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爆発寸前な男  作者: ZUNEZUNE
第十章:オージ製薬
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128話

走って神社へと帰ると電話で言っていたように勇義さんが神社に来ていた。天空さんも関係者の1人としてその場にいる。


「俺も今来たところだ、どこに行ってたんだ?」


「ちょっと……鶴歳研究所の方に……」


息を整えながら水を飲んで一旦落ち着く。すると勇義さんと刀真先輩が目配せで何か会話しており、勇義さんが頷くと刀真先輩は首を横に振って答える。すると彼は驚いたような顔をした。一体何をしているのだろう?


「じゃあ揃ったところで……調べた結果を言うぞ」


そうやって勇義さんは席に座り机の上にデータなどが書かれた書類やら毒薬の全体図などを広げる。俺たちも同じように座り出された物に目を通す。

正直言って詳しい内容とかはまったく理解ではできないが、全ての文章をざっと見して()()()()が多く記載されていることに気づいた。


「……『オージ製薬』?」


「ああ、単刀直入に言うとそのオージ製薬がその毒薬に関わっている」


「なっ!?あんな名の知れた製薬会社がだと!?」


瞬間刀真先輩はその名前を聞いて驚愕する。そのオージ製薬という名前はあまり耳にしないが俺も同じように驚いた。

何故なら、製薬会社となるとちゃんとして世間に通ずる会社の1つ。そんなのがパネルを研究しているエイムと絡んでいるというからだ。てっきり奴らが独自の技術で開発した毒薬かと思ってその製造場所を突き止めたかと思っていた。しかしその実態は普通の会社が関わっているという。

ここで、オージ製薬を知らない俺の為にその詳細について説明が始まった。


「オージ製薬はその名の通りの製薬会社、都心に本社を置いている大企業で医療界では名の知れている」


「家庭用の薬を始めとして、まだ治療法が発見されていない奇病に特攻した薬をいくつも開発に成功している」


すると天空さんも話に入ってきた。もしかしてあまり知らないのは俺だけだろうか?製薬会社になんて気になったことが無いのであまり詳しくはない。


「元々はさほど有名でもなく特化したものも持っていない会社だったが……この数年で一気に飛躍し、今じゃさっき言った通りの有名会社だ」


「あの毒薬と一般的に使われている薬と成分を照らし合わせてみたところ、オージ製薬の売っている薬と僅かながら同じ成分が見つかった。製造方法もあの会社でしかやっていないものらしい」


「だがそんなことあり得るのか?ただの製薬会社だろう?」


そう、話を聞くに普通の製薬会社だ。そんな会社がパネルや怪字の事に関わって何になるというのだ?製薬会社ならまず要らない知識である。それにパネルのことは基本秘密されているはずだ。


「オージ製薬があそこまで発展した理由……莫大な支援金を貰ったと言われているが……恐らくエイムからのものだろう。じゃないと名も知れ渡っていない会社にここまでの金が渡されるか」


そう言って勇義さんが見せてきたのはその金額表、刀真先輩と共に目を通すと、あまりのゼロの多さに目を点にしてしまった。今まで見たことも無い程の桁だ、口にするのも恐ろしいくらいの。会社とか政治とかは詳しくないが、支援金として流石にこの金額が多すぎるというのは俺でも分かる。


「社長の名前は『応治(おうじ) 与作』53歳独身、大した経歴も無く普通の男だ。ただこの会社には怪しい噂があってな、警察もマークしていたところだ……まさかこの毒薬と繋がるとはな」


「それで……どうするんですか?」


問題はそこ、それでそのオージ製薬にどうするかという話だ。前回の突入作戦のようにはいかず相手はれっきとした会社、そんなのに俺たち秘密の塊のような連中がそう易々と手は出せないだろう。怪浄隊も今回ばかりは出番が無いだろう、無論俺たちもだ。


「実はあの毒薬が証拠となり、毒物及び劇物取締法という名目で近いうちにオージ製薬への強制捜査が行われることになった。人間を即死させるような薬だ、流石に警察も放ってはおけない。俺も参加することになった」


「じゃあ今回は勇義さん頼りということですね?」


流石にいくらエイムに関わっているパネル使いとはいえ、警察の集団に未成年の俺たちが入るわけにはいかない。残念だが今回ばかりは勇義さんだけということだ。

しかし勇義さんは何故か持っていたリュックから()()()()を取り出し、俺たちに差し出してくる。


「そこで――ちょっとこれを着てくれ」


「「……えっ?」」





スラッと整った肩幅、黒に近い紺色で統一された上下は紳士的な雰囲気を醸し出している。Yシャツの上で赤いネクタイを着用してより大人感を表していた。


「……何でこんなの着せるんですか?」


勇義さんが差し出してきたのはこれまた立派なスーツだった。肌触りや着心地から結構値段の張るものだと分かる。ネクタイなんて付け慣れていないので首が絞められているようで落ち着かない。

鏡でスーツ姿の自分を見ると、まぁ馬子にも衣裳という感じがあって全然似ていない。着せた勇義さんもウーンと唸っていた。


「まぁコートを着ればいけるかもな」


「あの『いける』って?」


「着たぞ刑事」


すると隣の部屋から同じようにスーツを着た刀真先輩が来た。元々身長が高いので俺と比べて断然似合っており、それなりに風格は出ている。それで勇義さんの反応はというと、釈然としないといった表情だ。


「悔しいが似合ってるな、無駄にでかいから」


「貴様が小さすぎるだけだろう」


2人はバチバチと火花が散る睨み合いを始めるもまだ話し合いの途中なので一旦は収まった。しかしその話し合いの中でいきなり着替えさせられるというのも変な話だ、一体勇義さんは俺たちに何をさせる気だろうか?


「じゃあお前らは今日から俺の後輩な」


「「は!?」」


とんでもないことを突然言われたので思わず刀真先輩と息を合わして声を漏らしてしまう。俺の後輩、スーツ姿、この2つからこの人が一体何を考えているのかがようやく理解できた。

つまり、その強制捜査に警察として俺たちも参加しろということだ。


「貴様何を考えている!?普通に考えてそんなことができるわけないだろう!!」


「大丈夫大丈夫、網波課長には許可貰ってるし周りにバレなきゃいい」


「そんなアバウトで良いんですか!?一応刑事なんですから慎重に物事を運んでくださいよ!!」


高校生2人が正体を隠しながら警察の突入に参加するなど前代未聞である。当然そんなことが許されるわけが無いし俺たちもできるわけがない。第一、ただの強制捜査だから俺たちまで出る必要は無い筈だ。とそのまま勇義さんに聞いたところ以下のように返された。


「前回の突入作戦、協会の連中はこちらの動きを先読みし、戦闘員を配置するという対処してきた」


戦闘員というのは火如電、万丈炎焔、牛倉一馬、そして比野さんと課長が戦ったという特異怪字の4人のことだろう。それ以外の人員は全て避難しておりあいつらだけがあのもぬけの殻となり果てたアジトに残っていた。


「それに情報漏洩を防ぐために味方も躊躇なく殺す奴らだ……何の対策もしてこないというのがおかしいだろう」


「それって……また協会の人間がいるかもしれないってことですか?」


「そういうことだ。今回の人員は前回の怪浄隊のような()()()()()人間じゃない、怪字なんか見たことも無い連中だ。だから奴らと戦える人手が必要なんだよ」


勇義さんの話によると、その強制捜査は表向きは毒物及び危険物取締法を掲げて行われるものだが、その裏ではその会社からエイムの情報を手に入れるという作戦がある。その手助けとして俺と刀真先輩が選ばれたというわけだ。


「そうだとしても一応()()()強制捜査なんですよね?だったら前回みたいにはならないんじゃないですか?」


あの突入作戦はパネル使い、前代未聞対策課、怪浄隊の合同で行われたもの、だから情報が広まってそこから漏れて失敗したが、今回のそれは警察の元で行われるもの、一応俺たちパネル使い側よりかは情報を与えてしまう隙なんて無いはずだ。


「……だといいんだが」


すると勇義さんはまた刀真先輩に目配せする。先輩もそれに頷くだけでそれに何の意図があるか俺には教えてくれない。やっぱりこの人たちは何か考えている、結果今回の捜査に俺たちの参加が決まったのだろう。


「まぁ警察がエイムに関する何かを見つけてもヤバイんだ。そこから怪字のことが世間一般に広まってしまうかもしれないし……カッコよく言えば極秘ミッションだな」


「極秘ミッション……!」


しかし一時的な偽物とはいえ、刑事の恰好で極秘ミッションを任されると言うのは結構ワクワクするものだ。刑事や警察官は少年時代に誰もが憧れる職業だろう。こうして少しだけ興奮しているということは、俺にもまだ童心が残っていたという訳だ。

確かに刑事のフリというのは怖いが、断る理由も無い。ここは少年心に素直になる引き受けよう。


「よーし、じゃあ今日からお前は触渡刑事だ!!」


「はい、勇義刑事!!」


そうして俄然とやる気が出た俺は勇義さんとの呼称を変え刑事の雰囲気を堪能する。すると刀真先輩が呆れたような目でこっちを凝視してきた。


「何ですか宝塚刑事、混ざりたいんですか?」


「何馬鹿なことやってんだろうと見ていただけだ」


「その馬鹿なことをお前もやるんだぞ?」


そうして強制捜査への参加が決まった俺と刀真先輩、今回こそは奴らの情報を手に入れるという強い意気込みと共に、ネクタイの感覚を慣れようと思った。










()()()()連絡が来ました。奴らどうやら牛倉一馬の吐き出した毒薬を調べ終わったようです」


「そうか……だったらオージ製薬との繋がりに気づいたかもしれないね」


一方エイムの本拠地では、スパイの小笠原大樹から連絡を受けた長壁がそれを「先生」に伝えていた。

先生は慌てる様子も無く、その報告から発彦たちがオージ製薬にまで辿り着いていることを予想、それでも慌てる様子も無く椅子に座って落ち着いていた。


「捕まった応治社長の口からここの存在がバレるかな?」


「でしたら、応治与作は始末しますか?」


「いや、彼とはこれからも友好的な関係でいたいし、今ここでそんなことをしたら僕たちと関係があった事を示唆するようなものだ」


「……いかがなされますか?先生」


すると後ろから鎧が現れ長壁の横に並ぶ。もう準備はできているといった表情で視線を向けていた。

先生はそれを背中で感じ取り、ニヤリと口角を曲げる。


「それじゃあ君たちに彼の護衛を任せよう、僕の可愛い生徒たち」

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