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爆発寸前な男  作者: ZUNEZUNE
第十一章:聖夜と裏切り者
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138話

俺はその後小笠原さんの手を借りそのまま研究所へと保護され、斬られた肩と脇の手当てをしてもらい、そこで安静にしていた。腹を大きく斬られたリョウちゃんも体に包帯を巻いてもらい炬燵の上で丸くなっている。

俺が知る限りじゃリョウちゃんがこんな大怪我を負うのは初めて見た。もしかしたら前の使用者の時代で経験したことがあるかもしれないが、普段あの硬い鱗で守られているこいつにとってこのような怪我は慣れていないのだろう。


「あ!触渡様無事でしたか!!」


「比野さん……」


すると避難をお願いした比野さんも帰ってきた。彼女のおかげで関係の無い人を巻き込まずに済んだ。あんな昼間からリョウちゃんを召喚すれば何事かと集まってくる人は必ずいるだろう、現に助けに来てくれた小笠原さんがそれである。そういう彼は俺をここまで運び手当してくれた後、すぐに地下の研究施設へと入っていった。きっと忙しいのだろう。


「あの針の特異怪字はどうしたんですか?」


「すいません逃げられました……リョウちゃんも斬られて」


すると彼女の服の中に潜んでいたウヨクとサヨクが飛び出し休んでいるリョウちゃんの元まで飛んで行き、その傷を労わり始めた。やはり式神同士何か感じるものがあるのだろう、この場に刀真先輩のトラテンがいれば同じようにしたに違いない。


「大丈夫か発彦!お前が針の特異怪字と戦ったと聞いてすっ飛んで来たぞ!!」


「刀真先輩に勇義さん!」


噂をすれば先輩と勇義さんもこの場にやって来る。そして俺の予想通りトラテンもリョウちゃんの元まで飛んで行った。炬燵の上では竜と虎1匹、鳥2匹が微笑ましく戯れていた。


「私、何かお出ししますね」


そう言って比野さんはその場から立ち去り、炬燵の部屋に残ったのは俺と先輩と勇義さんの3人だけ。

そこからはもう針の特異怪字に関する質問攻めであった。勿論それを拒む必要も無くこの体で体験したことをそのまま2人に話した。

自分を小さくするだけじゃなく大きくもできる能力、そしてそれを駆使し応用できていることを。会ったことがある刀真先輩は実感が湧くのか重苦しい表情をしていた。逆に勇義さんはまだ遭遇したことは無いが俺の説明である程度のその脅威を理解してくれる。

証明するものは俺の言葉だけじゃない、硬い鱗を持つリョウちゃんを大きく斬ったことが何よりの証拠であった。


「奴の狙いは俺です!奴ら本格的に俺たちを攻めてきました」


「寧ろ今までよく攻めてこなかったもんだ……仮拠点や支援先も潰れているというのに」


そう、俺たちは英姿町に存在していた奴らの仮拠点、そして金による支援をしていたオージ製薬への強行捜査など、エイムにとって痛手になるであろうことをいくつもしてきた。普通ならもっと早くこれ以上はさせないと襲い掛かってくるものだが、どうやらようやく本気でこちらを潰しに来る訳だ。


「それほど奴らを追い詰められているということでもあるな、向こうにとってよっぽど私たちは目障りな存在だと伺える」


その先輩の言葉で、針の特異怪字が言っていたことを思い出す。

「先生が君を鬱陶しがっている」――つまり今回の奴の行動は協会のボス直々からの命令という訳になる。

それは、俺が1人のパネル使いとして認められているにも等しい。何度か少し嬉しくなってきた。だが今はそんな呑気なことを考えている場合じゃない。


「すいません、普段使っている茶葉が丁度きれていたのでもう少し時間がかかります!」


するとキッチンの方から乗り出して比野さんがそう言ってくる。その後ろに下がっている顔を見て、俺は勇義さんに聞かなければならないことを思い出し跳び上がるように立ち上がる。


「そう言えば勇義さん!何で妨害電波装置のことを比野さんたちに言ってないんですか!!」


「げッ!!」


あいつと戦う直前、俺は比野さんに対し何気なくそのことを聞いてみたところ、彼女は何のことか分からずこちらに聞き返してきた。

妨害電波装置とは、奴らが自決用に飲む任意溶解毒薬を操作するリモコンから放たれる電波を妨害するための装置。今まで奴らはその毒薬で殺されてしまい本人たちの口からエイムの情報は何1つ聞き出せていなかった。

しかしその装置さえ完成すれば奴を生きたまま捕らえることが可能となり、尋問などで協会に関する何かを聞き出せるようになるだろう。なのでその装置の開発を鶴歳研究所に伝えることを勇義さんに任せたはずだ。

しかし実際には何も言われておらず、彼女と俺に一部の平行線ができている始末だ。


「……それはだな、つい忘れてたんだよ」


「ちょっと勇義さん!?」


確かにこの人は間抜けだが、まさかこんな重大なことを忘れてしまうとは思ってもいなかった。あまりの間抜けさに呆れてしまい、つい転びそうになってしまう。


「いやぁすっかり忘れていた。俺としたことがまったく……」


「た、たくこれだから刑事は!」


「……?」


何かおかしい。勇義さんも刀真先輩も何かぎこちないというか普段とは違う感じだ。

普段なら勇義さんがそうドジっぷりを見せると刀真先輩が真っ先に食いつき罵倒と共に怒りはじめ、そこからいつも通りに喧嘩が始めるはず。しかし今は互いに笑い合ってまるで冗談を言うような会談だ。

そう言えばあの強行捜査の時も2人だけ何か様子がおかしかった記憶がある。


「ところで発彦、その針の特異怪字と対面した時に比野さんも一緒にいたか?」


「え?はい俺の後ろにいました」


すると勇義さんが突如そんな質問をしてきた。それを終えると刀真先輩と見つめ合いそして頷く。間違いない、この2人は俺に何かを隠している。

一体何を隠しているのか、聞き出そうとしたその時に比野さんがお茶を入れてこっちに入ってきた。


「お待たせしました、どうぞゆっくり休んでください」


「あ、どうも」


そうこうしている間に比野さんがお茶を出してきてくれたので、話し合いを中止し一息入れる。茶葉が違うと言われたのでこの間出してもらった時のとは何だか味が違うような気がした。


「兎に角、奴がお前を狙っているなら注意しないとな」


「そう言えば触渡様、明日は確か……」


そう彼女に言われてハッとする。明日の夜は風成さんと会う予定がある。しかしこうなればそんな悠長なことは言ってられない。もしかしたら明日のすぐに襲い掛かってくるかもしれないからだ。彼女を巻き込む可能性は高い。

急いで電話して明日の約束を中止しないと、そう思ってスマホを取り出し彼女の番号にかけようとしたその時、指が急に止まった。


(待てよ――()()()()()()()()()()?)


勿論彼女の身を心配するのは当然だ。何より大切なのは風成さんや他の人達の平和である。だから会う約束を止めるのは正しい判断だろう。

だが、前にも同じようなことがあったのを思い出す。それは奴らのアジトに突入する前日だ。俺は彼女に心配をかけないよう作戦のことを黙って嘘をついた。

勿論彼女の為と正当化はできる、だが嘘には変わりない。告白しようとしている人に嘘をつくなんて行為は、果たして許されるものだろうか?あくまでの話だが、もし告白が成功して彼女と付き合えることになったとしよう。そうなってから怪字やエイムと戦うことになった時、俺は彼女にどうしたらいいのか?

今まで通りある程度隠し通して心配かけないようにする。それが一番正しいかもしれない、しかしそんな俺を彼女は認めてくれるだろうか?好きでいてくれるだろうか?俺は彼女を好きでありながら、その好意と共に()()()()()姿()()()()()()()


(どうしたらいいかは分からない……だけど、このままだと駄目なのは分かる!)


そして俺は決心する。告白する勇気ではなく、彼女に()()()()()()()()()()()()

風成さんに見てもらおう、触渡発彦という男を――










一方その頃、誰もいない鶴歳研究所の地下部屋。上は居住スペースで比野たちが仕事をしているのはこの地下スペースであった。

本来なら電灯が白い天井と床を更に純白に見せるはずであったが、光源の1つも無くただ暗闇が続いている。小笠原大樹はその空間で苦しそうに壁に背中を付けていた。

目を瞑り息を荒くし、腹部を手で撫でている。()()()()()()()()()()所がまだ痛むのだ。苦痛のせいか冷や汗もダラダラと流れている。

そしてその手にはリクターが付けられた4枚のパネル、「針小棒大」が握られていた。


「くくッ……顔に出てなけりゃいいけど」


しかしどんなに苦しそうでもその口角を曲げて怪しげな笑みを出しており、僅から笑い声を漏らしている。すると持っていた四字熟語を野球ボールのように投げてはキャッチを繰り返す。

この動作は、針の特異怪字が孤島にてしていたものと同じである。癖なのか、人間の時でもやっていた。


「大丈夫ですよ先生……絶対に俺が仕留めてみせますから」


携帯を使い誰かと通話しているわけでもない、その部屋には小笠原以外の人間はいない。しかし「先生」に対する言葉を独り言として漏らし始める。

小笠原の言葉は、暗くなった部屋の中へと沈んでいった。

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