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爆発寸前な男  作者: ZUNEZUNE
第一章:爆発寸前な男
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16話

目が覚めると、白い天井が見えた。

酸素マスクを付けられて、点滴を送られていた。全身包帯で巻かれている。

数秒かかってここが病院と理解する。あの戦いが終わった後ここに運び込まれたのだろう。

それにしても、今回は随分と厳しい戦いだった。

血も流しまくって骨も折れまくって、こんなに怪我を負ったのは何時ぶりだろう?いつもはこんな重傷者には

ならないが……手強い相手だった。

まぁ二つの四字熟語を持つ怪字なんて初めて戦ったし、事前経験が無いので仕方ない。超高速移動に素早い連続パンチ、思い返すとよく勝てたなと感じる。

――いっちゃんとつーちゃんのおかげだ。

あの二人がずっと俺の側にいたから、勝てたかも知れない。「一触即発」を使わなかったら死んでいたに違いない。


「触渡君!触渡君!」


横から名を呼ばれる、そこには涙目になっている風成さんと、珍しくオロオロしている天空さんがいた。

返事をしようと思ったが上手く喋れないので、折れていない左腕でサムズアップした。


「……どうやら吹っ切れたようだな」


安堵した天空さんがそう聞いてくる。それに対し俺は笑って答えた。

怒るのはまだ嫌いだ。だけど、以前感じていた嫌悪感は綺麗に消え去っていた。

傷だらけの身で言うのは何だが、とても晴れ晴れとした気分だ。もう、悩みは無い。溜まっていた物もはき出せたし、心残りは無い。

……何だが今から死ぬみたいだな、これだと。

笑えない冗談だな。口に出していたら天空さんが大激怒するに違いないから言わないでおこう。





それから数日経って酸素マスクも外れ言葉も上手く出せるようになる。

風成さんは真っ先に謝ってきた。「自分の不始末でこんな事になってしまった」「君の方が悲しい境遇にいたのに気遣わせてごめん」、別にそんなことは気にしていないので「気にしなくてもいいよ」と返した。寧ろ早く気付けなかった俺が謝るべきなのに。


風成さんは故意では無いが通り魔を作ってしまったと言って自首しようとしてたが急いで止めた。これに関しては君は無実だと何度も言い聞かせて何とか説得した。


しかし疾東さん達三人を傷つけたことは変わりない、そういって彼女は三人を襲ったことを自首した。退学が予想されたが、疾東達のいじめ問題。俺と、そして疾東さん達本人の弁護により、数日の停学で住んだらしい。風成さんは納得いかないらしいが、妥当な処置だと思う。

今回の事件は、誰も悪くない。強いて言うなら怪字のせいだ。


酸素マスク外せた時には、疾東さん達は退院できていた。俺に謝りにお見舞いに来てくれたのだ。

どうやら復帰した風成さんと無事仲直りできたらしい。屋上で話し合ったのが良かったのだろうか?


そういう俺は肋骨、右腕、右手その他もろもろ折れているので退院はまだまだだった。

肋骨が先に治り上半身を起こせるようになった頃、風成さんと疾東さんのお見舞いが多くなった。二人で一緒に来る日もある。もう親友と言っても良いくらいの仲になっていた。

ちなみに怪字の事は疾東さんには話していない。そう簡単に話すと世間に広まってしまうかも知れないからだ。


警察の人達も来た。どうやら他の人は足を折られただけなのに俺だけボロボロにされたことを不審に思ったらしい、犯人像、そして関係性を聞かれた。勿論怪字の事は話さない。話しても信じてもらえないだろう。何とか適当に誤魔化した。

そう言えば天空さんに、警察には怪字関連の事件を取り扱う秘匿部隊が存在すると聞いた事がある。

このまま怪字事件に関わっていけばいつかその人達とも出会うかもしれない。


俺が入院している間の怪字事件は、天空さんに任せている。「疾風迅雷」の時は風成さんを守る必要があって家から動けなかったが、その強さは俺と比べ物にならない程だ。

そして彼には一つの役割がある。それは呪いのパネルの浄化(・・)だ。

例え怪字を倒してもそのパネルにまだ呪いの力が少しでも残っていたらまた復活する。その呪いを消し去る事が「浄化」だ。

俺が持っているパネルは全部浄化されているから無事使える。そのままだったら何体もの怪字が生まれているはずだ。

今回の戦いで手に入れた「疾」「風」「迅」「雷」「怒」「濤」は天空さんに頼んで既に浄化して貰った。パネルは浄化できる人はそう多くないらしい。どれ程難しい技術なのか俺にも分からない。





俺は数ヶ月の日々を過ごし、ようやく退院できた。腕の骨折はまだ治っていない、アームホルダーを常に装着している。そして久しぶりの登校である。入院期間の学業、友人関係に不安だが、臆さず学校へと歩く。


「あ、触渡君!」


「風成さん」


その途中、風成さんと出会った。その顔は少し驚いている表情だった。初めて会った日と比べてブレザーを着ていない、ワイシャツにリボンだ。

その夏服姿に、改めて自分が多くの時を病院で過ごしていた事に気付く。まぁそう言う自分も夏服だが。


「もう学校に来て大丈夫なの?」


「うん、右腕はまだ治ってないけどね」


彼女と平行して校門を通り、昇降口へと辿り着く。

利き手が使えないので靴を履くのに苦労したが、風成さんが手伝ってくれた。


「ありがとう風成さん」


「大丈夫、腕が治るまで私がついてるね」


まだ責任を感じているのか、そんな事を言ってきた。

入院中のお見舞い時に断ったが、引き下がってくれなかった。まぁ助かるので有り難い。


「あ……風成、触渡」


「疾東さん」


すると後ろから疾東さんが話しかけてきた。今までの荒々しい表情から今は落ち着いた雰囲気になっていた。その後ろにいつものように雷門さんと迅美さんもいる。しかし虐め仲間としてじゃなく、仲の良い友達としてだが。


「アンタ休みまくってたから授業についてこれないでしょ、後でノート見せてあげるわ」


「いいの!?ありがとう!」


そう言って彼女は一足先にクラスへと向かう。

やがて二人で廊下を歩いていると風成さんがこんなことを聞いてきた。


「……私のパネル、今持ってる?」


「え……持ってるけど……」


俺は懐から「風」のパネルを取り出す。勿論浄化済み。

風成さんはそれを奪い取り……


「えいっ」


パネルにデコピンした。そして俺へと返す。


「……何今の」


今ので壊れたりしないが、その行動の意図を理解できない。彼女は和やかに笑い、こう言った。


「私を操った仕返し!今ので許す!」


「ははっ……そういうことか」


どうやら今回の事件への責任を克服したらしい。そのデコピンが証明だった。

デコピンかぁ……それで気が楽になるなら俺もしてみよっかな?そう思って「一」と「即」を取り出すが……


(……止めておこ)


そんな事をしたらいつかあの世で二人に怒られてしまう。これからもずっと、形見として持ち続けよう。

いっちゃん、つーちゃん、親友が出来たよ、俺。天国から見守っていてくれ——

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