頭の攻撃に両手を使っている時を狙われた。
「ッ……!!」
金棒の突起が体に食い込み、想像以上の痛みが全身を走ってくる。それでも何とか立ち上がり、ファイティングポーズを取った。
すると2匹は、こちらに向かって走り出し同時に襲い掛かってくる。
「うおおッ!八方美人ッ!!」
そうやって俺は「八方美人」を使い牛頭と馬頭を迎え撃つ。迫りくる2本の金棒の乱打を躱しつつ、カウンターとして素早い一撃を奴らに当てた。
すると牛頭の方が払い上げるように殴りかかってくる。そこで俺は「八方美人」ではなく「一触即発」でそれを受けた。
「プロンプト――スマッシュッ!!!!」
そうして受けた打撃に反応し力強いスマッシュで金棒と激突し、持ち主の牛頭ごと殴り飛ばした。
すると今度はそれを見ていた馬頭が後ろから金棒を振ってくる。それをバク転で回避しその上に乗り、そのまま右拳をその頭部に撃ち当て追撃として回し蹴りで蹴り飛ばした。
「これで後1匹か……」
そうやって俺は牛頭の方を倒し、ようやく1対1の勝負に持ちかけたと思っていたが――突如として背中で殺意を感じ取る。
「ッ!!まだ生きていたか!!」
それは倒したと思っていた牛頭であり、真上から金棒を振り落としてきたので咄嗟に後退して退避する。すると今度は蹴り飛ばした馬頭が起き上がり背中から打ってくる。
「ずあッ!?」
背中を金棒で殴り飛ばされ、その勢いで床の上を転んで行く。すると近くにいた牛頭が武器の先端でこちらの頭部を潰そうとしてきた。
急いで起き上がってそれを起き上がり、2匹の式神を同時に見る。鮮明になったせいか背中の痛みがズキズキとより酷く感じられた。
(プロンプトスマッシュは確かに当たったはずだ……それなのに何故!?)
牛頭の腹には確かにスマッシュの痕が残っているが、未だピンピンと動いている。今のスマッシュは上手く当てることができたので倒した事を実感したが健在であった。倒せなくとも少しぐらい動きが鈍るはずだ。
防御力はそこまで優れているわけでもない、それなのにまったく効いてる様子が見られないとなると……
(こいつら……耐久力があるのか!)
現にさっきから数発殴っている筈なのにこれといってそのダメージが動きに影響を及ぼしているようには見えない。つまり何度殴られてもすぐに起き上がる忍耐力と動き続ける体力を持ち合わせているのだ。
このままだと、予想以上に時間がかかって不知火さん救出に間に合わないかもしれない。
「仕方ない――怒髪衝天ッ!!!!」
無間戦に温存していた体力、出し惜しむ余裕は無い。
俺は「怒髪衝天」を使い、湖での戦いのように怒髪衝天態へと進化を遂げる。そのパワーで一気に押し切ろうという考えだ。
「行くぞ――牛に馬が!!!」
そうやって俺は赤く燃える手でクイクイとやって挑発、その意味を理解したのか2匹は鼻息を荒くして襲い掛かってきた。
2つの方向から迫りくるそれぞれの金棒、それに対し避ける素振りも見せず片手で受け止める。そのままその金棒を握りつぶしてヒビを入れさせ、そのまま馬頭の方に殴りかかった。
「疾風怒濤!!ゲイルインパクトォ!!!!」
そうして連続パンチを繰り出し、赤い両拳をその馬の顔に何度も叩きつけていく。
いくら耐久力に優れていようが、怒髪衝天態のパワーでそう何度も殴られたら堪らないだろう、馬頭は勢いよく吹っ飛び床を転がった。
すると牛頭の方が突撃し、後ろから金棒を振り回してくる。普通の人間ならそれに巻き込まれただけでミンチだろう、だが――
「とっとと終わらせてやる!!」
その回転を片手だけで止め、そのままその首元に跳びかかる。まず最初は顎を蹴り上げ、次に牛の両角を掴みそのまま頭突き、その後は両拳を握って額に叩きつけた。
圧倒的な怪力でその体を殴り続け、やがて牛頭の体はボロボロとなりつつある。金棒を振ろうにもそんな隙も与えず、ただひたすらに乱打を続けた。
(どんなに耐久力に優れていようが、怒髪衝天態の前には敵わない!!)
そうして最後の一撃として右拳を振りかぶり、力強くその腹部を殴り飛ばす。まるで弾けるように牛頭は吹っ飛んでいき、壁に激突する。するとダメージを受けすぎたせいかその巨体はどんどん縮んでいき、やがてリョウちゃんやトラテンのようにミニサイズとなった。
可愛らしい姿だが逃がすつもりは無い、そのまま踏み潰そうと近づくと、さっき殴り飛ばしたはずの馬頭が襲い掛かってきた。
「比野さんのウヨクとサヨクみたいに、お前らにも仲間意識はあるのか?」
しかし振り下ろされた金棒を受け止め、背中を向けたままその腹部に不意打ちを入れる。そうしてすぐに体を向きなおし、今度はその首を素早く蹴り上げた。
まぁ片割れが倒されたら誰も怒るか、そんな自己解決をした後ジリジリと馬頭に歩み寄る。もうすっかり怯えており、こちらが近づくと後退していった。
しかし主の為にと戦意は残っているのだろう、震える手で金棒を振ってきた。
「……俺にとって、そんなのただの棒きれだ!」
それを軽々両手で受け止めた後、そのまま左右を掴みまるで割り箸のように真っ二つに折って見せる。
そして武器を亡くした馬頭の腹部を殴り、その腹筋に大きな穴を開けた。
「これで終わりだ!プロンプト……」
そのまま俺は跳び上がり、奴の頭上まで移動するとそこで再び「一触即発」を使用し待機状態のまま馬頭の上に落ちた。
どうせエレベーターは使えない、なので穴を作ることにした。
「ブレイクッ!!!!」
馬頭の頭を上から殴りつけ、その拳圧で床を突き破らせて一気に最下層まで殴り飛ばす。吹っ飛ばされた馬頭はどんどん階ごとの床に穴を開け、やがて一番下の階まで落ちた。
俺もその穴で一気に下の階へと降り、その最下層で倒れこんでいる馬頭の元まで駆け寄った。するとこいつも小さな状態になり、すたこらさっさと逃げていく。
追おうとは思ったが、今優先すべきことは不知火さんの救出だ。最下層まだぶち抜いたわけだがここはどこだろうか?
「何だこの部屋……」
一旦怒髪衝天態を解き、周囲の様子を見渡す。見たことも無い機械が沢山あるので、その部屋をどう例えたら良いのか分からなかった。少なくともここに不知火さんがいるとは思えない。
そして一番近くにあった機械を恐る恐る見てみる。まるで台座のように大きいもので、宝箱のように開閉するものだと理解した。蓋部分がガラス状になっているため何が入っているかが見えたので、少し覗いてみるそこには――
「なッ……人造パネル!?」
先ほども襲い掛かってきた怪字兵を形成する人造パネル、それが大量にその中に入っていた。枚数にして15枚程度、全て厳重に保管されており、機械の中ではそのパネルに何本もの管が付けられており、紫色の何かが注入されていた。
そうしてとあることに気づいた俺は、再びこの部屋全体を見渡す。さっきも言った通り、これと同じ装置がいくつもあった。
「これ全部人造パネルか!?」
1つの装置につき人造パネルが15枚、その計算でいけば現在この部屋には何枚のパネルがあることになるのか。装置の数が多すぎてその答えは分からない。しかし100枚は余裕で超えているだろう。
「人造パネルの製造機だよ……僕が作ったね」
すると聞いたことのある声が部屋の奥から聞こえ、思わず身を震わせる。忘れもしないあの声だ、瞬間怒りを堪えるのには慣れているはずの俺の感情は、赤一色となった。
――不知火さんの次に会いたかった人物だ。
「……無間!!」
「やぁ発彦君、この間ぶりだね」
エイムのボスである「先生」、そして天空さんの仇でもある男――不知火無間が、今俺の目の前に現れた。