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爆発寸前な男  作者: ZUNEZUNE
第十章:オージ製薬
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127話

12月ももう中旬、英姿学校はとっくのとうに冬休みへと突入。クリスマスも正月も近くなってきたところでそろそろ次の年かぁと1年の思い出を振り返る日が多くなってきた。

冬休みなのを活かして俺は今刀真先輩と共に第二鶴歳研究所へと遊びに来ていた。場所は英姿町の町はずれ、少し寂しいところにあるのでここなら思う存分パネルの研究ができるのだろう。


「寒い日にお疲れ様です。今何かお出しするので炬燵に入ってゆっくりしてください」


比野さんがそう歓迎してくれたので遠慮なく炬燵に入り、以前風成さんから貰ったマフラーを脱ぐ。正直このマフラーが無ければあの冬場を突破できていたのかも怪しい、改めて彼女に感謝だ。

内装も外装もいたって普通の家だが、さっき地下への入り口みたいのが見えたので前の研究所と同じように研究施設は下にあるのだと思われる。炬燵では所長の鶴歳さんがのどかそうに茶を飲んでいた。

すると今まで俺たちの服の中で丸まっていたリョウちゃんと先輩のトラテンが一気に飛翔、同じく比野さんの式神であるウヨクちゃんとサヨクちゃんと遊び始めた。ここにもし勇義さんがいたのなら一斉に襲われていたに違いない。


「お茶をどうぞ」


「いやーすいません急に遊びに来ちゃって、何しろ暇だったもんで」


「良いんです!これからはいつでも遊びに来てください!」


ちなみに冬休みの宿題というものは夏休みと同じように初日で全て終わらせた。後は()()()()()()()なのでようするにやることが無いのだ。


「ところでお二人とも具合は大丈夫なんですか?特に触渡様は……」


「あ!もうすっかりピンピンです!」


鶴歳研究所の方々も包囲網組とはいえあの作戦に参加していたので発彦の件は知っている。参加どころか比野さんは網波課長と共に特異怪字の1人を見事撃破したという。ちなみにそのことを言うと「頑張ったのはこの2匹」と返された。


「そういえば小笠原も大変だったはずですよね、自分たちの班が()()()()()()()()()()()……今どこに?」


「あ、大樹さんなら今地下に籠っていますよ、と思ったら上がってきた」


「おお触渡君に宝塚君、来てたのか」


するとさっき見た入り口から小笠原さんが上ってくる。相変わらずの美形だがはだけたシャツに汚れや埃が付いているのでさっきまで何か作業をしていたのだろう。炬燵のスペースが無いのを見てそのままキッチンに行く。

小笠原さんも共に参加していたが、彼が担当していた包囲網組にまさかの「針の特異怪字」が襲来、小笠原さん以外の隊員を刺殺した後俺を怪字に変身させた牛倉一馬への逃走を手助けしたという。運よく小笠原さんは狙われなかったが隊員たちが犠牲となってしまった。


「触渡君特異怪字になったんだよね?その時の気分とか教えてくれない?」


「それがもう酷いのなんので生きた心地がしないんですよね、四字熟語を2つ使った時の感覚と同じようなもので……」


「そう言えば君の『怒髪衝天』凄いらしいね、今度見せてくれよ!」


すると茶を入れながら小笠原さんがグイグイと質問攻めをしてくる。横を見れば同じく比野さんも目を輝かせてこちらを見ていた。まぁ研究者にとって四字熟語を2つ使える存在というのは興味深いのだろう。

今回の騒動で手に入れた俺の新しい力、その名も「怒髪衝天」。使用すれば格段に体全体の力が上がり、通常時でも「一触即発」並みの破壊力を出せるといった凄いものだ。しかもそれだけにのみならず、あまりの怒りに苦痛や不快感といったのを全て無視できるので、四字熟語を同時に複数使えるようになるのだ。

2つ使ってはいけないという掟を一変するこの四字熟語、この2人が興味を示さないのは無理がある。自分でもこんな物があるとは思ってもいなかった。あの時は牛倉がいたからほぼ無意識に使いこなしていたが、今思うとよく初めて使ったもので善戦できていたと自分を褒めたくなる。


「凄いと言っても小笠原さんのグローブが無ければ無理でしたよ」


一触即発並みのパワーといってもそんなので攻撃し続けたら忽ち反動で体がボロボロになってしまう。それを防いだのが小笠原さんが作ってくれたこのグローブ、これである程度の反動は無効化できる。


「はは、作り手としては嬉しいね……って、このマフラー手編みか?」


「はいそうですけど……」


するとこちら側へやってきた小笠原さんが俺のマフラーを拾い興味深そうに眺める。風成さんが作ってくれたマフラーだが、何か不思議なものでも見つけたのだろうか?


「随分上手にできてるなぁ……触渡君が編んだのか?」


「いえクラスメイトが。分かるんですか?」


「大樹さんは裁縫とか編むことが特技なんですよ」


「へぇ~意外だなぁ」


この言い方は失礼だがあまり小笠原さんに裁縫や編み物の趣味があるとは見た目では分からない。今度機会があったら風成さんに会わせてみようかな。


「いや何、()()()()()()()()()()()


そう言って何か意味深な言葉を言った後俺にマフラーを返す。するとそのまま炬燵の横にある椅子に座って会話に参加してきた。


「そう言えばこれからどうするんですか?突入作戦も何の結果も無くて……次の一手が思い当たらないんですが……」


比野さんの言う通りあの突入作戦はほぼ失敗、失った人員に比べて手に入れた情報や資料が少なすぎて何も手に入らなかったと同じような物だった。情報の漏洩で奴らを本拠地へと逃げられてしまった。

俺たちがその足取りを追っている間にも、協会の連中は遠慮なく悪事を続けていく。なので歩みを止めている暇は無いが、これ以上に何か奴らに繋がる情報となり得る物があっただろうか、比野さんはそう心配している。

だけど、()()()()()()()()()()()()


「実はですね、牛倉一馬が神社を襲撃し俺が倒した際、例の毒薬を吐き出したんですよ」


エイムの刺客が自決用にと予め飲んでいた毒薬、運よく牛倉が吐いてくれたのでそれが手に入ったのだ。


「それでその毒薬から何か分からないかなぁと今勇義さんに調べてもらっています。例えば()()()()()()()とか……」


実はあの後毒薬を回収し、勇義さんの刑事のツテに頼って調べてもらっている。警察なら何か分かるかもしれないと踏んでのことだ。寧ろそれ以外に当てが無いので何か結果が出ることを祈るしかない。あれからしばらく経っている、そろそろ何か分かっても良い頃だが……


「成る程……毒薬から足取りを探すわけね」


小笠原さんがそれを聞いてふむふむと頷いている。すると俺は、その毒薬を調べようと提案した日のことを思い出した。

最初はこの鶴歳研究所に手伝ってもらおうと言ったが、何故か刀真先輩と勇義さんが反対し、普段喧嘩をしている癖に珍しく意見を合わせた。それに対し俺もある程度の反論はしたが「彼らはあくまでパネル専門」と言われて納得したので、取り敢えず警察に任せることに決定。

そういう刀真先輩の顔を見ると何か考え事をしているような表情だ。恐らく何か考えあってのことなんだろう。ちなみに毒薬のことは鶴歳研究所以外には誰にも言っていない。

すると俺の携帯に通話が来る。見ればその勇義さんからかかってきていたのでハッとしてそれに出る。噂をすればとはこのことかもしれない。


「もしもし触渡ですけど、もしかして……」


『ああ、あの毒薬を調べて分かったことがある。今神社に向かっているんだが良いか?』


「あっはい!俺たちもすぐに戻ります!」


「刑事が何か見つけたんだな」


「そうみたいです、俺たちも帰りましょう!すいません比野さん、早速何か分かったみたいなので今日は帰ります!」


「またいつでもいらしてください、歓迎します!」


そう言って俺たちは急いで帰る準備をしドタバタしながら研究所を出る。さっきまでウヨクちゃんサヨクちゃんと遊んでいたリョウちゃんもトラテンも自分の主人の服へと戻った。

もう何か判明したという、一体何が分かったのか、それを一刻も早く知りたかったので帰りは刀真先輩と共に駆け足だった。

しかし研究所を出る際、小笠原さんに鋭い視線を突き付けられていたことに、俺たちは気づけなかった。






早い話、()()()()()()と私と刑事は睨んでいた。

あの突入作戦は関係者以外には決して伝えられていない筈のもの、なのにエイムはそれを予測して既に逃げた後で、私と戦った万丈炎焔や刑事と戦った火如電も、作戦内容を知っていたような口ぶりであった。

発彦はこのことに気づいていないが、情報を協会に垂れ流している存在がこちら側にいるのは明白。

なので発彦があの毒薬を研究所で調べてもらおうと言った時は刑事と口を揃えて反対、別に研究所の方々を疑っているわけではないが、そこから他のパネル関係者に毒薬のことが漏れるかもしれない。

そう思っていたが発彦の奴がそのことを話してしまったわけだ。まぁ隠すなとも言ってないし裏切者がいるかもしれないとも伝えてない。これは刑事と話し合う問題と判断したからだ。

兎にも角にも今は毒薬の製造先だ。カプセルの周りに取り付けられていた機械類から何処で製造された物か分かるかもしれない。

しかし裏切者は一体誰だ?どこの組織に所属しているのだろうか?

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