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爆発寸前な男  作者: ZUNEZUNE
第九章:アジト突入
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122話

「毎日来てもらって悪いね、大変だろう」


「いえ、私は学校帰りに来てるだけなんで」


「俺も仕事の合間に」


時は少々遡り、刀真と任三郎が神社に訪れてきた。毎日のように来てる彼らを天空は迎え、中に入れる。案内する部屋は勿論発彦が寝ている部屋だった。全身に包帯を巻き、今もうなされている発彦の元へと来た。

その枕元ではリョウちゃんが心配そうにとぐろを巻いている。そして時折その耳元に近づき小さく鳴くのであった。

刀真と任三郎もその近くに座る。あの作戦から1週間が経ち、2人の傷もまだ完全に癒えていない。


「本当に病院で入院させなくて良かったんですか?」


「ああ、もし院内で暴走すると取り返しがつかないからな」


そう、あの日から発彦は1回だけ病院で治療を受けてもらった後、神社に帰りずっとこの部屋で安静にしているのだ。

何故なら、牛倉が発彦に挿入した「怒髪衝天」はまだ抜けてないからだ。


「専門家によると奥底にパネルが入れられて抜け出せないようだ。プロの浄化師もこの状態だと浄化もできないらしい」


あれからというもの、沢山のパネル関係者がこの神社へとやってきた。そして今の発彦の様子を見て、全員が首を振った結果に終わる。

まずパネルを抑えるリクターが彼らにとって予想外の物であり、特異怪字も理解不能な存在でもあった。

そして比野翼や小笠原大樹という鶴歳研究所の面々もお見舞いに来てくれ、網波課長もやって来た。網波は特に責任を感じており、自分が作戦に参加させなければと後悔していた。


「ただ……()()()()()()、それによって体内の四字熟語が反応して暴走する可能性が高いと言われた」


「つまり……()()()()()()()、色んな意味で皮肉ですね」


触渡発彦という男は、かつて怒りの感情で体内のパネルが起こされ、結果操られて幼馴染を殺してしまった過去を持つ。そのせいで「怒るのが嫌い」な人間となった。

つまり、「怒ってはいけない」「体内にパネルがある」「四字熟語に操られる」という様々な点において過去の出来事とマッチしているのだ。発彦にとってそれがどれ程のトラウマかは3人は分かっている。


「……触渡はこのまま一生、そんな物を背負っていくんですかね」


任三郎がそんな物と呼ぶパネル、彼もまた怪字によって想い人を殺された経験がある。刀真だって兄を殺された。話の中間は違えど結果としては3人共同じである。

だからこそ分かるのだ。死ぬまで体内にパネルを宿らせて生きるということが、どれ程の苦痛なのか。いつ暴発するかも分からない爆弾をずっと持っているようなものだ。

発彦もあの日からずっと目を覚ましていない。もし起きたら、どれぐらいのショックを受けるだろうか。


「……協会の奴らはリクターの付いたパネルを自由に出し入れしていた。もしかしたら奴らならどうにかできるかもしれん」


「あの資料から何か分れば……」


エイムの連中は今の発彦と違って自身の体内の四字熟語を自由に扱っていた。抜蔵兎弥のように慣れていない輩もいたが、それ以外の連中は使いこなしている。本当は何度も使い続け体を慣らすのが基本らしいが、発彦の場合そんな余裕は無いらしい。慣らすどころか抜くこともできない。

そんな彼を助ける方法、それは任三郎が持ち帰った資料、リクターについて書かれているそれに何かヒントがあるかもしれない。今はそれに懸けるしかなかった。


「私は……こいつの師匠も父親も失格だ」


すると突然天空がそんなことを言い漏らしてきたので、2人はハッとして驚き、その顔を見た。

普段は穏やかで優しい顔つきの天空の顔が、歯を食いしばっている。


「今回の作戦が危険なことだというのは分かっていた。それなのに私はこいつを参加させてしまった。特異怪字になることは流石に予想外すぎたが、それ以外の危険性には気づけていた筈だ……!!」


「天空さん……それはッ」


「こいつを育てていたのは私だ、だから発彦が力を蓄える度に喜んでいた。幼少期、親に捨てられたこいつを拾ったのはパネルの被害者として同情したからだが……私はもしかして、無意識の内に発彦を強い兵士として育てようとしていたんじゃ――」


「天空さんッ!!!」


自責の言葉を止めない天空に対し、任三郎は耐えきれなくなったのか大声を上げて阻止した。


「……確かに貴方は、息子を戦わせるという面においては父親失格かもしれない」


「おい刑事ッ!?」


「……ああ、そうだな」


てっきり擁護するかと思っていたが、辛辣な言葉を投げかける任三郎に対し驚く刀真、天空もそれに対し何も言い返せない。ただ眠り続ける発彦の顔を見るだけ。


「しかし触渡発彦という人間は、()()()()()()()。捨てられたこいつを養い、人として尊敬できる程の正義感を持つ青年にまで育ててみせた!」


「……だが私はこいつの人生を――」


「普通親に見捨てられた子供なんて、そこらを彷徨った後悪の道真っ逆さまですよ。天空さん、貴方は偉大な人だ。こうして触渡の人生を導いて救ったんですから」


そうだ。海代天空という男は発彦を息子のように可愛がり、一人前の青年にまで育てた男。誰の力も頼らず、赤ん坊すら持ったこともないのにだ。

結果発彦は、()()()()()()()1()()()()()()()()()。他人を思いやり、人を救える優しい青年。怒るのが嫌いなのは単にそれがトラウマになっているだけで、別に八方美人を演じたいわけじゃない。心の中に穢れも偽りも無い、純粋な男だ。


「……だから、父親失格だなんて言わないでください。それで一番傷つくのは貴方じゃない、()()()()()()()()()


「……そうだな」


意気消沈の天空を、任三郎は必死に慰める。これは任三郎にしかできないことであり、刑事としての経験が活かされる。

すると突然、誰かが玄関の扉をノックした。


「……私が出よう」


そう言って天空は玄関へと向かう。どうやら何とかできたようだ。それにしても天空さんがあそこまで落ち着くとは珍しい、任三郎はそう感じていた。

プロのパネル使いと言えど、1人の子を育てる親としてはまだまだ未熟という訳だ。


「まさか貴様が天空さん相手にあそこまで言える日が来るとは思ってなかった」


「ふっ……見直したか」


「調子に乗るなこのヘッポコ刑事ッ!!」


「何だとこのガキィ!!」


さっきまでは本当にカッコよかったのに、変なところで調子に乗ってそれを刀真に指摘されてしまう。そしていつも通り2人は喧嘩を始めようとするも、その怒鳴り声で反応したのか発彦が機嫌が悪そうに唸る。


「「……ッ!!」」


瞬間刀真たちは己の口を抑えてすぐに黙る。発彦が騒ぎで目覚めてもそれが原因で特異怪字になって暴走したら意味が無いからだ。


「それにしても凄まじかったよなぁ……触渡の特異怪字」


「ああ……凄い破壊力だった」


取り敢えず喧嘩の原因である苛つきを忘れるために会話をし始める。

発彦が「怒髪衝天」によって特異怪字になった姿、中の発彦の怪力と四字熟語の能力も合わさって信じられない程のパワーを出していた。

いくら連続戦闘と言えど刀真たちを1人で圧倒し、リョウちゃんとトラテンの2匹の式神を容赦なく叩き潰していった。敵から見る触渡発彦という男が、まさしくあんなイメージかもしれない。


「そう言えば誰が来たんだろうな?」


「昨日みたいにこいつのクラスメイトとじゃないか?状況が状況だから帰ってもらったが……」


すると飛鳥の時とは違い、天空は中にその訪問者を入れたらしい。そうして部屋に入ってきたのは2人でも顔を見たことがある人であった。


(こいつは……確か明石鏡一郎の時の……)


「……えっ?」


そう、風成であった。彼女はまず刀真たちを見て、次に見た発彦に対し小さな悲鳴を漏らす。

すると天空も部屋に入り、無言で2人に目配せしてきた。刀真と任三郎はその意図を理解し、静かにその部屋を後にする。残ったのは風成と天空の2人だけとなった。


「すまんがまだ寝ている。起こさないでくれ」


「……天空さん、触渡君に一体何があったんですか?」


「……ッ」


正直、本当のことを言うか適当に誤魔化すか迷った。しかし風成はもうパネルのことも怪字の事も知っている人間だ。それに体調を崩しているだけなんて嘘はとっくにバレているのが目で分かる。

天空は1週間前の出来事を彼女に話す。パネルを悪用する連中のアジトに突入し、そこで発彦がパネルを入れられて特異怪字になってしまったことを。

するとショックが大きいのか、風成は顔を青ざめて口元を抑えた。無理もない、好意を寄せている相手が怪物になるかもしれないなんて、誰だってそうなる。


「じゃ、じゃあ触渡君はどうなっちゃうんですか!?」


「……私たちが何か対策方法を考えないと、ずっとこのままだ」


「そんなことって……」


そしてそのまま膝から崩れ落ちる。発彦と仲が特にいいこいつだからこそ、ここまで悲しんでくれているのだ。そう天空は感じた。ここでもまた、自分が育てた息子が人間性に優れていることを実感させられる。


「――風成さん、こいつは眠ったままだ。もしかしたら、君が発彦を起こしてくれるかもしれないと思って入れた」


「……私には、多分無理です」


すると風成は弱々しくそう答える。そのまま彼の枕元に座り、苦痛の表情で眠っている発彦の顔を見る。


「最後に触渡君と会った日、その突入作戦のことを隠されたんです。多分、私を心配させないように思ってのことでしょうけど……私は触渡君の役に殆ど立てていない。あの時もしも止められていたら、こんなことにはならなかったのに……」


「君が悪いんじゃない、私のせいだ。だから役に立てないなんてことは口にしないでくれ」


天空はさっきまでの自分と風成を照らし合わせて任三郎が自分を慰めた時のように彼女の言葉を否定する。

寧ろ風成はそこまで気に病む必要はない。何故なら彼女は現場にいたわけでもないし発彦を止められる力があるわけでもない。何もできなくても仕方が無かった。

しかしそれが、彼女にとっての悩みでもある。マフラーを作るようなことでしか役に立てない自分が嫌なのだ。


「天空さん……やっぱり私は邪魔でしょうか?私のような戦えない人がズケズケと関わっても目障りなだけで……」


そんな言葉を言ってしまう程追い詰められていた。風成は触渡君のことが勿論好きだ、だからこそ彼を大事にするあまり身を引いてしまう。だけど今日みたいにこうして我慢できずに関わろうとする、最近の自分の行動に矛盾を感じていた。


「……発彦は以前、あまり自分のことを話そうとしない静かな子だった。多分パネルのことにあまり関わらせないように、交友関係は遠慮していたんだろう」


「……やっぱり、そうなんですね……」


やはり触渡君は私のような人間を鬱陶しく思っているんだ、そう思った風成だったが、その考えは次の言葉で否定される。

彼女の白い手の上にそっと自身の手を乗せ、目線を同じ高さにして説くように聞かせた。


「だけど、君に会ってからよく学校であったことを話すようになった。些細なことかもしれないが、私にとっては大きな変化だ」


「……えっ?」


「君を見て確信した、やはり発彦には君が必要だ。君という存在が、こいつを変えてくれたんだ」


「私が……必要……?」


英姿学校に転校する前の発彦は、それはもう今とは全然違った。帰ってきても学校の事は一切話そうとしないし、友達を連れてきたことなんて皆無だ。なので初めて発彦が風成をこの神社に連れてきた時天空は少し興奮したくらいだった。

しかしそれは、風成駆稲と1人の女性と出会ったことで大きく一変、楽しそうにその日あったことを夕食の時に話し、彼女以外の友達もお見舞いに来てくれるようにもなった。


「今まで心配だったんだ。このまま発彦が怪字を倒すことだけを考えて、誰とも接しようとしなくなれば、こいつは戦うだけの兵器になってしまうと」


「……そんなことありません!触渡君は他人を自分の命よりも大切にする人です、皆の平和に戦ってて……凄い人なんです!」


発彦は以前のようにとはいかないが、自己犠牲の気持ちがある。自分の命を犠牲にしてでも関係ない人を助け心配することができる人間だ。


「そうだ、発彦は昔パネルに操られて幼馴染を殺してしまった過去から……その償いのつもりなのか怪字退治のことしか考えていなかった時期もあった。だけどそんなこいつに友達が作れたのは……やはり君のおかげだ」


「私は別に何も……」


「もし風成さんに会わなければこいつはずっと昔のままだった。君のその優しい心が発彦を変えたんだ」


すると天空はいきなり両手を畳に付け頭を下げる。急な土下座に困惑する風成、必死にやめさせようとするも頭を上げる気配は無い。


「これからもどうかこいつを頼む。良き友人でいてくれ」


「私が……触渡君を……」


ここで風成はもう一度発彦の顔を見る。気のせいかさっきより楽になったのか表情が緩んでいる。それを見て、再確認した。

確かにパネルや怪字のことでは役に立てないかもしれない、だけど自分でも気づかなかっただけで、こうして彼の為になっていたのだと。

自分では傷だらけになって帰ってくる発彦を少しでも安らげることしかできないと思っていた。それだけで十分だったのだ。

それよりも風成は、自分が発彦の為になっているということに僅かながらの優越感を抱き、少し嬉しく思っていた。


「あ、あのこれ……触渡君の為に編んだんです」


「マフラーか、きっと喜ぶ。ありがとう!」


少し落ち着いた風成はそのまま編んだマフラーを天空に渡す。すると風成が入ってきた瞬間枕の下に隠れていたリョウちゃんが飛び出した。始めて見る式神に風成は少し驚く。


「あーそいつはな、まぁ頼もしいお供みたいなものだ」


「そ、そうなんですか、可愛い……」


怪字と同じ存在だと少し警戒するも、その小さな見た目に愛くるしさを感じ取りそれとは別物であることを理解する。

リョウちゃんはウロウロと彼女の周りを周回した後、その顔に頬ずりをした。その可愛さに思わず頭を撫で返した。


「どうやらそいつも君を認めたみたいだな」


「あ、ありがとうございます!」


リョウちゃんの介入で部屋の雰囲気が少し和んだところで、突然大きな揺れが起きた。それも一度だけじゃなく立て続けにだ。

一体何事かと2人が辺りを見渡していると、外にいるであろう刀真が大声で叫んだ。


「天空さん襲撃だッ!!牛倉一馬が攻めてきた!!!」


「何だって!?」


風成には分からないが協会の刺客である牛倉がこの神社にやってきたという。それを聞いた天空を急いで立ち上がり部屋の襖を開ける。


「風成さんはここでジッとしていてくれ!リョウちゃんは彼女のことを任せたぞ!」


「えぇ!?ちょっと天空さん!?」


そう言って天空は部屋を飛び出す。残ったのは風成とリョウちゃん、そして部屋で未だ眠り続けている発彦であった。

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