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爆発寸前な男  作者: ZUNEZUNE
第九章:アジト突入
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121話

パネル使いたちの突入作戦から1週間、呪物研究協会エイムのアジトへ突入し、協会の連中を一網打尽にするという作戦だが、結果を簡単に言うと、敗北までとはいかないが成功や勝利とも言えなかった。

どこからはまだ判明してないが詳しい作戦内容が向こうに漏洩し、突入前に全員逃げられてしまい、そして証拠隠滅の為に中にあった機材や資料なども殆ど処分されてしまったため、実質収穫無しというわけだ。

唯一手に入れられたのは勇義任三郎が見つけたパネルの呪いを抑えこむ装置である「リクター」についての資料、しかしこれも汚れておりとてもじゃないが解読は不可能であった。分かったのは名前だけであった。

そして部隊の迎撃をしようとアジトに残っていた協会メンバーである4人のうち、火如電と万丈炎焔、馳瀬走駆は死亡、もう1人の牛倉一馬は触渡発彦に四字熟語を挿入して強制的に特異怪字にして逃走。

その際に数名の隊員が殺害された。巨大な針が死体に刺さっていたところを見ると「針の特異怪字」による逃走の出助けかと思われる。

リクターの情報と2人の特異怪字の討伐、これらが得られたもので逆に失ったものは数名の隊員と、代価の割には似合わない結果となった。

そしてここはエイムの()()()、今回協会の連中が捨てたアジトと雰囲気はそこまで変わらず、違うものと言ったら部屋が多く広さもあるこであった。何故ならこの本拠地は研究所と違って土の中ではなく、ちゃんと大地の上に立っているからだ。

部屋の中心には本や紙など書類系が整理されて置かれている机があり、その椅子には「先生」と呼ばれる存在が座っている。そしてその後ろには牛倉一馬、長壁に鎧が立っていた。


「……一馬君、中々面白いことをしたじゃないか」


「そうでしょう?結構奥深くに入れたんだ、俺たちじゃなきゃ出せないだろうね」


この先生が言う「面白いこと」というのは、勿論発彦の特異怪字化のことである。それに対し先生は僅かな笑い声で反応を示してきた。


「『怒髪衝天』は超パワー型の怪字、だから触渡発彦対策として君に渡したわけだが、まさかその彼をそれで特異怪字にするなんて……」


「しかしよろしいのですか?こちらの四字熟語を見す見す敵に渡したようなものですよ!?」


すると長壁が声を荒げて反論した。先ほどまで牛倉を睨みつけており、その瞳は嫉妬の感情も含んでいた。

嫉妬というのは、牛倉が先生に褒めてもらったことが理由だろう。彼女の先生に対する忠誠心は狂気的ながらも、恋する乙女のそれに近いような気がする。


「まぁいいじゃないか、まだ『怒髪衝天』は()()()()()()()()()()()()()んだろう?ならまた怪字の力に溺れて暴走し、仲間割れをしてくれるはずさ。その後に殺して奪えばいい」


「いや、ここは彼らに奇襲をかけてはどうでしょう?」


今度は鎧が名乗り出る。鎧も先生の生徒であるが長壁のように忠誠心を表には出さない、師として尊敬はしているが彼女と違ってヒステリックにはならず、いつも落ち着いた様子だ。


「今の触渡発彦はいつ暴走してもおかしくない、言わば()()()()()()。だから我々が刺激し暴走させ、他の仲間と共に壊滅させるというのは――?」


「良い考えだね、流石は鎧だ。しかしそれは彼らの所……つまり神社に進撃するということ、あの海代天空に勝つ見込みはあるのかい?」


「ッ……それは」


鎧が出した提案を一度は評価する先生だったが、その後にその抜け穴を優しく指摘した。

海代天空はこの界隈でもプロのパネル使いとして名の知れた男だ。寧ろ今まで彼らが神社を攻めなかった理由は秘密主義だからという理由もあるが、一番の理由はその男が神社にいるからであった。

それ程までに天空という男を警戒している。それに彼だけではなく宝塚家の前当主である宝塚刀頼も相当の実力者と噂されていた。現にこの2人に今は亡き明石鏡一郎もボロ負けした。


「それなら俺に任してくれ!いくら海代天空と言えど俺の打撃無効には敵じゃない」


「そうだね一馬君、ここは君に任せよう。そもそも『怒髪衝天』を植え付けたのは君だから」


そう言って名乗り出た牛倉一馬は意気揚々と手を上げ進言した後、そのまま部屋を後にする。


「良いんですか先生?あんなに好きにさせて……」


「これで電の仇が取れるんだ。安いもんだよ」


先生はまるで発彦たちが火如電を殺めたように言うが、直接的な原因は彼に呑ませた毒薬で、どっちかというと殺したのは先生だろう。それは長壁も鎧も承知の上、それでも「仇を取る」を口にする。

誰もその間違いを否定しない。ただその言葉を称賛するだけであった。










「何だ?今日も触渡は休みか?」


担任が気づいたようにそう言う。その通りで私の隣の席は数日続けて誰もいない状態が続いていた。もう随分と彼の顔を見て無いような気がする。

こう言うと失礼だけど、彼はあまり目立たない人で少し休んだだけでそこまで噂にはならないだろう。

だけどこう1週間学校に来なければ流石に周りも意識し始める。サボるような人柄でもない、ならばよっぽどの理由があるのだろう。

朝のHRが終わった後、私は担任の先生に休みの理由を聞いてみた。


「親御さんが言うのは体調不良らしい。まぁ風邪だろうな、あいつと仲いいだろお前、気を付けろよぉー」


風邪、担任の先生はそう言ったけど多分違う。私は、最後に彼の顔を見たときの表情、何かを覚悟したあの顔を思い出す。

――多分、何かあったんだろう。怪字とかパネルのこととかで。


「発彦のことが心配なのか風成?」


「あ、中島君」


すると同じクラスの中島飛鳥君がやってくる。そう言えば中島君は触渡君と名前で呼び合う仲だ。


「俺この間お見舞い言ったんだけどさ、何か髪の長い人に丁寧に追い返されちゃったんだよ。兄貴かな?つーかあいつの家神社だったのか」


「髪の長い人……?」


彼にお兄さんがいるとは聞いてない。それに一回家に泊まったこともあるしその時はそんな人に会わなかった。

それにその長い髪の人というのには覚えがある。恐らく私を助けてくれた宝塚先輩だろう。髪が長い男の人で触渡君と関係があるのはあの人しか考えられない。

髪の長い人と聞いてもしかして女性!?と少し焦ったけど「兄貴」の言葉で男性だと分かった。


「やっぱ彼女だから心配してるのか?」


「べ、別に付き合ってるわけじゃ……」


と中島君がからかってくるのでつい否定してしまう。

それに宝塚先輩が神社にいるということは、やっぱり彼に何かあったんだ。


「だけど……私もお見舞いに行こうかな」


そうして私は、授業が終わった後神社に寄ることにした。もうすっかり道を覚えてしまった。それ程彼と馴染みができたんだろう。

だけど私は、多分()()()()()

この間彼と話して分かった。触渡君はあの時、何かあったであろう「それ」を私に対し必死に隠そうとしていた。つまり私は、何の役にも立たないというころが分かった。

寧ろズケズケと踏み込んでくるなら、鬱陶しく感じられてしまうかもしれない。それが本当にショックで、あの時は泣きながら帰ってしまった。恐らく中島君のように追い返されてしまうかもしれない。

それでも私は、彼の為にできることをやろうと思う。丁度()()も完成したし……


(マフラー……喜んでくれるかな)


それは彼と約束したマフラー、彼の為に何かできることはないかなと思い編もうと決意したものだ。

薄い青色のマフラー、彼の性格上そこまで派手な色は好まないだろうとこの色を選んだ。肌触りも気を付けて完成させた。

本当は週明けに渡す予定だったが彼が休んだため渡せなかった。だから今日渡そうと持ってきた。


(……触渡君、どんな顔をしてたっけ?)


本当に顔を忘れているわけじゃないけど、1週間も会っていないので彼がどんな表情をするかを忘れてしまっている。もう一度あの顔を思い出そう。

普段目は細いけど怪字と戦う時はハッキリと開け、普段は緩い表情筋だけど切羽詰まった時は男らしく変わる。ニカッと破顔した時は何とも愛らしい表情だ。


(傍から見ればそこまで男らしくないけど……いざという時には頼りになる)


それでいて普段から戦っているためか、その細い体は意外と引き締まっている。所謂細マッチョという感じで身長はそこまで大きくないけど、守られている時はその背中が誰よりも広くて頼もしい。

勉強もできて真面目、人にはあまり突っかからないけど本当に悪いと思った時はちゃんと自分の考えを言える人だ。


(――って、もう顔じゃなくなってる!)


彼のことを考えているうちに顔から様々な方向に展開してしまっていることに気づく。あまつさえ彼の体のことまで考えてしまった。

私の馬鹿!男の人の体を想像するなんて……

恥ずかしくて赤面してしまう。神社に着く前に何とか戻さないと。

そうしている間には長い石階段の前に到着し、それを上った後神社へと到着した。ドアの前に立ち、ノックしようとするもその直前で静止する。


(やっぱり……邪魔になるだけかなぁ……)


やっぱりそんなことを考えてしまう。触渡君の事だからそう邪険にはしなさそうだけど、それは彼の優しさに甘えているだけ。

だけど触渡君に会いたい、でも本当に彼のことが好きなら、この場は去ったほうがいいのかもしれない。その方が触渡君の為かもしれない。


(いや――少しでも役に立つ……そう決めたんだ!)


そう決意して、ノックする。すると出てくれたのは彼の父親代わりでもあり、この神社の神主でもある天空さんであった。


「おや、君は風成さん」


「すいません突然……体調を崩したと聞いたので……」


「……悪いが今は」


やっぱり迷惑だった。そう思ったその時、何かを考えるように沈黙しだす天空さん。


「……いや、こんな時だからこそあいつに君が必要なのかもしれない。入ってくれ」


「あ、ありがとうございます!」


何と私を中に招いてくれた。中島君が駄目だったから少し諦めたけど、何とか入ることを許してもらう。

だけど、何だか深刻そうな顔をしていた。本当に何かあったのかな……?

天空さんに案内されるがままにその部屋へとたどり着く。そうして中で見たのは――


「……えっ?」


部屋の中心にて布団で寝ている1人の男の人。その近くには宝塚先輩と以前攫われた時に助けてくれたメンバーの中にいた男性の2人だ。

そうしてそこで寝ていたのは、傷だらけの様子で苦しそうにしている触渡君であった。

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