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爆発寸前な男  作者: ZUNEZUNE
第十三章:償いと決意
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151話

『楽しかったですね任三郎さん!』


『ああ、そうだな……』


すっかり遅い時間になり、長い間この自然公園にいる。時間帯のせいなのかそれともそこまで知名度があるわけではないせいか、俺たち以外の人間は殆どいない。今こうして腰を下ろしている草原も見渡す限り人影すらない。

空には綺麗な星空が輝いており、切れかけた街路灯しか光が無いため邪魔するものなく夜の星が見えた。

薄美は自然だけじゃなく星も好きだった。なので横を見れば俺だけはなく空に目を奪われている彼女の姿が見えた。その星空に負けないくらい目を輝かせて見上げている。今回ばかりは俺も星空に嫉妬してしまう。

ここで俺はこいつとの出会いを振り返っていた。初めて会ったのは都心の図書館にて、お互い自分が求める本を探しているうちに偶然出会い、そこで所謂一目惚れをし合ったのだ。そこから連絡を取り合い交際することに。

それから長い間交際を続け、今となってはプロポーズする直前まで到達している。本当はこの後高級レストランに行きそこで指輪を渡す予定だったが、どうせなら誰もいないこの星空の下という絶好のムードでやったほうがいいだろう。

いつものようにドジを踏まないように気を付け、プロポーズの言葉を噛まないよう脳内で必死に練習する。前々から考えていた告白も完璧、心配することと言えば肝心な場面でミスらないかだ。

鼓動が早まりドキドキしだす。犯罪者を捕まえるための捜査の直前でも緊張しない俺だったが、今ばかりは胸が高まってくる。


(よし……行くぞ!)


決心はついた、今こそプロポーズをし成功させ、薄美との明るい夫婦生活を過ごして見せようじゃないか。

あいつが星空に夢中になっている間にいつでも指輪を服の中から出せるように調整、準備は万端だ。


『薄美――話があるんだ』


『はい?』


するとようやく彼女の目が星からこっちへと移る。その綺麗な顔と改めて見つめると再びドキッとしたが、引かずにちゃんとその目を見つめなおした。するとその雰囲気を察したのか彼女もぎこちない表情になる。


『任三郎さん……あれ人じゃないですか?』


『どうか俺と――え?』


しかし彼女が後ろに人がいることに気づきそのプロポーズは遮られる。一体このタイミングになんなのかと怒りが湧くが、どうやらさっきのぎこちない顔はその「人」を見たかららしい、それにただ普通の人間を見つけたところで口には出さないだろう。

どうやらただことじゃないらしい、俺も同じ方向を見ると確かに暗闇の中に人影が見える。立っている姿ではなく、()()()()()()()――


『なッ――大丈夫ですか!?』


俺にも刑事の性があるのか、それが倒れた人と認識した瞬間立ち上がり単独でその人の元へ駆けつける。同じくここへ遊びに来た男だろう、背中には外傷があり出血も酷い。この傷を負ったショックで気絶していた。


(どう見たって事故でできる怪我じゃない……誰かの犯行か!?)


その傷はそれはもう酷いもので見るに堪えない程であり、車の事故にでも巻き込まれたのかと最初は思ったが、ここら辺は車が入れないエリアの筈、悪意のある誰かの仕業という訳だ。

つまりこの近くに犯人がいるというわけだ。一気に警戒心が張り詰めた状態になり辺りを見渡す。そこでこれだと薄美の奴も危険だということに気づいた。


『薄美!危ないから離れて――ろ?』


急いで彼女に警告しようと今さっきいた場所を振り返るが、そこに映ったものに思わず目を丸くしてしまう。

不安そうにこちらを見ている薄美の後ろから、()()()()()()()が跳びかかってきている。普通なら「逃げろ!」と叫ぶ場面だが、見たことも無い怪物を目にして脳が追い付かない。

ようやく思考が落ち着いて声を出そうとした瞬間、その怪物の手が彼女に向かって振り落とされた。





それが彼女の死の理由、殺人鬼に殺されたのではなく運悪く現れた怪字に殺害されたのだ。その後薄美を抱え必死にその怪字から逃れ、その場に駆けつけた網波課長に救われた。それがあの人との出会いだ。そこから怪字の世界のことを知り、前代未聞対策課に異動したわけだ。

しかし突然現れた指名手配犯、及びエイムの刺客である守薪曲逸が変身した特異怪字は薄美を殺めた怪字と同じ姿であった。

「曲突徙薪」――同じ四字熟語を使っているから当然だが、問題はそこではない。


「貴様……何故そのパネルを持っている!?」


そう、その4枚はエイムが()()()()()()()()()四字熟語であった。「曲突徙薪」の4枚は薄美を殺した後網波課長に倒され、そのパネルも回収され今はどこかの研究施設に保管されているはずだ。そんなものを何故こいつが持っているのか?


「エイムって奴らが襲った研究施設、そこにあったものを強奪してきたらしいぜ。小笠原って奴がこれ使ってアンタを殺せってさ!!」


「――ッ!!」


すると守薪は持っていた2丁の銃を連続で発砲、俺の背中に隠れている薄子ちゃんに当たらないよう迫りくる2つの弾丸に対し、十手を振り弾き飛ばした。

どうやら奴に特異怪字の力を与えたのはあの裏切り者である小笠原大樹らしい。この間宝塚を襲ったという女も同じだったと聞く。


「薄子ちゃん!急いでここから離れて!!」


「は、はい!」


始めて見る怪字に対し流石に怯えているのか、薄子ちゃんは震えながら逃げ出す。相手が銃使いなら彼女を守り切れる自信は無い。

思えば銃などの遠距離武器を使ってくる特異怪字は強行捜査の時に狙撃してきた「飛耳長目(仮)」の狙撃手以来だ。やはり怪字が現代武器を使っている姿はいつ見ても慣れない。

すると守薪は再び銃を発砲、しかしいくら銃オタクといってもその腕前が俺より勝ることはないだろう。こちとら仕事として扱っている、趣味や殺人に使っている輩には負けない。銃口の向きや発砲音のタイミングで弾の軌道はある程度予測できた。

しかし今度は俺の予想を無視し、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「――どりゃぁあ!!」


普通ならばあり得ない現象に最初こそ驚愕したが、その先が薄子ちゃんであることを瞬時に確認すると体が勝手に動いていた。まるでバレー選手が落ちる寸前のボールを弾く様に、大きく跳びかかって十手を伸ばしその先端で銃弾を弾く。もう少し遅ければ間に合わなかっただろう。


「まだまだ行くぜぇ!!」


「ちッ!!」


何とか銃弾を防ぎ地面に横たわっている俺に、守薪は遠慮もせず銃撃戦を開始。最初の2発は立ち上がると同時に回避しそのまま奴を中心に周回するように走り出す。守薪もそれに合わせ体を旋回させながら撃ち続けた。

迫りくる弾丸を横に避け続けるが、後ろに飛んでいく筈の外れ弾がまたもや軌道を曲げまるで俺を追うように向かってきた。それを屈んだり体を曲げたりして躱していく。

ここで俺も負けじと拳銃を握り、走りながら奴に向かって発砲。しかし真っ直ぐ向かうはずの浄化弾は次第に軌道を変え、守薪の顔の横切ってしまう。


(「曲突徙薪」の能力は飛んでくる物の軌道を曲げる力か――怪字の姿こそ見たことあるが能力は始めてだな……!)


あの時は逃げることで精一杯だったし怪字と太刀打ちできる力も無かったため、ろくにその能力を見たことはなかった。網波課長もほぼ瞬殺で倒したからだ。

その能力は弾丸の軌道を曲げるもの、自身が撃った弾を曲げ不意打ちも可能だしこちらの弾を外させることもできる。銃撃戦では優れた能力だ。

しかしそれはあくまで銃の戦い方において、向こうが銃だけを使ってくるからといってこっちまでそれに従う必要はない。


「こっのぉおおおおお!!!!」


今までグルグルと周回していたが、ここで真っ直ぐ奴に向かって走り出す。迫る弾幕の中を掻い潜りその懐にまで潜り込んだ。

そこで1発十手の先端で首を突き、その後逆手に持って殴りかかる。すると至近距離からでも発砲しようとしてきたので、その前に跳んで蹴りを食らわせた。


「このッ……猪口才な!!」


鬱陶しそうに思っている守薪は何とか俺を追い払おうと乱発するも、ここまで接近されていたら銃の狙いが定めにくい。撃った弾は全て外れていった。

見たところ近距離戦闘が強そうにも見えないしここは十手で攻めた方が良いだろう。もしくは……


「こうやって銃口を押し当てて撃つかだ!!」


「グアガッ!?」


俺はそのまま奴の胸に銃を突きつけ、ほぼゼロ距離から銃弾を撃ち込む。ヒビの銃痕ができ守薪はその衝動で後ろに引いていく。

いくら弾を曲げる能力でも、そんなにすぐに軌道を変えることはできないらしい。なのでこうやって超近距離から撃てば曲げることも間に合わない。現に奴は俺の浄化弾を食らった。

あいつを殺した怪字のパネルと聞いて最初こそ警戒したが、そこまで気を張り詰める程の相手でもなかった。これならこのまま押し切れるだろう。

しかしその考えは、突如右足に走った痛みでかき消されてしまう。


「なッ……!?」


守薪は今俺の目の前にいるはず、だが後ろから銃弾が飛んできて俺の太ももに命中した。突如として襲ってきた不意打ちに倒れそうになるも、撃たれていない方の足で何とか耐え忍ぶ。

急いで振り返ると同じように弾が数発迫ってきている。足の怪我によって上手く踏み込めないが何とか十手で弾き落とした。つまり、奴に()()()()()()()()()()わけだ。


「隙ありぃ!!」


「しまッ――がぁあ!?」


すると守薪はその隙にと至近距離から発砲、弾道を曲げる必要も無い程近いところから弾が撃ち込まれた。しかし俺も機転が利き咄嗟に体を反らす。それで致命傷は避けられたが左脇腹に1発命中された。

太ももに受けた時と同じ激痛が走るが、それでも俺は倒れず前へ走り出す。そうして拳銃を撃ち続けながら奴から距離を取る。当然俺が撃った為はギリギリのところで軌道を曲げられ外れた。


(こいつ――()()()()()()()()()()()()()!)


見たところ奴の軌道を曲げる能力は何もすぐに曲げられるものではないらしい、少なくとも90度以上曲げることはできないと見た。だが奴はそれでも弾を曲げ続け、まるで半円を描く様に軌道を逆にしこちらに弾を打ち込んできた。

これで外れ弾にも警戒しなければならなくなった。ただでさえ足と腹の傷が痛むというのに。


「流石は本職刑事、少し体を撃たれただけじゃ喚かないか」


「何……?」


「俺が殺しの童貞を捨てた相手は子供だった。今頃のガキはゆとり教育を受け机に向かってお勉強しているのが普通だろ?それなのに昼間から近所で煩くて煩くて……」


こいつは子供を銃で撃ち殺した殺人鬼、本来ならその親に注意して済む問題を銃という暴力で解決した狂人でもある。そんな奴の口から出る言葉というのも狂っており、守薪が同じ人間とは思えなかった。


「だから撃ち殺してやったよ。甚振る為に足から撃ったんだがすると余計に煩くなってよぉ……あまりにも耳障りだったから喉を撃って黙らせようとしたわけよ」


「……ッ!!!」


「そしたら黙るどころかくたばっちまって、まさしく死人に口なしという結果になった。あれは笑えたぜぇ!」


困惑の次に抱いた感情は憤怒、まるで自慢のように語るこいつの悪行に反吐が出そうになった。この男の我儘の為に未来ある子供たちが失われたと思うと湧き上がる怒りがマグマのように沸騰した。是非とも触渡に怒りを抑える方法を教わりたいものだ。


「俺は、耳が良いんだ。だから昔っから煩い奴は嫌いだった。クラスには1人ぐらいいただろ?理由も無く祭りみたいに喚く同級生が。小学生の頃から同じクラスにいた猿に殺意を抱いていた」


そう言えば聞いたことがある。守薪曲逸は非常に聴覚が優れておりそれを駆使して警察の追手を掻い潜っていたと。


「そんな時に出会ったのが銃だ!大きな音は出るが一瞬で騒音の出どころを片付けられたし、何よりその一瞬で耳から脳まで伝わる銃声に俺は惚れた!」


「もういい……」


もう我慢の限界であった。これ以上奴の自己紹介に付き合う程俺はお人好しじゃない。それにこのまま聞き続けると頭がどうにかなりそうだ。


「守薪曲逸!殺人罪及び銃刀法違反の罪で――お前を逮捕する!!お前のような悪人がいるから、刑事(おれたち)は休めないんだ!!」


「……やっぱお前煩いよ。こういう自分の感情を押し出すタイプも――嫌いなんだよなぁ!!」


そう言って守薪は再び銃を突きつけ、対する俺は十手を構えなおす。これ以上の口論は無駄だ、この溢れかえりそうな怒りは、この十手に込めて撃ちこんでやる!

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