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爆発寸前な男  作者: ZUNEZUNE
第十一章:聖夜と裏切り者
141/194

140話

俺は告白した、あの風成さんに。クリスマスプレゼントだって彼女にとって実用性のある物を選び、そのデザインは比野さんと一緒に選んでもらった。予め見て決めた夜景の綺麗な場所、ここを選んだ理由は夜景の他にもあった。

それは、人気の無い場所だからだ。ここなら告白したってからかわれたり注目されるようなことはない、ムードとしては完璧の場所であった。ここならきっと成功するだろうと思い選んだ。

そして他にも、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

昨日針の特異怪字と戦い、また今日来るかもしれないのは分かっていた。だからいつ挑んできてもおかしくはない。向こうだって自身の存在を一般人に知られたくない筈だ。なので敢えてこの誰もいない場所を選んでこっちから誘い込むわけだ。

そしてどうしてそこで風成さんに告白するかというと、俺という個人だけじゃなく、()()()使()()()()()()()も見てもらいたかったからだ。

この告白が成功したとして、怪字やパネルのことを隠しながら交際するわけにはいかない。それは彼女を騙し続けることになる。だから敢えて戦う俺を見て、果たしてこいつと付き合っていいのだろうかという見極めをしてもらうのだ。

早い話、針の特異怪字を俺という男を魅せる材料にするわけだ。


「デートの邪魔してすまないね、俺にも都合というものがあるんだ」


しかし本当は戦わずに済むのが一番良いことだ。しかしこいつと決着をつけることは逃れられない運命、それについてはもう覚悟している。


「雰囲気も察せないとは、エイムってのはとことん空気が読めない集団だな」


「そう言わないでくれ、これでも時と場所を選んだんだ」


すると奴は針山から2本抜き、それを巨大化させて手に持つ。ギラリと先が光る

その巨大な針は、風成さんに恐怖心の声を漏らすには十分であった。勿論彼女に手は出させない。腕を横にして彼女の前に出す。


「風成さんは安全な所で見ていてくれ、大丈夫。必ず守るから――!」


「う、うん……!」


そう言って彼女が木の陰に隠れたの確認し、再び針の特異怪字と対峙する。昨日はあんな結果に終わったが、今夜に関してはそうはならない。必ずや、今この場で仕留めて見せる。

例え、()()()()()()()()()()


「いきなり全力で行かせてもらう!怒髪衝天ッ!!!」


そう言って「怒髪衝天」を使用し、怒りのオーラを身にまとった怒髪衝天態へと変身した。そのオーラの熱で足元の積雪は吹き飛び、そして溶けていく。雪が積もるこの夜において、赤い闘気は非常に目立ち、まるで光り輝いているかのようであった。


「昨日忠告したのにそれを使うか、君……意外と馬鹿なんじゃないのか?」


「まさか、お前らよりかはマシな自信があるさッ!!」


俺の方から跳びかかり、拳を振りかぶって力強く放つ。それに対し奴は針先で迎え撃つも、小笠原さんのグローブに守られてそれが刺さることは無い。

怒髪衝天態のパンチを真正面から受けたことにより、その針は見事に折れ粉砕される。そしてその威力で辺りに衝撃波が走りまたもや雪を吹き飛ばす。


「はッ!!」


するとカウンターとしてもう1本の針で突き刺そうとしたので、そのまま奴の体を蹴り後ろへ後退、蹴られた針の特異怪字は吹っ飛ばされるもすぐに起き上がった。しかしその体にはちゃんと足あとがくっきり残っている。

そうやって互いに後ろへ下がり距離が作られる。それを見た俺は腕を軽く払った。すると辺りに積もっていた雪は全てその風圧で吹き飛ぶ。


「これで昨日のようなトラップは作れまい、いやお前のことだから既に針を展開していただろ?」


「くくッ……バレていたか」


雪の中に針を隠し、俺がその上に立った瞬間巨大化させ下から突き刺すという、物の大きさを操れる奴だからこそ作れるその罠。それを見事封じることができた。

俺が一番警戒していたのはそれで、あれさえ無ければ「怒髪衝天」の力で強引に倒すことができる。


「とっとと決めさせてもらうぞ!!」


そう言って今一度地面を蹴って奴へと突撃する。雪が無い地面の上で踏み込み、パンチやキックをどんどん繰り出すも針の特異怪字はそれを余裕で躱し続けた。

奴は打撃の合間を縫って針で突き刺してくるので、俺もそれを躱す。攻防一体のやり取りがしばらく続いた。

走る拳圧、迫りくる針先、「疾風迅雷」を使っているわけでもないのにまるでその1つ1つが遅く見える錯覚に陥る。このままでは駄目だ。彼女の為にもさっさと終わらせないと。


「食らえ!!ゲイルインパ――」


「甘いッ!!」


俺が「疾風怒濤」を使って連続パンチを繰り出そうとしたその前に、奴は全身を小人サイズに小さくし怒涛の拳の間を潜り抜けていく。俺のゲイルインパクトを躱し続けた針の特異怪字は、一寸法師のように小さいまま俺へと立ち向かってきた。


「このッ!!」


迫りくる奴に対し体を後ろに反らし回避、危うく顔か目にあの針が突き刺さるところであった。すると針の特異怪字は空中で元のサイズに戻り、俺の真上にいる形となった。

体を反らしていた俺はそのまま呆気なく倒されてしまい、再び顔を刺されそうになるも、首を曲げて何とか躱す。俺の上にのしかかっている奴は地面刺さった針を抜いてもう一度狙おうとするもそれより先に俺が針を掴み、そのまま握り折った。


「邪魔だッ!!」


そうやって奴を蹴飛ばして退かし起き上がる。この数分のやり取りであっという間に奴の素早さに翻弄されてしまった。

小さくなることで攻撃に当たる可能性を減らすだけじゃなく、軽くなって身軽にもなっている。そのせいでさっきは一度も拳が当たらなかった、攻撃が当たらなくなるだけじゃなく早くもなる。本当に厄介な能力であった。


(だが、()()()()()()()()()()()()はずだ!)


先の戦いにおいて、奴は俺のプロンプトブレイクに対し体を大きくしてから防いだことによって、全身に行きわたるヒビの範囲を小さくした。大きさを変える際には付けられた傷も小さくなるのを駆使しているのだ。

それなら小さい時に拳を当てれば、1発で致命傷のダメージを与えられる話になる。奴のミニ化は厄介な状態でもありチャンスでもあった。


「ここは派手に巨大化したいところだが、流石に君のその姿の前ではただの悪手だな」


「……ッ!!」


ならば巨大化すれば攻撃が当たる面積は増え小人サイズの反対ということは遅くもなる、巨人の姿の方が一番隙がある状態だった。なので心の奥底で奴がデカくなることを望んだが、それは使用者である奴も分かっている筈。無駄にそれを使いこなしているわけではなかった。

するといきなり奴が跳びかかり、俺に向かって針を突き立ててくる。それを「八方美人」の自動回避で避けると、そこから防戦一方となる。

迫りくる針の一手、いつのまにか針を2本持っており二刀流スタイルになっている。小さくなくてもその素早さは凄まじいもので、いくら「八方美人」で躱し続けられるといっても限界があるし、何より避けるだけでカウンターを打ち込む隙が無い。


(次の四字熟語を使う暇すら与えてくれない!このままだと『八方美人』の能力で逆にこっちが潰される!!)


「八方美人」は回避能力の四字熟語としては確かに素晴らしいものだが、攻撃が迫った時に自動で反応するため、このような連続攻撃には自分の意志で止められなくなる。

いくら俺でも体力がある。このまま避け続けるとそれがあっという間に尽きてしまう。

やがて攻撃が来るのは分かっていても「八方美人」の反応速度に体がついていけなくなる状態へと陥ってしまう。その隙にと針の特異怪字は2本の針の先をこちらに向け突き刺してきた。


「――ッ!!ぐおがッ!!」


1本目はギリギリ反応が間に合い首を傾げて何とか回避できたが、2本目の針に対しては躱しきれず首の横を掠ってしまう。鋭い痛みが走ると共に、血飛沫が上がった。もう少し避けるのが遅ければ首のど真ん中に針が突き刺さり、一瞬で殺されていただろう。

しかし奴が2本とも突き出してくれたおかげでその針捌きに僅かながらの隙ができた。その間にと俺は首の左右を通った針を握りしめて折り、そのまま顎を蹴り上げる。


「おらぁああッ!!!」


そうして2発目にガラ空きとなった胴体を足裏で豪快に蹴り上げる。針の特異怪字は吹っ飛ばされるのを足でブレーキをかけ阻止しようとするも、「怒髪衝天」のパワーの前には無駄な足掻きだ。例え全力で踏み込んでもその蹴りの威力を止めることはできない。

先ほど入れたキックのせいで顎にも大きな亀裂が走っている。後数発打ち込めば怪字としての体が崩壊するだろう。


「このままだと不味いね……!」


自分のことが分からない程こいつも馬鹿じゃない、昨日と2つか続いて怒髪衝天態のパワーをその体で実感しているから自分が追い詰められているのも知っている筈。

しかし次の瞬間、本来ならばあり得ない行為をし出した。


「これならどうかなッ!?」


「なッ――()()()!?」


そう、昨日のように自身の体を能力で約5mまで巨大化。そして上から掬い上げるように拳を向かわせてきたので後ろに跳んで退避した。

巨大化の何があり得ないのか?奴は自分でも「巨大化は悪手」と言った。それなのに自分から大きくなってきたのだ。


(状況を誤った?――いや、こいつに限ってそんな単純なミスをするはずがない!何か意図があるはずだ!!)


今までの戦いで、針の特異怪字が滅多に手段を間違えないことは分かっている。それに加え雪の中に罠を仕掛けるという狡猾さと頭脳も持っている。ならこの意味不明な巨大化は何か企んでの行動だろう。

迫りくる巨大な拳と針を避けながらその意図を何とか予測しようとするも、まったく思いつかない。そうこうしている間にもどんどん針の特異怪字の猛打の勢いは増していき、いくら通常時より遅いと言ってもこれじゃあここら辺が穴だらけとなってしまう。


(とにかく!何か企んでいるとしても、その前にこいつのこのデカい図体を力づくでぶち壊せばいいだけだッ!!)


折角向こうから弱点をさらけ出してくれたのだ、ならば攻めない筋合いは無い。「疾風迅雷」で一気に加速しその勢いで奴の足を殴り転倒させようとしたその時――


「なッ――なんつーサイズだよッ!!」


更に巨大……奴自身ではなく、()()()()()()が。その長さときたら針の特異怪字を頭1つ超えている程のもので、太さも大木のようになっている。

一体何をするつもりだ?そんなに巨大化させても更に動きが遅くなるのは分かっている筈だ。


「はぁあ!!!」


すると奴はその大きな針を俺ではなく、自分の足元に斜めになるように突き刺す。瞬間、刺さった衝撃で自分が立っていた場所が大きく揺れた。

そしてその揺れで、奴が何を企んでいるかを察する。


「させるか――!!」


「よっこらせっとぉ!!!!」


しかし間に合わず、奴は刺した針をてこの原理のように扱い、俺たちがいるこの高台を()()()()()()()()()()()()

天地動転、盛り上げられた地面と共に俺もひっくり返ってしまい頭と足の位置が逆になる。つまり逆さまになって落下中というわけだ。

あの高台は街を一望できるため結構な高さがあり、下の地面に激突すれば命が無い。

すると針の特異怪字は元のサイズに戻り同じく落下中、やってくれたなという視線を下から向けると、何やら人差し指で俺から見て右方向を指してくる。


「風成さんッ!!!」


そこには同じく高台で俺たちの戦いを見ていた風成さんも落ちていた。ひっくり返った衝撃で気絶している。

これが狙いか!奴に対しての怒りを糧に更に怒髪衝天態のオーラを滾らせる。しかし今は彼女を救出する方が先だ!


「リョウちゃん頼むッ!!」


『グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!」


マフラーの中に潜ましていたリョウちゃんを呼び、巨大化させて風成さんの救出を頼む。最初はその長い体で優しく彼女に巻き付き、そのままそっと頭の上に下ろした。


「――あれ?どうなってんの!?」


彼女も目が覚め、最初は今の状況についてこれなかったがとんでもない状態であることを察し急いでリョウちゃんの角に掴まる。

良かった、これなら大丈夫そうだ。そう思った矢先、右肩に激痛が走る。


「なっ――!?」


「触渡君!!」


見れば1本の針が俺の肩を貫いている。針の特異怪字が上の方から針を投げつけてきたのだ。

やがて奴は持っている針を惜しむことなく使い、それらを全て大きくしてこちらの方へ落としてくる。


(そうか、風成さんまで落としたのはリョウちゃんを俺から離れさせるため!!空中で一方的に攻めるつもりだな!!)


1人だったら俺がリョウちゃんの上に乗っていただろう、しかし風成さんも落ちてしまったため真っ先に向こうを優先させた。針の特異怪字はそれを狙い、リョウちゃんという空中戦の可能性を潰したわけだ。奴自身は恐らく小さくなって軽くなり、落下死を防ぐつもりだろう。

奴の目的は、このまま俺を地面に落とすため――!


(この針の雨は、俺に「八方美人」以外の四字熟語を使わせないつもりか!)


それでいてこの無数に降りかかる針は、俺に無事に着地するという選択肢を与えないようにするため。確かにこの針の雨は先ほどの奴の針乱打に比べてまだ余裕があり、右肩が貫かれたため右腕を動かすのが辛いが「八方美人」でも十分に捌けるものである。だがポケットに入っている4枚のパネルを取り出す暇は無い。

この場合足場も無いので「疾風迅雷」も無意味、ならば「金城鉄壁」で周囲に結界を張り何とか地面への激突を防ごうと思ったが、それもできなくなってしまった。

するとリョウちゃんも奴の作戦に気づき、未だ落下中の俺も回収しようと進行方向を変えようとしてくる。


「来るなリョウちゃん!!お前は風成さんを守ってろ!!」


『……ッ!!』


しかしその上には風成さんがいる。危険な行動をさせることは許可できない。火球で奴を撃ち落とすという手もあるが、彼女が火球の反動に耐えられるかどうか怪しい。

つまり俺は、完全に孤立させられたわけだ。


「これで終わりだ!!触渡発彦ッ!!!」


「くっそぉおおおおおおおおおお!!!!!」


やがてどんどん地上が迫り、俺が地面に落ちるのも時間の問題となる。あまりの悔しさに雄たけびを上げてしまう程だ。

しかしその中、告白なんかしたからそれがフラグになったのかもという、無駄に余裕のあるおふざけを思いついてしまう。

もう駄目だ、目を瞑ったその時――


『ガォオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!』


突如として猛々しい遠吠えが鼓膜を響かせる。この鳴き声はリョウちゃんじゃない、一体何事かと目を開けると……


「な、何だと――ぐぉおお!?」


「ト、トラテン!?」


もう1匹の式神、トラテンが己の両翼を羽ばたかせ針の特異怪字へ突撃、逆に奴を小さくなる暇も与えず地面に叩き落とした。

こいつがいるってことは……つまり!


「発彦!どうやら間に合ったようだな!」


「刀真先輩!!」


トラテンの主人、刀真先輩がその頭の上に乗りやって来てくれた。トラテンはそのまま俺の服の首筋部分を咥え、そのままソッと地面へと下ろす。

無事に着地することができ、刀真先輩もトラテンの上から降りた。リョウちゃんも無事風成さんを地上まで運べたようだ。


「このッ……やってくれるじゃないか!」


するとあの高さから落ちても未だ立っている針の特異怪字がこちらに向かって針を投擲しようとしてくるも、その腹部に突如として銃痕ができ落下の衝撃でできた傷が更に広がった。今ので奴も針を落としてしまう。


「勇義さん!!」


その後ろで勇義さんが浄化弾を放ってくれたのだ。その隣にはウヨクとサヨクを巨大化させた比野さん、そして俺と向こう側の間には天空さんと宝塚さんまで来てくれた。ほぼ全戦力で奴を取り囲んだ形になる。


「天空さん……」


「よくやった発彦、そしてこれで終わりだ針の特異怪字――いや、()()()()()!!」


「――え?」


そして天空さんは、信じられないようなことを言ってきた。

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