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爆発寸前な男  作者: ZUNEZUNE
第九章:アジト突入
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126話

発彦は「怒髪衝天」を駆使し圧倒、見事あの牛倉一馬を打ち倒すことができた。初めて奴と発彦たちが会ったのは数か月前、あの時は敗北したためこの勝利はリベンジ成功とも言えるだろう。


「発彦ッ!」


するとさっきまでの戦いを傍で見ていた天空たちや風成も彼の元へ駆け寄る。皆自分が受けた傷のことなどすっかり忘れ、この度の勝利を笑顔で祝い合った。

しかし忘れただけで傷が完全に消えたわけではなく、天空は倒れそうになったところを任三郎に支えられ、発彦も風成に受け止められる。


「やったな!凄いパワーだったぜ!」


「はい、何とか勝てました……」


「何とかって、あそこまで奴を圧倒していた癖に何を言うか」


刀真と任三郎は発彦の勝利に対しからかいつつも肩を叩いたりと祝福する。牛倉一馬にやられた面々、そして同じ死線を潜り抜けてきた仲間としてはこのパワーアップと圧勝は嬉しいのだろう。しかもそれだけじゃない。


「これで、向こうにいるカケルも安心してるだろうぜ」


「……そうですね」


牛倉は任三郎の親友でもあったカケルを殺した張本人でもあった。つまり発彦は任三郎に代わってその仇を取ってくれたことになる。なので刀真よりもその感謝っぷりを示していた。


「成長したな発彦、お前のおかげで助かった」


「天空さん……いえ、俺なんかまだまだですよ!今回勝てたのも『怒髪衝天(こいつ)』があったおかげですし……」


そう言って今だにリクターがついたままの「怒髪衝天」を取り出す。なるべくこの装置は早めに取りたいが浄化もしないでそんなことをすれば、そこから怪字が生まれるので今は堪えよう。

それにしても自分でも凄かったなぁと感心する発彦、発動中は熱い感情が押し寄せてきて興奮状態に近かったものの、それとは逆に言動や動きにはそういった粗っぽさが出なかった。

所謂「怒ると冷静になる人」と同じようなものだと発彦は自己解決し、その4枚の四字熟語を懐に入れる。すると今度は今の戦いを余所見もせずに見ていた風成が駆け寄ってきた。


「触渡君……」


「風成さん、殴られたところは大丈夫?」


「うん、もう痛みも引いてるよ」


するとここで天空は何かを察し急いで神社の中へ戻り、その後駆け足で戻ってきた。2人がその様子に首を傾げていると、彼は発彦に見えないよう風成にある物を渡す。


「天空さんこれって……」


渡してきたのは彼女が発彦の為に編んだマフラー、元々これを届けるのとお見舞いのために風成はこの神社へやって来たのだ。そこで運悪く騒動に巻き込まれてしまったという訳だ。

今このマフラーを返してきたということはつまり()()()()()()()()()、彼女が天空の方に目配せすると何も言わず微笑みながらウインクされた。それに対し風成は心の中で礼を言い少しだけ頭を下げた後、もう一度発彦の方に向き直る。


「あの……触渡君、これ……」


「あっ!この間のマフラー、もう完成したんだね!」


1週間前に約束したマフラーの件、色々あって渡すのが遅れたが、こうして発彦の手にマフラーがやって来た。

水色の優しい色合いであるその毛並み、派手な彩りや刺繍もされておらず地味とも言えるそのデザインだが、それが逆に発彦によく似合っていた。早速そのマフラーを首に巻いた発彦は、ニッコリと笑い風成に礼を言う。


「ありがとう!とっても暖かいよ」


「よ、喜んでくれたなら何よりです……」


その眩しい笑顔に思わず目を逸らしてしまい何故か敬語も使って動揺してしまう風成、改めて見る好意の相手の顔を直視するのは何かとドキドキするものだ。

それは発彦も然り、まさか彼女と両想いとは思ってもおらずそのマフラーの肌触りを感じていた。彼女が一生懸命にこれを編んでいたと思うと感情が高まってくる、さっきの怒りとは違う別の興奮だ。

それを見ていた任三郎はニヤニヤと笑いながら野次馬と化していたが、その頭を鞘に納められている「伝家宝刀」で叩かれ緩い表情を引き締まったものにする。殴ったのは勿論刀真だ。


「何すんだ急に!!」


「良い歳した大人が高校生同士の掛け合いを見てニヤけているんじゃないエロ刑事が!!」


そうしていつも通りの喧嘩が始まる。口喧嘩から軽い殴り合いにまで発展するも発彦たちはそれを止めずに笑いながらそれを傍観していた。最早この2人の喧嘩は定番となっているので止めようとも思わないし、止めても無駄だ。


「ゲホッ……ゴハッ……!」


すると突然の咳き込みを聞き取り楽しそうな雰囲気は一転、一気に警戒態勢に入る。声を漏らしたのは後ろで倒されたまま放置されていた牛倉、顔を横にして苦しそうにし、そして吐しゃ物を血と共に吐き出した。

あんなパワーで殴られたのだ、吐かない方が無理な話だ。しかし問題なのは奴が吐いたことじゃなくその吐いた()である。


「これは……まさか例の毒薬か?」


発彦は注意しながら近づき奴の口から出てきた「それ」を屈んで確認する。大きさは親指サイズだが見ただけで高度な仕組みになっている機械というのが分かる。そして何故それを毒薬かと思ったかというと、それがカプセル状になっていたからだ。

協会のメンバーは予めその毒薬を飲み、もし任務に失敗したりして捕まった場合、そこからの情報漏洩を防ぐためにそれで毒殺される。その溶解のタイミングは任意で操れ、この機会がそれを操作するものだろう。

回収したいがゲロまみれなので触りたくない。ここは後にしよう。


「オエッ……ゲホッ……!!」


しかし当の毒薬は吐き出したはずなのに牛倉の吐血が止まらない、どんどん血を吐き出し顔色が白くなっていく。

こいつにここで死なれたら駄目だ、折角いつも邪魔されている毒薬を排出させることができたのに死なれたら堪ったもんじゃない。


「おい死ぬなコラッ!というより何で死にそうになってるんだよ!?」


「くく……その答えは()()()()()()()()()()()()筈だ」


蚊の鳴くような声でそう言い零すが発彦には覚えがない。するとさっきまで奴が使っていた「牛飲馬食」と「鯨」の計5枚、パネルが落ちているのをみてハッとした。


「まさか……()()()()2()()()()()使()()()()()()!?」


「ああ、いくら特異怪字の変身に使おうが、俺が四字熟語を2つ使ったことには変わりない……苦しみこそはある程度抑えられたが……生憎人間の体じゃあ耐えられねぇな」


発彦が2番目に英姿町で戦った怪字である「疾風迅雷」、あいつもまた「疾風迅雷」と「疾風怒濤」の2つの四字熟語を持つ怪字だったが、今の牛倉のように苦しんだ様子は見せなかった。

それもそのはず、()()()()()()()()()()、いくら特異怪字だろうが中身が人間の体であることは間違いない、だから「牛飲馬食」と「鯨飲馬食」の2つを持った牛倉はこうして死にかけているのだ。


「先生の野郎……さては俺がこうなることを予想していたなぁ?最後まで()()()()人だな……俺が食えないやつがあったなんて……」


「しっかりしろ!どうせなら生き残って罪を償ってから死ね!」


「どうせ死刑囚の身だ……ちょっと遅くなっただけだ」


こうしている間にも牛倉の体はどんどん冷たくなっていき、目蓋も閉じかかっている。こうなったらもう助からない、後は死を待つだけであった。

それでも発彦は何か情報を得ようと必死になって質問するも何も答えない。牛倉は薄れる意識の中で走馬灯のように今までの人生を振り返っていた。





『飯だぁ?働くこともできねぇガキが一丁前に飯なんかたかってんじゃね!!こんなんじゃ作るんじゃなかったぜ』


『教えてくれた番号に電話したら、君のお父さんじゃないと言われたよ。どうして嘘なんかついたんだ?万引きはいけないことなんだぞ』


『アンタ、何自分の腕を噛んでんのよ気味が悪い、歯型だらけじゃないの』





父親の虐待、あまりの空腹に万引きした時の思い出、母親の冷たい視線、それらが詰まった過去の出来事では、いつも腹を空かせていた。

だから牛倉は、()()()()()()()()()()()()()。ろくに飯も貰っていなかったのだ、殺されても仕方ないと思っていた。あの家庭で最後に食べたのは好物の()()()()()であった。


「最後に食ったのは何だっけかなぁ……こうなるんだったら、最後の晩餐ぐらい選べばよかっ……た」


こうして牛倉は発彦に看取られながら、()()()()()()()()()()()で息を引き取った。

同情はしない、ただ哀れには思う。発彦はその死に際に顔色も変えずにそっと立ち上がった。そして、財布を家から持ってきて500円玉をその遺体の上に乗せる。

こうして突入作戦後の騒動は静かに幕を閉じた。










一方エイムの本拠地では、全ての元凶である「先生」が盗聴器越しに牛倉の最期の言葉を聞いていた。同じように長壁と鎧もそれを耳にしている。そして呆れたような声を出した。


「やれやれ、自分から名乗り出ておいてこうなるなんて……期待外れも良いところだわ」


「それでいて、結果的に敵に対し塩を送ってしまったわけだ」


長壁と鎧は口では牛倉を攻めてはいたが、その実力だけは買っていた。なのでそれを倒した発彦の「怒髪衝天」に僅かながらの恐れと警戒心を抱いている。

その中で唯一そう思ってないのはただ1人、他ならぬ先生であった。


「まぁ今回のこれは中々に楽しめた。触渡発彦、実に興味深い。まさか寄生したパネルを自分で操るとは……」


そしてニッコリと笑い、発彦に興味を示す。誰も牛倉一馬の死を悲しまない、それどころかその死に様を侮辱している。これだけで連中の危険さが、ひしひしと伝わっていた。

こうして発彦は新たな力を手に入れ、呪物研究協会エイムは、次の悪事を企てる。この衝突は、一体いつまで続くのやら。

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