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爆発寸前な男  作者: ZUNEZUNE
第十四章:永遠の女
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160話

まるで鉄塊がこちらに飛んできたように錯覚してしまう鎧の拳、俺はそれを屈んで避け、刀真先輩はそうして俺が避けたパンチを刀身で受け止める。

例え鎧のパワーがいくら優れていようと、刀真先輩の「伝家宝刀」は絶対に折れない刀、どんな攻撃を受け止めようとも折れることは無い。しかしその衝撃を揉み消すというわけでもなく、パンチの拳圧で後ろに押されてしまう。


「ぐッ……!!」


恐らく尋常じゃない程腕が痺れているだろう、先輩が悶えている間に俺は奴がパンチで伸ばした剛腕両手で掴み、そのまま背負い投げのように地面に叩きつけた。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」


「ぐぉお!?」


まるで車でも持ち上げるかのような重量感を感じるも、「怒髪衝天」の力で持てない物はほぼ無いと言えるだろう。

そうして叩きつけた鎧に向かって俺は跳びかかり、両拳を合わせてハンマーのようにして奴の頭部に打ち付けた。その兜の顔は粉砕こそしなかったものの大きな割れ目が広がっていく。

しかし鎧は頭を強く殴られたというのに、負けじとこちらの腕を掴んできた。


「なッ――!?」


「これ以上、好きにはさせん!!」


そうして奴は俺を捕らえたまま勢いよく立ち上がり、そのままブンブンと振り回し始めた。まるで絶叫系マシンに乗っているかのように視界が周り、とてつもない力が掴まれている腕に作用されていく。

このままだと放り投げられるより先に俺の腕が千切られる!急いで奴の銀色の手にもう片方の手を叩きつけるが、傷こそできるが一向に放してくれない。一体どうしたものかと焦っていると、目まぐるしく変わる視界の中に刀真先輩が一瞬だけ映る。回転し続ける鎧から離れ刀を構えていた。


(そういうことか……!!)


その意図を察した俺は、先輩に()()()()()()()()()をしなければならない。もう舌も上も分からない状態で何とか懐から4枚の四字熟語を取り出し使用した。


「――八方美人ッ!!」


「紫電一閃――十七刃旋風ッ!!!!」


その瞬間、俺の声を合図にし刀真先輩は「紫電一閃」による斬撃を斬り放つ。「承前啓後」によって強化されたその斬撃は計17つに増えており、全ての刃が俺と鎧に向かって飛んできた。


「グガッ……!!」


「はッ!!」


鎧が次々と迫りくる斬撃を避けれず体中を切り裂かれている中、俺は「八方美人」の能力で自分ごと鎧を狙ってきた斬撃を全て躱していた。

例え片腕を掴まれていようが「八方美人」なら斬撃の嵐を回避することが可能、刀真先輩は俺がその四字熟語を使い避けてくれることを信じて「紫電一閃」を使ったのだ。

ようやく腕が解放され、急いで奴から離れて刀真先輩の横まで戻る。そして俺たちは拳を握ってぶつけ合った。


「成る程……連携攻撃か……!!」


しかし多くの斬撃で体中を斬られようとも、鎧に倒れる様子は見られない。それどころか俺たちの連携攻撃によって戦闘本能が掻き立てられたのか、先ほどより力強さを見せつけてくる。

やはりこの鎧という男は、他の刺客たちとは何かが違う。勿論「先生」の命令には従うのだが、まるで()()()()()()()晴れ晴れとした清らかさが感じられる。敵にこんな感情を抱くのはおかしいが、正々堂々といった感じだ。


「今度はこっちから行くぞぉ!!」


しかしこの鎧が好感を持てる男だろうが、エイムがしていることは見逃せない。

俺たちは勢いよく走り出し、共に鎧へと立ち向かっていく。刀真先輩とは夏の合宿で共に鍛え合った仲だ。さっきのような連携は簡単なものである。

最初に先輩が先行し横向きに斬りかかっていく。鎧はそれに対し足を上げ脛当の部分でその一太刀を防御する。

鎧はそのまま足を力強く上げて刀を払った後、姿勢が崩れた刀真先輩を狙って大きく腕を振りかぶる。そこですかさず俺が間に割り込み、もう一度その拳を衝突させ合った。


「先輩!」


「分かっている!!」


俺と鎧が拳を撃ち合わせた瞬間刀真先輩は俺を踏み台にして跳び上がり、今度はその首元に斬りかかる。


「せいやぁ!!」


「効かんッ!!」


しかし右腕を差し出されてまた防がれてしまう。承前啓後態による一太刀は確かに「銅頭鉄額」の硬さに通用するが、致命傷を与えられるというわけでもない。奴を倒すためにはもう少し深く刃を入れる必要がある。

そう、「一刀両断」のことであった。「承前啓後」により歴代当主16人分の力が加わったあの技ならあの硬い鎧も文字通り真っ二つにできるだろう。


「超刃ッ!一刀両だ――!!」


「フッ――甘いッ!!」


それを察した先輩は早速「一刀両断」を使用しもう一度斬りかかるも、一太刀浴びせようとする前にその腹で蹴飛ばされてしまう。そして今度は俺を殴り飛ばした。


「お前のその姿、恐らく後から攻撃と斬撃が追加してくるのだろう?だから私の体にも刃が通った。そしてその状態での『一刀両断』をみすみす受けるほど――私もノロマではないッ!!」


すると鎧は素早い身のこなしであっという間に俺の目前まで接近、そこから掬い上げるように殴ってきたので急いで「八方美人」を使用、豪快なパンチをすれすれのところで回避した。

そこから繰り広げられる格闘戦、俺の赤い拳と奴の銀色に反射する籠手、それらが何度もぶつかり合いけたたましい金属音を打ち鳴らしていく。そして甲高いその音と共に豪快な轟音もその攻防戦から漏れていった。


「疾風怒濤ッ!ゲイルインパクトッ!!!!」


「ぬおッ!!??」


ここで俺は「疾風怒濤」を使用、鎧の腹部を連続パンチで滅多打ちにしていく。まるでツルハシで岩盤を削る時のような音が立て続けに鳴り、次々と甲冑の破片が飛び散っていった。

「怒髪衝天」によって1発1発のパワーが「一触即発」並みの威力となっているゲイルインパクトは実に強烈なもので、どんどん鎧の腹を崩壊させていく。

そして最後の一撃、両腕を引き勢いよく突っ込み、奴の()()()()()()()()()()()()()()()


「何ッ!?」


「ぬぅううううおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!!!!!」


そこから鼻息を荒し、地面に亀裂が走る程踏み込みを入れ、両手が奴の体に突き刺さったままでその巨体をほぼ頭上まで持ち上げる。

まるでトラックのような重さだ。怒髪衝天態じゃなかったらこんなにすぐには持ち上がらなかっただろう。勿論通常時でもすぐとは言わないが持てる自信はある。


「――刀真先輩ィ!!!」


「たく――お前も十分化け物みたいだな!!」


化け物呼ばわりは失礼だが、今はそれに文句を言っている余裕もない。何しろ重いだけじゃなく暴れまわっているので、倒れずに踏み込んでいるのも精一杯だ。これならまだトラックの方がマシだろう。

しかしこれで奴はもう刀真先輩の一太刀を避けれまい、先輩が刀を構えこちらに走り出しているのを見て俺は更に足に力を込めた。あの人がここに来るまでの辛抱だ。

しかし俺は気づけなかった。鎧が持ち上げられながらも()()()()()()()()()()ことに。


「……鉄」


(ッ!!やばい!!!!)


「――額ッ!!!!」


その掛け声でこいつが何をしようとしているのかを察した俺は、急いで体をずらす。瞬間背後から途轍もない衝撃が襲い掛かり、俺を吹っ飛ばして鎧を解放させた。

「銅頭鉄額」の硬化で一番硬くなっているのは頭部で、それを利用した奴の――いや虎鉄さんの必殺技である「鉄額」、鎧は持ち上げられたままそれをしたのだ。


「ぐぉおおッ!」


それに気づいた俺は急いで背中を反らし直撃を阻止、しかしそれでもその威力が消えることはなく、まるで突風に俺を後ろから押し出してきた。そのせいで奴の腹に刺していた両腕も抜けてしまう。

地面を転がり何とか態勢を立て直す。すると「一刀両断」を使用と思っていた刀真先輩が方向転換をしてこちらに駆けつけてくれた。


「だ、大丈夫か発彦!?」


「危なッ……モロに当たっていたら背骨折れてたぞ……!」


避けれたのはいいが、これで2回目のチャンスも失敗になってしまう。基本的に俺が囮になったりその動きを制限させたりしている間に、刀真先輩がズバッと斬り落とすのが狙いだが……そう上手くはいかない。


「やっぱり2人じゃ厳しいですね……」


「そうだな……」


そう言って仕方のない愚痴を零していると、2人揃ってあることを思いつき顔を見合わせる。これだ!この方法しか無い!

そして俺たちは早速その準備に入る。まずは俺が先輩の後ろに待機し、そのままバレーのレシーブのような態勢になり、そして先輩が「猪突猛進」をいつでも使えるようにし俺の目の前に立った。


「触渡発彦のパワーと宝塚刀真の『猪突猛進』の突進力を合わせての合体技か……良いだろう、真正面から受けてやるッ!!」


しかしその考えを鎧に悟られてしまい、奴は宣言通り両腕を交差させ防御の姿勢に入る。しかし例え次の一手が読まれていようが、今の俺たちに止まっている暇は無い。

そしてその予想通りに先輩は俺の握り拳に足を乗せ「猪突猛進」を使用、そのまま拳を蹴り出すと同時に俺が思い切り腕を振り上げ刀真先輩を飛ばした。ただし――()()()()()()()()()()()()()


「なッ――しまった!()()()()()か!!!」


「猪突猛進」の突進力を()()()として使い、俺が力強く打ち上げると同時に先輩が蹴り出し、実質俺のパワー+「猪突猛進」の足し算によって先輩は空高く舞い上がった。

その進行方向にいるのは勇義さんとリョウちゃんたちと戦っている長壁、最初から狙いはあの女であった。


(俺たちが鎧との戦いに夢中になり勇義さんと長壁との戦いに見向きもしなかったように……長壁が勇義さんと式神たちとの戦いに集中している時を狙っての不意打ち!いくら耳が良かろうが周囲に意識さえしていなければ不意打ちは可能!!)


その通りで現に長壁は直前まで刀真先輩が飛んできたことに気づけず、そのまま回避する暇も与えずに先輩は奴に向かって「伝家宝刀」を突き出した。


「十七刃猪突猛進突きィ!!!!」


「そんなッ――ガハッ!?」


その刃の先端が彼女の体に突き刺さった瞬間、後から追うように残りの16発分の突きが襲い掛かり、体は勿論その両翼にも沢山の穴があけられた。

当然そうなれば飛べなくなり、長壁はそのまま鎧の元に墜落していく。対する刀真先輩は近くにいたトラテンに回収される。するとさっきまで長壁と戦っていた勇義さんがこちらに駆け寄ってきた。


「すまん、そっちも厳しいのに手出ししてもらって」


「いえ、俺たちも人手が欲しくてやったんです」


「そういうことだ。別に貴様を助けるつもりなんて無かった」


鎧を2人で倒すのには中々難しいことだ。ならば数を増やそうと長壁を倒し、そっちで戦っていた勇義さんをこちらに引き寄せる。更に式神2匹も一斉に戦力に加わってくれた。

すると墜落した長壁はそのまま怪字の体が崩壊していき人間の姿に戻ってしまう。向こうは手負いが1人、対するこちらは3人と2匹。どちらかが有利かなんて一目で分かるだろう。


「大丈夫か長壁」


「くッ……貴方が俺1人でやりたいなんて言ったからでしょうが……!」


どうやら今までの刺客のように毒殺される様子は無いようだ。まぁ鎧はまだ戦える状態なので一応逃げられることも可能だからだろう。

しかし当然逃がすつもりは無い、このまま全員で仕留めてやる!


「諦めろ!その状態で不知火さんを捕まることなど不可能だろう!!」


「あ……!」


「しまッ!この馬鹿刑事ッ!!」


しかし確信した勝利の余韻に浸り、俺たちはつい勇義さんにあの事を教えることを忘れていた。

それは奴らの今回の襲撃は不知火さん狙いではないこと。ただ単に俺たちを潰すつもりで襲ってきただけで、そもそもこの町に不知火さんがいること事態気づいていないだろう。それなら良かったのに勇義さんがわざわざそれを教えてしまったのと等しい事を口にしてしまう。

まずい、今での不知火さんの気づかれただろう。向こうにとっては「何故こいつらからあの女の名前が出た?」ぐらいの疑問にしか最初はならないが、すぐに俺たちが彼女を匿っていることを察するはずだ。

しかし……


「……確かにそうかもしれないな」


「……え?」


思ったより反応が薄い。普通なら「何でお前たちがその名前を知っている?」ぐらいの質問を問いかけられてもおかしくないというのに。

……まさか。


「お前ら……ひょっとして不知火さんのことに気づいていたのか!?」


「……そうだが?不知火永恵がこの町に来たことくらい長壁が調査済みだ」


それを聞いて俺と刀真先輩は驚愕し、あまり現状を理解できていない勇義さんは何のことかと別の意味で目を丸くしていた。

不知火さんのことを気づいていた?てっきり俺たちの抹殺狙いで襲ってきたんだとばかり思っていた。しかしそんな思い込みをしてしまう理由が1つある。


「じゃあ何で俺たちを攻めたんだよ……エイムの狙いは不知火さんの『不老不死』だろ!?今さっき俺たちがあの人と一緒じゃないことぐらい分かるはずだ!」


「……1つ勘違いしているようね。私たちの狙いはあくまで貴方たちの()()()よ。殺せたらラッキー程度にしか思っていなかったわ」


「……足止め?ということは……!!」


「ここで俺たちを倒し捕まえるのは自由だ。だが、今頃神社ではどうなっていると思う?」


鎧のその一言で、俺たち3人は一気に覚醒。刺客たちを視界から外し放置したまま、俺はリョウちゃん、先輩と勇義さんはトラテンに乗り込み急いで神社へと向かった。全速力で飛んでもらい、向かい風に吹かれる中俺たちは冷や汗を流す。怒髪衝天態や承前啓後態もその時に解いて普通の姿に戻った。

完全にやられた!奴らの狙いは俺たちではなく最初から不知火さんだったんだ!奴の口振りからして今頃神社を別の刺客が襲撃しているはずだ。天空さんがいるから大丈夫だろうとは思うが、先ほどから不穏な感じがする。何か嫌な空気だ。

式神に乗ってあっという間に神社へ戻ると、上空から神社の様子が何かおかしいことに気づく。まるで針山のように黒い物体が神社を囲っていた。


「遅かったか!」


恐らく敵の能力だろう、急いで式神たちを降下させその黒い針の内側に降ろさせてもらった。するとリョウちゃんとトラテンは付けられた傷が痛むのか小さくなる。もうこいつらはしばらく戦えないだろう。


「は、発彦君!」


「駆稲ッ!?何でこんなところに!?」


「さ、触渡さん……!」


すると木の陰に隠れていた不知火さんと駆稲を見つける。ここに不知火さんがいるということは間に合ったようだ。

しかし何故駆稲がここにいるんだ?今は喧嘩中だから顔を合わせづらい――とかくだらないことを言っている場合じゃなく、そのどうしようもない絶望に襲われ、涙目になっている顔を見て何かあったのだと察した。


「……天空さんは?」


「……あ、あそこ」


そう言って彼女が震える手で指した先には、信じられない光景があった。あまりの出来事に俺たち3人は言葉を失ってしまう。


「――え?」


「おや、貴方の弟子が返ってきたようですよ」


敬語口調の黒い特異怪字が持っているのは、使い古しのボロ雑巾だろうか?いや違う、雑巾はどんな使い方をしても()()()()()()()

それは、流血で真っ白い神主の装束を赤く彩っていた天空さんであった。


「やぁ発彦君初めまして。君とは会いたいと思っていたんだ」


「――う、うわぁあああああああああああああああああ!!!!!」


そんな軽々しい挨拶など耳には入らず、気付いた時には再び「怒髪衝天」を使用して赤いオーラを身に纏い、悲鳴に近い雄たけびを上げながら走り出していた。

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