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爆発寸前な男  作者: ZUNEZUNE
第十三章:償いと決意
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152話

改めて守薪曲逸の狂気を確認した後、奴への怒りを最大限に十手に握り込めた。このままへし折るつもりで握力を強くし、高ぶる感情をよそに俺は冷静になる。

奴の能力は弾丸の軌道を湾曲させるもの、それによってあらゆる角度から弾を打ち込み、外れた弾も時間をかけてこちらに戻らせることも可能であった。つまりあらゆる面で警戒しなければならなかった。

しかもこちらの浄化弾も軌道を逸らし命中させないようにもしてくる。これによって俺の銃弾はある程度奴に接近しなければ当たらないわけだ。

ということは拳銃を使うも使わないもどちらにしろこちらから近づかないといけないのだ。それが十手に力を込めた理由。基本銃使いは距離を詰めれば動きにくくなる。


「だぁああああ!!!」


雄叫びを上げて大地を蹴り、十手を振りかぶって奴に向かって走り出した。すると守薪も同じ手を食らう程馬鹿ではないのか、2丁の銃を構えこちらに乱発。大量の弾幕が迫ってきたが十手で弾き足を止めない。


「お前の弾など、見てれば簡単に予測できる!」


俺にかかれば銃口と音でその軌道を読むことができる。それにこちらから真っ直ぐ進めば守薪も弾を曲げる必要も無い。そしてどうやら弾かれた弾や一度曲げた弾道は湾曲できないらしい。

やがて再び奴の懐に潜り込んだところでその体に十手を叩き入れる。最初は肩に振りかぶって打ち込み、その後はその脇腹を横から殴った。

すると守薪は俺を銃で殴りかかるも簡単に受け止められる。どうやら銃の腕前だけが優れているだけで格闘戦には弱いらしい。そもそも銃本来の使い方をしていない。


「調子にぃ……乗るなぁ!!」


銃を振りながらそんなことを叫ぶも何もしてこない。それに構わず十手の殴打を続ける俺だったが、そんな俺を見て守薪はニヤリと笑う。

しかし俺はそれに対し笑い返し、体を奴に向けたまま十手だけを後ろにし迫ってきていた弾丸をガードした。


「なッ!?」


「予め背後に集中してれば防げない攻撃じゃない!!」


どうやら同じ手に引っかからないのは守薪だけじゃないらしい。先ほど避けた弾丸が曲がりこちらに向かってきていたわけだが、それを一番に警戒していた為十手で防ぐことができた。

俺はそのまま十手による攻撃を続ける。奴の体に付いていたパイプはヒビだらけとなり見るに堪えない状態になっていた。このまま押し込めば倒せるだろう、十手を握る手が更に強くなる。

しかしそう上手くいかないのが怪字との戦いであった。


「なら……これならどうだぁ!!」


「のわッ煙!?」


すると突如奴のパイプやそのヒビから灰色の煙が噴出してきたため、咄嗟に後ろへ逃げてしまいまたもや離れてしまった。

これで接近戦ができなくなったが妥当な判断だと思う。この煙が吸っても害が無いという保障はないのだから。もしかしたら応治与作が使っていた「応病与薬」のように毒性を作れるのかもしれない。

どちらにしろその煙は後退を強制させ、尚且つ完全に守薪の姿を包んで隠した。奴自身も煙の中にいるので毒性は無いと判断していいのだろうか、それとも向こうには抗体があるのか?

しかしその悩みは、煙の中から聞こえてきた発砲音で掻き消されてしまう。


「危なッ!?」


急いで十手を前に出し銃弾を弾き、その際さっきと同じような金属音が鳴り響いた。あと少し反応が遅れたら体に銃弾が撃ち込まれていただろう。しかしこれであの煙の意図が判明した。


(さっきまでは銃口の向きや音で軌道を予測していたが――これだと奴がどこを狙っているのかが分からん!音で反射的に反応するしかない!)


視覚と耳で奴の弾丸を避けていた俺だったが、その大半は目に頼っていた節もある。耳でも一応は対応できるがそれでも回避率は格段に下がってしまった。

すると守薪は更に弾を撃ち続けるので俺はそれを躱しながら走り続ける。すると煙から飛んでくる弾も私を追ってきた。

迫りくる弾幕を避け続ける中、俺はある疑問を感じた。


(こいつ……何で煙の中からでも俺を狙えているんだ?)


こっちでさえ煙の中から飛んでくる弾を避けるのに精一杯だというのに、あいつはその煙の中心にいてこちらより視界が悪い状態でちゃんと俺を狙えている。流石にさっきよりかは狙いの精度が落ちているが、これは俺の大まかな位置を分かっていての発砲だ。

――ここでふと、ある予想が俺の頭を過る。それは守薪自身の発言にも則ったものであった。

試してみるしかない、俺は拳銃を握って走りながら煙を狙って撃つ。すると煙の出どころである守薪は右に大きくずれてその浄化弾を避けた。


(やっぱり!こいつも俺と同じように、()()()()()()()()()()()()()()()のか!)


守薪の聴覚が優れているのは奴自身も言っていた。それがどれだけのものかは知らないが、今までの動きを見て相当耳が良いのだと分かる。

まず何故こちらの場所が分かっているのか、奴が煙の中で最初に撃った弾を俺は十手で弾いて躱した。その際に鳴り響いた金属音を頼りに狙っていたのだ。そこから動き回っていた俺に対してはその足音で場所を探っていたのだと考えられる。

そして浄化弾を避けられた理由、煙の中にいるくせに奴は銃弾が向かっていたのを分かっていたかのように体を動かし右にずれた。それは発砲音を頼りにして避けたのだろう。


(くそッ!あの野郎思った以上にあの四字熟語を使いこなしてやがる!)


小笠原大樹に雇われたということは、つい最近まで怪字や呪いのパネルの存在を知らなかったのだろう。しかしそれでも奴は自身の身体能力と四字熟語の能力を駆使して相手をしてくる。

果たして怪字の姿でも人間の時の能力が影響されるかどうかは分からないが、どちらにしろ奴が強いことには変わりない。


「どうしたどうしたぁ!?さっきから逃げてばっかりじゃねぇかよオイ!!」


「このッ……隠れてばかりの癖に……!」


こうなったら一度立ち止まって音を消した方が良いだろうが、現在奴の銃弾から逃げている最中なので止まれない状態である。このままこの攻防が続いたらやがてこちらの体力が無くなりハチの巣になってしまう。

かといって銃弾も満足に予測できないまま奴に近づくのは危険だ。何とかできないものか。


「そう言えば聞いたぜオイ、このパネル。お前の恋人を殺した奴だってなぁ?」


「ッ!小笠原大樹から聞いたのか?」


どうやら偶然この怪字と再会したわけではないらしい、恐らく俺の過去を知った小笠原大樹が俺への嫌がらせに用意したのだろう。俺のトラウマを呼び起こそうとしたに違いない。

しかしその考えは失敗に終わったようだ。トラウマを呼び起こされるどころかその思想を知って更に怒りが湧きおこる。


「どんな気分だ?同じ怪字に手も足も出ないのは!?」


「くッ――!!」


するとそこから更に奴の弾幕は勢いづく。いい加減逃げ続けるのにも疲れてきた、本当にどうにしかしないと弾の餌食になるのは時間の問題だ。

かといってこちらから攻めることはほぼ不可能、接近もできないし銃弾も逸らされる。せめてあの曲げる能力さえ無ければ何とかできるが……


(曲げる能力……そう言えばさっきの浄化弾、何故奴は能力で軌道を変えず単純に避けたんだ?)


そんな疑問を抱いた俺は、確かめるべくもう一度奴に発砲する。すると守薪は同じように体を動かしてその弾を避けた。

いくら聴覚で対応できるとはいえ、その能力で軌道自体を逸らした方が効率も良いし楽の筈だ。それなのに奴はわざわざ動いて弾を躱した。


(弾を曲げなかったのではなく()()()()()()()()?……もしかして、あの湾曲能力は、視界の中にあるものにしか使えないのか……!?)


その可能性は高い、現に奴は避ける時だけにとどまらずこうして俺に向かって撃つ銃弾も一向に軌道を変え追撃させてこない。

もし能力が視覚情報によって発動されるものなら、奴はそれを分かった上で自身を煙で覆ったのだろう。そもそもサシの撃ち合いで軌道を曲げるという能力はそこまでの脅威にはならない。精々俺が足に受けたあの不意打ちぐらいだろう。


(そうか――奴は今目が見えないんだった!)


今まで避けにくい弾丸のことで精一杯だったが、改めて思うと煙で自身を隠すというのは、その視界を自ら塞ぐということ。銃使いにとってそれがどれ程辛いものかは分かっているが、奴の聴覚ならそのデメリットも大したものにはならない。

しかし銃を使うか使わないかの前に、やはり目が使えなくなるというのは痛手の筈だ。奴は自慢の耳でそこまで気にしてはいないが、どこかにチャンスはあるはず。


(――仕方ない、もうこれしか手は無い!)


少々危険な方法だが、そうでもしないと一生この追いかけっこが続いてしまう。迫りくる弾幕を全て弾き終わった後、俺は一度()()()()()()


「ん――急に止まってどうした?足音立てずに逃げようたって無理だ!どんな抜き足差し足だろうが俺の目はそれを捉える!それでも聞こえてないってことは……本当に立ち止まったようだなぁ!!」


奴の言う通りで実際俺はその場から一歩も動いていない。例え足音を立てなくとも音が一切しないということで俺の現在位置は割り当てられるだろう。

現に奴は俺のいる位置が分かっており、こちらに向かって何度も撃ってきた。それでも俺は動かない、弾が頬を掠めようが微動だにもしなかった。

ただ真っ直ぐ、煙に向かって拳銃を突き付けるだけ――


「うぐッ……!」


奴も煙の中なら正確に俺の急所は狙えまい、それでも数弾胴体や足、肩に銃弾が命中する。しかしそれでも銃を構える姿勢を崩さない。

撃たれた痛みも忘れ、ひたすら()()()()()


「どうした!?もう降参かぁ!?俺を逮捕するんじゃなかったのかよ!」


更に銃弾の数は増え、その度に体に弾が撃ち込まれる。

やがて、ようやく()()()()()()が分かった。後は()()()()()()

やがてもう1発、銃声が鳴り響いた瞬間。俺は反射神経に身を任せ引き金を引いた。向こうからの銃弾は急いで十手を持ち弾き飛ばす。

肝心の俺の浄化弾はそのまま煙へと向かっていく。当然能力で曲げられることはない。また避けられるかと思いきや、煙に弾が突っ込み中の守薪に命中した。


「ガハッ!?」


中から奴の悲痛な声が聞こえたと思いきや、噴出され続けた煙は晴れていき、当たった銃弾に苦しんでいる守薪だけが残った。必死に浄化弾が撃ち込まれた箇所を手で抑えている。


「な、何故だ……何故俺の耳で捉えられなかった!?」


どうやら困惑しているらしい、無理も無い。絶対的自信を誇っていた聴覚に銃声を()()()()という欠陥が見つかったからだ。

上手くいった俺はホッと一安心し、警戒しながらもゆっくりと奴に歩み寄る。


「何故かだって?そりゃそうさ、自分の()()()()()()()()んだからな」


「俺の銃の音?……まさかッ!」


「そう、俺は()()()()()()()()()()()()()()()()()()んだ」


守薪はこちらの銃声で弾が来る向きとタイミングを計っていた。ならば音を消せば良いかと思ったがそんなこともできない。

しかし優れた耳を持つ奴がどんな音でも聞き逃す時があることに気づいた。それが奴自身が銃を撃つ瞬間。手に持っていた銃から音が鳴るわけだ、きっとどんな騒音よりも耳に入るはず。つまり俺は向こうの銃声に合わせて撃ち、自分の発砲音を隠したということだ。


「何も耳が良い奴はお前だけじゃない、その銃の音が聞こえた瞬間すぐさま引き金を引き、互いの銃声を重ねたわけだ」


「そんなことが……!?」


「どうだその()()は、煩いのは嫌いなんだろ?」


そして俺が弾を打ち込んだ場所、それは奴の()()()()()()。上手く耳の穴に弾が入るよう調整したがどうやら上手く入ったらしい。自分の狙撃力に惚れ惚れしてしまう。


「どうやって……耳の場所が分かったんだ!?煙で見えなかったはずだぞ……」


「俺がお前の周りを走っていたのは、別に弾から逃げるためだけじゃない。周回して全方位からお前の様子を見て()()()()()()()()()。どこから煙が出るかは見たからな、後はその流れを見て耳がどこにあるかを予想すればいい」


こればっかりは本当に苦労した。走りながら敵の銃弾を避けつつ、その目で煙の流れを確認し続けたのだから、少しでもそっちに集中しすぎれば弾が当たり、かといって逃げるのに精一杯になったら煙がよく見えない。

しかしそのおかげで奴の耳の位置が大体予想できた。例え片方だけだろうが耳さえ封じればこっちのものだ。


「ふざけんな……そ、そんなことできるわけねぇだろうが……!!」


「できるんだよ。予想を犯人の動きを読み取るのに使う――刑事ならな!」


自分で言うのもなんだが、探偵並みの推測力と凄まじい拳銃の腕前が無ければ無理であった。いや別に謙虚する必要無いな、俺凄い!

しかしこの戦いももうすぐ終わりだ。俺は再び拳銃を構えながら奴に近づく。するとまだあきらめてないのか、耳を抑えながらも守薪は銃を拾い狙ってきたのでその銃をこちらの拳銃で弾いた。この短い距離なら曲げる余裕も無いだろう。


「これで終わりだ、守薪曲逸」


「ち、畜生ッーーーー!!!!」


そう言って俺は奴に拳銃を押し当て、そのまま容赦なく発砲。そうしてできあがった眉間の弾痕からヒビがどんどん広がり、やがてその怪字の体は崩れ去った。残ったのは倒れている守薪のみ。


「あぁ……あいつを殺した怪字の姿だったからつい酷い終わらせ方にしちまった。すまん」

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