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爆発寸前な男  作者: ZUNEZUNE
第十二章:受け継がれる魂と刀
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143話

凍える空気の中、私と父上は英姿町から少し離れた山の中を歩いていた。険しい坂道であったが父上の前で弱音は吐けない。何せ私はこれから当主としての最終試練を受けるのだから。

ちなみにこの山は宝塚家が昔から所有している土地で、私も兄も昔はここに連れてもらったことがある。よく鬼ごっこやかくれんぼで遊んでもらったことがあったが、まさかこの山が最終試練の場とは思わなかった。そう言えば頂上に少し開けた場所があったな、恐らくそこで試練が行われるのだろう。

最終試練といっても、まだ何をするかは決まっていない。父上曰く「行う直前まで秘密」らしい。言わば抜き打ちテストといった感じか。

正月気分から一気に覚め、瞬時にやる気になった。ここで最終試練を達成し、新たな力になるであろう「承前啓後」と「諸刃之剣」を手に入れ更なるパワーアップを果たして見せよう。


(しかし……最終試練というのは一体どういうのなんだ?)


秘密とは言われているがその内容について考えたり予測したりするのは別に大丈夫だろう。この山にそんな試練をする程の施設があった記憶は無い。寧ろあったら遊びに来た時に「ここは何かをするための施設だろう」と分かってしまう。

もしかして、誰か呼んできているのか?父上は顔が広い、もしかしたら私の相手をしてくれるパネル使いがいるのかもしれない。どんな人が来るのだろう?しかし例え誰が相手だろうが勝たなければならない。

いや、まだパネル使いとの対決とは決まっていない。私が知らなかっただけで鶴歳研究所のように地下に修練場みたいなものがあるかもしれない。

兎に角、私がそれで全力を尽くすことは当然だ。気を引き締めて覚悟しなければ。

そうこうしている間にようやく頂上へとたどり着き、そこで動かしていた両足を休ませる。最終試練をこれから受けるというのに疲れた状態で始めるというのは酷なので、流石に少しばかりに休憩時間を貰う。水筒の水を飲みのどを潤し、木に腰掛け息を整える。やがて数分が経ちようやく体力の回復が済んだ。


「さぁ父上!私はいつでも大丈夫です!!」


意気揚々と情熱と闘気を視線に乗せ父上にぶつける。「伝家宝刀」も取り出し今から行われることに対しやる気を示して見せる。


「まぁ待て、まずはこいつについて話させてくれ」


「……『承前啓後』の?」


すると父上は「承前啓後」の4枚を懐から取り出し、私に見せつけるため前へと出す。今更説明と言ってもその四字熟語が「伝家宝刀」の他に受け継がれてきた物だというのは聞いている。


「一昨日も言った通り、この『承前啓後』は代々受け継がれてきた物……お前、四字熟語の意味だけでどんな能力か想像はつくか?」


「……いえ」


実はあの後、「承前啓後」という四字熟語がどういった意味か気になりネットで調べて見たが、あまりピンとこなかった。意味は分かったのだがそこからどういう能力になっていくかが私の想像力では予測することはできなかったわけだ。


「『承前啓後』は簡単に言えば、()()()()()()()()()()()()()()()四字熟語だ」


「受け継がれた物……?」


「『伝家宝刀』を少し貸してみろ」


しかしその能力の説明を受けても実感が湧かない。すると私の「伝家宝刀」を貸すように言われたので手渡す。先代なのでその刀捌きは正直言って私より上であった。

すると父上はその刀を持ったまま「承前啓後」を使用、するとその刀身がまるで蛍光灯のように青白く発光し出した。決して強い光じゃない、寧ろ優しい光でずっと凝視してられる。その神々さに思わず息を呑んでしまった。


「……綺麗ですね、どうなってるんですかこれ?」


「『承前啓後』は()()()()使()()()()、こういう武器タイプの四字熟語を強化させる四字熟語だ。その条件が先ほど言った『受け継がれてきた』というものだ」


「あっ……」


そこでようやく私はその意味を理解する。「伝家宝刀」は初代当主から現代まで当主の名と共に継承されてきたパネルだ。その「受け継がれた」という条件に非常に合っている。

すると父上はその状態の「伝家宝刀」を握りしめ、虚空を斬って斬撃を放つ。その斬撃は軌道上に会った大木を何本も斬り落とし、1本の道を形成して見せた。その威力に今度は驚いて開いた口が塞がらない。


(私のように「紫電一閃」を使っているわけでもないのにこの威力……どれだけ強化されているんだ!?)


確かに「紫電一閃」を使わなくとも「伝家宝刀」単独で斬撃を放つことはできる。しかしその場合「紫電一閃」のと比べて威力が弱いのだ。

しかしその「承前啓後」は「紫電一閃」と同格、またはそれ以上の斬撃を見せてくれた。それ程までのパワーアップを果たしているわけだ。


(成る程……私じゃなく、「()()()()()()()()()()()()()わけか!)


今まで私自身のパワーアップだけに着手していたが、武器の「伝家宝刀」自体を強化するという発想は無かった。まさか()()()()()()()()()()()()()なんてものがあるとは思ってもいなかったからだ。この場合能力タイプと武器タイプ、どちらのタイプの四字熟語になるのだろうか?


(どっちでもいい、これこそ私が求めていた力だ!)


兎にも角にもようやく新しい力の目処が立った。その力さえあれば鎧のような刀の効かない特異怪字相手にも私の一太刀が通用するだろう。

そのために、尚更最終試練を合格しなければならなかった。しかし早く始めようというのに父上の話はまだ続く。


「ところでこの『承前啓後』、後世に物を受け継がせた人物……先代やその前の代の人物には使えない代物だ」


「え?」


すると父上が「伝家宝刀」を返したと同時にその4枚も手渡してきた。試しに使って見ろという意味なのだろう、その通りにいざ「承前啓後」を使おうとするも全く反応してくれない。


「ど、どうして……!?」


「何故お前に使えないか分かるか?お前は、まだ真の意味で()()()()()()()()()()()()!!」


そしたら父上は素早く持っていた「諸刃之剣」を起動、そのまま私の方へ跳びかかり突然斬りかかってきた。


「のわ!?」


急いで「伝家宝刀」を持ち直してそれを横にし、父上の一太刀を受け止める。同じような形の武器のはずなのにまるでハンマーか何かで殴られたような衝撃が両腕へと伝わり痺れてきた。


「いきなり何をするんですか父上!!」


「でいやッ!!」


すると父上は剣に力を込めたまま片足を動かし、がら空きであった私の脇腹を強く蹴飛ばし、そのまま後ろの木に激突させる。

そこからもう一度斬りかかってきたので、横に軌道を描く「諸刃之剣」を屈んで避け急いで退避、後ろに会った大木は綺麗にバッサリ斬られていた。


「これが最終試練だ。『承前啓後』を受け継ぐためには、()()()()()()()()()()()必要がある!!」


「まさか――()()()()()んですか!?」


父上はそのまま剣を構えて走り出し、何度も私目掛けて振り下ろしてくる。別に甘えというわけじゃないが、実の息子によくこんな遠慮も無く剣を振れると感心してしまう。

それに対し私は「伝家宝刀」を盾にした防戦一方となってしまい、「諸刃之剣」を猛攻をただ受け止めるしかなかった。


(「諸刃之剣」……相変わらずのパワーだ!)


「絶対に折れない」というのが「伝家宝刀」の能力ならば、「諸刃之剣」の能力はこのパワーだろう。切れ味、重さ、どれにおいてもこの刀を上回っている。

じゃあ何故それを最初から使わないのか?その四字熟語の意味の通り()()()()()()()()


「どうした!?防ぐだけじゃ勝てんぞッ!!」


「ぐッ――神出鬼没ッ!!」


そこで私は「神出鬼没」を使用し父上の真後ろへ瞬間移動する。そうやってその猛攻から逃れようとしたが、父上はその動きを予測し私が「神出鬼没」を使うと同時に体を旋回させていた。

背後に逃げても続けられるその攻防、やがて父上の渾身の突きを刀身で受け止めその衝撃で尻餅をついてしまう。そして上を向けば「諸刃之剣」の先端を首のすぐそこに当てられる。間違いない、父上は本気で私を倒しに来ている。


「最終試練を達成し、新たな力を手に入れるのではないのか刀真!」


「――はい!勿論です!」


「ならば戦え!!」


すると「諸刃之剣」を振りかざしてきたので、腰を低くしたまま地面を蹴って後ろへ回避、そうして再びあの人の剣捌きをひたすらに受け止め続ける羽目になる。


「出来ません父上!この刀は怪字を倒すためのもの、それを人間――それも実の父親に突き立てることはできません!!」


「お前の覚悟は、そんな甘さに負けるものなのかぁ!!」


父上はそう言うが、私は父親に斬りかかるなんて行為はとてもできない。これは修行時に行われているような木刀の打ち合いじゃない、真剣同士の殺し合いだ。父と子供が互いに刀を振りかざすというのは駄目だ。


「触渡君に頼りきりになってもいいのか!!その為にこの最終試練を受けたのだろう!?」


「――ッ!!」


そうだ、私は何のために今父上と戦っている?

更に己の剣を高めるため?真の当主になるため?それらもあるが、一番の理由は発彦だけに戦わせないようにし、その力だ人々を守り全ての怪字を打ち倒すためだ!

そう心の中で復唱していると自然と体が動き、いつの間にか父上に「伝家宝刀」を振り下ろしていた。父上もそれを「諸刃之剣」で受け止める。


「ようやくその気になったか……宝塚刀真というお前の当主を、わしに見せてみろッ!!」


「――はいッ!!」


こうして私は父親に対し刀を振る覚悟を決め、改めて最終試練を合格するための決意として気を引き締める。

相手は宝塚家16代目当主宝塚刀頼、相手にとって不足は無い。

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