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爆発寸前な男  作者: ZUNEZUNE
第十四章:永遠の女
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155話

神社のとある部屋、畳の上に敷かれている布団で寝ているのは知り合いでもない1人の女性。銀のように綺麗な白髪を持ちまるで雪女のように白い肌を持っていた。その美しさといったら他のことを忘れてしまいそうな程だ。

しかし俺たち3人にその綺麗さに見とれている余裕は無かった。決して1人の女性を見るものではない視線を向け、寝ている彼女から遠く離れた位置でずっと警戒していた。

すると玄関の方から音がし、そのままドタバタと騒がしい足音が聞こえてくる。この神社の主である天空さんが帰ってきたのだ。


「待たせた!急いで帰ってきたよ」


「すいません急かしてしまって……何しろ緊急事態ですので」


先ほど勇義さんに頼み連絡をしてもらい呼び出したのだ。汗を結構流しているので遠いところから走ってきたのだろう。そこまで急かしたことに少しだけ罪悪感を抱いたがこの場合仕方ない、この状況を俺たち3人で解決できるとは思えない。なので経験豊富な天空さんが必要であった。


「それで……電話で言っていたことは本当なのか?」


すると倒れているその女性を見てふとそんなことを聞いてきた。半信半疑といった表情をこちらに向けてくるが仕方ないだろう、現に俺たちだって完全には信じられないのだから。

天空さんに示すように俺は再び「一葉知秋」を彼女にかざす。するとその青白い光は更に強まった。そこから疑いの色であったその表情は驚愕しているものへと変わった。こうしてそのあり得ないことが今目の前で起きているのだ、否定はできない。


「パネルの呪力を持った女……か」


「はい、失礼して所持品を確認したんですけど何も持っていませんでした。『一葉知秋』が彼女本体に反応しているのは間違いありませんね。それと、どこかで()()()()()()()()なんです……」


これは人間が特異怪字になるところを始めて見たとき以来の衝撃であった。浄化されていないパネルを持ってないとなるとこの4枚がこの人自身に共鳴しているのは紛れもない事実、だがそれでも頭で理解しきれなかった。

当たり前のことだがこの「一葉知秋」は怪字の呪力に反応し発光するもの、しかし目の前で寝ている女性はどう見たって普通の女性であった。


(一体何者なんだ……こいつは!?)


しかし俺たちが警戒している理由はそれだけじゃない。問題はこの人が敵か味方かまだ分かっていないのだ。勇義さんと天空さんにも聞いてみたが、パネル使いの世界でも知られていない顔らしい。もしかしたらエイムの手先という可能性もある。

天空さんを呼んだのは、もし彼女が敵だった場合一緒に応戦してもらうため、敵の実力も分からない以上経験豊富なこの人に頼るしかない。


「――ん」


するとその口から初めて声が聞こえた。唸るようで小さな声であったが、その声色もとても綺麗だ。

しかしそんなもので油断する程俺たちも甘くはない、彼女から声が聞こえた瞬間一斉に武器を構えた。気絶している女性を集団で攻め立てるというのは何かと気が引けるが今は仕方ない。

やがて彼女はゆっくりと体を起こし、目を覚ました。


「……ここは?奴らはどこに!?」


最初はのっそりとしていたが、自分がさっきまで気を失っていたことに気づくと慌ただしく周囲の状況を整理しようとする。

……どうやら敵意は無いらしい、それを全員で確認すると各々の武器をしまった。とにかく何があったのか、そして何者かを聞きださなければ。


「ここは英姿町の神社です。貴方はその前で気絶したんですよ」


「……神社?」


こちらも武器をしまい攻撃しないことを示したがそれでも警戒されている。無論俺たちもその心を無くしたわけではないが、すっかり立場に逆になった。まぁ見知らぬ神社で知らない人に話しかけられたら誰だって怪しむだろう。

――だがこの人は、()()()()()()()()()()()


「あ、貴方はあの時の……」


「……え?」


するとその女性は俺の顔を見た途端まるで過去に一度会った風に話しかけてきた。最初は戸惑ったものの、実は俺もこの人とはどこかで会ったような既視感を抱いていたのだ。

どこで見たのか、必死に記憶の中を探ってみる。こんな綺麗な人は一度見たら中々忘れなさそうだが。綺麗と言うか、もっと別の感情で印象的に思っていたのは覚えている。


「あ、あのパーキングエリアでか!」


しばらく考えているとようやくどこで見た顔か思い出した。それは俺たちがエイムのリクターの謎を解明するために、最初の鶴歳研究所へ向かっている最中に寄ったパーキングエリアであった。

確かあの時は持っていたパネルを落としたところで偶然顔を合わしてしまい、その雰囲気があまりにも特徴的だったから怯えたのだ。そう言えばあの時は他のパネルを全て車に置いていた。それなら「一葉知秋」が光っていたことにも気づかないのも無理はない。

するとその女性は光っている「一葉知秋」を見て、そこからもう一度俺の顔を眺めてきた。


「貴方……やっぱりパネル使いだったんですね、あの時からずっと貴方を探していました」


「……俺を?」


「はい、それに他のパネル使いの皆さんも。どうか私の話を聞いてはくれませんか?」





「私は『不知火 永恵(ながえ)』と申します。突然倒れてご迷惑をおかけしています」


その女性は不知火という性を名乗り、居間の座布団に座って俺たちに向かい合った。一応敵ではないからお茶も出し客人として迎えていた。

それでも俺たちの警戒心は解けていない。敵ではなくとも正体不明であることに変わりない。


「……それで、何故あんなボロボロの姿だったんですか?」


「――エイムという組織をご存知ですか?私はとある理由で奴らに追われていました」


「エイム……また奴らか!」


最早怪字関連の騒動には必ずと言ってもいい程関わっているような気がする。この不知火という人はエイムから狙われており、捕まりかけたところを何とか脱出して逃げだしたという。

この人もまた奴らの被害者というわけだ。この時点で同じ組織に苦しめられるという共通点で仲間意識を持つがまだまだ気は許せない。


「……じゃあ聞いても良いですか?この『一葉知秋』は怪字に反応する四字熟語です。それがどうして貴方に反応するんですか?」


この場にいる全員が一番気になっていた疑問だ。追われていた理由のも気になるが今優先的に解決すべくはこの問題。その質問の返答で彼女の評価と対処が大きく変わるだろう。


「……簡単です。それは、()()()()()()()です」


「……は?」


そうして返ってきたのは俺が説明した「一葉知秋」の能力とまったく同じ内容の言葉。しかしそれが能力解説ではなく自己紹介で使われたらどんなにおかしい言葉だろうか。

不知火さんは自分を怪字だと言ってきた。勿論そんなことが信じられるわけない。その体はどっからどう見ても人間の姿で人間の言葉を話す。もっと別の言葉で例えるなら「人間の姿の特異怪字」と言った方が良いだろう。

すると不知火さんは突如立ち上がり、そのまま隣の調理場へ行ったと思ったら包丁を持って戻ってきた。

やはり敵か!?再び緩くなっていた警戒心を張り詰めさせるも、彼女の包丁を持つ手からは殺意は感じられない。やがて驚きの行動に入った。


「ちょッ――何してるんですかッ!!」


なんとその包丁で()()()()()()()()()()()。結構深く刃が肉を切り裂き血がドバドバと流れ出た。

血液があるということは怪字ではないことは確か。今さっきの発言を自分で否定したことになるし、そもそも手首を切ってまですることでもない。というか切る意味も理由も無い。

すると不知火さんは自分でつけた切り傷を見せてきた。すると今度は別の事で目を丸くする事態となる。


「傷が……()()()()?」


見る見るうちにその傷は小さくなっていき、あっという間にまるで何もなかったかのように治っていった。自然治癒とかいうレベルじゃない、明らかに何かの作用が働いている。

とんでもないことを続けて見たため、俺も他の人達も言葉が出なかった。血を見せることで人間性を確立させてきたのに、その直後人間とは思えない治癒能力を見るというかつてない程の矛盾であった。

ただこれだけは言える。彼女は普通の人間ではない――


「さっき言った追われている理由もこれです。私はかつて、『()()()()』という四字熟語を体内に宿し、文字通り()()()()()()()()()()()()


「ふ、不老不死……?」


いきなりそんなことを言われてもいまいち実感が湧かない。しかし今見せた治癒能力に「一葉知秋」に反応する体、どれもパネルの力としか思えないものであった。

不老不死という言葉は漫画やゲームでしか聞いたことが無い、呪いのパネルによって作用されるものなら一応納得はできるが、いざそれを目の前にしたら何だか不思議な感覚だ。


「私は大昔にパネル使いで、とある怪字と戦ったんです。それが『不老不死』」


「……大昔?あの失礼なんですけど……おいくつなんですか?」


すると天空さんがそんなことを聞いてきた。確かに不老不死というのは歳も取らず永遠に生きていくという意味だ。もし彼女の話が本当なら一体何年生きているのかと知りたくなるのも無理はない。


「もう正確には覚えていません……数百年はこの姿で生きています」


「すうひゃ――!?」


だが彼女の口から出てきたのは途方もない数、つまりこの人は戦国時代辺りの日本に生まれその時から今までずっと生き続けたということになる。

見た目は勇義さんと同じくらいの年代だがその実態は長い時を生き続けた女性、年上やおばあちゃんレベルの話ではない。


「この国をずっと見続けてきました。100歳を超えたあたりから時間の流れが速くなったような気がして……ずっと死ぬ方法を探してきました」


「死ぬ方法を……?」


「元々自らこの不死の体になったわけじゃないんです、さっき言った通り『不老不死』の怪字に挑みました……しかしその能力はまさしく不老不死という言葉通りで……()()()()()()()()()だったんです」


「絶対に死なない怪字!?そんな奴をどうやって……」


「不老不死」の意味から大体の能力の予想はしていたが、まさか本当にそうだったとは予想外だ。とはいえ流石に反則すぎるのではないだろうか?絶対に倒せないと決まってたその怪字を不知火さんはどうやって倒したのか?倒せなかったのなら今頃この国はとっくに崩壊している筈だ。

死なない怪字を倒す方法、単純な興味本位で気になっている節もあるが俺たちは1人のパネル使いとしてもそれが知りたかった。話を聞くに不知火さんはかなりの実力者だ。

だがその方法を聞いて、更に驚かされることとなる。


「……私たち不知火家は、()()()()()()()()()()()()()()んです」


「なッ――蒼頡って、あの蒼頡!?」


もう驚くことはないだろうと油断していたが、ここにきて一番驚愕した。俺と刀真先輩、勇義さんと天空さんも信じられない顔でお互いの顔を見合った。

パネル使いやこの世界の人間なら知らない筈はない、蒼頡は大昔に中国から日本へやってきた中国の賢者、そして怪字の根源である呪いのパネルを作ったという言わば全ての元凶でもある人物だ。

蒼頡さえいなければ怪字や呪いのパネルという概念は生まれることはなく、俺たちも人生を狂わされたりしなかった。まさかこんなところで名前を聞くとは思ってもいなかった。


「つまり不知火さんは……蒼頡の子孫!?」


「はい、パネルを作った賢者の血族……そのせいか、不知火家の人間は呪力を抑えたりする能力も受け継いでいるんです」


まさかあの蒼頡が自分の子孫を日本に作っていたとは驚きだ。そしてパネルを作ったということはその仕組みを理解しているということ、呪いのパネルが科学的な技術で作られていないのは確か。何かオカルトチックな技術で作られたとは大体予想が付いていた。

そして不知火さんの家計は、その蒼頡の能力を受け継いでいるという。呪力を抑える、浄化師でもないのにそんなことが可能なのだろうか?


「私はこの能力で『不老不死』の怪字に立ち向かいました。倒せないのなら封じればいい、そうやってその4枚のパネルを自分の体内に封じ込めたんです」


「じゃあ今も体の中に……?」


「はい、しかし『不老不死』は凄まじい呪力を持っており蒼頡の力でも完全に抑えることはできませんでした。結果その死なない能力が私にも影響されているわけです」


なんて凄い話だろうか、大昔なのだから当然だが、まるでおとぎ話を聞いているかのような感覚に陥る。不知火さんは自分を怪字と同格の存在にしてまでも「不老不死」の怪字を封じたことになる。

――そんなこと、普通できるだろうか?自身を死ねない体にしてまで怪字を倒す。結果彼女は数百年生き続け彷徨っている。話を聞くに彼女もそれにうんざりして死にたがっていた。


「抑えられるってことは……解放することもできるんですか?」


「確かにできますけど……その場合解放されたパネルからまた怪字が現れることになっちゃうんです。私はそれで逝けますけど……そうなったら誰も『不老不死』を止められなくなる」


つまり彼女は「不老不死」の怪字から日本――いや世界を守るため、途轍もなく長い時をかけてそれを封じ込め続けているわけだ。例え不死身の体という苦痛を味わってでも皆を守る。

――この人も、皆を守りたいんだ。


「なので私は……体の中の『不老不死』ごと自分を殺す方法をずっと探し続けていました。そして今に至り、あのエイムという組織に出くわしたんです。奴らは、私の中にある四字熟語を狙っています」


「エイムが『不老不死』を……一体どうして?」


「この数百年間、私のパネルを狙い襲ってきた人は沢山いました。だけど『不老不死』を手に入れるためには私を殺す必要がありますし……そもそも『不老不死』には人を不死身にする力なんてありません、私がこうして生きていられるのは蒼頡の血があるからです」


やはり不老不死を欲しがる者というのは沢山いるらしい、永遠の命を求めた者のは日本や海外の歴史上にも存在しそもそも欲しくなければ「不老不死」という言葉すら生まれないだろう。

俺も子供の頃は死にたくないという想いで不死身になりたいと願っていたことがある。誰だって永遠の命を一度夢見た。なので大勢の人が彼女の「不老不死」を狙ってくるのは必然だ。

しかしそれを手に入れるためには不死身になった不知火さんを殺さなければいけないという矛盾の問題があるわけだ。


「しかしエイムは『不老不死』の力を上回り私を殺す手段を発明しました。確かに私は死を望んでいますが……奴らがこのパネルを悪用するのは分かっています。それを阻止するためにこうして逃げていました」


「エイムがそんなものを……相変わらずの技術力だな」


話をまとめるとこうだ。不知火さんは大昔「不老不死」の四字熟語を蒼頡の力で体内に封じ、不死身の体になって今まで生きてきた。しかしエイムはその四字熟語を「他人を不老不死にできる」という能力だと誤解し、不知火さんを殺して強奪しようとしているわけだ。

ここにきて今まで何のために活動していたか分からなかった連中の目的が明白に分かった。「不老不死」を手に入れその不死の力を手に入れようとしているのだ。悪の組織のお手本のような考えだ。

しかしいくらその能力を誤解しているとはいえ、絶対に死なない怪字を生みだすパネルを奴らに渡すわけにはいかない。不老不死にする能力なんて無いと分かっても特異怪字になれば話は別だ。エイムにとって呪いのパネルとは色々な悪事ができる道具のようなものだろう。


「事情は分かりました。まだいまいち信じられないですけど貴方が敵じゃないというのは分かりましたし……天空さん、不知火さんをここで匿ってもいいですか?」


「お前ならそう言うと思ったよ。不知火さん、この子――発彦たちはいつかエイムを倒す。その日までここで隠れているといい」


「いいんですか!?ありがとうございます!」


例え不老不死だろうが怪字に近い存在だろうが、目の前にいるこの人の心は紛れもなく人間のものだ。だったら見放したり迫害する必要はない。それにこれ以上エイムの思惑通りにはさせない。

刀真先輩と勇義さんも俺に頷き賛成の意を示してきた。どうやらこの場にいる全員が同じ考えらしい。

こうしてこの神社に、不知火永恵という新たな住民が増えた。

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