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爆発寸前な男  作者: ZUNEZUNE
第九章:アジト突入
126/194

125話

牛倉一馬によって植え付けられた「怒髪衝天」を何とか取り出し、逆にそれを新しい力として使った発彦は、劇的な変貌を遂げる。

赤いオーラを全身から漂わせ、髪も同じように上へと逆立っている。普段大人しい彼からは想像もできない派手な姿で、一瞬本当に発彦かと仲間である天空も疑ってしまった。

しかし一番驚いているのはそいつと対面している牛倉張本人、まさか「怒髪衝天」を使われるとは思ってもおらず、鬼気迫る発彦の顔に圧倒される。


「ちょ、調子に乗るなよぉお!!!」


しかし完全に逃げ腰になったわけでもない。鯨の口から長い舌を飛び出して発彦に向かって真っ直ぐ伸ばした。

すると発彦はそれを無駄のない動きで横に躱し、自身の右側を通過した舌を握ると手に力を込めて、舌先を()()()()()()


「なぁ!?俺の舌を!!」


刀真の「伝家宝刀」でさえも斬れなかった舌がいとも簡単に千切られてしまう。すると捥いだ舌先を後ろに放り投げ、発彦は地面を蹴って牛倉の目前まで迫り、力強く腕を振りかぶる。あまりの動揺に油断してしまい接近を許した牛倉だったが、彼には自慢の脂肪がある。


(しかし、どんなパワーでも俺の脂肪の前には……!)


そうして防御もせず腹でその拳を受け止めようと前に出る。あの脂肪が打撃を吸収することは発彦も知っている。しかしそれでも腕を止めず、そのまま腹に殴りつけた。

――瞬間、牛倉の腹が深く凹み、その中心から広がるようにひびが入る。


「な――ッうごわぁああ!!??」


奴はそのまま拳を受けた衝撃で後ろに大きく吹っ飛び、石畳の上を飛んで行く。やがて石階段に落ちる直前で地面に落ち、転がり続けた。

打撃が効かない筈の牛倉に、発彦の普通のパンチが派手に決まる。その光景を見て天空は更に驚いた。


「ば、馬鹿なッ……俺が、打撃を受けるだと……ッ!?」


牛倉はすぐに起き上がるも、自分を襲った拳に対し疑問を持つ。あらゆる打撃はこの脂肪が受け止めてくれると信じて疑わず、最初こそはそれを活かして発彦を圧倒していたが、今では逆に牛倉がやられている始末だ。

何故か牛倉の脂肪は発彦のパンチを吸収せず吹っ飛ばされた。おまけにその腹に亀裂が走っている。


(そうか、「怒髪衝天」は元々対触渡発彦に用意されていた超パワーの怪字の四字熟語!そのパワーがあいつに上乗せされている、脂肪でも吸収しきれない程のパワーになったのか!)


そうこうしている間に発彦はまた跳びかかり今度は足を振り落としてくる。牛倉は咄嗟に横に転がりその踵落としを回避するも、当たった石畳が大きく陥没し、まるで爆発でも起きたかのような跡地になる。

しかも蹴りが直接命中した訳でもないのにその威力で凄まじい風圧が起こり、牛倉は更に地面の上を転がった。普通のキックのはずなのに、考えられない程の破壊力を秘めている。

そして発彦は次に牛倉の顔を蹴り上げ、がら空きとなったその腹に正拳突き、それに加え右肩についていた牛の顔を踏みつぶした。


「がぁあああ!!??」


派生したものとはいえ、頭を潰された激痛に思わず声を上げてしまう。牛の顔はもう粉々に砕け散っており、舌も出せない状態になった。残りの舌の枚数は2枚、そのうちの1枚はさっき舌先を千切っているので実際無事なのは1本だ。

自慢の舌をボロボロにされ、ここで初めて牛倉は目の前の発彦に恐怖する。


(1発1発の攻撃が「()()()()()()()()()()、これが「怒髪衝天」と触渡発彦の力か!!)


「怒髪衝天」の能力は、簡単に言えば全身のパワーアップである。「一触即発」のプロンプトスマッシュは全身の力を腕に集中し、敵が触れてきた瞬間にぶっ放す技であるが、「怒髪衝天」の場合それと同等、もしくはそれ以上のパワーを保っている状態というわけだ。

しかも、能力はそれだけじゃない。


「だが!!どんなに凄かろうが所詮はパワーが増しただけでそれ以外の芸当は無いッ!!!うおりゃあああッ!!!!」


ここで牛倉は2枚の舌を舞い踊らせ再び鞭攻撃を仕掛けてくる。いくらさっきのと比べて1枚減っていようがそのスピードが遅くなるわけではない、怒涛の連打攻撃が発彦に迫りくる。

しかし発彦は顔色も変えずに冷静に対処、猛打の舌2枚を無駄のない動きで躱し続け尚且つ牛倉の方へ歩いていた。


「馬鹿なッ!?『怒髪衝天』で俺の舌攻撃が見極められるわけがない!!」


牛倉はそう言うも現に発彦は舌の動きを完全読みその軌道を予想している。挙句の果てに2枚とも両手で掴み取った。

そのまま凄まじい怪力で引き寄せ牛倉を無理やり自分の方に接近させると、その舌攻撃と同じような速さで連続パンチを繰り出す。

しかも全ての拳がスマッシュレベルの威力、それらが何度も牛倉に当てられ続けていく。

ここで牛倉、そして天空たちは、先ほど見せた回避能力と今の連続パンチに見覚えがあった。


「……もしかして、『()()()()』と『()()()()』か?」


そう、あの舌の猛攻を全て躱しきれるのは「八方美人」を使わない限り不可能で、今の連続パンチも「疾風怒濤」によるゲイルインパクトであった。

元々それらは発彦の持つ四字熟語だが、その場にいた人間は驚きを隠せない。何故なら、発彦はその2つ以外にも今「怒髪衝天」を使()()()()()()()()()()()


「何故だッ!?何故四字熟語を2つ以上使えている!?」


牛倉がさっき言った通り、四字熟語のパネルを2つ同時に使うと体が悲鳴を上げて信じられない程の苦痛が押し寄せてくるはずだった。現にまだ「怒髪衝天」を排出できていなかった時の発彦はそのせいで他の四字熟語を使えなかった。

しかし発彦は「怒髪衝天」を使っているというのに「八方美人」と「疾風怒濤」を使った。それも苦しむ様子も一切見せずに普段と同じように悠々と使いこなしている。

何故発彦にそんなことができているのか?これも「()()()()()()()()()()()

「怒髪衝天」が全身の力を底上げしている理屈は、使()()()()()()()()()()()()()()()()()()というものである。怒りという感情は人から冷静さを奪い、時に暴走させるものだ。「怒髪衝天」の怒り状態はその比ではなく、その意味のように髪が逆立つ程のものであった。その怒りは、()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。

つまり今の発彦は、パネルの苦しさなど気にする余裕も無いほど怒っているというわけだ。「怒ると周りが見えなくなる」――それと同じようなものであった。


「――疾風迅雷ッ!!」


それを見せつけるかのように発彦は「疾風迅雷」を重ねて使用、目に見えない速度で何度も牛倉に攻撃を当てていく。超パワーで超スピード、それがどんなに恐ろしい組み合わせ分かるだろうか?ただでさえ「一触即発」程のパワーを常に保っていること事態が厄介なのに、それに加え目で追えない程の速さときたらもうどうしようもない。


「こ、このッ……!!」


しかし牛倉の脂肪が打撃を吸収する機能もあり、全てとはいかないが「怒髪衝天」のパワーをできるだけ受け止めている。それでもその体は既に瀕死寸前のボロボロとなっていた。

やがて牛倉は激情し拳を振りかぶって殴るも、発彦は手のひらを置く様に前へ出しただけでそれをガード。体格は完全に牛倉が上回っているが、バスケットボールのように大きな手を発彦は簡単に受け止めた。

そのまま奴の手首を掴み遠慮なく捻る、牛倉はこのままだと手が千切れると判断し、急いでその捻りに合わせて体も曲げた。結果転倒する程度で済んだがこれだけじゃ終わらない。


「ぐあああッ!?」


発彦は手首を離さずそのまま片手だけで牛倉の巨体を持ち上げた後、何度も振り回し石畳の地面に叩きつけていく。1人の青年が自分より何倍もの大きさである怪物を振り回している光景というのは凄いもので、まるで綿が詰まっているだけのぬいぐるみを扱っているようだった。

「一触即発」のパワーはスマッシュを打つ瞬間だけに発揮されるので、このように物を持ち上げたり相手を押すときには使えない。しかしそれを「怒髪衝天」が可能にした。


「はぁッ!!!」


そしてそのまま牛倉を放り投げた発彦は「疾風迅雷」を使用、自分が投げ飛ばした牛倉に超スピードで追いつき地面に蹴り落とす。

更にその脂肪と地面の間に足先を入れ今度は上の方に蹴り飛ばし、拳を振りかぶってぶん殴った。

その拳圧は脂肪の中を通過しそのまま体の中心部分へと命中、地面を溝のように削りながら牛倉を吹っ飛ばす。


「こんっ……のぉお!!!」


しかし牛倉は腕でブレーキをかけ停止した後、馬と鯨の頭から舌を出し発彦目掛けて伸ばす。1枚千切られたというのに懲りない奴だ。

その中で一番太い鯨の舌が真正面から迫ってくるので、発彦はそれを片手で受け止めた。その際微塵たりとも後ろに下がる気配が見られない。腕1本でも牛倉の舌に勝っているのだ。

続いて馬の舌が足払いをしてくるも足を上げて踏みつけ、動けないようにした。やがて鯨の舌を引き千切り、馬の方はそのまま舌先を踏み潰す。


「ハァ……ハァ……!!」


気づけば残った舌は1枚だけ、しかもその1枚は足で踏み潰されてぐちゃぐちゃになっている満身創痍であった。ここで牛倉はようやくこいつには勝てないと判断し、そのまま石階段から逃げ出そうとするも、「疾風迅雷」で発彦が一瞬で追いついてくる。


「逃がすと思うか?」


数発殴り階段から突き放す。そうしてもう一度「疾風迅雷」で先回し、その剛腕を握って上空高くに放り投げた。


「のわぁああああああああああああああ!!??」


「俺はまだ、怒り足りねぇぞぉおおおおおおおおおッ!!!!!」


自分が投げた牛倉を見上げた発彦は、そのまま「一触即発」の使用し強力な一撃を打ち込む姿勢に入る。

先ほども言ったが「一触即発」というのは全身の力を拳に一か所に溜め、そうして「プロンプトスマッシュ」を放つという仕組みだが、それを「()()()()()()()()()使()()()どうなるか?

通常時の時点で既にスマッシュ並みのパワーだが、それが更に集結していく。つまり「怒髪衝天」の時に「一触即発」を使えば、想像もできない程のパワーが生まれるという訳だ。


「全ての怒りを――この拳に!プロンプト……」


すると全身に纏っていた赤色のオーラもその右拳に集中、やがて真っ赤に燃え上がり凄まじい力がそこで完成した。

発彦の位置は飛ばされた牛倉の真下、そしてその牛倉は真っ逆さまに墜落中、それが何を意味するのかはもう分かるだろう。


「畜生ぉおおおおおおおおおおッ!!!」


牛倉はどうにか舌を駆使して落下地点をずらそうとするも降下中なのでどうすることもできず、そのまま落ちて待機状態の発彦に触れてしまう。

それが、起爆スイッチとなった。



「ブレイクゥウウッ!!!!!!!」



かつてないほどのパワーが凝縮された一撃、「プロンプトブレイク」が真上の牛倉の腹部に命中。その拳圧は一瞬でその体に亀裂を走らせ、その反動で発彦がいる地点はクレーターのように大きく陥没した。

そして牛倉の体はガラスが砕けるように崩壊、中の本体は威力で大きく吹っ飛び地面に墜落する。

天空たちを苦しめた強敵は、こうして簡単に敗れ去った。すると発彦は「怒髪衝天」の姿を解除し、仰向けで倒れている牛倉に近づく。そしてボロボロの奴に、こう言い放った。


「俺を怒らせた、お前が悪いッ!!」





触渡 発彦

所持するパネルの枚数 29枚 その内重複しているのは「怒」2枚






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