132話
虎鉄さんの「銅頭鉄額」とその技である「鉄額」を使われ、怒りを抑えられなくなった俺は「怒髪衝天」を使いその姿へと変わる。逆立つ髪が赤いオーラで煽られ両拳を強く握りしめる。
「一触即発」のパワーでも貫通できなかった鎧の装甲に打撃を与えることができるだろう。これでようやく奴と渡り合えるわけだ。
「牛倉一馬が与えた『怒髪衝天』、その状態でもパネルが使えることは知っているが……実戦でその強さが脅威になるか確かめさせてもらおう!」
すると奴は今の俺を見ても引き下がる様子は見せず、それどころかさっきと変わらず真正面から受け止めるよう構えだす。
「銅頭鉄額」の硬化にそれ程までの自信を持っているのか、将又俺の怒髪衝天態を舐めているのか。どっちにしろ、今やるべきことはただ1つ。
「だったら――すぐに後悔させてやるッ!!!」
地面を蹴って奴の元へ走り出し、赤く燃えるその拳を力強く振りかぶる。すると鎧もその籠手を握りこちらに繰り出してきた。
2つの拳が衝突し合い衝撃波を生む。俺も奴も互いのパンチの威力で後ろに引いてしまう。「怒髪衝天」のパワーと渡り合えるとは流石「銅頭鉄額」だが、「怒髪衝天」には及ばない。
「……ッ‼︎」
刀真先輩の「伝家宝刀」ですら傷1つ付かなかったその籠手に亀裂が走っている。本当は拳ごと粉砕するつもりだったがそれ程硬化されているという意味だ。
兎に角無敵の甲冑にヒビが入った。この調子でどんどん殴っていこう。
「うおおおおおおッ!!!」
すると鎧は足を大きく払い横から太い脚で蹴りを入れてくるも俺は片手でそれを受け止め、今度はその脚を握って亀裂を走らせた。「怒髪衝天」を使ってようやく傷をつけることができるとは、やはり恐ろしい強度だ。
しかしさっき言った通り、「怒髪衝天」のパワーの前では無意味である。
「でいやぁああ!!!」
俺はそのまま握った脚を引き寄せ奴の巨体を持ち上げた後、そのまま壁に思い切り衝突させようとする。こうして片手で持てば分かるがとんでもなく重い、まるで車か何かを人型にしたような重量感だ。
しかし鎧は壁に激突する直前で腕を出し壁にぶつかるのを防ぎ、掴まれた脚を無理やり解放させて今度は両足で蹴飛ばそうとしてきた。
「どらぁああッ!!!!」
咄嗟に俺も足を出し今度はキックのぶつかり合いをするも、突然のことだったのであまり威力が入らず奴の足も砕けてはいない、奴はそのまま今の蹴りの反動で後ろに下がっていた。
悔しいが虎鉄さんのように重い体でも素早く動かせている、さっきの両足キックだって使いこなせていないとできない動きだ。こいつがいつ「銅頭鉄額」を手に入れたかは分からないが余程練習したのだろう。
(だが、それを使うのはお前じゃない!虎鉄さんだ!!)
俺はそのまま奴の懐に潜り込もうと姿勢を低くして走り出す。それに対し鎧が再び腕を出し迎撃してくるも、「八方美人」を使用しその拳を自動回避する。そしてそこへ到達した後は「疾風怒濤」に乗り換えた。
「一点集中型ッ!ゲイルインパクトッ!!!」
そこから「怒髪衝天」のパワーで「疾風怒濤」による連続パンチを奴の腹部に繰り出す。その鋼鉄の装甲に打撃が轟音と共に当てられていき、最後の1発で吹っ飛んだ時には拳がめり込んだ痕がいくつも残っていた。
綺麗だったその銀色の甲冑は最初の拳と脚、そして腹がヒビ割れていると見る影も無くなっており、ボロボロと破片も崩れていく。それでも鎧は立ち上がりこちらへ突撃してくる。
「疾風迅雷ッ!!」
俺は「疾風迅雷」を使い一瞬で奴の背後に回った後、その首を両手で掴み両足を奴の背中につけ、そのまま後ろに倒そうと引っ張る。
「ぐおおおッ……!!」
しかしこいつもやられっぱなしではない、自分の足を力強く踏ん張らせ尚且つそこに全体重をかけることによって倒れまいと必死に抵抗してきた。こっちも足場を地面ではなく奴の背中にしているので思うように力が入らない。
すると奴は両腕を振るい背中にしがみついている俺を退かそうとするも、突如としてその腹に何かが突き刺さる。
「た、宝塚刀真……!!」
「はぁ……はぁ……ようやく刃が通った!」
刀真先輩の「伝家宝刀」だ。「猪突猛進」による突きでその刃先を鎧の腹部に刺し込んだのだ。
何故「銅頭鉄額」に硬化された体に刀が通ったのか、先輩が刺した場所は俺がさっきゲイルインパクトで粉砕し大きな亀裂を入れた部分である。つまりそのヒビを狙ったのだろう。
腹筋部分を刺されたことにより鎧は踏ん張ることができなくなり、そのまま俺の力に従うように背中から倒れ込んだ。俺も床と背中に挟まれる前に脱出し、今度は倒れている鎧に対し踵で蹴り落とそうとするも、奴は両手でそれを防いですぐに起き上がる。
「おおおおおッ!!!!」
「八方美人ッ!」
そして俺に拳を振りかぶるも「八方美人」で避けられる。その後は後ろにいた刀真先輩を狙うが先輩も「神出鬼没」で奴の右側に瞬間移動で退避した。
「疾風迅雷ッ!!!」
「神出鬼没ッ!!!」
俺も超高速モードに入り、奴の周囲を跳びまわりながらその体に殴打を打ち込んでいき、先輩も瞬間移動を繰り返しながら刀を振るう。動き回る2人を目で追いきれず鎧はただ俺たちの攻撃を受けるだけになっていた。
このコンビネーションも「銅頭鉄額」を使った虎鉄さんに対し行ったものだ。止まらず動き続けて気を翻弄しその隙に攻撃を入れていくといった作戦で、それでも虎鉄さんには通用しなかったが相手がこいつで尚且つ俺たちもあれから成長しているので効果覿面、まさかこんなところで自分たちの成長を実感させられるとは思っていなかった。
「はぁあ!!」
すると鬱陶しく感じてきたのか俺たちを捕まえようと両腕を伸ばしてきたが簡単に避けられ、俺は右腕に乗り先輩は左腕の上を渡り、今度は同時にその首元を攻撃した。
更に傷が入り悶える鎧だったが、そのまま肩に乗っていた俺と先輩をようやく捕まえ、そのまま走り出し壁に叩きつけてきた。
「がぁあ!!」
「ぐッ――!!」
いくら「怒髪衝天」でも防御力が上がるわけでもないので流石にこんな風に壁と激突させられたら痛いものは痛いし傷はできる。
奴はその大きな手で完全に俺たちを包み込み、壁に押し付けジリジリと擦ってくる。壁の破片が皮膚を切り裂き腕の圧迫が呼吸をし辛くしてきた。
「こん……のぉ!!!」
何とか抜け出そうと俺はその手首を蹴り上げ弾みで何とか脱出、刀真先輩を捕まえているもう片方の腕も殴り飛ばし解放させた。
どうやら先輩は今の一撃で相当のダメージを受けてしまったらしい、苦痛に顔を歪め息を荒げながら床に膝を付ける。
「どうやら私は足手まといのようだな……いくら亀裂が入っていようがあの装甲に傷を付けるのは至難だ」
「そ、そんなわけ……」
ここは優しさで否定はしたかったが、刀真先輩と奴は相性が悪すぎる。俺みたいに超怪力であれば刀身は通ると思うが、先輩の強みは「力」じゃなく「刀」、証拠に「伝家宝刀」はヒビが入っている場所にしか効果をなしていない。
「その通りだな宝塚刀真、自身の弱さに気づかない弱者より、己のぶをわきまえる雑魚の方が好印象だ」
「雑魚だと……刀真先輩は弱くなんかないぞッ!!」
どうやら鎧は俺を怒らせるのがよっぽど得意で好きらしい、あたかも他人の力を自分の物のように扱い、それを使って刀真先輩を雑魚呼ばわりとは失礼にも程がある。
虎鉄の四字熟語を使っている身でありながら何て野郎だ。刀真先輩は弱くない、ただ「伝家宝刀」にとって「銅頭鉄額」の相手は不利なだけだ。
「ふっ――敵に言われるとは私も情けないな……言わせおけ発彦、私は後ろの方で斬撃を放って援護する」
「――いえ、先輩はそこで休んでいてください」
「は?」
もう我慢の限界であった。虎鉄さんの四字熟語は勝手に使われるわ刀真先輩は侮辱されるわ、流石に耐えきれなくなった俺はゆっくりと歩き出し鎧の前に立ちはだかる。
刀真先輩を足手まとい扱いする気は無いが、最早こいつと倒せるのは俺しかいない。この場でその強固な装甲を打ち砕けるのは俺だけだ。
「ここは、俺1人でやりあいます!」
「ふん、俺もお前で『銅頭鉄額』がどれだけ強いか、試したくなってきた」
またこいつはその四字熟語を自分扱いしてくる。しかしもうこれ以上怒りが増すことはない、既に一周回って限界値に到達していた。
こうして互いの拳が余裕で届く距離まで近づいた俺と鎧、俺は見上げて奴と目を合わした。最初は何もしない、ただずっと向こうの顔を見続けるだけである。
しかし何がトリガーとなったのか、戦いの火ぶたは切って落とされる。俺の拳と奴の蹴りが衝突し合った。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!!」
「はぁあああああああああああああああッ!!!」
そこから始まる殴り合い、ただ純粋の打撃殴打の繰り返し、時に敵の拳や蹴りを躱し受け止め、今度はこちらがと腕を振るう。単純な「銅頭鉄額」と「怒髪衝天」のぶつかり合いであった。
「おらぁああッ!!」
顔を狙ってきた鋭い拳を横に避け、そのまま懐に1発を入れた後跳んで一回転しその勢いで奴の顎を蹴り上げる。すると鎧の脚が横から来たので右腕でそれを受け止めた。
するとそこから奴の猛攻が始まった。繰り出される鋼鉄の拳を躱し続けながら今度はその首元にキックを撃ち込む。鎧はそのまま宙に浮いている状態の俺を捕まえ思い切り地面に叩きつけた。
「ぐはぁ――ッ!!」
更にそこから足を振り下ろし俺を思い切り踏みつけてきた。まるで象に踏まれているかと錯覚してしまう程の重さと圧迫感、その片足に全体重をかけてくる。
このままだと内臓ごと踏み潰されてしまうのは時間の問題、そこで苦痛に悶えながらも何とか「疾風怒濤」を取り出した。
「……ゲイルインパクトッ!!」
踏まれたままその足を連続的に殴り続け力尽くで退かし、そのまますぐに起き上がった。そして仕返しにと跳び上がりその頭頂部に踵落としを決める。
「うぐおぉ……!!」
流石の奴もこれには応えたのか姿勢を僅かながらに崩し亀裂が走った頭部を抑える。その隙にと俺は足払いをするが転ぶ様子は見れない。ダメージは入ったはずなのに足は真っ直ぐ伸びたままだ。
(片足に体重を乗せて柱のように頑丈にしたか!)
「うおおおおおおおおおおおおおおッ!!!」
鎧はそのまま腕払いをし俺を殴り飛ばすもすぐに立て直す。しかしこちらも攻撃を受けすぎたので打撲だらけであった。同じように奴も全身に傷が入っている。お互い満身創痍といったところだ。
さてこれからどうしよう、「怒髪衝天」ならすぐに決着がつくと思っていたがまさかここまでの接戦になるとは。
早いところ勝敗を決めないとこっちの体がボロボロになる。やはり向こうの方が防御面において圧倒的な有利というわけだ。実際「怒髪衝天」のパワーを何度も受けてもまだ立っているのが証拠だ。
すると突然、向こう側に会った窓ガラスが割れ鎧の右肩に何かが当たったような音がする。そして地面に落ちたのは1つの弾丸。撃たれた鎧はやれやれといった表情で弾丸が当たった場所を撫でる。
「やれやれ長壁の奴、特異怪字になったら連絡手段が無いからとはいえ本当に撃ってくるとは……確か右肩は――『援護求ム』だったか?」
取り敢えず今の弾丸は「長壁」なる人物によるもので、どうやらこいつ以外にもエイムの手先が来ているらしい。それにしても撃った場所で意味を決めているとは末恐ろしい連絡手段だ。
「すまんが、どうやら向こうで何かあったらしい。ここは戦いを中断して俺も屋上へ行かせてもらおう」
「そんなこと、させるわけないだろうが!!」
恐らく勇義さんがヘリポートで何かしてくれたのだろう、粗方その長壁がそれでこいつに助けを求めたわけだ。
勿論逃がすつもりは無い。ここは多少強引でも一気に勝負を決める!そう思った俺は「疾風迅雷」で瞬時に奴の懐へと潜り込み、そのまま奴に触れるよう跳んだ後「一触即発」を使用した。
こっちから触れてトドメの一撃をぶつけてやる、そう思った矢先、奴は階段に向かわず逆にこちらを覆いかぶさるように自分から触れてきた。
「一触即発」の能力は知っている筈、何故自分から攻撃を受けるような真似を?
(――しまった!そういうことか!)
その理由を察した俺だったが既に時遅く、上から触れてきた奴に向かって「プロンプトブレイク」を当ててしまった。それを受ける際鎧は両腕を前に出し受け止める準備をしていた。
勿論そんな甘いガードじゃこの技は防ぎきれず、拳圧で天井を何度も突き抜けていった。
「や、やったな発彦……!」
「いや違います……利用されました」
「利用された……?」
「奴め……一気にヘリポートへ行くためにわざと俺の技を受けてその威力で吹っ飛んで行きました……!!」
まさか俺のブレイクが移動手段として使われるとは夢に思わず、そんなことができるのは圧倒的な頑丈さを誇る「銅頭鉄額」だからこそできる芸当だと納得してしまった。
兎に角今上には勇義さんがいるはず、このままだとその長壁と鎧で同時に攻められてしまうかもしれない。
「先輩!俺に掴まってください、『疾風迅雷』で一気に駆け上がります!!」
「ああ!!」
そして先輩と共に俺も超高速で、奴が吹っ飛んで空けていった穴からヘリポートへと向かう。