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爆発寸前な男  作者: ZUNEZUNE
第十五章:エイムの本拠地
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169話

一方その頃エイム本拠地の地下にて、刀真と任三郎は2人の特異怪字と戦っていた。相手は鎧と長壁、今までにも何度も戦ってきた相手であり、今回はこれで3回目の戦闘だ。

鎧は銅虎鉄の「銅頭鉄額」、長壁は猿飛鷹目の「飛耳長目」の四字熟語を使って特異怪字へと変身しており、どれも発彦たちが合宿で世話になった者から強奪したものであった。

2対2という状況なので二手に分かれ、1対1のサシの勝負をそれぞれで行う戦いになっており、刀真は鎧と戦っている。


「ぜやぁあ!!!」


「んッ――!!」


刀真は承前啓後態になっており力と切れ味が増した一太刀を鎧に浴びせる。しかしその刀は腕で受け止められたが、傷が付いていないというわけでもなく僅かな切り傷が甲冑の腕に残っていた。

「銅頭鉄額」は全身を鎧のように硬くし強化する能力、その怪字態はまるで西洋の甲冑のようなもの。中に人が入っているという意味では同じだが、怪字的にはあの甲冑は身体扱いだろう。

その圧倒的な硬さを前に最初の頃は刀真の「伝家宝刀」でも太刀打ちできなかったが、「承前啓後」を手に入れてその甲冑に刃を通す力を手に入れたわけだ。


「――ふんッ!!!」


「ぐッ――!!」


すると鎧はその硬い籠手による拳を振りかぶって殴ってくる。それに対し刀真は刀身で受け止めるもあまりのパワーに後ずさってしまう。

そこから鎧は勢いに身を任せ何度も殴りかかり、刀真もそれを「伝家宝刀」で弾き続ける。その度に金属音と火花が散り、刃を持っているのは片方だけの筈なのにその音はまるで剣士同士の斬り合いのようであった。


「……そう言えば、この姿でこれを試したことは無かったな」


そう言って刀真が取り出したのは「剣山刀樹」、承前啓後態は攻撃の数や力を受け継がれた者たちの分だけ強化されるものだが、それは他の四字熟語を使っての攻撃も同じ。「紫電一閃」の斬撃は17つに増え、「一刀両断」は17人分のパワーとなったが、「剣山刀樹」は使ったことが無い。

試してみるか――そのような思考が刀真の頭を過る。物は試し、早速それを使い刀を躊躇なく床に突き刺した。


「剣山刀樹ッ!!十七刃森林!!!」


すると普通の「剣山刀樹」とは桁違いの数の刀が鎧の周囲に生えまくり、尚且つ数倍の威力でその甲冑の姿に突き刺さっていった。数も威力も見違えるほどパワーアップを果たしている。


「成る程、使い勝手は同じ感じか」


「がぁ!?」


しかし貫通とはいかなかったもののその体を穴だらけにできたのは事実、その銀色に輝いていた甲冑姿にはこれでもかというくらい刀が突き刺さり、痕だらけとなっていた。

しかしそれだけで勝てるほど鎧という男は脆くない。「剣山刀樹」の刀の山が消えた後、何事もなかったかのように刀真の元へ走り出す。


「こんなものでは、俺の硬さは貫けない!!!」


「その硬さは――虎鉄さんのものだぁ!!」


鎧は不動の強さを示すために叫び、刀真は恩師の四字熟語を悪用されている怒りを胸に込め怒声を投げかける。そしてお互いの感情は刀と拳に乗り激しくぶつかり合った。

刀真は鎧の男気も認めている節はあるが、だからといってその悪行に目を逸らすということはできない。何より虎鉄の四字熟語をそんなことに使われてるのが我慢できなかった。


「鉄額ッ!!!!」


すると鎧は頭を後ろに引いて力強い頭突きを放つ。一番強度のある額でやる頭突きは「銅頭鉄額」の使い手に取って一番の威力を持つ技であった。

「伝家宝刀」が絶対に折れない刀とはいえ流石にこれを受け止めきれない、そう判断した刀真は急いで後退して避難する。そのおかげか直撃は免れたがその額が地面を粉砕する衝撃波で大きく吹き飛ばされてしまう。


(こいつ……更に威力を上げている!)


鎧の鉄額を受けた床が粉砕されているのを見て、前戦った時より更に「銅頭鉄額」」を使いこなしているのを察知、現に大きなクレーターができていた。あれをまともに食らったらひとたまりもないだろう。

技のキレ、パワー、全てにおいて進化している。虎鉄も硬化状態で素早い動きを可能にしていたが、最早それを超えていた。そのことに悔しさを感じていた刀真であったが、逆に「銅頭鉄額」をそこまで使いこなせることに驚いていた。


「――俺の強さが、不思議のようだな!」


「なッ――ぐがッ!?」


すると鎧は鉄額による土埃の中から飛び出し、不意打ちで刀真の首をガシリッと掴む。そしてそのまま押し本棚を蹴散らし、壁を貫通させて隣の部屋まで刀真を移動させた。


「ッ……宝塚!」


「貴方の相手は私よ!」


そんな刀真を助けようとする任三郎だったが、長壁の銃弾によって妨害される。

一方資料室の隣の部屋まで押し付けられた刀真は、絞められた首元を抑えながら辺りを見渡す。そこはさっきの部屋と比べて照明も明るく、非常に広い空間であった。

貫通してきた壁は頑丈に補強されており、その厚さも凄まじい。「銅頭鉄額」でなければ穴を空けることすらできないだろう壁が壁と床、そして天井に張られていた。そして極めつけには至る所に陥没した凸凹と何かが強打した痕があった。


「何だこの部屋は……何でこんなボコボコなんだ……?」


「折角だから、俺の修練場を見せようと思ってな」


「修練場……ここがか?」


そう言われた刀真は改めて周囲を見渡した。確かにそう言われてみればこの頑丈な部屋は「銅頭鉄額」のパワーに相応しい設備だろう、現にああして壁をぶち抜けたのは鎧がそれ程までに成長しているということだろう。


「俺が銅虎鉄の『銅頭鉄額』の手に入れたのは約7か月前……大樹が手に入れたのを受け取ったのだ」


(7か月前……丁度私たちが孤島の修行合宿へ行った頃だな)


虎鉄と鷹目の四字熟語は小笠原大樹によって強奪され、そのまま鎧と長壁の手に渡った。あの時はまだ特異怪字の正体どころかその存在すら知られていなかった時で、人が変身していると分かるのはそれから数か月後の話だ。


「お前も銅虎鉄から聞いただろう?この四字熟語は強固な体を得られるがその分重量感も増し、スピードが致命的に遅くなることを」


「ああ、だが虎鉄さんはそれを使いこなせるように努力し続けた。それとお前に何の関係がある?」


()()()()だ、俺だって『銅頭鉄額』を手に入れたその日から努力を続け、血のにじむようなトレーニングをした。最初こそ1歩歩くのに相当の疲労と苦痛を味わったさ。しかしその結果こうして銅虎鉄同様使いこなせるようになり、今でもその鍛錬は続けている。今お前が立っている床だってその証拠だ」


すると鎧は刀真の足元を指す。最初は視線を逸らさせる思惑だと思った刀真であったが、鎧という男はそのような初歩的かつ卑怯な真似をしない。そのような理解があったため素直に自分の足元を見るために俯いた。

しかしそこには何もない、ただ埃が被っているだけで証拠と思われるものは一切無かった。


「今は清掃されたが……その部分には()()()()があった。そこだけじゃない、壁も床も、はたまた天井にも、ありとあらゆるところに血が飛び散った」


しかし凝視して見れば赤い痕が見えなくもない。そして鎧曰く前までこの部屋はこの血痕だらけだったという。


「人が人生において一番続けなければいけないのは何だと思う?それは()()だ。俺にとって努力することが全て、どんなに苦しくても根気と意欲さえあれば人は何でもできると思っている。努力無しで人は前に進めない!」


「じゃあ今貴様が使っているそのリクターと呪いのパネルはどうなんだ?それは貴様にとってそのポリシーに反するのではないか?」


「確かに最初は簡単に力を手に入れることができることは嫌悪していた。だがそうでもしないと無間先生のお役には立てない!」


するとようやく戦いが再開し、再び鎧の方から殴りかかってくる。刀真はその拳の軌道を掻い潜り、横を通り過ぎると同時にその脇腹を僅かに切り裂いた。

しかしそれでも奴の勢いは止まらず、体を旋回させると同時に右足を上げて横から蹴りを入れてくる。それに対し刀真は刀身を立てて受け止めた。


「無間先生のお守りするためには、あらゆる攻撃を防ぐ()()()()が必要だ!俺がその盾となり、あのお方の覇道をお守り続ける!!」


「ぐッ――どうして奴にそこまでの忠誠を誓っている!?」


間所の高まりと共に激化していく鎧の連続打撃、怒っているわけではない、ただ不知火無間に対しての忠誠心とその役に立ちたいという志がその甲冑の体を突き動かしていた。

元々重かったパンチは更に強烈になり、キレの良かったキックは風のように速いものへとなっている。その猛攻にカウンターを入れる隙など無く、流石の刀真も防戦一方になってしまう。


「無間先生は偉大な人だ!俺と長壁はあのお方に命を救われ、この身を捧げることを共に誓ったのだ!!」





「私と鎧は子供の頃、危うく死にそうだったところを先生に助けていただいた。だからこの命をあの人の為に使うことを決意したのよ!!」


一方任三郎は、翼で資料室の天井スレスレを滑空している長壁の銃弾に牽制されていた。既にその部屋はもうボロボロの状態となっており、本棚は崩れPCには銃痕が付き、見る影もなかった。

鎧同様、長壁も任三郎に同じことを聞かれ、激情しながら2丁の銃を乱発している。しかし唯一違うのはその銃に弾以外にも自身の怒りを込めていることであった。


「のわッ危なッ!?」


その凄まじい弾幕に堪らなくなり壁にかかって斜めになっている本棚に隠れるも、その銃弾はそれをも貫通し襲い掛かってきた。

最早そこら中銃痕だらけとなり、隠れられる物陰もどんどん壊れていっている始末、任三郎は着実に追い詰められていた。


「このッ!」


負けじとこちらも浄化弾を放つも簡単に避けられてしまう。

「飛耳長目」は聴覚視覚を強化する四字熟語、その為飛んでくる拳銃を避けるなど難しいことではない。現にさっきから任三郎の弾は1発も当たっていなかった。それに加えて翼で空を飛び狙いづらくしてくるわけだ。


(つまり、十手で直接叩けばいい!!」


任三郎は横に走りながら長壁の銃弾を避け、そのまま倒れている本棚を足場にして跳び、そのまま滑空している彼女に向かって跳びかかった。

宙で十手を振りかぶり、そのまま頭部に打ち付けようとしたが、銃口をこちらに向けられ発砲される。


「ッ!!」


「この距離で躱すのね……それは褒めてあげるけど、私に攻撃を当てることは不可能よ」


何とか弾丸を避けることはできたが、そのせいで十手の軌道もズレて尚且つ避けられてしまう。十手はただ虚空を突いただけで何にも当たらず、俺は宙に浮いているだけであった。

やはりあの目ならどんな攻撃も先読みすることができるだろう。しかし、()()()()()()()()()()()()()()()()()


「じゃあ――アンタも避けて見ろよ!」


「なッ――ゼロ距離射撃!?」


そうして任三郎は浄化弾を撃ち、その肩を貫かせる。

最初の十手の殴打はあくまで囮、どんなに素晴らしい視覚だろうがそれが視界の中に入っていないといけない。最初に十手を出すことで意識をそこに注目させ、拳銃を隠し持っているかもしれないという可能性を無くしたわけだ。


(だが奴の弾を避けたせいで肩に当たっちまったな)


もし長壁が弾を撃ってこなければ今頃あの脳天に穴を開けられただろう、それを避けたせいで十手同様狙いがズレてしまったのだ。

その後任三郎は無事床に着地し、対照的に肩を撃たれた弾みで床に墜落してしまった奴に銃を向けた。そして落ちた衝撃で舞った土埃に包まれている長壁に数発浄化弾を発砲した。


「この……調子に乗らないで!!」


しかし埃で視界は封印できても耳がある、銃声を頼りにされ避けられてしまう。すると翼による低空飛行でその中から一気に抜け出した。

そして長壁は銃を乱射しながら凄まじい速度で任三郎の方へすっ飛んで行き、ぶつかる直前で直角に方向転換して真上に飛ぶ。その際にも発砲はしていた。

最初の弾幕こそ十手で弾き飛ばせていた任三郎だが、すぐ目の前で放たれた弾は流石に不可能で、そのうちの数弾を体に受けてしまう。


「ぐあッ――!!」


「これで――終わりよッ!!」


そうして長壁はそれだけに飽き足らず、任三郎の頭上で一気に降下し、ドリルのように回転しながら下へと突っ込んでくる。その猛回転の中からも銃弾は放たれ、下の任三郎に全弾襲い掛かってきた。


「うおりゃあああああああああああ!!!!!」


しかし任三郎は雄たけびを上げながら、十手で全ての弾幕を防ぎそのまま真上から突っ込んできた長壁を横に殴り飛ばした。


「キャッ――!?」


そのまま壁に激突しようやく地面に足を付ける長壁、今の十手による殴打はかなり効きその証拠に頬には大きな亀裂が走っていた。自分自身が回転したせいもあってダメージが上乗せされたのだろう。

しかし今弾丸避ける暇は無いだろう、そう思った任三郎は弾を1発撃つも――


「なッ!?()()()()()()()!?」


何と飛んできた浄化弾を狙って弾を撃ち、そのままお互いの弾丸の軌道をずらしてきた。普通ならできない芸当だが、「飛耳長目」の能力なら可能だ。


「無間先生の邪魔をする奴は……全員私が撃ち殺す!鎧が盾なら、私は先生の矛よ!!」


そうして両者の銃撃戦は激化、隣の部屋で戦っている刀真と鎧との戦いもどんどん勢いが増してきた。

パネル使い組は人々をエイムの魔の手から守ろうと、対する鎧と長壁は自分たちのボスに応えようと奮闘しているのだ。両者の熱い想いが、刀に、拳に、弾丸に込められる。

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