14話
空高く舞い上がった怪字はそのまま地面へと墜落する。アスファルトの地面にめり込んだ。
殴られた箇所がひび割れている。怪字は血を流さない。しかしその体がダメージを受けると人形のように亀裂が走る。生物のように動いているのに無機質に似た性質である。
「……ふぅ」
溜めていた息を一気に口から吹き出す。一発放った右腕を体の横に戻し……
「いっちゃん、つーちゃん……」
「一」と「即」を見ながら二人の名前を呼ぶ。そしてその2枚を強く握った。
このパネルは、親友を殺した物でもあり、俺を助けてくれた親友でもあった。
(これからよろしくな、二人とも)
すると怪字が起き上がった。全身にひびが入りながらもまだ健全そうである。赤色に輝く眼でこちらを睨んでいた。
「さぁ……かかってきな!」
もう傷の痛みも感じないぐらい吹っ切れた俺は、人差し指で誘う。そいつがその意味を知っていたのかは分からないが、直感的に分かったらしく怒りの形相でこちらに突っ込んできた。
超スピードで俺の周りを駆け巡る。まるで風だ、目で捉えられない。逃げだそうにもまるで複数の敵に囲まれているかのように逃げ場が無い。
「八方美人!せいやっ!!」
そして繰り出される攻撃を「八方美人」で対処する。相性で考えるとこいつの天敵は「八方美人」だ。これならどんなスピードにも付いてこれる。
しかし前述したように限界もある。また「一触即発」で決める必要があった。
「来い!」
奴の攻撃のタイミングに合わせて、「一触即発」を使う。
「一触即発」はカウンター専用の攻撃技。力を溜めて相手が自分に触った瞬間凄まじい一撃をお見舞いさせる技だ。その弱点は、相手が触れてこないと攻撃できないし、しばらく待機状態になってしまうのだ。
(だから、使うのはここぞという場面!相手の攻撃に合わせる!)
怪字の拳が待機状態の俺に触れそうになるが、奴は急に後退してそれを防ぐ。
「なっ!?」
学習していた。「一触即発」は触らなければいいということを。いまいちこいつが頭が良いのか悪いのかが分からない。
動けない俺から離れる怪字、すると奴はコンクリートの壁を粉砕し、その欠片を数発こちらに向けて投げ付けてきた。
「のわっ!?」
最初の一発は俺に当たった瞬間粉砕されるが、後の瓦礫は防ぎきれずに体に直撃する。
俺に触るのを警戒して遠距離攻撃に移行したのだ。「プロンプトスマッシュ」は触れてきた相手しか殴れない。それを理解しやがった。
瓦礫の遠投に当たり体勢を崩す。怪字はそれを突いてきた。「疾風怒濤」の姿になって連続パンチで俺を攻撃してくる。
「っ!八方美人!」
咄嗟に「八方美人」を発動してそれをどんどん捌いていく。しかし相手の攻撃の威力は凄まじく、どんどん後ろへと押されていった。
怪字は渾身の一発で俺を殴り飛ばした。
「ぐあぁ!?」
顔を殴られた俺は地面をバウンドして倒れる。やっぱりさっきのダメージが結構効いていた。思い通りとはいかない。
「金城鉄壁!」
再び襲いかかってきた怪字を結界で防ぐ。するとあいつは先程と同じように連続パンチですぐに結界を粉々に割った。俺は焦らない。それが狙いだからだ。
「一触即発!!プロンプトスマッシュ!!」
飛び散った破片が俺に触れ、それに反応して「一触即発」の一撃を前方にいた奴に食らわせる。
今度は顔面に当てた。さっきのお返しだ!それはもう見事な亀裂があいつの顔に入った。
吹っ飛ばされて地面に倒れた怪字は、起き上がると同時に俺から少し離れた場所へと「疾風迅雷」を使って一瞬で移動、そして力強く地面を蹴り、アスファルトの多くの破片を宙に浮かせた。
そしてそれを「疾風怒濤」で突いて俺目掛けて飛ばしてくる。
「くそっ!悪知恵が働きやがる!」
それを両腕で防ぐが、その隙に奴は俺を膝蹴りしてきた。倒れはしなかったが血反吐を吐き捨てる。
やっぱりこいつは頭が良い。二つの四字熟語を見事に使いこなしていた。
「だが……四字熟語を複数使えるのはお前だけじゃ無いぜ!」
奴は再びコンクリートの破片を投げ飛ばしてくる。
それを俺は「八方美人」で投げ返した。
奴が投げ返された破片を受け止めた時に、懐に潜り込む。
「おらぁあ!!」
そしてパンチを奴の胴体に当てた。亀裂がますます広がっていく。
これは流石に効いたのか殴られた箇所を抑える怪字、激情して踵落としをしてくるが、「プロンプトスマッシュ」で返した。
胴体と違って細い足はひびが直ぐに広がった。これで奴の凄まじい速さが少しでも軽減されるといいんだが……
お互いボロボロの状態で睨み合う。緊張深まる空気が辺りを静かにさせた。