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爆発寸前な男  作者: ZUNEZUNE
第十章:オージ製薬
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131話

仕方なく宝塚の力を借り、エイムの手先を突破した勇義こと俺は、あいつの相手を2人に任せ廊下の先へと急ぐ。

あの男は言わば応治与作を逃がすための時間稼ぎ、ということは今もここの社長はこのビルにいて逃走中というわけだ。エレベーターの停止と奴の介入によって結構遅れてしまったが、今から全速力で走れば追いつくかもしれない。応治与作は屋上のヘリポートから空に逃げると思われる、急いで屋上に向かわなければ。


「ここは……社長室か」


すると途中で最初に目指していた社長室の前を通り過ぎようとするも、もしかしたら逃げたと思わせておいてまだこの中に隠れているかもしれない、そう思って社長室の中へと入った。

中々綺麗な部屋であったが、資料やらが散らばって小汚くなっている。ロッカーやタンスも開放されたのが多いのを見ると、慌ててここから飛び出したのが伺える。デスクの下に隠れていると思ったが誰もいない、やはりヘリポートへ逃げたか。

余計な寄り道をしてしまった、そう思ってより急ぎ足になりもう1つの方の階段を駆け上がっていく。するとまたもや行き止まりにぶつかり、道は廊下へと繋がっている。


「たく……何でこんなややこしい作りになってるんだか」


ここから上がる階段は廊下をつないでビルを周る螺旋式となっているのが社内図で分かった。つまり一階一階上がっては廊下を渡りまた階段を上がるという繰り返しというわけだ。これは敵も俺も上がり続けるのは一苦労だろう。なら尚更急がなければならない。

やがて数分走り続け角を曲がった瞬間、向こうの曲道に一瞬だが服の端が見えた。近づけば階段を上る足音と枯れかけた男の息払いも聞こえる。


「待て!」


ようやく追いついた、そう言えば資料で見た応治与作は初老の男、エレベーターも使えず階段を上がり続けると言うのは大変なのだろう。必死に階を上り続けた甲斐があるものだ。

まだ距離はあるがこの分だと上の階で追いつきそうだ、急ぎ応治与作と思われる人物を追う。向こうも俺に気づき慌てて足を動かしていく。

やがて次の廊下においてやっとその全身を拝めることができた。猫背のおっさんで変わった髪型をしている。向こうもこっちを見て大きく目開いてた。

間違いない、応治与作だ。


「止まれ応治与作!現在この会社には警察の強制捜査が行われている、お前もその対象の1人だ!!これ以上逃げようとするならこちらもそれなりの対応をさせてもらおう!!」


「ひ、ひぃいい~~!!」


そう警告すると情けない声を出しながら逃走を続ける。怖いなら大人しくすればいいものを。

勿論逃がすわけない、紐をつけた手錠を投げそのまま応治の足にかけようとした瞬間、右側のガラスが突然割れた。


「ッ!?」


気づけば紐は切られており、手錠はそのまま何も無い方へ落ちてしまう。その隙にと応治はこの場から離れていく。

何が起きたか分からんがこのままだとまた逃げられる、急いで後を追おうと走り出し窓の横を通り過ぎる直前、今度はその窓が割れ何かが俺の鼻先を掠った。


「くっ――!!」


咄嗟に屈んで窓際の壁に隠れ、窓から体を出さないようにする。向こう側を見れば床に弾痕ができている。さっきの割れた場所を見れば同じように銃痕があった。割れた窓ガラス、そして2つの弾痕、それらの意味でこの現象が何なのかすぐに分かる。


(狙撃――ということは()か!?)


状況からして応治の逃走の手助けなのは確実、つまりさっきの鎧と名乗る男以外にもエイムの手先がこの場……もしくらここを狙える場所にいるというわけだ。

そして奴らの狙撃手というのは大体の予想が付く。姿を見たことはないがその狙撃は何度も目撃されていた。明石鏡一郎と発彦が戦った同島兄弟、自分たちの情報漏洩を防ぐための始末として今まで何度も殺してきた。


(だが……一体どこから撃っている?この付近に狙撃ポイントになりそうなところは無い筈だ)


問題はそこである。俺はそれを確かめるべくそっと窓から顔を出そうとした瞬間、3発目の弾丸が頭上を通過する。

この本社ビルより高い建造物は周囲に殆ど無い。しかし屈んでいる俺を狙っているし撃たれる弾丸も天井ではなく床に当たっていた。つまりその狙撃手はここより高所から狙っているという訳だ。

思えば最初に撃たれた明石鏡一郎の時は、天空さんと宝塚さん曰くその狙撃は真上から放たれたという。もしかしたら何かしらの四字熟語を使っているのかもしれない。

そして不可解な点はもう1つある。例えば奴が飛ぶ能力で空中から狙ってくると仮定しよう。もしそうだとしたらまだ地上に残っている警察たちが勘付くはずだ。つまり狙撃手は俺が思っているよりも離れていると思われる。

それでいて照明も消え月明りも無いこの日、5時とはいえこの季節なら夜のように暗くなってもおかしくない。それなのにこの的確な狙撃術。さっきだって紐を見事に当て切った。


(それに窓ガラスまであるんだぞ……どんな技術だよ!)


エイムの手先にしておくのが勿体ないくらいの狙撃術、できれば警察に欲しいと思ってしまうが、所詮は協会の一員。どんな奴だろうが慈悲で許すわけにはいかない。

こうしている間にも応治は上の階へと逃げていく。ここは窓の下を屈みながら歩き追跡しよう。思うように歩けないので大分ロスすることになる。


(それにしても意外だな……てっきり奴を撃ち殺すと思っていたが……)


今までのことから戦えなくなったり捕まりそうになったやつは躊躇なく撃ち殺していたが、警察にバレかけている応治は何故か助け逃亡を手助けしている。それ程あの男がエイムにとっての重要人物ということだろうか?なら尚更捕まえなければならない。

やがて外に姿を見せないよう奴の後を追っていくと、ようやく屋上への入り口が見える。狙撃手を警戒して走れなかったが、隙間から見るにまだ応治の奴は逃げていない。

ならヘリポートに出て急いで捕まえればいい話だがそういうわけにもいかない。窓の時とは違ってそこは屋外、ならば狙撃手の恰好の的になるというわけだ。無闇に外へ出るのは危険だろう。


(つーかあいつはどうやって逃げるつもりだ?やっぱヘリか?)


そう思いながら扉を少し開けその隙間から覗いているが、一向にヘリなんて来ないしそもそもそんな物が来たら奴らにとっても注目の的になって不味いことになるだろう。

すると見ていた方向の奥で、何かが反射で光ったような気がした。


「まさか――ぐわぁ!?」


その瞬間俺は咄嗟に身を低くする、するとまたもや弾丸が頭上を突き抜けた。そしてその音でヘリポートに立っている応治にも気づかれてしまう。


(扉の隙間を狙って撃ちやがった!もう狙撃術だけの話じゃない、これは()()()()()()()だ!)


俺はほんの僅かしか扉を開けていなかった。弾丸なんて通れるか通れないぐらいの幅だったはず、それを狙い入れるその狙撃も恐ろしかったが何よりその目であった。

遠くにいるならいくらスコープ越しでも扉が少しだけ開いていたことなんか見えない筈。しかし現に俺はこうして殺されかけた。

しかし避けた時の弾みで外に出てしまい応治にも姿を見られる。奴は慌てた様子でオロオロとしていた。こうなったら素早くこいつを捕まえて盾にするしかない。どうやらエイムにとってこいつはまだ必要みたいだ、刑事としてこんな卑怯な手を行うのは気が引けるが手段を選んでいる場合じゃない。


「神妙にお縄に付け!!応治与作ッ!!」


狙撃手が再び撃ってくる前に捕まえなければ、そう思っていると応治はリクターの付いた4枚のパネルを取り出してきた。それを見た瞬間、急いで俺は立ち止まる。


「こ、こうなったら儂も戦ってやるぅう……お、おりゃああああああ!!!」


応治は少し躊躇しながらもその4枚のパネルを自分に挿入、その体を特異怪字へと変えていった。

まさか応治与作までも特異怪字になるとは思ってもおらず、慌ててその傍からバックで離れていく。どうみても戦闘要員じゃなかったしそもそもこいつはこの会社の社長なだけでエイムの直属している人間でもない。

やがて応治与作がなったのはまるで腐った死体のような姿、腕も足も皮と骨しかない細いものでその顔もゾンビのように崩れかけていた。そしてその服装は大きな白衣を羽織り下に引きずっているものと、マッドドクターには相応しい姿である。

使った四字熟語は「応病与薬」、意味は分からないが漢字からして薬などに関する能力かと思われる。もしかしたらあの毒薬もこれで作ったのかもしれない。


「うおおおお……食らえぇ!!!」


特異怪字になった応治はうめき声を上げながらからっからの腕に力を込める。すると絞られるように緑と紫が入り混じった液体が出て、腕を振るいそれらをこちらに飛ばしてきた。

その液体に何かしらの危険性を感じ取った俺は咄嗟にバク転してそれを回避、すると下に落ちた液体は蒸発しながら煙を出し続ける。


「毒か……そういった相手は初めてだな!」


今までの怪字は殆どが肉弾戦だったのでこういった毒などを作るタイプの能力は始めて見る。すると奴は全身からその毒液を噴き出し一気に紫色へと変色した。


(こうなったら触れられないという訳か……じゃあ浄化弾を食らわしてやる!!)


そう思い拳銃を構えるが、今度は狙撃手の弾が飛んできて俺の手から拳銃を弾き飛ばしてしまう。

応治が怪字化したせいですっかり忘れていたが、相手はこいつだけじゃない。何処にいるかも分からない狙撃手もいるんだった。

すると拳銃を撃たれて圧巻している間に応治の奴がこちらに突っ走ってくる。見たところこいつ自身に戦闘能力は無いだろう、しかし触れられないという制限が辛い。

応治から逃げると同時に拳銃を拾い上げ今一度全体を見渡す。見えるのは応治与作だけ、狙撃手の姿は見えないが連射はできないはず。つまり、狙撃に注意しながらこいつの相手をしなければならないということだ。


「……上等!」


職業柄撃たれるのには慣れている、その気になれば直感でどこから撃ってくるかも分かるだろうし、応治与作自体は触れられないだけで強敵でもない。

ならば勝機は、必ずある。

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