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爆発寸前な男  作者: ZUNEZUNE
第十一章:聖夜と裏切り者
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141話

言い放たれた衝撃の一言、あまりの驚きにまるで雷に打たれたように思えてしまう。脳内が真っ白になり、その言葉の意味を理解するのに時間がかかった。

ようやく元に戻った俺は、改めて天空さんの言葉を聞き返す。


「こいつの中身が小笠原さん……!?そんなわけないじゃないですか!!」


そして思わず声を荒げてしまう。流石に天空さんでも言って良いことと悪いことがある。

小笠原さんは俺の為にこのグローブを作ってくれたり、他にも様々な支援をしてくれたりもした。そんな人が特異怪字、もしくはエイムの一味であるわけがない。


「先の強行捜査は誰にも知られていないはずのもの、それなのにオージ製薬の応治与作はエイムから護衛の2人を連れていた。つまり、俺たちの中に()()()()()()()のか確実――!」


「う、裏切り者……?」


すると向こう側にいる勇義さんが説明してきた。裏切り者、そんなこと考えてもいなかった。

確かに警察の強行捜査なのにエイムの連中に情報が漏れているのはおかしい。それこそ向こうにこちらのことを話している奴がいないとできないことだ。


「だけどそれと小笠原さんに何の関係が――?」


「あの強行捜査は、鶴歳研究所の方々も知っていた。触渡、強行捜査とは言っていないが毒薬を調べていることをお前が話したんだ」


「ッ!!」


しかし唯一知っている者たちがいた、研究所の皆さんだ。遊びに行ったときに俺が「勇義さんが毒薬を調べていること」を口にしたんだ。

じゃあ小笠原さんは、あの時にいずれ俺たちがオージ製薬に辿り着くことを見越してエイムの刺客を護衛につけさせたのか?その先見性、まるで針の特異怪字のそれである。

――感情が必死に小笠原さんを弁解しようと、彼との思い出をフラッシュバックしてくる。しかし、頭ではそれと逆なことを考えていた。


「最初は俺たち3人が山の方の鶴歳研究所に行ったとき、お前は万丈炎焔と同島兄弟に研究所のある場所を教えたんだろ?」


そう、リクターの謎を解こうと研究所に行ったときの話だ。確かに万丈炎焔と同島兄弟が今まで秘密にされてきたあの場所に来れた説明ができない。何故奴ら前の研究所の場所が分かったのか?

――その研究所に、内通者がいたから。


「次に奴らのアジトへの突入作戦!あの時お前は包囲網組に身を置いていた。あれなら何とか仲間を『襲われた』と称して逃がすことができる」


牛倉一馬のことだ。あの男は俺を特異怪字にした後小笠原さんがいた方面の包囲網を突破したという。

――そして隊員は、針の特異怪字に殺されていた。

エイムが行った不可解な行動や作戦は、少なからず小笠原さんが関係していることに気づく。研究所も包囲網も、そして強行捜査の際にも。


(勇義さんや先輩が、妨害電波装置のことを研究所に話さなかったのはこれが理由か――!)


妨害電波装置はエイムを生きたまま捕らえるための装置、なので奴らにとっては邪魔な存在であるはず。勇義さんたちが比野さんを含めた研究所の面々に話さなかった理由がようやく分かった。忘れたのではなく意図的に話していなかったのは薄々気づいていたが、まさか研究所内にスパイがいることを睨んでいたとは気づけなかった。

――最初は否定していたが、徐々に自分でも納得していっている。全部小笠原さんがスパイであれば成立する話だし、何より否定できる材料が無い。

それでも俺は、グローブを作ってくれた彼の笑顔を疑うことはまだ十分にできなかった。きっと何かの間違いだ、そう思っている自分が僅かにいた。


「現に今さっき連絡しても彼は電話に出なかったよ。寝る時以外はすぐに出る……そうでしょう比野さん?」


「はい……貴方、本当に大樹さんなんですか?だとしたらどうして……」


そうだ、一番信じられないのは比野さんだ。彼は同僚と関係以外にも片思いの相手でもある。そんな小笠原さんをスパイとして認めさせるのはなんと残酷なことであろうか。


「ククク……アッハッハッハッハ!!!!」


やがて今まで閉じていた針の特異怪字の口が一気に開き、不気味な高笑いを夜空に響かせる。すると奴の荒んだ声も徐々に聞き覚えのある声へと変わっていく。

そしてその体は遂に限界が訪れ、奴が笑う度にその振動で崩れていき、そのままその正体をさらけ出した。

信じたくなかった。でも、その姿は俺たちにとって馴染のあるものであった。


「まさかこんなに早く正体がバレるなんて……つい油断してたよ。長い間研究所ののんびりした空気に触れすぎたせいかもね」


「――小笠原さんッ!」


針の特異怪字、いや小笠原さんは俺と戦った直後で傷だらけであったが、そんなの気にせず楽しそうに話していく。

比野さんも目の前で事実を見て、大きく目開き口元を抑えていた。余程ショックだったのだろう。対する先輩と勇義さんは予め分かっていたせいか落ち着いていた。


「銅虎鉄と猿飛鷹目からパネルを奪い、火如電と牛倉一馬の逃亡を手助けした針の特異怪字……それが俺だ」


すると小笠原さんは自身が針の特異怪字という証明を更にするためか、変身に使っていた4枚のパネルをこちらに見せてくる。「針小棒大」と書かれていた。


針小棒大…小さなことを大きく、大げさに言うこと。小さな針を棒のように太くするという意味から。


「針の特異怪字という名前は好きだったよ、これからはそう呼ばれなくなるのが残念な程にね」


「どうして……どうしてですか!?大樹さん!!」


ここで改めて比野さんが声を荒げて、裏切りの理由を問いただす。思わず前に出そうになったところを勇義さんに止められた。


「昔から優しかった貴方がどうしてこんなことを!一体自分が何をしたのか分かっているんですか!?」


「翼、思えばお前とは幼馴染で昔からよく一緒にいたな……だけど、俺は1人の時に()()()()()()をしたんだ」


「……運命の出会い?」


「そう!()()との出会いさ!!」


すると小笠原さんは光悦の笑みを浮かべて両手を大きく広げ、天を仰ぐように夜の星を見上げる。今まで見たことも無い彼の表情とその活力に、比野さんも俺たちも思わず後ろに引いてしまう。

先生、エイムの刺客が時折口にしていたその名前は奴らのボスのことである。今まで死んでいった刺客たちの最期の言葉で、いかにカリスマ性がある人物かは分かっていた。


「今までのうのうと呪いのパネルを使い怪字を倒していたお前たちとは違い、あのお方は()()使()()()を示してくれた!!」


「真の力だと……!?ふざけるなッ!!人を怪物にする使い方のどこが正しいんだ!!」


「人を怪物にする……それだけしか重要視できない時点で、先生の足元にも及ばない。代わって宣言しよう!先生は、いずれパネルの力で世界を取るお人だ!!」


正直鳥肌が立った。身近にこんな狂った人間がいたらと思うとゾッとする。今まで上手くその狂気を隠していたのだろう、長年スパイの身を隠していたからこそできる技だ。


「そうか、ならその先生の偉大さとやら聞かせてもらおう……刑務所でなぁ!」


勇義さんがそう言った瞬間拳銃を構え、刀真先輩は「伝家宝刀」を出し、宝塚さんも剣を取り出す。俺と天空さんも構え一斉に戦闘態勢に入る。リョウちゃんとトラテンとウヨクとサヨク、計4匹の式神も牙を見せた。

既に奴はボロボロの状態、このメンバーで負けるはずがない!


「俺が話さなくてもいずれ世界が認めるだろう。その日まで……お暇させていただこう!!」


追い詰められた小笠原さんは片手を上げて指を鳴らす。すると突如として地面にいくつかの巨影ができあがっていく。

上を見れば、大木のように巨大化された針が何本もこっちに向かって落ちてきた。瞬間、俺たちの視線は彼から上空へと奪われる。


「リョウちゃん!風成さんを守れ!!」


「トラテンは父上を!!」


そしてすぐに防衛の姿勢へと入り、リョウちゃんは俺の命で風成さんの元へ飛んで行き、トラテンは宝塚さんのところまで行く。ウヨクとサヨクは自分たちの主人である比野さんを守るように覆い被った。

全ての針が地面へと勢いよく突き刺さり、辺りに土煙を巻き起こす。あんなに大きな物が幾つも降ってきたら当然そうなるだろう。

視界が晴れた頃には、小笠原さんは消えていた。恐らく「針小棒大」で小さくなって逃げたのだろう。そうでもないと天空さんの「海闊天空」から逃れられるはずがない。


(予め上に針を投げていたか……!)


「ゲホッゴホッ……皆大丈夫か!?」


すると口の中に入った砂埃を咳で出しながら天空さんが全員の安否を確認していく。奇跡的にどうやら全員に傷は無く、式神たちにも針が直撃したことは無かった。


(あともう少しだったのに……!)


奴さえ捕まえればエイムに近づくための第一歩となったのかもしれないのに逃げられてしまった。


「比野さん……あの、何と言うか」


「……」


想い人が敵だった事実を未だ受け入れられないのか、彼女は今の衝撃で尻餅を付いたままである。そんな彼女を慰めるかのようにウヨクとサヨクは小さくなりその肩に留まる。

兎に角、今はこの2匹に任していた方が良いだろう。俺は勇義さんたちの所へ向かった。


「勇義さん……刀真先輩……」


「発彦、本当の事を伝えなくて済まなかったな。お前に知らせると納得がいかなそうだったからな。内緒にしようと刑事と決めていたんだ」


先輩の言葉に対し俺は何も言い返せない。この2人のように俺は最後まで小笠原さんの正体に気づけなかった。今回ばかりは自分の甘さを認めるしかない。もし気づけたとしてもいつまでも悩み続けていたかもしれない。


「後の事は任せておけ触渡、お前にはやるべき事があるだろ?」


「あ……」


すると勇義さんが風成さんがいる方へ目配せ、小耳にはさむように言ってきた。どうやら俺の考えなどお見通しのようだ。先輩も同じような表情で俺の肩を叩いてきた。

今ばっかりは、この2人のお節介にも感謝しなければならない。


「――風成さん」


「触渡君……」


急いで傷だらけの体を動かし、怒髪衝天態を解いて彼女の元へ駆け寄っていく。すると最後の針の攻撃から彼女を守ったリョウちゃんも場を読んで小さくなり、そのまま離れている勇義さんのところまで移動してくれた。

改めて風成さんと向き合ってお互いに見つめ合う。普段なら恥ずかしくなって顔を背けてしまうところだが、今回ばかりは前を向かなければならない。


「……風成さん、今見てもらったのが俺たちの現状だ」


「……うん」


「さっきみたいに危険な目に遭わせてしまうかもしれないし、俺も無事で帰ってこれないかも。だけど……」


さっきはスムーズに話せたのに、脅威が去ってからようやく緊張という感情が押し寄せてきた。何度噛みそうになったか分からない、顔も赤くなり手汗もとんでもなく流れてくる。唾を数回飲み、何とか冷静を保つようにした。

見れば彼女も恥ずかしそうに赤面している。これ以上長引くのは駄目だ。ここはスマッシュの時のように、一気に決めよう――!!


「だけど、そんな俺でもいいなら、どうか付き合ってほしい!!」


自分でも他にこんな滅茶苦茶な告白方法があるのかと呆れるがこれで良いのだ。彼女に想いを伝えるためには、まずその前に自分のことを見てもらう必要がある。

例えそれで嫌われようが構わない、失敗したら一番の青春時代として自分で収めよう。


「……触渡君」


「……!」


彼女の次の言葉で全てが決まる。焦らされるように僅かな時間が長く感じられ、頬を伝る冷や汗もゆっくりと落ちている感覚だ。


「……肩に針刺さったままだとカッコイイ告白も駄目になっちゃうよ?」


「え?あ!!ちょっと待って!!」


落ちている時に奴の投擲した針がまだ右肩に刺さっていることにようやく気付く。小笠原さんのことで頭が一杯一杯ですっかり忘れていた。

彼女の言う通り肩に大きな針が刺さったままする告白がどこの世界にあるのだろう?折角いいところまで来たのにこれじゃあ台無しだ。急いで抜こうとするも出血が更に酷くなるということで風成さんに止められる。


「フフッ……私、戦ってるときはキリッとしているのに終わったらうっかりさんに戻る触渡君が好きだよ」


「えッ!?それってつまり……」


つい「好き」という単語に過剰反応してしまい、柄にもなく取り乱してしまう。もう顔全体が真っ赤かだ。


「確かにさっきは死にそうになったけど……だけどリョウちゃんと触渡君が守ってくれたんじゃん――これからも守ってくれる?」


「も、勿論!!」


すると赤面していた彼女は元の顔色に戻り、そのまま愛らしい微笑みを見せてくれた。両手を後ろにし、ゆっくりとこっちに歩み寄ってくる。もう彼女の動作1つ1つがドキドキしていた。


「――私からも、告白します。触渡君のことが好きです。こんな頼りなくて何の役にも立てなくても良いのなら、付き合ってください」


そう言って彼女が差し出してきた片手、それを真っ白になった頭で傍観した。まるで夢の中に入ってような感じで、目も遠くを見ているのかすぐ近くを見ているのか分からなくなる。

風成さんが俺のことを好き?つまり、俺たちは両想いだったということか?

幸福感が噴水のように押し寄せてきた。口角を曲げずにはいられない、幸せのあまり顔が笑うのを止められないのだ。

想い人と両想いが分かったのなら、それを断る馬鹿がどこにいる?


「……ありがとう、風成さん!これからよろしくお願いします!!」


ソッと彼女の白い手を握り返し、再びお互いを見つめ合う。そこで今までのやり取りを一気に思い出し、恥ずかしくなってようやく顔を背けた。対する彼女ももう一度赤面に戻って俯く。その見つめ合いは僅か数秒しか続かなかった。


「おめでとう発彦!」


「やったなお前!」


すると今まで様子を見ていた刀真先輩と勇義さんが俺の肩を叩き茶化しに来た。普段は仲が悪く喧嘩ばかりするのに、こういう時だけは意気投合するのが本当に憎らしい。

だけどそんな感情も、告白が成功した喜びですぐに消えてしまった。例え刀真先輩に髪をぐしゃぐしゃに掻き分けられても、今なら笑って許せた。


「じゃあ名前呼びになった方が良いんじゃないか、なぁ発彦?」


「ッ……それは」


ここでもう1つドキッと心臓が鳴る。確かに交際する仲になったのだから苗字呼びは変だ。先輩がわざとらしく最後に名前を言ったのは彼女に改めて俺の名前を教えるためだろう。


「良いかな――発彦君」


「……う、うん」


こう改めて彼女に名前で呼ばれると、何だか心の奥底が幸せな気持ちを満たされる。名前で呼んでくれるのは先輩と天空さん、学校では飛鳥ぐらいだ。

俺としては、いっちゃんとつーちゃんに呼ばれていた「はっちゃん」の方が親しみがあると思うが、それだとこの新鮮な感じは味わえないだろう。何しろそれは子供同士の呼び名だ。

そして彼女がそう呼んでくれるなら、俺もそれに応えなければならない。


「く、駆稲さん……」


「……呼び捨てで」


「えぇ!?じゃあ……駆稲……?」


「……うん!」


すると彼女は満足そうな笑顔を見せてくる。その爽やかで優しい笑顔がとにかく好きで、見ただけで幸福感に包まれた。

それにしても彼女の方は君付けなのに、こっちが呼び捨てというのはいいのだろうか?まぁ君付けの方が何だかいいしここは黙っておこう。

すると急に眩暈がし、立ち眩みまで起きてしまう。そのまま崩れるように倒れてしまい、刀真先輩に支えられた。


「さわ――発彦君!?」


「怒髪衝天態の影響か……大丈夫だ、今の所命に別状はない」


どんどん薄れる意識の中、最後まで駆稲の顔を見つめ続ける。やがて戦いが終わった解放感でドッと疲れが押し寄せ、そのまま眠り込んでしまう。

そんな俺を、彼女はずっと見ていた。そして――


「お疲れ様、発彦君」


ソッと俺にキスしてくれ、その後自分でしたくせに更に顔を赤くしてその場を走り去っていく。それを間近で見ていた2人もこれには流石に赤面する。という話を後日聞いた俺も、顔を赤くする羽目になったのであった。

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