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爆発寸前な男  作者: ZUNEZUNE
第十四章:永遠の女
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157話

「どーしたらいいんでしょうか俺……」


俺は今、鶴歳研究所のところにお邪魔し炬燵の上に頭を乗せて悩みに悩んでいた。その様子を刀真先輩と勇義さん、そして比野さんが冷や汗を流しながら見ている。3人共勝手に俯いている俺の対処に困っているようであった。

昨日駆稲の誤解によって彼女と望んでもいない喧嘩をしてしまい、それ以来心が晴れなかった。それは冬のオアシスと言ってもいい炬燵でも潤せないものであった。


「ま、まぁ喧嘩なんて誰でもするもんさ」


「俺だって薄美とだって喧嘩したことぐらいある。そこまで気にするもんじゃないぞ」


ちなみに何故俺がここにいるのかというと、あの喧嘩の後すぐに先輩と勇義さんに電話し尚且つ年上の女性である比野さんにアドバイスと叱咤を求めて来た。刀真先輩はともかく勇義さんも比野さんも恋愛経験がある大人だ。相談に乗ってくれるかもしれないと思い現在に至る。


「なにも本心で言ったわけじゃないんです、だけど俺のことを信じてくれないあいつに何かイラッときちゃって……つい思ってもいないことを」


確かにいくら話せないこととはいえ、年上の美人と住んでいることを誤魔化そうとした俺にも非はある。だが普通彼女ならばそれでも彼氏のことを信用するものだという傲慢な思考が脳を支配したのだ。

今まで男も女も平等という考えで生きてきたが、所詮俺もこの男尊女卑が広がっている世で生きた野郎の1人ということかもしれない。

俺は駆稲も不知火さんも傷つけまいと思い嘘をつくことを決めたが、これじゃあまさしく俺が持っている「八方美人」である。ただ単純に人に良く接していればいいという話じゃない。

このままだと折角付き合うことになったのに終わってしまうことになる。しかしどう彼女にどうやって謝ったらいいのだろうか。駆稲が初彼女の俺にとってこの問題は凄まじく難しいものだ。


「――俺は薄美を怪字に殺されて失った。だからあいつと過ごした時間はそこまで長いわけじゃない。その間に何回も喧嘩したことがある、時にはもう別れようってこともあった」


「……勇義さん」


この間その薄美さんって人の墓参りに行ってから、勇義さんはやはり何か吹っ切れたようだ。普段はドジを踏んでいるこの人であったが今ばっかりはとても頼もしく見えた。


「だがその喧嘩が決して必要のない時間だとは思っていない。そういったものを何度も繰り返すことにより強固な仲へとなっていくんだ」


「ほぉ~刑事にしては珍しく良いこと言うじゃないか。そろそろ冬も弱まってきたというのに雪を降らせる気か?」


「……珍しく大人として良いこと言ってやってるのにお前はぁ!!」


そしていつも通り刀真先輩と勇義さんが喧嘩をしている中、それを傍目にその言葉を頭の中で考えていた。

強固な仲か……確かに俺と駆稲は付き合ってからまだ数十日しか経っていない。それなのに完璧な仲を目指すそれこそがまさしく傲慢かもしれない。いくらお互いを名前で呼び合おうがミカンのお裾分けを貰おうが、俺たちは互いのことをまだ全て知っているわけじゃない。俺が不知火さんのことを隠していたように、彼女も人に言えない秘密を抱えているかもしれないのだ。


「……比野さんはどう思います?」


「私は……例え喧嘩をしてようが、触渡様と風成様が羨ましく思えます。素敵な恋をしてらっしゃいますね」


「あッ……」


そう言えば比野さんの好きな相手は小笠原さん、裏切り者であった彼はエイムの手の者で最早完全な敵となっていた。好意を向けている相手が悪人だった悲しみをまだ持っている筈なのに、俺って奴はまた考えも無く聞いてしまった。


「触渡様たちのそれは所謂痴話喧嘩というやつです、愛し合う男女でしかできない喧嘩……素敵なことじゃありませんか?愛し合っているからこそできるんです。それに勇義様の言う通り、それをするからもっと好きな人のことを知れるんですよ」


「……比野さん」


言わば比野さんと小笠原さんは、パネル使いとエイムという戦いというこちらとは比べ物にならない程大きな喧嘩をしているのであった。比野さんは彼を愛しているからこそその間違いを正したいと思っている。いつか分かり合えることを願ってその喧嘩をしているのだ。


「……お2人ともありがとうございます!ちょっとだけ分かったような気がします!」


「はい、頑張ってください!」


こうして駆稲との良き仲への光明が差したところで俺たちはここで帰ることに、元々俺個人の理由でやってきたのでパネル関連の用事はない。ちなみに比野さんに不知火さんのことを話してみると、「不老不死」ではなく呪力を抑えられる蒼頡の力の方に興味を示していた。

彼女に見送られ、そのまま研究所から出ようとしたその時――


「――え?」





「すまない不知火さん、逃亡の身であるのに手伝わせてしまって……」


「いえ、無償で住まわせているのでこれぐらいはしないと」


私、海代天空は今不知火さんと共に買い物袋を持って商店街を抜け、そのまま神社に返ろうとしていた。本当は発彦に手伝わせようと思ったがあいつは昨日の件で鶴歳研究所の比野翼に相談しに行っている。

本当は彼女を留守番させておこうと思っていたが、神社で1人にさせるより外だろうが私と共にさせておくのが安全だと判断し現在に至るわけだ。外でエイムの刺客が襲ってきてもその時は私が相手をするから大丈夫だ。


「あ、風成さん」


「天空さんに……昨日の」


すると運命か必然か、昨日発彦と喧嘩しそのまま帰っていった風成さんとバッタリ会ってしまう。

あいつに彼女ができたと聞いた時は思わず涙を流しそうになり感動した覚えがある。まさか発彦の奴に恋心が残っていたとは思ってもいなかったからだ。


「あ、あの……」


すると昨日の喧嘩の原因とも言える不知火さんがぎこちなく彼女に迫る。それに対し激情すると思っていた風成さんも何だか落ち着かない様子で不知火さんと対面した。

……また一騒動あるのか?そう思って警戒したがどうやらその心配は無いらしい。


「私は、触渡さんとそういう仲ではありません!ですので……その……あの人と仲直りしてくれませんか?」


実はこの人、昨晩自分が発彦と彼女の仲を切り裂いてしまったと思ってしまい、それに対し責任感を抱き「ここにいないほうがいい」と相談しに来た。勿論それは止めたが、一番落ち込んでいたのは発彦であいつも私に泣きついてきたわけだ。

勿論今回の騒動に対し誰か1人を原因として決めつけることはできない。言わば発彦、風成さん、不知火さんの3人平等に責任はあるだろう。


「それは……私も分かっています」


「え?」


「すいません、余計な気遣いをさせてしまって……私だって発彦君が浮気何て最低なことをするような人間じゃないことは分かっていました。だけど……」


すると風成さんは顔を赤らめ、言いにくそうにモジモジしだす。この子も伊達に発彦を好きになったわけじゃない、ちゃんとあいつの事を理解していた。昨日のあれは付き合ったばっかりに起きるすれ違いだろう。


「あの時実は……発彦君からデートに誘われた直後だったのでつい興奮しちゃって……」


「――フッ!」


しかしそんな小難しい理由ではなく、お互いにデートのことで気が高まっていた為自然と喧嘩になったという。あまりにも初々しい理由で私は思わず笑いを零してしまった。

笑っちゃ失礼だとは思うが、喧嘩をしていても両者互いの事をまだ好きなのだからそれが余計に笑えてしまう。


「天空さん……発彦君怒っていますか?」


「はは――大丈夫だよ。あいつを好きな娘をころころ変えるような男に育てた覚えはない。そうだ、発彦の奴今出かけているからうちで待っていると良い」


「あ、是非!」


そういうことでこのまま風成さんも加え神社に帰ることになった。その道中彼女と様々な話をしている時、ふと不知火さんのことを教えた方がいいだろうかと思う。いくら一般人とはいえこの子はもうこちらの世界にすっかり入り浸っている。別に言ったって構わないだろう。

しかしここは発彦の考えを汲み取ってやって、今はまだ言わない。あいつのことだから風成さんを巻き込ませまいと隠したんだろうが、それが原因で今の事態に陥っている。ならあいつ自身の口から言った方が良い。


「実は君たちの喧嘩を見ていて、私はちょっと嬉しかった」


「どういう意味ですか?」


「この間君があいつのお見舞いに来てくれた時にも言ったけど、発彦は周りに被害を出さないよう他人を極力避けていた。だけどそんなあいつが痴話喧嘩までするようになって……あいつの父親代わりとしてこれ程嬉しいことはない」


「ち、痴話喧嘩だなんて……」


すると風成さんはまたもや赤面し俯いて顔を隠した。少々からかいすぎたかな?これ以上やると仲直りした発彦に叱られそうだからやめておくか。

そうして神社へと到着し、2人と共に石階段を上り切ると賽銭箱の前に誰かが立っていた。

黒いロングコートを着て、体格から男性だとは分かるがそれにしても黒髪が長く、女性のように後ろで結んでいた。


「あ、参拝者の方ですね!」


神社の本殿を向きそこで手を合わせ拝んでいたのでそう判断し、神主として急いでもてなそうと小走りになると、突如として不知火さんが肩を掴んできて引き留めてきた。


「不知火さん……?」


「離れてください天空さん!その男は危険です!!」


さっきまで緩い雰囲気を醸し出していた不知火さんの顔が強張っており、恐怖と警戒心に支配された表情をしていた。何か様子がおかしい。一体どうしたのだろうか?


「探しましたよ不知火永恵、まさかこの神社に住んでいたとは……なんという巡りあわせなんでしょうか」


するとその男性は背中を向けたまま話しかけてくる。彼女の名前を知っている男で、更に不知火さんのその怯えようを見て私はようやくその男が何者かを察した。

それにしても……何だこの感じは。こいつとはまだ一度も会ったことはないに、その口から声が聞こえる度に鳥肌が立つのを感じる。冷や汗が止まらない、まるで真冬に戻ってきたかのような寒さだ。


「お前……エイムの手先だな?」


「……海代天空、伺っていますよ。かなりの実力者だと。()()()()()一番警戒するよう注意してました」


そこでようやく男は体を旋回させ、顔をこちらに見せてくる。その瞳は燃え盛るかのように赤く染まっており、かといって表情は微笑みを向けてくるも凍るように冷えた印象だ。

見ただけじゃ何の警戒もしないただの美男子、しかしいざこうして顔を合わせるとその雰囲気から一変、まるで巨大な蛇にずっと睨まれているかのような圧迫感が押し寄せてきた。

エイムの刺客は今まで明石鏡一郎と小笠原大樹しか見たことが無いが……こいつは明らかに他とはレベルが違う。刺客に限った話ではない、怪字にだってここまでのたたずまいは見せてこない。

私はこの男が、()()()()()()()()。別に発彦の「一葉知秋」を使っているわけでもないのに、どうみても人間であるそいつを怪字だと思えてしまう。


「せっかく神社に来たから参拝でもしようかと思ったんですけど……生憎小銭は持ち合わせていませんでいた。なので、これでよろしいでしょうか?」


そう言って男が懐から取り出したのは大量のパネル。あれはエイムが作り出した人造パネルである「兵」だ。

そのまま宙に放り投げると1つ1つが怪字兵の姿に変形していき、数十という数の兵が目の前に現れた。私は急いで後ろの2人を守ろうと前に出る。

よりにもよって発彦がいない時に……こいつの狙いは不知火さんのはず。何としても守り切らねば。


「不知火さん――奴は一体何者ですか?」


「あいつは……呪物研究協会エイムを束ねる『先生』……無間です!」


「なッ――先生ですって!?」


今まで襲ってきた刺客たちが口を揃えて言う「先生」という名、それがエイムのボスであることは分かっていた。顔も名前も知らなかったが途轍もないカリスマ性で部下を操り、こちらのパネルを奪おうと何人も刺客を差し向けてきた。

そして不知火さんが言った。この男こそが、そのボスであると――!


「おや失礼、紹介が遅れました。彼女の言う通りエイムを作りそれを支配しているのが僕、無間と申します」





一方鶴歳研究所では、帰ろうとしていた発彦に突如として弾丸の雨が降り注いだ。銃弾が当たる前に何とか気づけた発彦だが、突然の出来事に「八方美人」や「疾風迅雷」で躱す余裕もなかった。


「危ない触渡!!」


が、咄嗟に任三郎が彼を押し出し避けさせる。地面にはいくつもの弾痕ができ押されていなかったら今頃発彦はハチの巣になっていただろう。

それを見ていた刀真も急いで前に出て「伝家宝刀」を取り出す。するとそこに現れたのは、彼らにとって知っている男が1人、知らない女が1人。


「お前は……鎧!!」


「久しぶりだなお前たち」


その知っている顔というのは、かつてオージ製薬の突入作戦にて逮捕対象の逃亡を手助けした大男である鎧であった。そしてその隣にいる女性は3人が見たことはないが、同じく加担していた狙撃手の長壁である。


「どうして貴様がここに!?」


「決まっているだろう、お前たちを潰しに来た」


「私たち――2人でね!」


そう言うと鎧と長壁はほぼ同時にそれぞれの四字熟語を挿入、2人揃って特異怪字へと変身していった。

鎧は「銅頭鉄額」、長壁は「飛耳長目」、鎧の怪物と銃を持った鳥の怪字が発彦たちの前に君臨した。

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