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爆発寸前な男  作者: ZUNEZUNE
第十一章:聖夜と裏切り者
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136話

突如として現れた「針の特異怪字」、こちらに岩を投げつけると言った不意打ちを仕掛けてきた。周りに山や岩場などは無い、恐らくそこら辺の小石を能力で巨大化させたのだろう。

奴の能力は物を大きくしたり小さくしたりとそのサイズ感を操る能力、その能力で巨大化させた針を巧みに使う戦い方。そして他の生物は無理だと思うが自分だけは小さくすることが可能。

いつか戦う日が来るとは思っていたが、まさかこんなに早く、そして向こうからやって来るとは予想してなかった。今までに数えるぐらいしか姿を現していないので、ひょっとしたらエイムでは上位の存在かもしれない。つまりそんな奴が来たというわけは……


「お前が来るとは……どうやらエイムはよっぽど慌てているらしいな」


突入作戦、強行捜査、既に2回も自分たちの領域に足を踏み入れられているのでやばいと感じてきたのだろう。手始めに俺から潰そうという魂胆に違いない。こんな真昼間に来るとは驚きだ。そんなに俺を始末したいらしい。


「まぁね、先生が君を鬱陶しがっているんだ」


そこで初めてこいつの声を聞く。刀真先輩からある程度どんな声なのかは聞いていたが本当にフレンドリーな喋り方だ。

先生……つまりこいつらのボスが俺を鬱陶しがっているということは、さっきの考えはあながち間違いでもない。敵のボスにそう思われるとはそれなりにこいつらを追い詰めている証拠だ。


「会いたかったぜお前に、あの時のリベンジができる!!」


初めてこいつと会ったのは夏の修行合宿の時、「表裏一体」の怪字を倒した俺と刀真先輩の目の前に現れ、その四字熟語と虎鉄さんと鷹目さんのパネルも奪っていった。あの時は中に人が入っているとは思ってもおらず、「知性を持った異例の怪字」という意味で「特異怪字」と命名された。

つまりパネル使いの歴史において、こいつが一番最初に人に姿を見せた特異怪字というわけである。まさかその正体が悪の組織の人間だとは昔の自分じゃ想像もできなかっただろう。


「比野さんは下がってここに近づきそうな人がいたら止めてください」


「触渡様、ここは私たちも戦います!」


「いや……こいつの相手は、俺1人でやりたいんです!」


危険だから離れるよう言うが彼女もその式神もやる気満々と戦う意思を示していた。確かに式神も加われば多少有利にはなるだろう、しかし宿敵を目の前に興奮した俺は、単騎で奴に挑もうとする。

それに、今ここで彼女を危ない目に遭わせたら駄目だ。


「比野さんや鶴歳研究所の皆さんは、これからのパネル使いたちに必要な人達です。それに今奴らの毒薬の妨害電波装置も作ってもらってるんです!今貴方を死なせるわけにはいきません!」


先日の強行捜査で手に入れた自決用の毒薬の資料、彼女たちにはその毒薬の任意溶解を防ぐ妨害電波を発する装置の開発を頼んでいる。それさえ完成すればエイムの足取りが一気に分かるのだ。尚更死なせるわけにはいかない。


「妨害電波装置……?何の話ですか?」


「――え?」


しかし彼女のその言葉に対し、思わず聞き返してしまう。何の話かだって?勇義さんから伝わっているはずだ。

すると会話をする余裕も与えてくれず、針の特異怪字がこちらに跳びかかってくる。差し向けられる針先を、グローブの手で握って刺さる直前で静止させる。

そこから奴はもう1本の針で二刀流となり、その針を剣のように振りかぶりこちらを斬りかかってきた。それに対し俺ももう片方のグローブでその斬撃を受け止める。


「……ほほう、俺の針でも斬れないグローブか」


「そうだ!研究所の小笠原さんが作ってくれたこのグローブで、お前を倒す!!」


そのまま針を拳で払い、掴んでいた方の針をこちらに引き奴の体を引っ張る。そしてそのまま姿勢が崩れたその腹部に力強く拳を打ち入れた。それによって後退させられた針の特異怪字は足で踏ん張り俺のパンチを耐え抜く。


「ふんッ!!!」


すると奴は持っていた針を投擲、鋭く尖った針がこちらにまっすぐ飛んで来た。当然俺はそれを弾き飛ばすがその隙に奴が俺の顎を蹴り上げてくる。針を投げたと同時に走り出したのだろう。

そうしてガラ空きになった胴体に対し、針の特異怪字は容赦なく針を突き刺そうとしてくるも「八方美人」で咄嗟に躱すことができた。

体を右に移して避け、そのまま一回転した後今度は俺の方がその白い仮面の顔面に蹴りを当てる。


「甘いッ!!」


「ぬおッ!?」


すると蹴り飛ばされて姿勢を大きく崩しているにも拘わらず、奴は腰の針山からもう1本針を抜き、デカくして再びこちらへ投げつけてきた。咄嗟の事なので「八方美人」は使えず、反射神経でそれを避けるが少しだけ頬を掠ってしまう。

転んでもただは起きぬというが、たとえ蹴られようがこちらを攻撃してきたわけだ。能力に関係なくこいつ強さは凄まじいものであった。

針を投げた後両手を地面に付けバク転して態勢を直す針の特異怪字、俺は再び奴の顔面に蹴りを当てようと足を伸ばすが、瞬間その姿は消えてしまい突き抜けてしまう。


(小さくなった――!)


ここで針の特異怪字は能力で全身を縮小化、手乗り程の小人サイズまで小さくなり俺のキックから逃れた。奴はそのまま地面へと着地、巨人のように大きく見えるであろう俺を見上げている。


「このッ――ゲイルインパクトッ!!!!」


俺はそのまま「疾風怒濤」を使用しその連続パンチを自分の足元にいる針の特異怪字に繰り出す。凄まじい速度で殴りかかるも奴は小さい姿のままその怒涛の攻撃を飛び跳ねながら躱していく。

いくら縮小化して総面積を減らしたとはいえ、ゲイルインパクトの連続パンチを避け続けるとはなんて回避力だ。奴はそのまま伸び切った腕の上を歩き俺の顔へと突撃してくる。

目を潰すつもりだ、そう察した俺は乗ってきた針の特異怪字を急いで突き飛ばす。すると奴は地面に落ちる前に元のサイズへ戻り、宙に浮いたままうなじ部分を蹴飛ばしてきた。


「ぐがッ!?」


鋭い衝撃が首に襲い掛かりそのまま前から転倒、ひんやりとした雪の中に突っ込んでしまう。積もった雪の中足の踏ん張りも利きにくく、思うように力が入らない。

しかしそんな中でも針の特異怪字は前回見たような動きで俺を翻弄している。やはりこいつは強い、今までの特異怪字より遥かに。


「いくら触渡発彦でも、雪と寒さには敵わないようだな?」


「そういうお前は――どうなんだッ!!」


そこで俺は払うように地面を大打撃、すると下に積もっていた雪が一気に舞い上がり針の特異怪字に降りかかる。奴の視界は一気に白く染まった。たった今思いついた雪を使っての目くらまし、急に目の前が雪に包まれたら誰だって動きに隙ができる。

だがこいつのことだ、きっとすぐに対応してくるだろう。


(その前に「疾風迅雷」で奴の背中に回り込むッ!!)


いくら足が雪に取られようが疾風迅雷ならば即座に動くことが可能、積雪を爆発させた後すぐにその背後に移動し、針の特異怪字が雪に気を取られている間に背中を叩く!

しかし後ろから見れば、奴は降りかかる雪に戸惑う素振りも見せず、それどころか両腕を組んで余裕の姿を見せていた。


「雪遊びが好きだとは童心が残っていて感心だな。だが、少々()()()()()()()()()()だ」


「は?――何ッ!?」


すると突如として俺の足元から針が勢いよく伸び、刃先がこちらの顔を貫こうと迫ってくる。俺は咄嗟に振りかぶっていた両手を前に出し針先を受け止める。グローブが無ければ貫通していただろう。

何故地面から針が伸びてきた?そんな疑問も考える隙もくれず奴が襲い掛かってくる。


(積雪から針を出した!?)


なんと奴はさっき俺が払った積雪から2本の針を巨大化させ、そのまま俺に斬りかかってきた。先ほどの地面からの突きを防いだばかりなのでまだ足が地面に付いておらず、その2本の斬撃を避け切れず肩と脇を斬られてしまった。


「ぐッ――!!」


2ヵ所の痛みに耐えながら何とか着地し状況を整理する。といっても2つほど理解できないことが立て続けに起こったので少しだけ混乱していた。

地面からの針、そして雪から取り出したもう2本の刃、腰の針山に手を伸ばしてはいなかった、なのに奴は針を追加に出している。これも何かの能力であろうか?


「……俺の能力の発動条件は、()()()()()()()ことだ」


「……?」


すると突然自分の能力を説明しだす針の特異怪字、戦闘中に自分の手の内を明かすとは舐めているのかと少しイラッとくるが、すぐに落ち着いて「まぁ向こうから言ってくれるなら」と黙ってそのまま説明させる。


「さっき小人サイズになった時、お前の攻撃を躱しながらも更に小さくした針を()()()()()()()()()()()


「ッ!!そういうことか!!」


それでさっきの謎攻撃に納得がいく。奴は小人サイズになる際腰に付けていた針も含めて縮小化していた。それをバラまくことで針が散漫する。そこで奴が好きなタイミングでそれを巨大化させるのがあの不意打ちの仕組みというわけだ。何も知らない奴からはいきなり地面から針が伸びてきたように錯覚する。積雪から針を取り出したのも俺が吹っ飛ばした雪の中にも針があったに違いない。

しかし針をバラまくといっても、普通なら地面に落ちてもすぐに倒れて針先が上にはならない。そこで雪の上に散漫させることによって針が上を向いた状態で刺さるわけだ。それに雪は針を隠すカモフラージュにもなる。


(雪の扱いが下手くそ……あの言葉は自分の方が上手く使えているという意味か!)


「ほら次行くぞォ!!」


「ッ!!」


すると針の特異怪字は俺の足元にあっただろう針を巨大化させ下から貫こうとしてくる。咄嗟にそれを跳んで避けた俺だが、次の着地地点からも針のが伸びそれを避けてまた跳んでそしたら伸びての繰り返しとなる。まるで地雷原のようだ。


「糞ッ!頼むリョウちゃん!!」


『ガルッ!!』


そこでまだ真昼間だが手段は選んでられないと、リョウちゃんを巨大化させその頭の上に乗る。リョウちゃんは今低空飛行している、これなら地面に足を付けなくても大丈夫だ。


「来たな()()()()()()……古代からの式神、どれ程のものを試させてもらおう」


「……お前なんかが気やすく名前を呼ぶな!!」


こうして積雪の上では気温も季節も関係ない熱い死闘が繰り広げられる。俺も奴も、冷たい雪の上で燃え上がっていた。

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